臨床泌尿器科 71巻2号 (2017年2月)

特集 神経因性膀胱の完全制覇

企画にあたって 小島 祥敬
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 かつて日本排尿機能学会は,「神経因性膀胱研究会」「日本神経因性膀胱学会」と呼ばれていました.当教室の医局員も,今でも愛着をもって,排尿機能学会をNB学会と呼んでいます.学会の名称が変わったのは私が入会する前のことで,名称が変わった詳細な理由は存じ上げませんが,おそらく下部尿路機能障害を来す疾患は,神経因性膀胱以外にも,前立腺肥大症や過活動膀胱,女性の腹圧性尿失禁,間質性膀胱炎,夜間頻尿と多種多様であり,時代の変遷とともに幅広い議論が必要になったからだと推察します.

 “神経因性膀胱”と聞いて,アレルギー反応を示す先生方は少なくないと思います.尿流動態検査(urodynamic study : UDS)も同様です.昨年の専門医試験の口頭試問で,UDSを読む問題が出題されたようですが,正答率が悪く試験官の先生方にも不評だったそうです.しかし,この領域は最も泌尿器科らしい領域の1つで,まさに泌尿器科医の腕の見せどころです.

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▶ポイント

・正常な蓄尿機能として,社会生活を送るうえで十分な量の尿を低圧の状態で膀胱内に溜めることができる.

・正常な排尿機能として,膀胱内に溜まった尿は低い抵抗で尿道を通り,残尿がほとんどない状態で随意的に排出することができる.

・蓄尿機能,排尿機能で構成される下部尿路機能は,中枢神経,末梢神経を介した制御を受けて,その正常な機能を保っている.

〈診療の実際〉

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▶ポイント

・健常高齢者では加齢が神経因性膀胱合併の重大要因となる.

・メタボリック症候群関連病態の合併はより早期に,より重度に神経因性膀胱を発症させる.

・神経疾患関連の排尿障害を疑う場合には,発症様式の問診,肛門括約筋緊張評価やABC反射(表在反射)を試みる.

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▶ポイント

・ウロダイナミクス検査の結果を一人歩きさせてはいけない.

・尿流測定/残尿測定は,下部尿路障害を有する患者において排尿状態の客観的・定量的評価が可能である.

・膀胱内圧測定は,膀胱内圧と膀胱容量の関係を測定する検査であり,蓄尿時の異常を検知する.

・内圧尿流検査は,下部尿路閉塞の程度や膀胱収縮力の評価が可能な検査である.

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▶ポイント

・蓄尿機能と排尿機能のどちらに障害を来しているのかを鑑別する.

・蓄尿障害と排尿障害の両方が障害されているケースは,清潔間欠(自己)導尿で排尿障害を改善しつつ蓄尿障害へアプローチすることも考える.

・前立腺肥大症や過活動膀胱などに適応のある薬剤を組み合わせることで治療が上手くいくことがある.

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▶ポイント

・脳卒中における排尿筋過活動の発症機序は,脳幹部橋排尿中枢に対する前脳からの抑制性投射が障害される脱抑制のみでなく,脳幹に対する促進性投射の亢進も原因とされている.

・特に問題となる過活動膀胱以外に,下部尿路閉塞,認知症における機能性尿失禁や心因性の頻尿なども念頭に置く必要がある.

・早期の原疾患に対する治療,リハビリテーションによるADL拡大の双方が,下部尿路機能障害軽減につながる.

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▶ポイント

・パーキンソン病の下部尿路機能障害(LUTD)は,蓄尿障害のほか,夜間多尿や機能性のLUTDを伴うことが多い.

・多系統萎縮症のLUTDは,排尿障害を合併する例が多いほか,著明な夜間多尿や運動症状による機能性のLUTDを伴うことが多い.

・アルツハイマー病では,中核症状や行動・心理症状による機能性のLUTDを伴うことが多い.

〈脊髄・脊椎疾患による神経因性膀胱〉

多発性硬化症 山本 達也
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▶ポイント

・多発性硬化症,視神経脊髄炎は中枢神経の炎症性疾患である.

・下部尿路は中枢神経による調節を受けている.

・神経障害部位により下部尿路機能障害の種類が異なる.

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▶ポイント

・近年増加傾向にある転倒などに起因する高齢者の脊髄不全損傷は,完全損傷例より軽症で排尿管理が容易になるわけではなく,高齢者に特有のさまざまな下部尿路機能障害を合併することなどにより,さらに詳細な評価を要する.

・尿流動態検査などによる機能評価を行い,個々の症例に応じた尿路マネジメントを行うことが重要である.

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▶ポイント

・脊髄炎は急激に進行し,急性期では脊髄ショック状態で尿閉に陥ることもある.

・HTLV-1関連脊髄症による神経因性膀胱の症状は多種多様で,運動症状に先立ち排尿症状が先行する場合もある.

・脊髄炎,HTLV-1関連脊髄症による神経因性膀胱には特異的な加療法はなく,原疾患の治療が優先される.

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▶ポイント

・脊椎変性疾患において,軽度から中程度の下部尿路症状を認めることはまれではない.

・脊椎変性疾患による下部尿路症状は,脊椎手術を行うことで,半数以上の症例において術後早期に改善する.

・手術適応のある脊椎変性疾患の男性では,40%前後に泌尿器系疾患が併存しており,脊椎変性疾患における下部尿路症状であっても,泌尿器系疾患の関与を考慮する必要がある.

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▶ポイント

・早期に検尿や腎・膀胱の超音波検査,UDS検査を行い,結果に応じて治療方針を立てる.

・治療の目的は,腎機能障害の予防,尿路感染の予防,社会的に困らない尿禁制の獲得(就学期以降)である.

・薬物治療や間欠導尿などの内科的管理が第一選択であり,内科治療に反応せず下部尿路機能障害が進行する症例では手術治療を考慮する.

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▶ポイント

・糖尿病による下部尿路機能障害は古典的には膀胱支配神経の障害,いわゆる末梢神経障害が主因と考えられ,低活動膀胱を呈するとされる.

・実際の糖尿病患者の下部尿路症状は蓄尿症状も含め多彩であり,最近ではさまざまな病因があることがわかってきた.

・下部尿路機能障害を的確に診断し,病態を踏まえた治療マネジメントを行う必要がある.

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▶ポイント

・骨盤内手術後の神経因性膀胱は,骨盤神経叢より末梢の下腹神経および副交感神経の障害が原因である場合が多い.

・病態として,排尿筋無収縮・低活動,尿意消失・減弱となる場合が多い.

・治療法としては,随意的排尿,薬物療法,清潔間欠導尿(CIC)があるが,エビデンスレベルの高い薬物療法はなく,CICが中心となる.

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バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 読者の皆様,寒い2月をどのようにお過ごしでしょうか.小職の場合,1月に年次計画を組んだものが,脆くも実行不可能になるのが2月です.そこでいつも「2月が28日しかないので実行不可能であった」と,自分自身を納得させています.確かにこの3日の差は大変大きく,支出に関しては世の中にはうちの家内のように2月が28日であることで幸福感を得ている人もおりますが,病院経営などの観点からは28日しかないことで収入が低下することが問題となっております.そんななかで小職も月間の日にち格差を最近痛感しております.

 それにしても,そもそもなぜ2月が28日なのでしょうか.31日の月がいくつもあるのに2月だけが28日なのは不公平なような気がします.ほかの月の日数が30日または31日なのに対して,2月だけ28日または29日なのは,初代ローマ皇帝のアウグストゥスが紀元前8年,8月の日数を30日から31日に変更し,そこで不足した日数を2月から差し引いたためであるといわれています.それ以前のローマ暦では,年初は3月であったため,単に年末の2月から日数を差し引いたようです.ここでも力関係により日にちの奪い合いが生じております.

基本情報

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臨床泌尿器科
71巻2号 (2017年2月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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