臨床眼科 42巻11号 (1988年11月)

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 緒言 悪性リンパ腫は原因不明のぶどう膜炎として眼内に初発することがある1-4).従来は,組織学的証明は眼球摘出や死後の病理解剖でしか行われなかったが,近年,硝子体,前房水の細胞診1)や経強膜的生検3)によって確定診断され,放射線療法が行われるようになった.今回,我々は悪性リンパ腫によるぶどう膜炎が疑われた症例に経強膜的脈絡膜生検を行って診断を確定し,放射線療法によって腫瘍の消褪を見たので報告する.

連載 眼の組織・病理アトラス・25

脈なし病 猪俣 孟
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 橈骨動脈で脈が触れず,網膜動静脈の花環状吻合がみられる状態を脈なし病pulseless disease,高安病Takayasu's disease,または高安・大西病Takayasu-Ohnishi diseaseという.しかし,橈骨動脈で脈を触れない患者でも必ずしも典型的な眼症状を示すわけではない.最近では,大動脈の狭窄で末梢の乏血症状がみられるものをすべて一括して大動脈炎症候群aortitis syndromeと呼んでいる.脈なし病もその範疇に含まれる.

 大動脈炎症候群は日本人に比較的多くみられ,膠原病など血管炎をもつ20歳代から30歳代の若い女性に発症する.主として大動脈弓の炎症性狭窄が原因で、内頸動脈さらに眼動脈の慢性的な乏血を生じ,初期には眼底周辺部の動静脈吻合や毛細血管瘤の形成などがみられる.病変が進むと,乳頭周囲動静脈花環状吻合,血管新生緑内障,併発白内障などを起こして失明する.

連載 今月の話題

瞳孔検査の診断的価値 内海 隆
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 瞳孔は,対光反応ならびに精神知覚反応において視覚系や脳幹反応系の入力を介し,自律神経系の支配を受けて出力している.したがって瞳孔を詳細に観察すればこれらの経路の異常を捉えることができる.本稿ではそのひとつひとつについて分かりやすく解説したい.

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 網膜中心動脈閉塞症発症1カ月後に虹彩ルベオージスをきたし,新生血管緑内障による眼痛のために摘出された2眼を光顕,電顕にて観察した.1)網膜中心動脈には強膜篩板の部位で血栓形成が観察された.2)血栓には主にフィブリンや血小板からなる新鮮な場合と膠原線維が主体の器質化した血栓の場合があった.3)網膜中心動脈の閉塞部位には血管の再疎通像が認められた.以上より,強膜篩板の部位において血栓形成により網膜中心動脈閉塞症が発生したと考えられた.

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 後頭葉皮質下血腫による同名半盲の1症例を経験した.症例は62歳の女性で激烈な頭痛を主訴として受診し,頭部CTにて右脳後頭葉全域と頭頂葉後部にわたる大きな皮質下血腫を発見された.出血は後大脳動脈の動脈硬化によるものと思われ,翌日血腫除去術を施行し,全身的には後遺症を残さずに治癒したが,眼科的には黄斑分割を伴う左側同名半盲が残った.

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 我々は1983年1月より重症糖尿病性網膜症に対する硝子体手術を開始し,1987年4月までの間に約110症例を経験した.このうち術後経過観察期間が5カ月以上に及ぶ55症例70眼において,入院時所見,インスリン依存性,術前視力,手術適応,併用術式等20因子(術前14因子,術中6因子)が,最終視力0.1以上,0.02以上,及び失明に至った群に与える影響を検討した.

 各因子について統計学的に検討を加えた結果,最終視力0.1以上に有意に関係する因子は,手術適応が硝子体出血であるもの,牽引性網膜剥離の存在しないもの,線維増殖が軽度のもの,眼内タンポナーデを行わないもの,最終視力0.02以上に有意に関係する因子は,インスリン非依存型,手術適応が硝子体出血であるもの,線維増殖が軽度であるもの,眼内タンポナーデを行わないもの,であった.それに対し,失明に有意に関係する因子は,手術時年齢,術前汎網膜光凝固術を行っていないもの,牽引性網膜剥離の範囲が2象眼を越えるもの,であった.

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 Rieger症候群の3症例を経験した.症例1は5カ月の男性で,主徴である胎生環・虹彩実質の低形成・隅角部の索状組織を認め,永久歯の欠損を合併していた.7年間の経過中に左眼の高眼圧を呈してきたが,視力・視野・視神経乳頭に異常がないため処置を施さずに経過をみている.症例2は2カ月の女性で,虹彩実質の低形成・小角膜・瞳孔膜遺残・白内障を認め,口蓋裂を合併していた.症例3は症例2の母親で,虹彩実質の低形成・隅角部の索状組織・小角膜・白内障を認め,永久歯の欠損を合併していた.これらの異常は全て胎生期に神経堤から遊走してきた間葉細胞の形成異常に基づくと考えられる.

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 高血圧性視床出血の3例について,水平眼球運動を検討した.症例1は60歳,男性.上方注視麻痺,輻湊麻痺,輻湊後退眼振,skew devia-tionを認めた.症例2は67歳,男性.上,下方注視麻痺,輻湊麻痺,外斜視を認めた.症例3は41歳,女性.水平,垂直方向とも眼球運動制限は認めず,輻湊運動も保たれていた.CT上では高吸収域が,症例1,2では視床から中脳へ広がりを示したが,症例3ではほぼ視床に限局していた.

 photo-electric oculogram (pEOG)を用いて水平眼球運動を検討したところ,3例すべてに,健側向きの衝動性眼球運動の推尺障害(hypometricsaccade)と病側向きの滑動性追従運動の衝動化(saccadic pursuit)を認めた.

 したがって,従来報告されているように血腫が中脳背側部へ伸展すると,上方(垂直)注視麻痺を来すが,一方,これら水平眼球運動の障害は,視床に存在する水平眼球運動に関する神経伝導路の障害または制御機構の障害によって生じたものと思われ,視床出血の特徴的な眼所見と考えられる.

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 67歳男性で,脳硬塞後に精神的注視麻痺,視覚性運動失調,空間的注意障害の3徴が明らかに認められ,Bálint症候群と考えられた1例にEOGを主体とする神経眼科学的検査を行い,いくつかの興味ある知見が得られた.CTスキャンでは両側頭頂葉,左前頭葉中心回周囲に低吸収域がみられ,Bálintの症例の剖検結果とほぼ一致する病変部位であった.視野では求心性狭窄と右下1/4盲がみられた.眼球牽引試験で正常者には起こるはずの周辺静止物の動揺感が生じなかった.眼球の滑動性追従運動(SPM)や視運動性眼振(OKN)緩徐相の速度は視標速度にかかわらず一定で,左方へのSPMでは眼振様波形がみられた.前庭動眼反射(VOR)は良好にみられたが,明室中でも暗室中でも同じ利得であり,視覚抑制は注意を喚起しなければ起こらなかった.以上の事実から本症の原因病巣とされている頭頂葉領域には眼球運動の方向のみでなく速度を規定する細胞があることが推定され,さらに周辺視野刺激によるOKNやVOR視覚抑制にも本領域が深く関わり合っていることが示唆された.

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 片側性Popper型の眼瞼眼振と考えられる異常眼瞼挙上運動を示した58歳男性例を報告した.症例は右側の外転神経麻痺,顔面神経麻痺,小脳症状,難聴がみられ,左方視で注視眼振に連動して左上眼瞼の律動的な挙上運動がみられた.CTスキャンで右小脳に造影効果のある高吸収域が発見され,後頭窩開頭による腫瘍摘出術の結果,小脳海綿状血管腫と判明した.このような片側性の眼瞼眼振の報告はこれまでみられず,極めて稀な症例と考えられた.

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 右眼の眼瞼腫脹と眼球突出を繰り返し,眼窩CT検査にて外眼筋の肥厚を認めたが確定診断に至らず,全身悪性リンパ腫となって死亡した37歳の男性症例を報告した.

 眼窩CT所見では,右眼の外眼筋の肥厚と,眼窩内や眼球周囲に高吸収の軟部組織陰影がみられたが,明らかな腫瘤は認められなかったため,眼窩炎症性偽腫瘍の眼筋型や眼窩筋炎などの非特異的炎症性疾患を考えていたが,剖検時の病理組織学的検索により,悪性リンパ腫,免疫芽球型,形質細胞様と判明した.外眼筋は,両眼の四直筋全てに腫瘍細胞の浸潤を認め,著しく肥厚していた.

 悪性リンパ腫においても,その浸潤性進展から,外眼筋の肥厚を引き起こすこともあり,注意を要する.

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 顔面神経麻痺,耳下腺腫脹,ぶどう膜炎の3症状を示すサルコイドーシスの一亜型であるHeerfordt症候群と診断された57歳女性を報告する.

 眼底所見において,サルコイドーシスに特徴的なsnowball opacity,網脈絡膜炎の所見に加えて,多数の境界比較的鮮明な小円形黄白色斑を認めた.この黄白色斑は,最近報告されたbirdshot retino-choroidopathyの眼底所見と酷似しており,サルコイドーシスにおいてもこのような眼底所見を呈することは少なくないと考えられた.

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 後部硝子体剥離の認められる32症例を対象に,超音波B-スキャン像にて体位(頭位)変換に伴う硝子体ゲルの動きを観察した.結果として,1)完全後部硝子体剥離ではどの体位でも重力の作用により硝子体ゲルが移動することを確認した.2)硝子体ゲルの動きの程度は虚脱の有無が大きく関与した.3)網膜裂孔及び裂孔原性網膜剥離は症例により体位及び頭位変換で硝子体ゲルが裂孔を塞ぐことを確認した.超音波B-スキャンは,裂孔原性網膜剥離と硝子体ゲルの関係を知る上で有用であると結論した.

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1)左眼痛,左眼外転神経麻痺で初発し,急速に全眼筋麻痺,失明に至った肺癌の眼窩内転移の症例を報告した.

2)全身的にも複数の転移巣が認められ,眼症状発現から1カ月で死亡した.

3)剖検では眼窩後方に30mm×10mmの腫瘍を認め,組織学的に肺原発の低分化腺癌の転移と考えられた.

4)肺癌の眼窩内転移は,本邦では本症例を含めて現在までに3例の報告しかなく,稀な疾患ではあるが,肺癌の罹病率の増加と共に,今後増加することが予測される.

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 角結膜腐蝕の17眼に全層角膜移植を,1眼に表層角膜移植を施行し,移植片の長期予後を観察した.術前に結膜上皮(上皮下組織を含む)の角膜内侵入が軽微であった7眼の移植片では,術後上皮欠損が2眼に発生したが,5眼(72%)が7年以上透明性を維持した.一方,術前に結膜上皮が角膜内に侵入被覆していた11眼では,全例に術後上皮欠損が発生し1年以内に移植片は混濁した.この結果,結膜上皮が全周から角膜内に侵入被覆した角結膜腐蝕眼に対する全層角膜移植は禁忌であると考えられた.

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 70歳女性の裂孔原性網膜剥離罹患者を発端者とする家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)の1家系を報告した.家系調査の結果,発端者を含む三世代18例36眼のうち,10例19眼にFEVRに特徴的な網膜硝子体病変を認めた.眼底病変の表現型は,三型すべてを含み,鎌状剥離型が2眼,牽引乳頭型が2眼,周辺部変性型が15眼であった.このうち,周辺部変性型の6眼に網膜裂孔を認め,その存在部位はいずれも耳側網膜周辺部の無血管野であった.最近本症は,若年者の裂孔原性網膜剥離の基礎疾患として注目されているが,若年者のみならず高齢者の裂孔原性網膜剥離の基礎疾患としても念頭におく必要があると考えられた.また同一家系にあらゆる表現型を認めたことから,本疾患の遺伝因子は様々な表現型をとりうることが明らかになった.

最新海外文献情報

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Mogk LG & Cyrlin MN : Blood dyscrasias and carbonic anhydrase inhibitors. Ophthalmology 95 : 768-771, 1988

 炭酸脱水素酵素阻害剤の内服に起因すると思われる再生不良性貧血,血小板減少性紫斑病,溶血性貧血などの血液疾患の報告が増加しており,1985年にはFraunfelderが79例をまとめている.このことから同剤内服患者に定期的に血液検査を行うべきという意見がある.著者らは81名の開業医,66名の緑内障専門医,40名の大学関係の眼科医を対象に血液検査を定期的に施行しているか否かのアンケートを行った.期間はまちまちであったが各々13.6%,18%,5%が施行していた.興味深いことに定期的検査を推奨した症例報告の著者6名のうち3名が施行を止めていた.同剤によるこの全身合併症発症のメカニズムは不明だが,特異体質によると考えられておりまた投与量とは関係がないとされている.内服中止によって症状が軽快することは多いが保証はない.発症の時期,進行度もまちまちである.すべての内服患者に検査を行うことは莫大な経費を必要とする.血液検査が本合併症の予防に役立つという考えはむしろ安易であり,患者の症状に注意することのほうがより重要である.

 確かに全ての患者に検査をすべきである,というは易しである.本論文のような視点からの報告は本邦では出てこないのではないかと思われる.学術論文の専門分野以外への影響を考える時興味深い.

文庫の窓から

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 大阪の大福寺(天王寺区上本町)に浪速仮病院が創立され,患者を治療し,正式な医学伝習が始められたのは明治2年(1869)4月のことといわれる.この医学伝習所の教師の筆頭はオランダ陸軍一等軍医のボードイン(Anthonius Franciscus Bauduin, 1822〜1885)であったが,エルメレンス(Christian Jacob Ermer-ins, 1841〜1879)に交代し,次いでマンスヘルト(C.G.van Mansvelt, 1832〜1912?)に代ったのは明治10年(1877)8月のことであったと伝えられる.

 マンスヘルトは1832年2月28日,アントワープで生れ,医学を学びオランダ国の海軍軍医となる.その後,慶応2年(1866)より長崎精得館,熊本医学校(熊本藩治療所兼医学校)に,京都の療病院,そして明治10年8月より大阪病院に蘭医として教師に雇われた.

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原著論文の書き方について
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 論文を書く上で一番大切なことは,何故この論文を書くに至ったのかという理由がはっきり示されることと,この研究によって新しくわかった知識は何であるかということを,はっきりと示すことであろうと思います.

 以下,具体的に順を追って述べてみたいと思います.

基本情報

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臨床眼科
42巻11号 (1988年11月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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