生体の科学 70巻2号 (2019年4月)

特集 免疫系を介したシステム連関:恒常性の維持と破綻

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 免疫系はリンパ球をはじめとする免疫細胞が全身のリンパ組織および非リンパ組織に配置し,外界から入ってくる病原微生物を排除する生体防御機能を担っている。免疫細胞は一部の例外を除き全身の組織に存在し,また多くは再循環して全身をパトロールしている。したがって,免疫系は神経系と並んで生体の恒常性をコントロールする二大システムとされてきた。また,免疫系は花粉症などのアレルギー疾患,関節リウマチなどの自己免疫疾患,骨髄移植などの臓器移植等の身近な医療の話題とも関係し,国民の関心も高い。

 あらゆる組織において免疫細胞が一定の役割を担っているために,医学のすべての診療科において免疫疾患が存在する。したがって,免疫系は生命科学・医科学を横断的につなぐ横糸のような存在である。近年まで,免疫学の研究は,多様性・抗原認識・免疫制御・免疫記憶などの免疫系に固有の課題に関するものが中心であったが,近年は中枢神経系・骨軟骨系・代謝系・腸内細菌などと免疫系のかかわりについての研究が大いに進展している。特に最近では,末梢神経・内分泌・概日リズムなど今まで手がつけられていなかった領域にも免疫学研究が進んできている。免疫系がどのように横糸として機能しているか,今まさに解き明かされようとしているといえる。

Ⅰ.免疫と概日リズム

体内時計と脂質代謝 久保 允人
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 生活習慣関連疾患の一つ,肥満は世界的に差し迫った公衆衛生上の大きな問題である。世界中で21億人を超える個人が肥満であり,年間約300万人以上が肥満を含む生活習慣関連疾患によって死亡している1)。そのため,ヒトの代謝およびエネルギー恒常性を調節する宿主および環境因子を同定することが急務とされている。

 代謝およびエネルギー恒常性を考えるうえで腸内細菌叢は,哺乳類の体組成に大きく影響を与える環境要因である。その良い例として,無菌状態で飼育されるマウスの体脂肪は,SPF(specific pathogen free)環境下で飼育されているマウスに比べて減少傾向にあることが挙げられる2)。これは,食事から脂肪組織にエネルギーの貯蔵をする際,腸内細菌叢がエネルギーの収集を促進するためである3)。しかしながら,微生物の宿主代謝経路の調節がエネルギー貯蔵と体組成にどのように影響を与えるかについてはあまり理解されていない。最近筆者らは,微生物叢が転写因子NFIL-3を介して体組成を調節することを発見した。Nfil3転写は腸管上皮細胞において日内変動し,その変動はグループ3の自然リンパ球(ILC3),STAT3(signal transducer and activator of transcription 3)を介した微生物叢,腸管上皮細胞にある概日時計によって制御される。本稿では,NFIL-3がどのように体組成を調節し,微生物叢,概日時計,および宿主代謝の間の不可欠なネットワークを確立するかについて解説する。

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 筆者らは生命活動の24時間周期性(概日性)のリズムをつかさどる概日時計(時計遺伝子)が,マスト細胞の高親和性IgE受容体(FcεRI)やIL-33受容体(ST2)の発現を時間依存的に制御し,アレルゲンやIL-33によるマスト細胞活性化反応の強さに時間依存性を生み出していることを明らかにした。このメカニズムがアレルギー疾患の症状が概日リズムを示す(1日うちのある特定の時間帯に起こりやすい)理由の一つであると推測される。本稿ではそれらの成果や今後の課題などについて紹介する。

Ⅱ.免疫と神経

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 神経系が免疫系を調節していることは古くから指摘されてきたが,神経系からの入力がどのようにして免疫系に影響を及ぼすのか,そのメカニズムは長らく不明であった。しかし近年,自律神経系と免疫系の相互作用のメカニズムが急速に明らかになりつつある。とりわけ交感神経が多様な分子機構を介して免疫応答を制御していることが明らかになった。本稿では,交感神経による免疫細胞の動態調節に焦点を当て,その分子機構について解説すると共に,その生理的意義を免疫応答の日内変動の観点から考察する。

免疫と脳 宮島 倫生 , Fagarasan Sidonia
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 免疫系と脳神経系は互いに密に相互作用している。脳神経系は神経細胞が免疫細胞に作用することで直接的に免疫系を制御する。加えて,脳神経系はHPA(hypothalamic-pituitary-adrenal)軸と呼ばれる視床下部,下垂体,副腎の間での相互作用を介して間接的に,すなわち神経内分泌系を介して間接的にも免疫系を制御している。一方で,免疫系はサイトカインや抗体を介して,またときには免疫細胞が直接脳内へ移行することで脳神経系に影響を及ぼす(図1)。本稿では免疫系と脳神経系の相互作用,脳内および末梢での免疫細胞と神経細胞とのクロストーク,免疫疾患や神経疾患における免疫系-脳神経系間の相互作用について概説する。

Ⅲ.免疫と内分泌

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 グルココルチコイド(糖質コルチコイド)は副腎皮質から産生されるステロイドホルモンの一つであり,強い抗炎症作用や免疫抑制作用を持つため,アレルギーや自己免疫疾患といった炎症性疾患の治療に頻繁に用いられる。しかし,最近の筆者らの研究から,日内変動するグルココルチコイドの産生が獲得免疫の中枢を担うT細胞のサイトカイン受容体の発現を促進し,T細胞の体内循環や抗原に対する免疫応答の日内変動を調節することで,生体防御に働くことが明らかになった。本稿では,従来知られているグルココルチコイドの免疫抑制効果と,新知見であるグルココルチコイドの生体防御促進機能を概説し,グルココルチコイドが免疫系に対し正負の両作用を併せ持つユニークなホルモンであることを紹介する。

Ⅳ.免疫細胞における代謝調節

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 Notchシグナルは,広い生物種間に保存されているシグナル経路で,細胞の分化・増殖・生存などを調節している。その主要な経路は,リガンドとレセプターの結合によってレセプターの細胞内ドメインの切断が生じ,それが核へと移行してDNA結合因子と共に転写を調節するという,比較的単純なものである(図1)。しかし,その生理的機能は細胞の種類によって大きく異なっており,それを誘導するシグナル伝達経路にも多様性がある。本稿では,免疫細胞など幾つかの細胞について,Notchシグナルによる細胞内代謝経路の制御とその生理機能について,その多彩さの一端を紹介したい。

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 細胞の運命決定は,外部環境からのシグナルと,細胞内の確率的イベントによって制御されていることは広く知られている。更に,細胞環境の変化や細胞内機能の変化に細胞が適応する際に起こる代謝経路の変動や,その結果として起こる代謝産物の変化が様々な生命現象にかかわっていることが近年明らかになりつつある。これと並行して,代謝の機能的中枢であるミトコンドリアの重要性も次第に認識されるようになってきた。本稿では,B細胞が活性化に伴いどのような分化過程を経て,多彩な機能を持った抗体を産生するようになるのか,ミトコンドリア機能変化という観点から最新の知見を概説する。

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 オートファジーは細胞質成分や細胞内小器官を二重膜で取り囲み,リソソームと融合して分解する機構である。酵母からヒトに至るまで保存されており,生体内の恒常性維持に重要な役割を果たしている。各種トリガーによってオートファジーが誘導されると,単離膜と呼ばれる二重膜が生じて細胞内の不要な成分やオルガネラを取り囲み,やがて二重膜は閉じてオートファゴソームを生じる。続いてオートファゴソームはリソソームと融合してオートリソソームとなり,リソソームの各種分解酵素によって内容物は内膜と共に分解され,生じたアミノ酸などは細胞内で再利用されることとなる1,2)(図1)。近年,オートファジーは免疫応答や炎症反応の制御をはじめ,様々な細胞反応に関与することが明らかになってきた3-5)。本稿では免疫細胞におけるオートファジー(マクロオートファジー)について解説する。

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 リンパ球の一種であるT細胞の老化・疲弊は,加齢関連疾患の発症の大きなリスクファクターとなる。よって,T細胞老化・疲弊誘導の分子機構を理解することは,加齢関連疾患の発症予防や新規治療法の開発につながると考えられる。T細胞は,T細胞受容体(T cell receptor;TCR)を介し抗原を認識したのち,エフェクターT細胞へ機能分化する。その際,T細胞は細胞内の代謝状態を劇的に変化させることがわかってきている。代謝変化は老化・疲弊を含むT細胞の運命決定にかかわることが予想されるものの,その詳細な役割は不明である。そこで本稿では,筆者らの検討結果と最近の知見を中心にグルタミン代謝調節によるT細胞老化・疲弊誘導制御の可能性について述べる。

Ⅴ.免疫と代謝

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 脂肪組織は力学的な防護(クッション)やエネルギー貯蔵といったやや受身的な機能ばかりではなく,近年では内分泌・代謝器官としての機能を有する能動的な側面が注目されている1)。また,脂肪組織には様々な免疫担当細胞が存在し,皮下脂肪(鼠蹊部)と内臓脂肪(精巣上体周囲)でその構成が違うことも報告された2)。内臓脂肪にはNKT(natural killer T)細胞をはじめとした自然免疫寄りの細胞—論文中ではancestral type(祖先型)—が分布し,皮下脂肪ではαβT細胞やB細胞などadaptive type(適応免疫型)の細胞が分布する傾向にあると記述されている。本稿では,マウス内臓脂肪組織におけるNKT細胞の機能,特に脂肪細胞との相互作用と肥満・インスリン抵抗性(以降,単に肥満とのみ記載)における役割について解説したい。

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 内臓脂肪蓄積を背景として糖・脂質代謝異常,血圧上昇,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease;NAFLD)などが重複して進展し,動脈硬化症を中心として糖尿病,高血圧症,非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis;NASH)などの生活習慣病を発症する疾患概念であるメタボリックシンドロームに共通する基盤病態として,慢性炎症が注目されている。炎症は内外の様々なストレスに対する生体防御反応であるが,臓器局所の恒常性維持機構と考えられる軽度の炎症(生理的炎症)が何らかの理由で可逆的な定常状態を逸脱して慢性化し,不可逆な臓器の機能不全(病的炎症)に至ってしまう。ストレスにより傷害された実質細胞はマクロファージなどの貪食細胞により速やかに除去されて臓器局所の恒常性が維持されるが,この細胞間相互作用による適応の破綻により炎症が慢性化し,病態が進展する。

 本稿では,肥満の脂肪組織およびメタボリックシンドロームの肝臓における表現型であるNASHでみられる慢性炎症と,臓器局所での細胞間相互作用の結果生じるユニークな病理組織像について,最近の知見を交えて概説する。

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 脂肪組織に在住するマクロファージには,脂肪細胞の機能を調節する作用があることが注目されている。マクロファージはその役割の違いから,M1型マクロファージとM2型マクロファージに分類される。肥満で増加するM1マクロファージからは炎症性サイトカインが分泌され,インスリン抵抗性を誘導する。一方,非肥満で優位に存在するM2マクロファージから分泌されるIL-10などのサイトカインは,その抗炎症作用によりインスリン感受性の維持に関与すると考えられてきた。最近筆者らは,マウスの解析から,M1およびM2マクロファージも直接,前駆脂肪細胞へ働きかけ,血管新生や前駆脂肪細胞の増殖・分化を調節しインスリン感受性を制御することを明らかにした。特に,M2マクロファージは前駆脂肪細胞のニッチとなり,増殖と脂肪細胞への分化をTGFβ依存性に抑制し全身の肥満度とインスリン感受性を調節していることを見いだした。本稿では,脂肪組織マクロファージによる前駆脂肪細胞の調節を介したインスリン感受性の調節機構について言及する。

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 Apoptosis inhibitor of macrophage(AIM,遺伝子名CD5L)は,体内を循環する血中タンパク質であり,これまでに,肥満や脂肪肝の抑制機能や,近年では,急性腎障害や真菌性腹膜炎などの組織障害を伴う疾患の治癒を促進することが見いだされている。血中でAIMはそのほとんどが免疫グロブリンM(immunoglobulin M;IgM)に結合して安定化しており,AIMの体内量や活性の調節はIgMによるところが大きい。健常時はIgMに結合しているAIMは,特定の疾患時にIgMから解離することで可動性が増すと共に,活性状態が最大化される。すなわち,IgMは抗体としての役割だけでなく,AIMのキャリアとしての重要な任務を果たしているといえる。しかしながら,AIMがどのような結合様式でIgMと複合体を形成し,そして如何なるメカニズムで解離が誘導されるのか,その調節機構については未知であった。今回筆者らは,AIMとIgMの結合について,両者の複合体を電子顕微鏡で解析し,構造を視覚的に明らかにすることに成功した。この発見は,AIMとIgMの複合体形成の機序だけでなく,IgMの構造そのものに関しても免疫学の教科書を書き換えるほどの発見をもたらした。本稿では,AIMのIgMとの結合・解離に関する新しい知見をベースに,これまでに蓄積された,疾患におけるAIMの機能や,治療・診断応用における可能性を紹介する。

連載講座 生命科学を拓く新しい実験動物モデル−18

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 コウモリはイルカと並んで生物ソナーと呼ばれ,超音波を用いた優れた反響定位(エコーロケーション)能力を持つ。生物が生得する高度な機能やその運用方法には,様々な技術に役立つ知見が秘められている。昨今,自動運転技術などを例にセンシングのニーズが急速に強まってきた。センサの数や種類も増え,情報のビックデータ化が加速しているなか,少し立ち止まって動物に目を向け,シンプルな機構で高度な技を成す,彼らのセンシングシステムに学ぶ意義は大きい。

仮説と戦略

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 遺伝子の発現は,DNAからの転写段階のみならず,転写後においても厳密に制御されている。なかでもmRNAの翻訳と分解の調節は,タンパク質の合成量とタイミングを厳密に規定するうえで重要である。これらの制御は,従来mRNAの非翻訳領域(untranslated region;UTR)を介して行われると考えられてきた。しかし最近,タンパク質の読み枠(open reading frame;ORF)にも遺伝子の発現を動的に調節するための情報が隠されていることが明らかとなり,大きな注目を集めている。本稿では筆者らの研究成果を中心に,遺伝暗号であるコドンによるmRNAの安定性制御についての知見を概観する。

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目次

財団だより

財団だより

次号予告

お知らせ

あとがき 松田 道行
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 免疫となにそれ,といえば胡散臭い研究の代表と思われていた時代もありました。昨年,本庶先生とともにノーベル賞を授与されたJames Allison先生からも抗腫瘍免疫の話を受け入れてもらうのには苦労されたと伺っています。しかし,本特集で取り上げているように免疫による生理機能や感染症以外の病態制御はいまや最先端の研究分野です。交感神経が免疫を活性化するという話を聞くと,「気合が入ってないから風邪をひく」という話を精神論と一笑に付していたのも反省しないといけないようです。一方,広告をみていると,「膝が痛ければグルコサミン」,「いやグルコサミンよりもずっと関節に多いコラーゲン」とか,「風邪には塩化リゾチーム」だとか,まことしやかなサプリや薬を結構名の通った製薬企業が発売しています。腸から吸収するときはただのアミノ酸だろうなどと考える天邪鬼には効果もないでしょうが,そんなことだからブレークスルーを出すような研究も思いつかないのかもしれないと反省しきりです。

 本号はコーディング領域に転写活性調整機能がある話や,コウモリのナビゲーションシステムも取り上げています。子どものころに,砂を投げると超音波が乱れてコウモリが落ちてくるという他愛も無いうそを信じて走り回った夕方の光景を思い出しました。夢のある話をご執筆いただいた先生方に改めて感謝いたします。

基本情報

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生体の科学
70巻2号 (2019年4月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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