臨床眼科 28巻10号 (1974年10月)

連載 眼科図譜・203

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〔解説〕

 視神経乳頭に発生する色素性腫瘍は,その頻度が少なく,良性か悪性かの鑑別に有用な検査法も少ないため,その診断あるいは治療法の選択上,著しい困難をきたすことが多い。今回われわれは,左眼視朦感を主訴として北大眼科を受診し,眼底検査で左視神経乳頭上の巨大な黒褐色腫瘤を発見された36歳の男子の症例を経験した。左視力低下と周辺視野狭窄が著明であり,入院後さらに,左眼底小出血や白斑,静脈周囲の色素沈着などが出現し,進行性の臨床像を示した。これらの特徴は,melanocy—tomaのそれというよりは視神経乳頭原発の悪性黒色腫,あるいは脈絡膜原発のjuxtapapillary malignant melanomaに酷似しているため,悪性腫瘍として左眼球摘出術を行なつた。そして,病理組織学的検討を行なつたところ,黒色腫瘍は乳頭を中心に直径約6mmあり,硝子体中へ約3mm突出し,連続切片標本では腫瘍は乳頭内に限局して存在し,周囲の網膜や脈絡膜から視神経内への浸潤,またはその逆はみられなかつた。また,腫瘍は中心部でlamina cribrosaをこえて視神経内へ約1mm浸潤していた。メラニン漂白標本では,均一で異形性に乏しい類円形または多角形の腫瘍細胞がぎつしりつまつており,核は小型で円形または楕円形のものが多く,核分裂像もみられなかつた。以上の組織所見は悪性黒色腫とは異なつており,良性の視神経乳頭melanocytomaと診断された。

臨床報告

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緒言

 眼科領域における各種の腫瘍のうち,視神経原発の腫瘍は非常にまれなものであり,その報告も少ない。このうち,視神経乳頭にみられる色素性腫瘍においては,その良性,悪性の鑑別に著しい困難をきたすことが多い。

 われわれは最近,2例の乳頭上色素性腫瘍を有する症例を経験し,第1例目は臨床経過が進行性で諸種の検査結果より悪性黒色腫が疑われたため,眼球摘出を行ない,第2例目はmelanocy—tomaとして保存的に経過を観察中であるが,これらの症例について若干の検討を加えたので報告する。

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緒言

 筆者は前論文において1),従来のHard Contact Lens(CL)はポリメチルメタアクリレート(PMMA)を素材としたもので,近年急速に普及したものであるが,実情としては,これを処方された患者のうち30%が装用不可能に終わつている。その原因は,PMMAは疎水基のみで全く水に濡れないため,目になじまないからだとされている。そして,その欠点を補い,これに親水性を与えるため多くの工夫,研究がなされてきたが,これらの努力は今日まで全く実を結ばない状態にある。

 以上の点に鑑み,筆者は,CLに可及的角膜そのものに近い性質を与えるべきではないかと考え,角膜自体の主成分および構造は三次元的二重格子構造を持ち,生体ガラスとも称せられる比較的拒否反応の少ないコラーゲン,フィブリルと水和状態で特異的なHydrophilicな挙動を示す酸性ムコ多糖類とのグラフトまたは架橋結合をなすと想定される点から,極性または非極性高分子物質と酸性ムコ多糖,もしくは類似の性質を有する親水性多糖類との結合を試み,いくつかの物質を得た。その一つの試みとして,従来のCLの素材であるMMAと親水性多糖類のうち,特異的な三次元構造を有するデキストランとの共重合を行ない,新物質を得た。

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緒言

 小児斜視で下斜筋過動を合併することはしばしばみられるが,本邦では最近栗屋ら16)の報告,米国ではStager17)の報告がある。われわれは,1969年6月より1973年4月までの4年間に,当院において全身麻酔で斜視手術を施行した660例(993眼)中,その13.5%にあたる86例(135眼)に下斜筋減弱手術を施し,その結果をまとめることができたので報告する。

 今回の報告の目的は術後の,

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緒言

 糖尿病性網膜症の経過中,後極部網膜に出血,浸出物,浮腫,増殖性網膜症等の病変が出現すると,視力は著明に低下することは良く知られているが(Gass1),Dobree2)),また,これらの変化は視野にも変化をもたらす。King3)は,網膜に浸出性変化をもつ糖尿病患者の中心視野において,以前浸出物が認められ,その後浸出物が消失した場合でも,この病変のあつた部位に相当する暗点が検出されたことから,糖尿病による浸出性の変化は網膜のneuronに永久的な障害を与える可能性のあることを指摘した。Roth4)は,糖尿病者では,網膜症の存在する場合でも,また検眼鏡的には正常の眼底をもつ場合でも,暗点が検出されると報告しており,また最近Wiszniaら5)や石川ら6)は,浸出性網膜症とisopterの変形(限局性弓状沈下)に着目している。このように糖尿病性網膜症の経過観察における視野測定の意義の重要性は次第に注目されるようになつてきたが,前述の研究はすべて動標視野測定法によつて行なわれたもので,各Isopterの間の感度の変化を明らかにしていなかつた。一方,中心部視野測定をより精密に行ないうる静標視野測定法は,LakowskiとAspinall7),RuobinsteinとMyska8)等により,糖尿病性網膜症を有する患者について行なわれたが,これらの研究でも,網膜症の進行度と視野変化との関係を十分に明らかにしていなかつた。

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緒言

 化学療法剤による菌交代現象ならびにステロイドホルモン剤の登場によつて,近年眼真菌症,特に角膜真菌症の増加が認められている。

 角膜真菌症は細菌性角膜潰瘍に比べればいまだ数少ないものではあるが,一旦発症すればこの治療に難渋することがしばしばである。

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緒言

 われわれは先に,形成外科領域において賞用されているfull thickness skin graft (F.T.S.G.)のtie-over法を眼科的にも応用してみて好結果を得たので,第1報1)として眼瞼部における手術法の実際について報告し,また第2報として第23回臨床眼科学会ではその臨床的な面を主に,第15回形成外科学会総会ではその動物実験を主に発表した。また第1報発表のさい,形成外科的に興味のある手技を利用した眼形成手術についても引き続き症例報告を行なうことを述べたが,ここにまず第3報としてdouble pedicled flap techni—que2)を利用した眼瞼の形成手術について報告したい。

 すなわち上顎癌は耳鼻科外来患者総数中の約0.5%を占め,また入院患者総数中の約5%に当る,近年手術機会の増加せる悪性疾患であり,眼球もともに摘出しなければならない場合はさておき,そうでない場合は術後の頬部の目立つた醜形とともにorbital floorの消失による眼球の落ち込み,兎眼,捷毛内反,難治の多発性角膜びらん,放射線白内障,および放射線網膜症等のために患者のみならず眼科医をも著しく悩ましめる疾患の一つである。

トピックス

人工眼開発に一歩前進
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 英国医学研究会議(Medical Research Council)代用神経研究グループのP.E.K. Donaldson氏(写真上)は,このほど英国学士院で人工眼研究の最新の成果であるマイクロ回路(写真下)を発表,実演した。このマイクロ回路は代用神経研究グループがニューマーケット・トランジスターズ社(Newmarket Transistors Ltd.)と共同で開発したもので,シリコンのカプセルに包含され,中温の生理的食塩水中で効果的に作動する。システムは一種のテレビカメラから成り,これが頭に帽子のように取り付けてある数個の小型発信機に信号を送る。信号を受けた小型発信機は,頭皮の下に埋込まれた電極にラジオパルスを送り,脳の視皮質を刺激する。こうして,全盲者も点字を光の点のパターンとしてとらえることができる。人工視力の質は,組織移植片の構造の複雑さによるが,組織移植片は非常に小型でかつ短絡を起こさず,体の液の腐蝕を受けないものでなければならない。このような条件を総合すると,今回発表されたシリコンのカプセルに入つたマイクロ回路は,人工視力開発への大きな敷石となる可能性もある。

 Donaldson氏によると,人工的な方法による視力の回復は皮質の刺激分析力によるが,皮質のこの力は良好のようであるという。信頼できる回路ができるなら,初期のテレビに映つたほどの像はただちに得ることができる。

眼・光学学会

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緒言

 フーコーテスト(Foucault test,ナイフエッジ法)は古くから行なわれているもので,今日でも反射望遠鏡の巨大な反射鏡の研磨などに用いられている。

 このフーコーテストを眼の光学系について行なつているのがスキアスコピーであり,これは一般の眼科臨床上最も頻繁に行なわれる検査法の一つである。しかしこのスキアスコピーは被検眼を散瞳せずに行なうもので,検出できるのは眼の屈折異常度と乱視度だけである。

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緒言

 オフタルモメーターは,眼屈折の診断治療上きわめて重要な器械であることは衆知である。これに内外数種の製品があるが,この精度についてはあまり発表がない。著者はこの点を追及した。

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 著者ら1)は先に凹前置レンズを非球面化しその良好な結果を発表したが,今回は凸非球面前置を試作した。元来この原型はEvansやEnriquezなどであるが,その特長を高く評価したEl Bayadiにより,一般にElBayadi lensと呼ばれている。しかし彼やRotter, Rosenなどの主張にもかかわらずあまり流布されていない。これは知られざるために,専門書にも多少の誤解があるからであろう。しかし著者はHrubyレンズが一般に使用され,RosenのいうようになぜEl Bayadiレンズを用いないかと考えるものである。その理由は,

1)観察視野が大きい。原則的に瞳孔が小さくても良く見え,現在の細隙灯顕微鏡の機構を用いるとEl Ba—yadiのいうように6乳頭径位見えて(ただし機構を変え得ればなにもこの数値にこだわる必要はない),Hru—byにくらべはるかに広い視野が見え,病巣の検出に非常に便利である。

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緒言

 螢光眼底撮影法を用いて,脈絡膜や視神経乳頭の循小循環などの研究が最近多く行なわれるようになつた。これらの研究の多くは,高速眼底カメラを使用したものであるが,乳頭や網膜の偽螢光を除くために多層膜干渉フィルターを用いている。

 また従来螢光眼底撮影には,通常超高感度フィルムを用い,増感現象処理を行なうことが原則とされている。このことが螢光眼底撮影がわずらわしいものと老えられる一つの原因ともなつているようである。

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緒言

 現在種々のタイプの眼底カメラが存在するが,それらいずれの眼底カメラでも被験者の角膜反射光の除去という絶対必要条件が課せられている。したがつて眼底写真の画像の質にも制約を及ぼすことになり,解像力は200本/mm程度,画角は50。程度が限界である。

 しかし次のようなFiberを使つた眼底カメラでは角膜の反射光が生じにくいので,眼底カメラの性能を上げることが可能である。

私の経験

レーザー光からの眼の防護 野寄 喜美春
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はじめに

 レーザー光は通常光に比べてはるかに強いエネルギーを有し,しかも集束性がきわめてよいから減衰することなく遠距離に到達する。また眼光学系は集光系であるから,強くコリメートされたレーザー光が眼屈折系に入ると,網膜上に結像して光凝固反応をおこし,組織を障害して失明のおそれがある。このようにレーザー光によつて障害される眼の部位は主として網脈絡膜であり,とくにレーザー光を直視することによつてさらに凝固閾値の低い黄斑部が障害され,中心視力を失うことがある。とくに最近では高出力のレーザー装置が広く使用されており,生体に対する危険が増大している。

 1961年に実用型のルビーレーザーが開発されてから1),光学上の応用とともに暴発によつて実験中に眼障害を起こした例が報告され2),その後レーザーに対する防護対策が注目されてきた3)。とくにQスイッチレーザーが完成してから,その凝固閾値がnon Qスイッチレーザーに比べてはるかに低いことがわかり,その危険はますます増大した。しかし1960年代後半にCW型(連続発振型)のガスレーザーが登場して以後,事故は減少した。これはCW型レーザーの凝固閾値が大なこと,および防護対策の徹底したためと思われる。70年以後には主としてアメリカでレーザー光に対する安全規格が設定され4)現在に及んでいる。ここでは主としてレーザー光による網脈絡膜の傷害を防ぐため,その凝固条件の検討および対策についてのべたい。

基本情報

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臨床眼科
28巻10号 (1974年10月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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