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はじめに
世界では,10億人の人々が絶対的貧困注1)の中で暮らしている.絶対的貧困層は発展途上国に集中し,その多くが女性である.途上国では,女性は識字率が(男性よりも)低く,就業形態も非正規雇用が多いために労働に見合う報酬と労働環境を持たない.また女性の意思決定権や情報へのアクセスも制限されている場合も多々あり,加えて女性の医療利用が妨げられることが多いので,健康格差が広がり,貧困の連鎖を引き起こしている.ここに,女性の健康を向上させることは,社会的,経済的,人道的な視点からも重要な課題であるとの国際コンセンサスが生じる背景がある.また女性の健康が改善されることで,子どもの健康も向上し,家族・地域全体の健康改善への波及効果も期待できる.
これを受けて,WHOは女性と健康を重要なテーマの一つとして捉え,まず女性と健康に関する包括的報告書“Women and health:Today's evidence tomorrow's agenda”(2009)を出版して,世界世論を啓発したり,関係する各種の活動を強化することとした.例えば,国連総会(ニューヨーク,2010年)では,国連事務総長・潘基文氏より女性と子どもの健康の実現に向けたグローバル戦略Global Strategy for Women's and Children's Health(43カ国署名)1)が提示された.続いて,家族計画に関するロンドン・サミット(ロンドン,2012年)では,2020年までに1億2000万人の女性に避妊手段提供するという目標が掲げられた.そして,ロンドン,ワシントンに次ぎ,アジアではじめて開催されたウィメン・デリバーの国際会議(マレーシア,2013年)では,政府・国連・国際機関だけでなく,数多くのNGOが参加し,女性の保健・教育・ジェンダーに関する啓蒙活動が行われた.また,国連開発目標特別総会(ニューヨーク,2013年)では,2015年以降の持続的開発目標が論議され,日本の安倍首相は女性や貧困層など社会脆弱者を含めたすべての人が適切な医療を必要なときに受けられるという理念「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を据えるように訴えた.このように女性の健康は,医学の領域を超える大きな課題だが,包括的な対策が特に重要な乳幼期から成人期に注目して,女性の健康に関わる象徴的な問題と対応について国際的取り組み例を紹介する.
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