公衆衛生 42巻9号 (1978年9月)

特集 老人の保健・福祉

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I.保健医療制度はどう変わるのか

 いま老人の保健医療制度は,軽症受診率の増加と国保の財政的負担の増大から,大きく揺れ動いている.去る7月10日,厚生省は現行の医療制度を「老人保健」として別建てにする構想を発表した.その骨子は,65歳以上の老人に「老人健康手帳」を交付し,予防→治療→リハビリテーションの保健システムを包括した健康保険制度にしようというものである.病気になった時の「保険」だった時代から,健康な老人づくりの「保健」時代に発展させようというのである.この制度改正の目的主旨がタテマエだけでなく,ホンネであるならば,反対する論拠はない.

 だが,この「老人保健」の別建て制度には,現在でも8つに分かれた保険制度の煩雑さと制度間の格差をます拡大再生産し,結果としては行政公務員の人員増に終わりはしないか,という強い疑念をもたざるをえない.今回の構想のホンネとみられる国保財源の見直しでは,実施主体を市町村におき,公費+事業主・住民拠出金の方式でまかなう,というのである.さらに,老人医療無料化による乱診と薬づけを防止するため,老人に対する一部負担方式を導入するというのである.

老人健康診査とその問題点 山下 章
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はじめに

 昭和38年に老人福祉法が制定された際,唯一の保健活動ともいうべき老人健康診査の制度が定められている.そして,制定理由として「老人は一般に有病率が高く,疾病に対して強い不安を持っているにかかわらず,社会的および経済的理由により受診の機会を阻まれている例が多いので,老人に受診の機会を与えることによって疾病の予防および早期発見を行ない,老人の健康保持に資する」というふうに述べられている.ところが昭和48年,老人医療費支給制度ができて老人の受療率が急速にのびてきたために,当初の老人健康診査の役割がうすれてきた.そこで改めて老人健康診査について再検討の要が出てきたのである.以下,各地の資料を根拠にしながら,問題点をさぐり,今後の老人健康診査のあり方を求めてみることにする.

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はじめに

 老人問題,老人対策,老人福祉といえば,概念としては常に老年者を向こう側において対岸視し,行為としては強者が弱者を保護し,富者が貧者に金品を与え,収容施設において保護する,という救貧的,慈善的,隔離収容的で,福祉イコール経済行為ということに重点が置かれていた.つまり,全般的に生活保護が中心であった.しかし,高度経済成長とともに,行政は住民の福祉ニーズに迎合して盛んに福祉づくりを試みた.だが,高度経済成長はいつまでも続かず,政府の福祉元年(1973年)の政治スローガンは福祉2年を迎えることなく,"福祉見直し論"へと後退し,"与える福祉","ばらまき福祉"が反省され,国民行政依存性は人間の主体性保持へとやや変容し,地域住民も自分の老後は自分で守り,行政に任せるだけでなく自分達みんなで考えよう,という風潮が出始めてきた.

 この考え方から,老人施設においても老人個人の自立性,主体性に注目して,保護面のみでなく,開発面の方向が模索されている.

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はじめに

 京都堀川病院は,通常の診療以外に種々の医療活動を行っている.そのうちで「半歩でもの会」および「作業教室」と呼ばれる二つの活動は,デイ・ケアとして位置づけられると考える.そこでこれら二つについて,その活動状況を紹介し,比較,検討を行い,当院デイ・ケアの意義と問題点を考察したい.

老人と職業 杉田 暉道
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はじめに

 老人と職業について考えるとき,まず注目しなければならないことは,一定の職業に従事していた者が退職した場合,その後の健康状態はどうなるのか,という点と,再就職の問題であろう.

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はじめに

 「在宅老人福祉とボランティア活動」を論ずる場合,その前提として,いくつかの点について基本的なあり方を明らかにしておく必要がある.

 まず第1は,最近の社会福祉が,福祉ニーズの変化に伴って,新しい転換が求められているという今日的潮流と将来への展望のなかで在宅福祉をとらえる必要がある,ということである.とくに,従来の社会福祉の主流を占めていた貨幣的ニーズに代わって,非貨幣的ニーズが主要な課題となってきている点に注目しなければならない.在宅福祉は,このような福祉ニーズの性格と内容の変化に伴って,ここにあらためて要請されている社会福祉推進上の今日的課題であるといえる.

病弱老人のデイ・ケア 前田 信雄
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はじめに

 高齢者にたいする保健サービスのなかに,できるだけコミュニティ・ケアを導入する努力が各国で進んでいる.より安価な費用で効果的活動を展開したいということもある.英国のように病床数に限度があって,常時数万人の入院待期老人患者がいるので,それらの人たちへの訪問サービス,デイ・ホスピタル,つまり昼間だけ入院,という対策がある.今日,各国で真剣に考えられているのは,老人の住み慣れた自宅で家族からの援助によって,病気に立ち向かうことの有効性のことである.

 とくに,長期臥床の寝たきり在宅老人にたいする機能回復訓練と看護を施設で行うことにたいする援助が,各方面で試みられている.社会福祉の面でも,寝たきり老人のいる世帯への金銭的行政的援助が芽生えてはいる.そして,とくに近年,日本の老人保健サービスの分野においても,新しいさまざまな試みがなされている.

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はじめに

 老人福祉法が制定されて15年目を迎えようとしているわが国は,現在,高齢化社会に向かって猛烈なスピードで動いている.それにもかかわらず,まだ老人問題は山積されている状態である.そこで筆者らは,東京都内の一地区を選定し,独居老人の現状を知り,これをこれからの保健・福祉対策の一資料として役立てたいと考え,特に食生活を中心とした実態調査をこのたび実施した.

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 日赤医療センター小児科部長・川崎富作博士が,乳幼児で発熱,紅斑様発疹,眼球結膜の充血,口唇びらん,口腔粘膜の発赤,いちご舌,非化膿性頸部リンパ節腫脹を呈し,回復期に四肢先端より膜様落屑を生じ,しかも溶連菌感染を思わせる検査所見を欠く症例7例を非猩紅熱性落屑症候群として,昭和37年10月,第61回日本小児科学会千葉地方会に報告し,さらに昭和42年には,【50例の詳細な臨床観察をもとに新しい症候群(小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群,略称 MCLS)として最初の原著を発表した.本病の歴史はこのときに始まる.

 その後,全国各地から多くの症例が報告され,患者数は1976年に1万例を越した.川崎博士が原著で名付けた診断名は長くてむつかしいので,現在では一般に「川崎病」といわれている.

発言あり

老人クラブ f , g , j , i , h
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老後の生活と地域づくり

 毎年秋になると,チューリップやムスカリの球根を紙袋いっぱいにつめて,Nさんが訪れる.Nさんは77歳で,某老人クラブ(会員約150人)の会長さんである.会長をつとめて,かれこれ10年になるだろうか.毎年のクラブの事業計画には,旅行会や見学会のほかに,季節に合わせて「老人のための健康講話」や「老人体操」などを取り入れ,その行事は会員に期待されている.また,からだを動かせる人は,町内の花壇づくりを引き受け,この町を訪れる人人の心をなごませている.何よりも心なごむのは,当のご老人たちであるようにも思われる.毎年届けられる球根は,この花壇から取れたもののおすそわけである.

 人生で最も自由な時間に恵まれた老後を過ごすうえで,日々の生活に張りがあるかないかは,重大な意味を持ってくる.

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はじめに

 わが国の死因の第1位を占める脳卒中と密接な関係を有する高血圧症の予防および治療は目下の急務であり,この方面の血圧に関する研究や報告は多数みられるが,小児の血圧については,その系統的調査研究は極めて不十分である.しかしながら,小児の血圧は成人血圧の前段階を占めるものであり,また小児の諸種疾患の経過予後を判定する上で有力な根拠を与えるものである.さらに,最近は小児の高血圧症をはじめ,これと関連ある疾患が多いことが注目されるようになってきた.

 筆者らは,小児の血圧をprospectiveに観察,検討したいと考え,T小学校の学童を対象にして昭和51年より研究を開始した.ここに初年度の成績を報告する.

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はじめに

 保健習慣が健康にどのような影響を及ぼすか,ということは,たいへん興味深いことである.ここに一般人口について,保健習慣と身体の状態との関係,ならびに保健習慣と数年後の死亡率との関係を調査した,2つの興味深い論文を紹介する.これらは,欧米や国際学会でよく話題になる調査結果である.この調査は,いずれも,アメリカ合衆国カルフォルニア州のCalifornia StateDepartment of Public HealthのHuman PopulationLaboratoryが,カルフォルニア州のAlameda Countyの一般成人住民人口を対象に行ったものである.

日本列島

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 昭和53年5月29日の夕方,「K家で82歳の老婆が死亡し,家族も発熱と下痢を訴え食中毒と思われる」との最初の情報が開業医から保健所に入った.K家は県北内陸部農村の6人家族の農家で,5月21日に仙台のA店で購入した赤毛猿(1歳未満の雄・ラオス産)1匹を飼っており,ことに若夫婦と1歳半の幼児と猿が同室に生活し,夜も抱いて寝るほどの可愛がり方だった.

 医師の情報直後からの衛生課職員や保健婦からの疫学調査によると,すでに23日から幼児が消化不良として医療を受けていること,また24日には猿も下痢をしていてA店から,「下痢をしたら飲ませるように」と教えられた薬を与えていたこと,老婆は老衰していて軟便を時々もらしていたこと,などがわかった.

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 医療の危機的な状況への対応は,今日,洋の東西を問わず,先進工業化諸国に共通する重大な政策課題となっている.人口老齢化,疾病像の質的変化,医療技術の革新,病院医療の高度化,医療費の高騰などは,各国に共通する要因であるが,保健・医療の諸制度はすぐれて歴史的,政治的な産物であり,今日の危機に対する各国のとりくみにも,鋭くそれらが反映している.

 アメリカの医療はグローバルにみて,歴史的に制度的拘束の最も少ない代表例であり,またこれによって,すぐれた医学研究と医療技術の水準が確保されていることが注目される.しかし,その結果が今日のきびしいアメリカ医療の危機をもたらすこととなり,最も自由であった国に,今や最も強硬な政府的統制が導入されはじめていることは,誠に皮肉である.

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 本書は,難病のなかの難病といえる筋萎縮性側索硬化症(ALSと略す)の患者,井伊政幸氏の発病から死に至る6年10カ月の克明,詳細な闘病記録を中心として編まれている.まえがき(宇尾野公義)に,患者が病名を知り,その予後が不治であり,病状が次第に悪化することを悟り,病気を受容するまでの苦悩——E. キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』(読売新聞社刊)に示された衝撃,否認,怒り,抑うつ,取り引きを経て受容に至る過程——が,きわめて具体的に記録されている.

 第1章——「事例紹介」では,言語障害によるコミュニケーションの困難を種々の工夫によって乗り越え,最終的には,気管切開,経管栄養,レスピレーターの使用と,医師,看護婦,保健婦,理学療法士,ケースワーカー,ボランティア,さらには患者会の人々などに支えられて,最期まで人間として生き,その生涯を閉じていった凄絶な闘病のなまなましい実態が,献身的・超人的な看護をされた井伊なか子夫人からの聞き書きを中心としてまとめられている.

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用語欄 西川 滇八
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▶ライフ・サイクル(life cycle)

 人生には,生まれてから死亡するまでに幾つかの区切りがある.しかし,人生のサイクルは結婚を起点として,次の世代の結婚へと受け継がれる.人によっては,結婚周期と呼ぶのもこのためである.区分としては,準備期,順応期,蓄積期,教育期(両親期ともいい,子弟の小・中・大学などの教育をする時期),再発見期,引退期などがある.この意義は,長期的計画経済が家族の幸福を維持,発展させる基礎となるところにある.

基本情報

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公衆衛生
42巻9号 (1978年9月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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