臨床泌尿器科 65巻11号 (2011年10月)

珍しい外陰部疾患・3

尿道損傷 三木 誠 , 相沢 卓
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 膀胱損傷に比べれば,尿道損傷が圧倒的に多く,泌尿器外傷の約50%が尿道損傷であり,その大部分は男性に起きる。尿道損傷の原因としては,医原性(手術やカテーテル操作時)と交通事故や労働災害によるものが多く,特に多いものに騎乗型損傷,すなわちものに跨る形で会陰部を直接打撃して起きる損傷が多い。また最近は老人施設などで,バルーンカテーテルを長期留置したために,尿道腹側に阻血による瘻孔が起きる例も増えている。

 前部尿道では球部尿道損傷が多く,騎乗型損傷である。後部尿道損傷では膜様部損傷が多く,ほとんどが骨盤骨折に併発する。女性では分娩時にごくまれに裂創が生じることがある。

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要旨 局所浸潤性膀胱癌に対する標準治療は根治的膀胱全摘術であるが,術後のQOL低下は大きな問題であり,また,手術を施行しても5年生存率は60%に満たず,治療効果の高い(膀胱全摘を凌ぐ)膀胱温存療法を開発することは,今後の浸潤性膀胱癌の治療において極めて重要である。本稿では,これまで多くの施設で行われてきた化学療法(ネオアジュバント,あるいは,アジュバント),および,化学放射線療法の歴史的変遷と治療成績,そして,われわれが15年前から行っている新規膀胱温存療法“OMC-regimen”における治療方法の詳細,治療成績,および今後の展望について解説する。

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 若い泌尿器科医の皆さまの大部分は,優れた執刀医となることを目標に研修に励んでいると思います。小生もそのような目標を持った1人であり,初老となった今でも手術前には何ともいえない小さな興奮を覚えます。

 加藤晴朗著『イラストレイテッド泌尿器科手術 第2集―図脳で学ぶ手術の秘訣』を拝読しました。4年前に出版された同名手術書(今となっては第1集)との出会いと同様に,著者の豊富な経験と出版・絵を描く情熱と努力にただただ感服しました。今回の第2集は,著者の言葉を借りると「甘い蜜に誘われて」「不満足感に対する不満足力」が出版の原動力ということですが,前回以来の基調である「手術は暗記である」という主張が頑固なまでに貫かれ,「図脳」の根幹であるイラスト・絵もより鮮明で力強く描かれており,進化を感じさせられます。すなわち,膜構造の認識による,より正確な解剖が実感できます。また,さりげなく描かれている術者の左手(場面によっては右手),筋鉤や鉗子が手術の流れに重要なアクセントとなっていることが印象的です。さらに,前回の第1集で省略したことが心残りであったとするトラブル・シューティングに関しても,今回はしっかりと記載されて貴重な情報・知恵を提供していますし,多くのコラムからは著者の人柄がにじみ出ています。

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 看護師や作業療法士,あるいは理学療法士を目指し,医療系の専門学校や大学に籍を置いて日々勉学にエネルギーを費やしている学生は,いまや日本ではかなりの数になっている。その多くの教育課程で,「卒業研究」が必修あるいは推奨の単位とされている。つまり大変多くの学生が卒業するための「卒業研究」を積極的に行う場合もあるが,強制的に参加させられている場合も少なからずあり,この単位修得に喜びよりも苦しさを感じた学生は「研究」を卒業してしまうことになる。

 研究のカベである。このカベに悩むのは学生ばかりでなく,指導する教員もまた,どのようにカベを乗り越えその先の「おもしろさ」を伝えることができるか思い煩うことになる。そんなカベを見上げるとき,本書『ここからはじめる研究入門』を手に取ったあなた(読者)は幸いにもそのカベを越えてゆくための道筋を発見するだろう。

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 岩田健太郎氏が監訳を担当された『Emerging Issues and Controversies in Infectious Disease』の翻訳である。それだけ紹介しておけば,もうこれは読むしかないという人も多いだろう。そこで私が追加できることはなにか,と自問しながら,この本について書く。

 中耳炎や副鼻腔炎,呼吸器関連感染症,敗血症,偽膜性腸炎など,ありふれた問題に対する問題が,わかりやすくというか,わかりにくくというか,まとめられている。忙しい外来中や病棟でこの本を参照したりすると,ポイントだけを明確に書いてほしいと,文句を言いたくなるような本である。しかし,本書は臨床現場でどうすればいいのか参照するために書かれた本ではない。時間があるときにじっくり読む本である。

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 岡田定先生が執筆された『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』が届いた。岡田先生といえば,学生・レジデントの人気No. 1である聖路加国際病院で内科統括部長・血液内科部長として活躍され,教育に熱心であることでも有名で,数多くの教育的著書を執筆・編集されている。特に『内科レジデントアトラス』は今,私の目の前の本棚のすぐ手が届くところに並んでいる。「血算」だけをテーマに1冊の書籍にまとめ上げたという本書にもおのずと期待が高まる。

 血液の疾患というと,難しい,怖い,という印象が先行し,専門医以外からは敬遠されがちである。日常診療においても,白血球が少ない,ヘモグロビン値が低い,血小板が少ない,ということだけで,自分でしっかりと考察することなく即座に専門医に紹介されてくることが多い。もちろん,重篤な疾患が潜んでいる可能性があるので,診断に自信がない場合に専門医に紹介することは重要であるが,実際にはこれらの多くは少し考えれば自分自身で診断にたどりつくことができるものである。教科書に書かれていることをしっかりと読めば,初期対応としての鑑別診断は容易に実施できる。しかし,インターネット全盛の時代において,分厚い文字だらけの教科書を読み解くことは簡単ではないのかもしれない。

手術手技 指導的助手からみた泌尿器科手術のポイント・7

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要旨 女性の膀胱癌に対する膀胱全摘除術を若手医師が術者として施行する際に,指導のポイントとなる手技などについて概説した。男性より骨盤が広くやさしいというイメージがあるが,女性の膀胱全摘の症例は少なく不慣れなことも多いため,解剖学的知識に基づいた慎重な術野の展開が肝要である。

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要旨 当センターで行っている女性の膀胱癌に対する根治的膀胱摘除術の方法と手順について述べた。女性の骨盤は男性より広いため膀胱全摘除術が比較的容易であるが,尿道や腟周囲の静脈叢からの出血に難渋することがある。女性の骨盤内臓器に関する解剖学的理解と,いわゆる“靱帯”が神経血管系を含む層構造をした索状物であることを理解して手術を進めることが大切である。

セミナー 基礎研究は面白い―私の体験・3

私と基礎研究 榎田 英樹
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要約 日本では大学に在籍する医師(M.D.)が,希望すれば大学院進学などの手段で基礎研究をする機会が与えられ,そのほとんどが博士(Ph.D.)を取得できる。しかし,米国と比べてその価値は実際いかがなものか疑問もある。臨床につながるような基礎研究を考案して実行することがM.D. の使命と言えよう。本稿では,筆者が米国留学を通して感じた点や,現在行っている基礎研究の面白さを解説して今後の基礎研究のあるべき姿を探る。

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 種々のプローブによる超音波検査により,尿道スリングテープやメッシュの可視化を試み,考察した。【対象と方法】テープ・メッシュを用いた手術を行った患者を対象とした。3種類のプローブ(経腟,経腹,リニア)を用いて超音波検査を行った。【結果】経腟プローブは前後壁メッシュの近位部,経腹プローブは前壁メッシュとテープ,リニアプローブは前壁遠位部,後壁メッシュおよびテープの可視化に適していた。【考察】プローブにより観察に適した部位が異なっていた。プローブの組み合わせによりテープ・メッシュの状態をよりよく把握できると考えられた。

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症例は72歳男性,2型糖尿病を合併していた。発熱と呼吸苦を主訴に受診し,急性腎不全,左尿管結石に伴う水腎症,敗血症ショックのため,全身管理目的で集中治療室に入室となった。尿管ステント留置後に,敗血症に対してSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)2008に沿った治療を開始した。人工呼吸器管理にてエンドトキシン吸着と持続的血液濾過透析も併用し,循環動態が安定化した。入院7日目に全身状態が改善したため集中治療室を退室した。集学的治療により救命し得た1例であった。

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79歳男性が左陰囊の腫大を主訴に当院を受診した。初診から9年後に再診したが,超音波検査・MRIで4.6cmの傍精巣腫瘍を認めた。外科的に摘除術を施行して病理組織学的に原発精巣上体平滑筋腫と診断した。

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症例は44歳女性。排尿時痛および微熱が続き,抗生剤治療されるも軽快せず,他院より紹介受診。膀胱鏡検査で膀胱頂部に非乳頭状隆起性病変を認め,画像所見で囊胞性腫瘍であったため,排膿と生検を兼ねて,TUR-Btを施行した。術後,輸血を要するほどの出血を認めたため,膀胱部分切除術を施行した。最終病理組織結果は,炎症性偽腫瘍であった。術後1年経過した現在,再発を認めていない。

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 TVM(tension-free varginal mesh)手術は,本邦では2005年より開始され,骨盤臓器脱の標準術式として広まりつつある。手術の体位は,大腿部を腹側に屈曲させた砕石位をとることで,閉鎖神経や閉鎖血管群の損傷を回避でき,安全に閉鎖孔より穿刺ニードルを用いて骨盤内の靱帯に穿刺,メッシュを留置することが可能となる。しかし,変形性股関節症や人工股関節など開脚困難な症例では術野の展開が難しく,手術困難であり,実際に手術を行った報告もない。今回われわれは,左変形性股関節症患者(図1)に対し,Anterior TVM(A-TVM)を安全に施行し得たので,工夫した点を以下に示す。

 通常,高位砕石位とすることで術野を広く展開でき,術者と助手が並んで術野を共有することができるが,開脚困難な症例では術野が狭くなる。今回われわれが経験した症例では,左側の開脚困難があり,術者のスペースしか確保できなかったため,助手は開脚困難な足を越えて患者左側から介助を行った。そうすることにより,助手が術野を目視できない不自由さはあったが,術者が操作できるスペースは確保され,腟壁の剝離は容易であった。

交見室

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 腎癌取扱い規約が12年ぶりに,この春改訂された。画像診断の項は,Ⅰ.腫瘍の評価法,Ⅱ.腫瘍の質的診断,Ⅲ.腫瘍の病期診断,Ⅳ.画像診断所見の統合,の4項目からなり,腫瘍の評価法としての超音波診断の位置付けが再定義された。

 旧版では,腫瘍の評価法として,(1)腹部単純X線撮影,(2)尿路造影,(3)超音波検査,(4)CT,(5)MRI,(6)血管造影,(7)その他,という項目からなっていたが,第4版では,(a)超音波検査,(b)CT,(c)MRI,(d)その他,という4項目に改訂された。

病院めぐり

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 松山市は四国,愛媛県の県庁所在地です。地名だけでは他の地域の方にはなじみが薄いかもしれません。日本三古湯のひとつ,道後温泉がある町です(ちなみにあと二つは有馬温泉と白浜温泉です)。その道後温泉からほど近い,松山市の中心部に松山赤十字病院があります。当院は1913年に日本赤十字社愛媛支部病院として3診療科,60床で開設されました。1947年に現在の場所に移転,その後増改築を繰り返し,現在は30診療科,745床となっています。災害拠点病院をはじめ,地域医療支援病院,地域がん診療連携拠点病院など多くの認定をいただき,まさに地域の中核病院として活動しております。

 当院の皮膚・泌尿器科は1930年に新設,1967年にそれぞれが独立し,松山赤十字病院泌尿器科の歴史が始まりました。今井達二,相戸賢二,白石恒雄(現名誉院長),藤井元廣(現副院長)の各先生方が歴代部長を務められ,筆者が5代目となります。現在のスタッフは藤井元廣〔副院長,1972年(昭和47年)卒〕,矢野明〔第二部長,1990年(平成2年)卒〕,尾澤彰〔副部長,1997年(平成9年)卒〕,重松慶紀〔レジデント,2007年(平成19年)卒〕,大田将史〔レジデント,2007年(平成19年)卒〕そして筆者,田丁貴俊〔第一部長,1984年(昭和59年)卒〕の6名です。

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 広島赤十字・原爆病院は広島市の中心に位置する急性期型の総合病院で,昭和14年(1939年),日本赤十字社広島支部病院として開院したことに始まります。当時,軍都広島における傷病兵の救護施設の充実のために計画されたものでした。昭和18年(1943年)に広島赤十字病院に改称しました。しかし,昭和20年(1945年)8月6日の原子爆弾投下時,爆心地から1.5kmの地点であり,51名の職員が死亡しました。昭和31年(1956年)には日本赤十字社広島原爆病院を敷地内に開院し,昭和63年(1988年)に広島赤十字病院と原爆病院が統合,広島赤十字・原爆病院と改名しました。現在は病床数646床で,地域医療支援病院・地域がん診療拠点病院です。病院全体では診療科は18科,医師数145名(初期研修医21名を含む)です。正面玄関の前には慰霊碑とモニュメントが建立されていて,毎年8月6日には慰霊祭が執り行われます。

 泌尿器科は,昭和14年(1939年)の開院時に皮膚科・泌尿器科として開設されました。昭和44年(1969年)に泌尿器科を開設し,平田弘先生が初代の部長に就任されました。平田先生は,その後平成11年(1999年)から16年(2004年)まで院長になられ,長年にわたって泌尿器科のみならず当院の発展に貢献されましたが,残念ながら平成22年(2010年)に逝去されました。泌尿器科部長は宮崎徳義先生が引き継ぎ,平成21年(2009年)から作間が赴任し今日に至っています。泌尿器科医師は一時4名の時期がありましたが,現在は猪川副部長と九州大学からのローテーターの結城医師の3名体制で診療に当たっています。3名とも泌尿器科指導医です。当科は開設以来九州大学の関連施設であり,九州大学の内藤誠二教授や前宮崎大学教授の長田幸夫先生(現宮崎県立日南病院院長)も若きころ当院に勤務されています。1年に1回程度,広島会と称して当院泌尿器科で平田先生に指導を受けた先生方が集まり宴会を行っています。

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編集後記 藤岡 知昭
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 月遅れのお盆を前にして,机まわりを整理しています。古新聞(本年2月18日付)に,米アラスカ大などの研究チームにより米科学雑誌サイエンスに,「冬眠クマの生態解明」が発表されたという記事をみつけました。この研究チームはアラスカ州当局に捕獲されたアメリカクログマ5頭に心拍計などを埋め込み,赤外線カメラや酸素計測器を備えた巣穴で冬眠させた結果,心拍数は通常の55回から最少9回まで減少し,心拍の間隔は20秒にもなったとのことです。また,5~6度の体温低下で体内基礎代謝は25%低下しました。クマの通常の体温は37~38℃ですが,冬眠中は30~36℃の間を,数日周期で行き来するサイクルが存在することか新たに発見されました。このクマが代謝を調節するメカニズムは臨床応用が可能です。すなわち,重症者を病院に輸送する際に,冬眠状態にできれば救命率の向上に役立つわけで,そのメカニズムの早期の解明が期待されるると記事は締め括られています。クマ大好き人間である小生にとりましては,夢のような研究です。猛暑対策として昼寝をしたくても,節電のためクーラーの使用を控えざるを得ない最近の状況下では,「シロクマではなくクロクマの話か」ということで,暑さをさらに倍増させる不快な話題と多くの読者の皆さんからお叱りを受けるかもしれませんが,この編集後記の掲載される頃は,「月の輪熊・クロクマ」は冬眠に入る時期となります。よって,ご容赦いただけるのではないかと思います。すみません。

 さて,今月号の総説は,大阪医科大学・東 冶人先生らの,「浸潤性膀胱癌に対する化学療法,および,新規膀胱温存療法“OMC-Regimen”の治療効果」です。筆者らが15年もの歳月をかけて開発された「血液透析併用,バルーン塞栓動脈内抗がん剤投与によるシスプラチン投与と放射線を併用する集学的治療による膀胱温存療法」の素晴らしい成績が報告されています。読者の皆様も感銘を受けるものと確信します。手術手技は,大阪府立成人病センター・垣本健一先生および宮城県立がんセンター・栃木達夫先生の「根治的膀胱全摘除術(開腹術)女性患者の場合」の指導的助手からみた手術のポイントで,要点を明確に述べられています。セミナー「基礎研究は面白い」は,鹿児島大学・榎田英樹先生の体験です。筆者の米国留学での経験や基礎研究に対する考え方は,若い読者の参考になるものと思います。さらに,原著1編,症例3編,小さな工夫1編に加え交見室が1編と,いずれも力作です。加えて,新宿石川病院の三木 誠先生よる「珍しい外陰部疾患」は「尿道損傷」の貴重な症例を執筆していただきました。

基本情報

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臨床泌尿器科
65巻11号 (2011年10月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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