公衆衛生 79巻3号 (2015年3月)

特集 男性の健康を考える

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 性差医療については既に一般化し,インターネットで検索すると,性差医療に取り組んでいる医療機関が数多く示されます.この性差医療の場面においては,男女それぞれが対象とされていますが,性差医療の歴史を背景として,主に女性を対象としている医療機関が多いように思われます.

 しかしながら,あらためてわが国の男女それぞれの健康問題をみると,まず,周知のとおり,男性の平均寿命は女性よりはるかに短いことが指摘できます.この点については当然のごとく受け取られてきたと思われますが,男性の平均寿命を女性に近づけるように努力することは公衆衛生上の大きな課題だと考えられます.さらに男性では女性に比べて,いわゆる生活習慣病の有病率が高いことが知られています.この点も公衆衛生上の課題として,男性の健康問題に取り組む意義を示しているのではないかと考えられます.

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 わが国の平均寿命における男女差の動向を,戦後最初となる第8回(1947年)完全生命表から第21回(2010年)までみると,第8回の平均寿命は男50.06年,女53.96年,男女差が3.90年であった.第12回(1965年)は男67.74年,女72.92年,男女差が5.18年,第20回(2005年)は男78.56年,女85.52年と平均寿命が延伸し,男女差も6.96年と拡大した.第21回(2010年)は男79.55年,女86.30年となり,男女差が6.75年であった.最新の平成25(2013)年簡易生命表における平均寿命は男80.21年,女86.61年となり,男女とも80年を超えた.男女差は6.40年となり,縮小傾向にあるが,まだその差は6年台を維持している.

 一方諸外国について2014/2015年「国民衛生の動向」平均寿命の国際比較(表1)からみると,男女差が6年を超えている国の一つであるロシア(2012年)の平均寿命は男64.56年,女75.86年であり,男女差は11.30年と最も大きな値を示している.次に,韓国(2012年)の平均寿命は男77.9年,女84.6年,男女差が6.7年,フランス(2013年)においては男78.7年,女85.0年,男女差が6.3年,フィンランド(2013年)のそれも男77.8年,女83.8年,男女差が6.0年を示し,わが国と同様6年台となっている.男女差が小さい国としては,スウェーデン(2013年),アイスランド(2012年)が挙げられ,スウェーデンの平均寿命は男80.09年,女83.71年,男女差が3.62年,アイスランドのそれは男80.8年,女83.9年,男女差3.1年であった.

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平均寿命と健康寿命

 2013年の平均寿命は男80.21歳,女86.61歳,健康寿命は男71.19歳,女74.21歳といずれも女性で長いが,平均寿命と健康寿命の差は男9.0年,女12.4年と女性のほうが大きい.

 高齢期の医療では,①平均寿命を延ばす視点以上に,②健康寿命をできる限り平均寿命に近づける視点が必要と考える.

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 現在,単身世帯が増加しており,今後も増えていくことが予想されている.増えているのは,若者の一人暮らしではない.未婚の中高年男性の一人暮らしや,配偶者と死別した高齢者の一人暮らしが急増している.

 これまで結婚をして同居家族がいることを「標準」としてきた日本社会において,中高年男性の一人暮らしの増加は,社会に少なくない影響を与えていくであろう.具体的には,健康上のリスク,要介護となった場合のリスク,社会的に孤立するリスク,貧困リスクが高まっていくことが考えられる.公衆衛生の観点からも,こうした単身世帯の抱えるリスクへの対応を考えていく必要があると思われる.

男性更年期障害 辻村 晃
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 男性にも更年期症状が存在するという概念,すなわち「男性更年期障害」は2000年頃からマスメディアを中心に盛んに用いられるようになった.医学的な正式名称は,加齢男性性腺機能低下症候群〔late-onset hypogonadism(LOH)症候群〕であり,すでに診療の手引きも発刊されている1).本疾患の国際的な定義は「加齢に伴う血中男性ホルモンの低下に基づく生化学的な症候群」とされている.最近では,LOH症候群という名称でマスメディアに取り上げられることも増えてきた.ここでは,男性更年期障害をLOH症候群として解説する.

 LOH症候群は,性腺(精巣)の機能低下症,すなわち男性ホルモンの低下が病態の本質である.したがって,閉経という生理的変化に伴って女性ホルモン(卵巣性エストロゲン)が急激に低下することで生じる女性の更年期障害ととらえ方は全く同じである.つまり,女性の更年期症状である体のだるさ,ほてり,気分的な落ち込み,集中力の欠如,いらいら感など自律神経失調症的な不定愁訴は男性にも認められ,これらがLOH症候群の中心的な症状である.LOH症状の把握と男性ホルモンの測定がLOH症候群診療の鍵となる.

前立腺の疾患 後藤 百万
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 前立腺は男性生殖器で,加齢に伴って本来の機能は減衰するが,高齢男性において罹患率の高い2大疾患に関与する重要な臓器である.前立腺肥大症は,60歳以上の男性の約80%が有する下部尿路症状を引き起こし,また前立腺癌の罹患率は急速に増加し,2020年には男性における癌において第2位の罹患率になると推計されている.

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 臨床的立場から性感染症にかかわってきた立場で,最近の男性の性感染症について解説したい.臨床医療現場に関係する分野は,①医学(基礎医学,疫学),②医療(医療技術,医療制度),③社会状況(個人,集団のその疾患ないし障害への姿勢と行動),の3分野である.

中高年男性の自殺 高橋 祥友
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はじめに

 図1にわが国における年間自殺者総数の推移を示したが,既遂自殺者数は,女性よりも男性で明らかに多い.本論執筆時に入手可能な最新のデータは2013年のものであるが,この年のわが国の自殺率は,人口10万人当たり男性が30.3,女性が13.0であり,既遂自殺の男女比は2.3倍となっている1).さらに,図2に全自殺者に占める男女別構成比の推移を示しておく.

男性の食育の試み 田畑 卿子
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お父ちゃん・おやじの食育原風景

 「さあ先生たち!! 買い出しに行きましょう」イキのいいお父ちゃんの声がかかる.今日の買い出し当番のTさんが車のドアを開けて待機している.私たちが乗りこんで,本日の「自立をめざす男性料理教室」のスタートである.

 今日の料理のレシピを見ながら,スーパーで食材を選ぶ.「こっちのトマトが新鮮だ」「秋刀魚は大きい方が脂がのっていて旨い」などと,なかなかこれまでの学習の成果がうかがえてうれしい.教室に運んだら,食材は5テーブルに仕分けして,食器も熱湯消毒して配る.

視点

医学教育改革と公衆衛生 尾﨑 米厚
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医学教育改革の潮流

 医学教育における医師養成課程は,刻々と変わりつつある.国民や政府の要望に応え,国際的な標準に合わせるためには必要かもしれないが,以前に比べれば実に窮屈になってきている.

 全国の医学科では,2001年に策定された医学教育モデル・コア・カリキュラムに記された,教えるべき内容に沿って教育内容が決定されている.医学,医療に関する知識が膨大になりすぎたため,卒業時までに身に付けておくべき,必須の実践的診療能力(知識・技能・態度)に関する到達目標を明確化したもので,履修時間数(単位数)の約3分の2を目安としたものとされており,教育内容の画一化が進んでいるといえる.臨床実習に回る前の医学科4年生に共用試験という試験を2005年より正式実施している.これには知識を問うCBT(Computer Based Test)と臨床技能と態度を問うOSCE(Objective Structured Clinical Examination)とに分かれ,CBTは,医師国家試験よりは内容は易しいが,CBTとOSCEに合格しないと臨床実習には行けないので,第2の国試と言われている.

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はじめに

 世界の風力発電総設備容量は,毎年,前年比10〜30%超の伸び率で増加している1).デンマークは早くから原子力発電施設建設予定地を風力発電パークへと切り替えることにより,現在,エネルギー供給源として風力発電の占める割合が最も高い国である.デンマークの「エネルギー戦略2050」は,2050年までに化石燃料から脱却し,再生可能エネルギーへの転換をめざす大胆なものであり,「2020年に向けたグリーンエネルギーの加速」では,2020年までに総電力消費量の約50%を風力発電でまかなうエネルギー政策目標を掲げた2).このため,最近のデンマークでは風力発電施設の大型化が進んでいる.

 米国オレゴン州における先行研究3)では,風力発電施設からの音によって深刻なアノイアンス(騒音による不快感やイライラ感),睡眠妨害,生活の質の低下が示され,長期にわたる健康影響の多くは,夜間の風力施設からの音による睡眠妨害が原因と考えられたが,疫学的研究,振幅変調,室内の低周波音影響についての証拠は不十分とされている.また,米国マサチューセッツ州の報告4)では,風力発電の騒音が,アノイアンスや睡眠中断とは別に直接的な健康問題や病気を引き起こす根拠はない,としている.本邦においても低周波音に係る苦情件数は増加しており5),風力発電設備の導入量が年々増加している6)ことから,今後は健康被害の訴えが増加する可能性があるが,現時点ではその因果関係は明らかでない.

 今回われわれは,デンマーク国における風力発電事情と健康影響への対策を報告するとともに,わが国が参考とすべき点を検討する.

連載 [講座]子どもを取り巻く環境と健康・1【新連載】

「奪われし未来」にしない 岸 玲子
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 世界的に関心が高まっている「子どもを取り巻く環境と健康」について,24回の連載で取り上げる.本連載では,①最近の科学的な知見を整理し,②世界とわが国における環境化学物質による汚染の実態,それによる③多様な小児の健康リスクの特徴,④有害環境要因に感受性が高い人々が住む地域社会の今後の課題,⑤健康障害の予防対策について,わかりやすく身近な問題として語りかけたいと考えている.最終的に,公衆衛生実務者,周産期や小児の臨床家,発達や保健指導に関わる専門家,メディアを含めた広範な市民各層に対して,科学(リスク)コミュニケーションの良いモデルになればと願っている.

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 20XX年2月○日(火),午前7時51分,天候は小雨,通勤中に激しいめまいのような大きな衝撃に襲われた.相模湾を震源とするマグニチュード7.9の大地震である.この大地震で神奈川から首都圏の多くの建物は倒壊し,火災が発生,道路に亀裂が走り,列車は脱線転覆し,携帯も不通となった.多数の死傷者が予想される.ついに首都圏で発生してしまったか!! ライフラインの復旧も遅れ災害は長期化し,多くの人の避難生活が予想される.少しでも救える生命を救わねば….

連載 基礎から学ぶ楽しい保健統計・6

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point

1.統計学的推論(検定や推定)は分析統計で用いる.

2.検定では帰無仮説のもとで,観察された事象が出現する確率(=有意確率)を計算する.

3.推定では母集団の状況を95%の確率で推し量る.

4.推定や検定の結果を見てからその方法を変更するのはルール違反である.

予防と臨床のはざまで

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 看護学部での産業保健の講義の季節となりました.2000年から順天堂大学医療看護学部(当時はまだ短期大学の専攻科)で地域看護学(産業保健)の授業を,前任の武藤孝司先生から引き継いてもう15年,現在は都内近郊の4つの大学で合計600人の授業を担当しています.新卒で産業保健に進む学生はごくわずかですが,臨床を経験してから産業看護職になる卒業生もいます.仮に5%の卒業生が進路として選択すると,600人×0.05=年間30人,10年で300人の集団になります.関連学会やセミナー,事務局を務めるさんぽ会や臨床疫学ゼミでも「以前,授業を受けました」と言ってくれる元卒業生がいたりして,とても嬉しく感じます.

 そんな中,保健師教育のカリキュラムの改変が話題になっています.今までとの大きな違いは,各大学で保健師が選択制となりつつあることです.以前は,看護系の3つの資格(看護師,保健師,助産師)のうち,看護師と保健師に関しては,ほとんどの学生が通常のカリキュラムをこなすことで,国家試験の受験資格を得ることができました.しかし現在は,多くの大学で,保健師の資格取得は選択制になりつつあります.

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 シャーリー・マクレーンの出ている映画には,はずれがないと言われます.ご本人が出演する映画を厳選しているのか.あるいは,シャーリー・マクレーンの演技によって,映画の品格が上がるのか.私は後者の理由によるのではないかと思っています.そんな彼女の映画デビュー60周年を記念する映画をご紹介しましょう.

 高齢のフレッド(クリストファー・プラマー)は,妻に先立たれ独り身に.必ずしも愛情を注いでいたわけでもなかったようですが,長年連れ添った伴侶を失った喪失感で,生きる気力も湧きません.持病も抱え,「男やもめに蛆がわく」ではありませんが,郊外の広い家での生活も不自由になり,娘の勧めもあってダウンタウンのアパートに引っ越します.少し偏屈になっているのでしょう,一人で気ままに暮らしたいと考えているフレッドです.しかしアパートの同じ階に住む一人暮らしの高齢者エルサ(シャーリー・マクレーン)は陽気でおしゃべり.引きこもりになりそうなフレッドを,あの手この手で外に誘います.

お知らせ

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日時 2015年4月13日(月),14日(火)

会場 国立京都国際会館(京都市)

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投稿規定

次号予告

あとがき 西田 茂樹
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 今回の特集の読後,意外に思ったのは「平均寿命における男女差の人口学的構造」の分析内容でした.平均寿命の長さには0歳により近い年齢の死亡率がより大きく影響します.したがって,平均寿命の男女格差への年齢別死亡率の男女格差の影響も0歳により近い年齢のほうが大きくなります.しかしながら,現在では低年齢,若年齢での死亡率の男女格差がきわめて小さいため,低年齢,若年齢の死亡率の男女格差の平均寿命の男女格差への影響は小さい状況となっています.ここまでの分析内容は執筆依頼の時点で予想していたとおりでした.少し驚かされたのは平均寿命の男女格差を65歳以上の高齢の年齢の死亡率の男女格差が約70%説明していた点です.以前,青森県の男性の低平均寿命の分析を行っていたことがあり,その時は40歳代,50歳代の死亡率の高さが短い平均寿命の原因となっていました.今回もおそらく中高年の男性の高死亡率が平均寿命の男女格差の主因ではないかと予想していたのですが,見事に間違っていました.さらに,当然と言えば当然なのですが,平均寿命の男女格差を生じさせている死因は悪性新生物をはじめとする死因順位上位の死因でした.

 高齢者の死亡率や死因順位上位の死因の死亡率が平均寿命の男女格差に大きな影響を与えている点は,平均寿命の男女格差の解消のために,新たな公衆衛生活動ではなく,われわれが従来から行ってきた活動が寄与することを示していると考えられます.より積極的に公衆衛生活動に取り組むべきと思われます.

基本情報

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公衆衛生
79巻3号 (2015年3月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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