生体の科学 58巻6号 (2007年12月)

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 AGEs(advanced glycation end-products;終末糖化産物)は,グルコースなどの還元糖と蛋白質との間の非酵素的糖化反応(発見者の名にちなんでMaillard反応とも呼ばれている)の後期段階で生成する構造体の総称であり(図1),近年,種々のAGEs構造が生体内で存在することが明らかとなってきている。これまでAGEsは,糖尿病(diabetes mellitus;DM)血管合併症の発症・進展に直接関与するものとして,その研究は進められてきた1-3)。最近では,認知症4,5),癌6),高血圧7,8),非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;NASH)9)などにも関与することが明らかとなり,新たな分野の研究が展開されている。このように,AGEsはDM血管合併症をはじめとする生活習慣病に関与していることが報告されているが,未だ生体内で生成するAGEs構造およびその経路の全貌を解明するには至っていない。その主な理由は,実際に病気の原因となっているtoxic AGEs(TAGEと命名)ではなく,生体防御的な意味合いで形成(averting path)されていると考えられるnon-toxic AGEs(カルボキシメチルリジン,ペントシジン,ピラリンなど)を中心に研究が進められてきた経緯からである。

 本稿では,AGEsの概念および生体内AGEs生成経路を概説するとともに,生活習慣病における“TAGE病因説”5,10)について言及していく。

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 タンパク質およびペプチドのアミノ基と還元糖による非酵素的反応は,メイラード反応あるいはグリケーション(糖化)といわれる。反応は二つの段階で進行する。初期段階では糖はタンパク質/ペプチドのアミノ基と反応し,不安定なシッフ塩基を経て,安定なアマドリ転移生成物あるいはハインズ転移生成物を形成する。中期・終期段階では多くの様々な化学反応が進行し,蛍光性を有する褐色物質,メラノイジンを形成する。

 タンパク質の非酵素的糖化反応やそれに伴うタンパク質機能性の向上,また,生理的・病理的影響はかなり多く研究されてきた。タンパク質の非酵素的糖化反応が糖尿病,心疾患,アルツハイマーなどに関与するという点においては人に不利益をもたらす。その一方,メイラード反応産物に関するいくつかの利益についての多くの報告がある。

AGEの構造解析 丹羽 利充
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 AGEの構造解析には,高速液体クロマトグラフィー(HPLC),質量分析(マススペクトロメトリー;MS),核磁気共鳴(NMR)などの機器分析が用いられている。AGE修飾タンパク質の構造解析およびAGEの定量にはMSがとくに有用である。

糖化リン脂質の検出と解析 宮澤 陽夫
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 食品の分子間反応のひとつに糖化反応(グリケーション)がある。この反応はタンパク質のアミノ基と糖のカルボニル基の間の非酵素的な脱水縮合であり,アミノカルボニル反応とも呼ばれる。アミノカルボニル反応は食品中で普遍的に起こる褐変反応のひとつであり1,2),生体中においても進行する。生体内タンパク質のグリケーションは糖尿病などの疾病要因と考えられている3,4)

 一方,脂質は生体膜の構成成分として,あるいは脂肪組織内のエネルギー貯蔵体として,ヒトの体内に普遍的に存在する。脂質の代謝回転速度はその化学的形態で大きく異なるが5),比較的代謝回転の遅い生体膜リン脂質であるアミノリン脂質(ホスファチジルエタノールアミン;PE,図1)が,グリケーションを受けていても不思議ではない。

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 終末糖化産物(Advanced Glycation End-products;AGE)は蛋白質が非酵素的に還元糖により糖化,修飾されるメイラード反応により生成される最終産物の総称である。このAGEは糖尿病患者やその病変部に蓄積していることが明らかにされて以来,AGEとその受容体RAGE(Receptor for AGE)との相互作用に注目が集まった1)。その後の種々の研究から,AGE-RAGE相互作用は糖尿病合併症に原因的に関与していることが明らかにされてきている2,3)。また近年,RAGEはAGEのみならずアルツハイマーにおいて脳に蓄積するアミロイドβ蛋白質4),癌転移や炎症との関連が明らかにされているHMGB-1/amphoterin5),免疫系細胞から分泌される炎症仲介分子S100/calgranulin6),白血球の細胞表面にあるβ2インテグリンMac-17)など様々な分子と相互作用することが明らかにされ,糖尿病以外の疾患にも関与している可能性が示唆されている。このRAGEには少なくとも三つのスプライシングバリアントが存在する。この稿ではRAGEのスプライシングバリアントの一つである内在性細胞外分泌型RAGE(endogenous secretory RAGE, esRAGE)について,AGE-RAGE相互作用を中心にその構造および機能についての現状を概観する。

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 医薬品の先導化合物を天然から抽出,分離し,有用な構造上の知見や薬理活性に関する知見を他分野に供給することが生薬学,天然物化学の一つの使命と考える。自然の作り出す化合物は人間の想像を遥かに超えたものであり,その構造を決定する上においても,合成また生理活性を見出す際においても魅力的なものである。筆者らは天然から見出した素材に対して生理活性を付与し,天然由来機能性物質として社会に還元することを目標に研究に取り組んできた。とくに社会的に大きな問題となっている生活習慣病の予防を目指し,各種の食材,世界の伝承薬物,生薬の有効性について研究を行っている。その一環として,生活習慣病の一つである糖尿病合併症に有効な数多くの天然素材の検索に取り組んできた。本稿では,天然素材を活用したメイラード反応後期段階生成物(advanced glycation end-products;AGE)の生理作用に関して,筆者らの「糖尿病合併症予防に寄与しうる南蛮毛の研究」および「糖尿病合併症予防に寄与しうる海藻類の研究」を通して,糖尿病合併症発症機構に関連するまとめをする。

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1 腎不全におけるAGEの蓄積

 腎不全時には糖尿病の有無によらずAGEが体内に蓄積する。腎不全患者におけるAGEの蓄積は,動脈硬化1),心筋肥大2),炎症3),栄養障害3),および透析アミロイドーシス4)などの合併症の発症・進展に関係すると考えられている。腎不全に伴ってAGEが蓄積するということは,本来,腎臓という臓器が生体内でAGEが蓄積することを防ぐ働きがあるということを示している。その機序を大きく分けて考えると,腎臓がAGEを除去しているか,あるいはAGEの生成を抑制しているということになる。前者にはAGEの代謝あるいは排泄機序が考えられ,後者にはAGE前駆体(反応性カルボニル化合物)の除去(代謝あるいは排泄),生成抑制,あるいは腎臓が産生する何らかの分子によるAGE生成抑制などの機序が考えられる。

 ちなみに,肝硬変においてもAGEが蓄積し,肝移植によってそれが改善することが報告されているが5),これも主に,肝臓におけるAGE代謝の障害による機序が想定されている6)。そして腎不全においても肝不全においてもAGEが蓄積するということは,腎臓と肝臓の両者の機能がAGEの蓄積防止に重要であるということ,また,一方の機能障害は他方の機能によって代償されないということを意味している。それはおそらく,腎臓と肝臓で代謝されるAGEの種類の違い,たとえば,高分子量のAGEは肝臓で代謝され,低分子量のAGEは腎臓で代謝されるという可能性を示している。

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 厳格な血糖コントロールによって糖尿病腎症を含めた糖尿病血管合併症の発症・進展を遅延,あるいは阻止できるとの報告から,糖尿病腎症の成因として高血糖が重要な役割を果たしていることに疑う余地はない。糖尿病による高血糖の結果,通常の解糖系によるエネルギー産生経路に異常をきたし,1)ポリオール経路の活性化,2)ヘキソサミン経路の活性化,3)ジアシルグリセオールプロテインキナーゼCの活性化,4)酸化ストレスの亢進,5)終末糖化産物(advanced glycation end-products;AGEs)の蓄積が生じ,糖尿病腎症が発症すると考えられている1)。本稿では,糖尿病腎症の進展に重要な役割を果たしていると考えられている腎臓の足細胞(ポドサイト)に焦点を絞り,そのシグナル伝達系とAGEの影響についてわれわれの知見を中心に概説する2)

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 2型糖尿病における糖尿病性腎症は,高血糖のみならず高血圧,高脂血症,インスリン抵抗性,肥満といった代謝異常,さらにはadvanced glycation end-products(AGEs)などの様々なファクターの複合的関与により,病態が形成・進展すると考えられている。中でもAGEsは,糖尿病血管合併症全般の発症進展に直接的に関与する可能性が挙げられ,研究が進められている。

 AGEsは,タンパク質と糖(グルコースやほかの炭水化物)の非酵素的な反応(糖化反応)を起点とした酸化的/非酸化的反応により形成される修飾タンパク質の総称であり,AGEs形成における一連の反応はメイラード反応と呼ばれている。AGEs形成は高血糖状態の持続により促進されるが,生体内酸化ストレスもまたAGEs形成を促進すると考えられており1),2型糖尿病におけるAGEsの上昇は,高血糖のみならず高血圧,高脂血症,肥満,高インスリン血症といったメタボリック異常に起因する酸化ストレスの亢進が関係している可能性が考えられる。

 本稿では,2型糖尿病性腎症ラットモデルに対し行った各種メタボリック異常改善治療(カロリー制限,血圧降下剤,血糖低下薬)や慢性虚血改善治療の結果を概説し,糖尿病性腎症とAGEsの関係についてわれわれの得た知見を紹介したい。

血栓形成とAGEs 山岸 昌一 , 竹内 正義
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 糖尿病は,インスリンの分泌障害や標的臓器における作用不全によって慢性の高血糖がひきおこされる代謝疾患群である。しかしながら,患者のQOLと生命予後の観点からみれば,糖尿病は心血管病であるともいえる。事実,糖尿病腎症は新規透析導入の原因疾患の第1位であるし,網膜症によって年間約4,000人の方々が失明に至っている。さらに糖尿病患者の約40-50%が心血管系の疾患が原因で亡くなられているのが現状である。これらの事実は糖尿病においては,慢性の血管合併症を予防することが,治療戦略上最も重要な課題であることを示している。

 ごく最近,糖尿病血管合併症のメカニズムを考える上で興味深い報告がなされた。EDIC-DCCT試験によれば,1型糖尿病の初期6.5年間の血糖コントロールが厳格であると,その効果が長期にわたって持続し,試験終了後少なくとも8年間は細小血管症の進展が抑制でき,11年後の心血管イベントの発症も有意に抑えられることが見出された1)。このことは,ヒトの糖尿病血管症においても高血糖の記憶(hyperglycemic memory)が存在することを示唆している。終末糖化産物(advanced glycation end-products,以下AGEs)は,血糖コントロールの程度とその持続期間により不可逆的に生体内で形成,蓄積されることから,AGEs病因仮説はhyperglycemic memoryという現象と最もよく符号する。

 本稿では,糖尿病血管合併症におけるAGEsとその受容体(RAGE)の役割について,血栓形成の観点を中心に概説する。

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 現在,糖尿病合併症の多くは,高血糖に続発する微小血管障害に起因することが想定されており,その分子メカニズム解明とそれを基盤とした治療法の確立が急務となっている。高血糖状態において産生が促進されるadvanced glycation end-products(AGEs)は,糖尿病合併症の発症原因の一つとして注目されており,これまでの多くの研究により病態形成との関連が徐々に明らかになりつつある。AGEs関連の詳細な生化学的特徴に関しては他章に譲るとしても,AGEsによる糖尿病関連病態形成機序を一言でいうならば,その蓄積による細胞膜蛋白や細胞外基質の器質的,機能的変化に加え,その受容体であるreceptor for AGEs(RAGE)を介したシグナル(RAGEに結合したAGEsがスカベンジャー経路により代謝される際に発生する活性酸素による2次的シグナル)による細胞機能修飾を基盤としたものである。よって,血管もAGEsにより器質的,機能的変化を受け,糖尿病合併症発症の中心的役割を担うものと考えられる。

 本稿のテーマであるAGEsと血管新生に目を向けると,AGEsの血管新生に与える影響は報告によって異なり議論の余地を残している。つまり,「AGEsは血管新生促進因子である」とする報告と,逆に「AGEsは血管新生抑制因子である」とする報告の両者がある。そこで本稿では,現在までに報告されているAGEsの血管新生への関与について,その促進メカニズムと抑制メカニズムに関する文献的考察に加え,われわれがこれまで報告した「機能的」血管新生誘導メカニズムならびに糖尿病モデルマウス下肢におけるAGEs依存性虚血耐性能低下に関する分子メカニズムに言及し,糖尿病を背景とした病態におけるAGEsの血管病理学的意義について述べる。

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 蛋白後期糖化生成物AGEs(advanced glycation end-products)の増加は,糖尿病,加齢,尿毒症などでよく知られ,AGE化蛋白の機能障害,蓄積による組織脆弱化,種々の細胞機能変化をもたらす。結合組織の修復過程では間葉系幹細胞(MSCs;mesenchymal stem cells)の増殖と分化が重要であるが,AGEsによるMSCsの細胞機能への影響は不明である。また,MSCsは結合組織のみならず骨,軟骨,脂肪,筋肉などの間葉系細胞に分化しうる未分化な細胞であり,MSCsをターゲットとした研究は数多く報告され,臨床応用としてもすでに用いられている細胞である。

 この稿では,AGEsのMSCsに対する影響を細胞増殖および分化の抑制(特に脂肪,軟骨,骨)の観点から検討したので,報告する1)

連載講座 中枢神経系におけるモジュレーション・5

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 海馬はある種の記憶や学習の中枢とされており,そこで観察されるシナプス可塑性がその細胞レベルでの基礎過程であると考えられている。シナプス可塑性の中でも海馬における長期的可塑性の代表である興奮性シナプス伝達の長期増強(long-term potentiation:LTP)は記憶形成との密接な関連が示唆されている。シナプス可塑性の中では,海馬CA1領域におけるLTPが最もよく調べられており,その誘導・発現機構については,これまで多くの知見が得られている1)。CA1領域でのLTPの誘導には,グルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体の活性化が必須であり,この受容体チャネルを介してシナプス後細胞内に流入するカルシウムイオンが細胞内生化学過程を活性化することにより,やはりグルタミン酸受容体の一種であるAMPA受容体により媒介される正常シナプス伝達が長期的に増強する現象がLTPである。このように,LTP誘導の主要経路についてはかなり明らかになってきたが,これら以外にもLTPの誘導・発現を修飾する機能分子がシナプスには多数存在し,そのひとつとしてRho連携キナーゼ(Rho-associated kinase:ROCK)が最近注目されている。本稿では,海馬LTPの変調におけるRho-ROCK経路の役割に関するわれわれの最近の研究成果を概説したい。

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Ⅰ. 先端医療の中での再生医療の位置付け

 バイオマテリアル(生体材料,体内で用いるあるいは生体成分と触れて用いられる材料)や人工臓器に完全に依存した再建外科治療と臓器移植との2大先端外科治療は,これまでに多くの患者の生命を救ってきたことは事実であるが,一方では,その治療技術,方法論の限界も見えてきている。このような状況の中で考えられているのが,イモリのしっぽが再生する現象をヒトで誘導し,治療に役立てようとする試み,再生誘導治療(一般には再生医療と呼ばれている)である。

 その基本アイデアは,細胞の増殖,分化能力を最大限に活用することにより,生体組織を再生誘導させることである1,2)。体に本来備わっている自己の自然治癒力を高め,病気を治すアプローチは,体にやさしい理想的な治療法となる。もちろん,この再生誘導治療にも長所と短所があるが,上述の先端外科治療の欠点を補い,治療の選択肢を増すとともに,従来,治療の適用拡大および新しい治療技術も可能となることから,現在,第3の治療法として期待されている。加えて,治療薬を投与する内科的治療手段により,組織の再生誘導能力を高め,肝硬変,肺線維症,拡張型心筋症,慢性腎炎などの難治性慢性線維性疾患を治療したり3),血管壁にできた瘤(動脈瘤)を患者自身の生体組織によって完全に閉鎖してしまうという画期的な血管内カテーテル治療(これまでは血栓によって閉鎖され,血栓の再溶解による瘤の再形成が問題であった)などの試みも始められている4)。今後は,内科治療においても再生誘導治療は重要な役割を演じていくと考えられる1,2)

基本情報

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生体の科学
58巻6号 (2007年12月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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