公衆衛生 79巻2号 (2015年2月)

特集 女性の健康を考える

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 3月1〜8日は「女性の健康週間」です.安倍政権によるアベノミクスでは,女性の活躍が成長戦略の中核として取り上げられ,待機児童解消,女性役員・管理職の増加,職場復帰支援を柱に,女性が働き続けられる社会の実現に向けた国の支援策が展開されています.近年,女性の活躍の場が増える一方で,晩婚化・晩産化の進行など,女性のライフステージを取り巻く状況は大きく変化しつつあり,この機会に,女性の健康について考えてみたいと思います.

 平成25年版厚生労働白書によれば,大学進学率の上昇,独身者の意識変化などを背景に晩婚化がさらに進行しているとのことです.昭和55(1980)年と平成24(2012)年のデータを比較すると,妻の平均初婚年齢は25.2歳から29.2歳,第1子出生時の母の平均年齢は26.4歳から30.3歳へと,ここ30年での晩婚化・晩産化傾向は顕著となっています.このような背景に医療技術の進歩も相まって,特定不妊治療(体外受精・顕微授精)を受ける女性の数は年々増加し,その受療年齢も上昇しています.

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はじめに

 女性は,第二次性徴以降,周産期や更年期に代表されるように,ライフステージの重要な時期と,内分泌が大きく変動する時期が重なる.さらに,これらの時期は,女性にとって望むと望まざるとにかかわらず,種々の選択を迫られる分岐点となりやすく,それも男性とは異なる心身のストレスを女性にもたらす一因となっているように思う.

 本稿では,精神科医の視点から,さまざまなライフステージにおかれた女性たちの心身の健康について,いくつかトピックスをとりあげ,概説する.

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はじめに

 女性の健康はリプロダクティブヘルス・ライツの視点を抜きには考えられないことが男性との大きな違いであろう.これは卵巣から分泌する女性ホルモンの変動による女性自身の健康と,生まれてくる次世代の健康〔DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)の概念〕との2つの視点から女性の健康を考える必要があるということである.さらに,社会的,文化的に形成された男女の違い,すなわち,ジェンダーが女性の健康に与える影響が大きいことも考慮しなければならない(図1).

 本稿では健やか親子211)の最終評価および次期計画,さらに健康日本21(第二次)2)の指標も踏まえて,母子保健を中心に女性のライフステージと健康の現状と課題を解説する.

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女性活躍推進の社会的気運の高まり

 1986年の男女雇用機会均等法施行から28年が経過した.世代が一巡し,均等法世代のジュニア世代が労働市場に参入し始めている.この間,女性の働き方やキャリア形成に関して,大きな変化はなかったと総括できる.出産後も就業を継続する女性は少数派で,女性管理職の割合も低調である.日本の女性の活躍度は,国際的にみても凋落傾向にあり,女性の活躍を含むダイバーシティ(多様性)推進を企業戦略と位置付ける欧米企業のグローバル展開から,日本は周回遅れの感が否めない.

 もちろん,この間の動きを振り返れば,1990年代の少子化対策,2000年以降のワーク・ライフ・バラス政策,近年のダイバーシティ戦略など,社会や企業を取り巻く構造変化を受け,女性が労働市場で活躍することにつながる重要な施策が進められてきた.一つ一つの地道な取り組みが,女性が活躍できる社会へという基盤を作ってきたことは確かである.しかし,トータルにみると,労働市場において女性が置かれている状況に大きな変化はみられず,仕事と家庭の両立問題,女性が働きにくい職場の状況,家庭における女性の過重な負担など,働き方をめぐって「古典的な」課題が山積しているのも事実である.

性差医療 小宮 ひろみ
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性差医療の概念

 2001年日本に初めて「女性外来」が開設され,以降急速に広まった.同時に「性差を意識したきめ細やかな医療」すなわち「性差医療」の概念も徐々に浸透してきた.日本における性差医療の先駆者である天野惠子医師1)は「性差医療とは男女比が圧倒的に一方に傾いている病態,発症率はほぼ同じでも,男女間で臨床的に差をみるもの,いまだ生理的,生物学的解明が男性または女性で遅れている病態,社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究を進め,その結果を疾病の診断,治療法,予防措置へ反映することを目的とした医療」と定義づけている.これまで,一部の疾患・病態でしか性差が意識されることはなかったが,「性差医学・医療」という切り口から,あらゆる疾患・病態を探究し,医学・医療に貢献することの重要性が認識されつつある.

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 近年,晩婚化が進み,さらに分娩時年齢も高齢化している.年齢が高くなると妊娠しにくくなることは明らかであり,自然生理周期のタイミングでも,女性は20代前半に比較すると20代後半より妊孕(にんよう)性が低下する.体外受精等の生殖補助医療(assisted reproductive technology;ART)による治療を行っても,30代前半から,治療あたりの妊娠率・生産率は低下する.

 これは,高年齢になるにつれて,子宮内膜症や子宮筋腫などの妊孕性を障害する病態が出現する率が高まるとともに,卵・卵胞の発育を障害する病態の頻度が高くなり,さらに卵・卵胞の質が障害されてくることによると考えられる.

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 女性の就業率が増加し,今後ますます女性の活躍が期待される中,働く女性が生涯にわたって健康を維持,増進していくためには,職域における環境整備が極めて重要である.職域における女性の健康管理を考える際,大きく二つの視点で考えると整理しやすい.一つは仕事(職場環境)による健康影響であり,もう一つは女性のライフサイクルによる健康影響である.

 一つ目のいわゆる職場環境は,危険有害業務や働き方の多様性など,まさしく産業保健分野が主体となって整備しなければならない課題である.一方,二つ目の女性のライフサイクルを考慮した職域での環境整備は,地域保健との連携により効率的で効果的に進めることができる.なぜなら,地域保健領域では,母子保健事業やがん検診など,地域の女性に対する様々な取り組みが既に推進されているからである.地域で行われている取り組みを職場が理解し,働く女性がそれらを利用しやすくする体制を整備することによって,すぐに女性に必要な支援を行うことができると考えられる.一つ目の視点は産業保健に特化していることから,本稿では主に二つ目のライフサイクルに関する職域での女性に対する健康支援策などと今後の課題,地域保健との連携について概説する.

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 わが国の男女における健康寿命は世界一であり,世界に誇れるものである.これは生命寿命が長いことに加え,これらの高齢者,各個人が自立していることを意味し,高齢者の健康長寿は国家の活力源にも直結する.

 2005年にわが国の高齢化率は世界一となったが,それ以前の2000年から「健康日本21」では高齢化対策を始めていた.さらに10年経過した2012年,「健康日本21(第2次)」を施策するなど,超高齢社会におけるさらなる努力を行っている.この「健康日本21(第2次)」は,10年後の2022年を見据えて社会環境の整備・改善,生活環境の改善,生活機能の維持・向上を目指すものである.これらにより,主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防を図り,健康寿命の延伸と健康格差の縮小をエンドポイントとし,平均寿命の増加分を上回る健康寿命の延伸を国家的施策として提案している.

女性の貧困と健康 本庄 かおり
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 近年,長引く経済的停滞と経済格差の拡大に伴って貧困問題への関心が高まっている.特に最近では「女性の貧困」が取り上げられることも多い.貧困が健康に及ぼす影響についてはすでに多くの研究によって明らかにされており,貧困の健康影響の経路として貧困による物質的困窮に加えて社会的排除や心理的苦痛などの影響も報告されている.

 これまでに日本で実施された貧困と健康に関する研究の多くは仕事を失った男性を想定したものであった.しかし,実際には女性の貧困率は一般に想像されているより高く,その健康影響が懸念されている.そこで,本稿では女性の貧困と健康をテーマに,女性の貧困の現状を示しながら,貧困の背景とその健康影響について考えてみたい.

視点

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 1990年から新潟県行政に入り,間もなく四半世紀が経とうとしている.

 様々な仕事の局面で,その時その時に,何かしらの「夢」を描いていたことは間違いないと記憶しているが,ともすると,その「夢」がどういうものであったかを忘れてしまっていることに気が付いた.

連載 衛生行政キーワード・99

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 日本人女性の平均寿命は戦後急速に延伸し,現在,世界最上位に位置している.実際,2013年の日本人女性の平均寿命は過去最高の86.61歳となっているが,このような喜ばしい状況にある一方で,日本人女性は,いくつもの健康課題に直面していることが明らかとなってきている.日本学術会議の報告では,性差を考慮した医療(Gender-specific MedicineあるいはGender-sensitive Medicine)を「婦人科学,泌尿器科学などの領域以外の一般的な疾患において,男女比が一方の性に傾いている疾患・病態,男女間で臨床像に差を見る疾患・病態,生理的・生物学的解明が男性または女性で遅れている病態,社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究」と紹介されている1)が,日本人女性の一生を見ると,ライフステージごとに女性特有の医学的課題および社会的課題がそれぞれ存在していることがわかる(表1).

 医学的課題としては,思春期には第二次性徴発現に起因するこころとからだの変調とその重症化(摂食障害,月経痛など)や性感染症,妊娠・出産期には出産に関係するこころとからだの変調とその重症化(不妊症,妊娠糖尿病,産後うつなど)や子宮頸がん,更年期には更年期障害や乳がん,高齢期の課題では運動器疾患や認知症が挙げられる.これらは,女性ホルモンの変化や女性生殖器,そして長寿に関わる課題と理解できる.健康日本21(第二次)では,健康寿命の延伸を最終的な目標の一つとして設定しているが,健康寿命と平均寿命の差,すなわち,「日常生活に制限のある期間」は,2013年には男性で9.02年である一方で,女性では12.40年であり,女性のほうが何らかの制限をもって生きている期間が長いことが示されている.特に介護の原因となる疾病を見ると,骨折・転倒や関節疾患,高齢による衰弱といった運動器疾患に関する疾病の割合が,男性と比べて,女性では2倍以上多いことがわかる(図1).また,患者調査の結果を見ると,女性ホルモンや女性生殖器に関連する疾病の波が,年齢の上昇とともに,立て続けに女性に襲いかかっていることが理解できる(図2).

連載 いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

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はじめに

 世界では,10億人の人々が絶対的貧困注1)の中で暮らしている.絶対的貧困層は発展途上国に集中し,その多くが女性である.途上国では,女性は識字率が(男性よりも)低く,就業形態も非正規雇用が多いために労働に見合う報酬と労働環境を持たない.また女性の意思決定権や情報へのアクセスも制限されている場合も多々あり,加えて女性の医療利用が妨げられることが多いので,健康格差が広がり,貧困の連鎖を引き起こしている.ここに,女性の健康を向上させることは,社会的,経済的,人道的な視点からも重要な課題であるとの国際コンセンサスが生じる背景がある.また女性の健康が改善されることで,子どもの健康も向上し,家族・地域全体の健康改善への波及効果も期待できる.

 これを受けて,WHOは女性と健康を重要なテーマの一つとして捉え,まず女性と健康に関する包括的報告書“Women and health:Today's evidence tomorrow's agenda”(2009)を出版して,世界世論を啓発したり,関係する各種の活動を強化することとした.例えば,国連総会(ニューヨーク,2010年)では,国連事務総長・潘基文氏より女性と子どもの健康の実現に向けたグローバル戦略Global Strategy for Women's and Children's Health(43カ国署名)1)が提示された.続いて,家族計画に関するロンドン・サミット(ロンドン,2012年)では,2020年までに1億2000万人の女性に避妊手段提供するという目標が掲げられた.そして,ロンドン,ワシントンに次ぎ,アジアではじめて開催されたウィメン・デリバーの国際会議(マレーシア,2013年)では,政府・国連・国際機関だけでなく,数多くのNGOが参加し,女性の保健・教育・ジェンダーに関する啓蒙活動が行われた.また,国連開発目標特別総会(ニューヨーク,2013年)では,2015年以降の持続的開発目標が論議され,日本の安倍首相は女性や貧困層など社会脆弱者を含めたすべての人が適切な医療を必要なときに受けられるという理念「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を据えるように訴えた.このように女性の健康は,医学の領域を超える大きな課題だが,包括的な対策が特に重要な乳幼期から成人期に注目して,女性の健康に関わる象徴的な問題と対応について国際的取り組み例を紹介する.

連載 リレー連載・列島ランナー・71

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 近年,保健師の人材育成が大きな課題となっている.本県では,2011年度から3年間,保健師の実践力向上を目指し,宮崎県立看護大学(以下,大学),県,宮崎県看護協会保健師職能(以下,保健師職能)が協働で「保健師の力育成事業」を立ち上げ,宮崎県における段階別保健師研修体系の構築と各研修の標準プログラムの開発,そして,「宮崎県保健師現任教育マニュアル」の作成を行った.2014年度から本事業は2期目に入り,保健所を中心とした段階別保健師現任教育を推進する段階に進んでいる.

 本稿では,この研究事業の代表者として,「保健師の力育成事業」で取り組む宮崎県の保健師現任教育について紹介する.

連載 基礎から学ぶ楽しい保健統計・5

統計グラフの作成 中村 好一
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point

1.統計の最後の提示手段として図表を用いる.

2.図か表か,あるいはどの形式の図を用いるかは,状況を理解して決定する.

3.エクセルやパワーポイントの作図機能は完全ではない.必要に応じて修正を.

4.図表には「何を示したいのか」という主張を込める.

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 前回に続き,2014年10月15〜16日にイタリアのボローニャで開催されたICOH(国際産業衛生学会)の産業保健サービス・調査・評価に関する科学分科会(SC HSR & EOH)のダイジェストを報告します.

 前回紹介した“体の健診”であるオランダの職場の肥満・心血管リスクの予防健診・指導プログラムに対し,“心の健診”についてベルギーのSercu医師から,“Psychosocial barometer:a new tool and method for employee mental health surveillance”と題してヨーロッパにおけるメンタルヘルス疾患の現状とスクリーニングの試みについて発表がありました.OECDのリポートでもメンタル不調は欧州最大の健康課題であるとし,特にベルギーでは欧州平均の1.5倍の自殺や総人口の19%に向精神薬の内服があるそうです.そのような状況を踏まえて開発された職域におけるメンタルチェックは,全従業員を対象に,診断目的でなく,簡便で職業関連性かつワークエンゲージメントなどの概念も含むものとなっており,調査では23%にバーンアウト,13%に抑うつ,10%に不安感を認めるとの結果でした.ストレス健診開始前夜の日本にとって示唆に富む内容でした.

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 麗らかな陽光を浴びた美しい田園風景の映像から映画は始まります.その美しい風景に見とれていると英国の地図が現れ,カメラはヨーク市に寄って行き,観客はこの映画の舞台がイングランド北部に位置するヨークシャー地方であることを理解します.次に映像は趣のあるスケッチ(書割)に変わり,さらにその書割から抜け出たような舞台が現れます.1組の男女が何か深刻な話をしているような雰囲気ですが,それは村芝居の稽古のようで,どこまでが劇でどこからが実生活なのかよくわからないようなファーストシーンです.

 2人は開業医である夫のコリンと妻のカトリーヌ.芝居の稽古の最中に,ある患者を紹介した病院から病理検査の結果を知らせてきます.患者は末期がんで余命いくばくもない様子.好奇心旺盛の妻カトリーヌは,患者の秘密は妻にも言えないとい言うまじめな夫コリンから無理矢理に名前を聞き出します.患者は夫婦の共通の知人であるジョルジュでした.がんに侵されたジョルジュを案じてか,あるいは単におしゃべりなだけなのか,カトリーヌは夫との約束を破って,ジョルジュを知る友人に彼が末期のがんであることを告げてしまいます.

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投稿規定

次号予告

あとがき 成田 友代
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 保健所では公衆衛生業務に加え,議会対応など雑多な日々ですが,保健医療職として政策に携わる立場にあり,「Health in all policies(すべての施策に健康の視点を)」を常に念頭に置くよう心がけています.安倍内閣により「女性の活躍」が打ち出され,これから女性の就労促進,キャリアアップ,仕事と子育ての両立など女性を取り巻く環境が変化していく中で,真に女性が輝くためには健康が不可欠であることを,まずは,女性自らがしっかりと自覚し行動できる力を身に付ける必要性を強く感じました.そのためには周囲の理解や環境改善も必要ですし,今こそ,地域保健,産業保健,子育て支援・生活福祉等福祉分野などが連携して,女性の健康を守る支援策を並行して打ち出す好機と考えた次第です.

 本特集の企画にあたり,編集会議において,男性より平均寿命が高い女性に対する健康支援の意義について議論いたしました.本号で各専門家の方々からご紹介いただいたように,女性ホルモンの変動と自身の健康,生まれてくる次世代の健康,さらには,内分泌の変動とライフステージの様々な選択を迫られる時期が重なりストレスの要因となること,ジェンダーが与える健康への影響といった視点が重要と考えます.小宮ひろみ先生にご解説いただいた「性差を意識したきめ細やかな医療」すなわち「性差医療」を公衆衛生に置き換え,題して「性差を意識したきめ細やかな健康支援」を実践するため,次号「男性の健康を考える」に続きます.

基本情報

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公衆衛生
79巻2号 (2015年2月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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