Neurological Surgery 脳神経外科 46巻2号 (2018年2月)

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 明治維新を迎える前は,話す言葉と書く言葉がまったく違うものであったそうだが,文章の持つ構造は内容をあらかじめ規定・制限してしまうことがある.話す言葉は論理展開なしでも膠で接続するようにつないでいけるので,かなり無責任な展開でも話を通していける.また,話す言葉は非言語的メッセージをかぶせることができるので,言ったことの反対の意味すら表現できる.一方で,文章として書くときには前後が文脈として見えるだけに,論理や責任に縛られてしまうし,なにより記録として残る.より正確に多くの情報を伝える手法として,プレゼンテーションなどでは,スライドや資料に書かれた文字・文章・画像を,話す言葉に置換しながら,非言語的メッセージをつけ加えていく手段がとられる.手術前の医療面接などでも,できるだけ情緒的な要素を抑えて事務的な表現で書いた標準化された書類を提示しつつ,内容を話し言葉に置き換えながら,医療側のデータや論理的思考の過程などの専門的事柄に,個別の価値観やら感情やらの重み付けをしながら,相手に理解していただくという手法が一般的である.

 それでは純粋に,書かれた文章の持つ意味や意義といったものは何なのだろうか.われわれは文章として書き,記録することで,他人に,あるいは未来の未知なる自分に何かを伝えることができる.メールなどでは付加されるメッセージとして絵文字が使われていることもあるが,書かれた文章からは,非言語的メッセージが取り除かれている.しかし,言葉の内容のほかに,文体そのものや文の構造,書かれた媒体など,切り離すことができない内容を規定するものが結びついている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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Ⅰ.はじめに

 わが国で普及している内視鏡下血腫除去術は,Nishiharaらが報告した透明シースと硬性鏡を用いる術式が一般的である9).本術式の特徴は,単一穿頭からの血腫除去で,手術創に関連する生体侵襲のみならず,手術時間などを含め低侵襲下に処置が可能なことである.さらには,むやみに血腫吸引を行うのではなく,内視鏡下に脳実質と血腫を確認しつつ正常脳組織への傷害を最小限に血腫除去を行うこと,また,焼灼・凝固などの各種止血操作が可能なことである12)

 本稿では,神経内視鏡,特に硬性鏡を用いた内視鏡下血腫除去術の基本手技を紹介し,出血部位ごとの手技上の注意点について,手術解剖の観点より解説する.

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Ⅰ.はじめに

 転移性脳腫瘍は担癌患者の10〜30%に発症し19,24,27),脳腫瘍症例全体の17〜20%を占める22).病期,病型,再帰分割分析などの結果をもとに予後を評価し13),集学的治療の対象となれば,外科的治療,放射線治療や化学療法を用いて治療する23).近年は原発巣に対して分子標的療法を併用することも多い.代表的な分子標的薬の1つであるベバシズマブはvascular endothelial growth factorのモノクローナル抗体で,卵巣癌,治癒切除不能な結腸・直腸癌,進行・再発の非小細胞性肺癌,再発乳癌,また悪性神経膠腫に適応があり,放射線壊死に対する治療効果も知られている6,14,15,21).ベバシズマブの承認当初は脳転移を有する患者への投与は原則禁忌であったが,2012年6月に慎重投与が認められた.しかし,これまで転移性脳腫瘍やその再発例に対するベバシズマブの治療報告は少ない9,28).そこで本研究では,転移性脳腫瘍再発自験例に対するベバシズマブの治療効果を検討した.ベバシズマブには高血圧,腎機能障害や出血など用量依存性に現れる副作用が知られており,特に低用量のベバシズマブの有用性を検証したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎は希少性で原因不明の難治性疾患であり,この中には顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA),Wegener肉芽腫症(Wegener's granulomatosis:WG),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis[EGPA].従来,アレルギー性肉芽腫性血管炎/Churg-Strauss症候群[AGA/CSS]と呼ばれていた),腎限局型血管炎(renal-limited vasculitis:RLV)の4疾患が含まれる2).これらの脳血管障害合併例としては,EGPAに動脈瘤10)や脳梗塞3)が合併した報告や,WGにくも膜下出血が合併した報告1)が散見される.しかし,MPAに動脈瘤が合併して破裂した報告は極端に少なく,渉猟し得た限りではKimuraらの報告のみであった4)

 今回MPAに合併した末梢性右中大脳動脈瘤破裂患者に対して開頭クリッピング術を施行した際,動脈瘤頚部へのクリップの機械的刺激により,動脈瘤が母血管から容易に離脱した.血管炎由来の脳動脈瘤であり,血管壁が脆弱であったためと考えられる10).稀な病態であり,かつ,教訓的な症例であったため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Watershed shift(WS)は,もやもや病に対する浅側頭動脈-中大脳動脈(superficial temporal artery-middle cerebral artery:STA-MCA)バイパス術後の,局所脳循環変化による脳虚血の原因の1つとして提唱された概念である7).WSに伴う脳梗塞は,もやもや病に対するバイパス術全体の1.2〜5.7%に起こる7,16).これまでWSを画像で直接確認した報告はない.今回われわれは,成人もやもや病術後に過灌流症候群(cerebral hyperperfusion syndrome:CHPS)を来し,その後WSが原因と考えられる脳梗塞を来した1例を報告する.

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Ⅰ.緒言

 非出血性椎骨動脈解離の治療は,抗血小板療法または抗凝固療法などの内科的治療が第一選択であり,出血リスクが高い場合や進行性脳虚血病変に対して外科的治療が考慮される2,16,17).しかしながら,外傷性椎骨動脈解離に対する内科的治療は他部位の出血リスクが高くなり,解離病変の進行に伴う遅発性進行性脳虚血症状を来す危険もあるため,治療手段は確立されていない10,19).今回,われわれは脳梗塞で発症した頚椎骨折に伴う外傷性椎骨動脈解離に対して亜急性期にステント併用経皮的血管形成術を施行し,進行性脳梗塞の予防と頚椎疾患を良好に管理できた症例を経験した.本稿では,外傷性椎骨動脈解離に対する血管内治療の詳細と有効性に関して,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 中枢神経系原発の黒色腫系腫瘍は,脳軟膜のメラノサイトから発生する稀な腫瘍である.このメラノサイトは脳幹から脊髄に高密度に分布しているため,原発性黒色腫系腫瘍は後頭蓋窩や上位頚髄での発生が多く報告され,テント上の腫瘤としての報告は稀である14).一方,太田母斑は不規則な顔面や強膜の変色で,多くは片側性で三叉神経の分布域に一致している6,14).この太田母斑が悪性化することはほとんどないとされている14).しかし,太田母斑とneural crest(神経堤)に由来する臓器に腫瘍病変が併発することが知られており,頭蓋内原発の黒色腫系腫瘍と太田母斑(皮膚・眼メラノーシス)の関連性を推察する報告もある1,6-9,15-17).今回われわれは,頭蓋内原発でテント上に腫瘤を形成したmeningeal melanomaを経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 肥厚性硬膜炎は,脳あるいは脊髄硬膜の肥厚によって,さまざまな神経症状を呈する比較的稀な疾患であり,自己免疫の関与が推定されている10).今回われわれは,右不全片麻痺による歩行障害で発症し,初診時に診断が困難であった肥厚性硬膜炎の症例を経験した.大脳半球硬膜の広汎な肥厚に加えて,上矢状静脈洞狭窄に伴う静脈洞還流障害を呈した症例であった.肥厚性硬膜炎による症候性静脈洞還流障害を来した報告は少なく,文献的考察を含めて報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉48歳 男性

 現病歴 2カ月前から続く慢性的な頭痛があり,徐々に痛みが強くなってきたため当科を受診した.頭痛は1日中続く軽度から中程度の頭痛で,起立による増悪は認めず,また,嘔気,眩暈,視野異常などの随伴症状も認めなかった.患者に特記すべき既往歴,内服歴,家族歴はなく,先行する外傷歴もなかった.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉65歳 女性

 現病歴 2015年3月頃より視力視野障害を自覚し,同年6月に近医眼科より紹介受診された.来院時,矯正視力は右0.5,左0.9で左優位の両耳側半盲を認めた.術前内分泌機能検査で異常所見はなかった.脳MRIで鞍上部から脚間槽を占拠する囊胞性病変を認めた(Fig.1A-D).囊胞内部は髄液と等信号を呈し,前方で視交叉を圧迫していた.脳室拡大は認めなかった.造影効果は認められず,くも膜囊胞が疑われた.

連載 機能的脳神経外科最新の動向

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Ⅰ.はじめに

 てんかんは,薬物治療によって70〜80%の患者で発作コントロールが得られる反面,残る20〜30%の患者では薬物治療に抵抗性を示すとされる10).日本神経学会のガイドライン上では,2〜3種類以上の適切な抗てんかん薬で2年以上治療しても,無発作期間が1年以下で,発作のために患者に不利益がある場合に外科治療の適応を検討するべきとされているが17),発作の消失のために切除すべきとされるてんかん原性領域を術前に直接的に診断する方法は今のところ存在せず,現状では,症候学,画像検査,電気生理学的検査などの複数の手段を用いて,切除すべき領域を間接的に推定している18).このてんかん原性領域を正確に同定することが発作抑制の鍵となるが,術後の発作再発も多く,いまなお課題は多い.

 てんかん焦点においては抑制機構が破綻しているために,脱抑制と神経細胞の過剰同期が起こり,てんかん発作が起始すると考えられているが,ここで発生した異常放電は,脳内のネットワークを介して伝播し,さまざまな発作症候を出現させる.脳内は皮質,皮質下線維を介した複雑なネットワークを形成しており,てんかん発作波の伝播には,生理的なネットワークのほかに,てんかん原性によって形成された異常なネットワークも関与すると考えられているため,病態の解明をより困難なものとしている.これらのてんかん原性領域における異常放電の発生とともに,伝播に関わるネットワークを解明することは,本疾患の病態の解明に必要なだけでなく,臨床的な治療の方針を立てる上でも,非常に有用な情報となる.

 Matsumotoらは,てんかん外科手術の術前評価のために,慢性留置した硬膜下電極から皮質に単発電気刺激を与え,皮質皮質間伝播と判断される短潜時の皮質皮質間誘発電位(cortico-cortical evoked potential:CCEP)を隣接および遠隔皮質から記録することで,皮質領野間の機能的ネットワークをin vivoで調べる手法を報告し12,13),臨床応用し,発展させてきた.CCEPはシナプスを介した領域間結合を反映すると考えられており12),てんかん外科手術に極めて有用な情報を提供し得る手法として,臨床応用が期待されている.本稿では,CCEPを用いたてんかん焦点診断とてんかんネットワーク解析について解説する.

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●ついに出た! 馬場先生のメディカルイラストレーション講座

 私たち脳神経外科医は手術の記録を絵にして残すよう指導されます.私も研修医の頃に,「手術の絵はカラーで綺麗に描いてプレゼンするように」と指導されました.当時からビデオ録画はされており,プレゼン用に動画の編集もするのですが,それとは別に絵を描くように指導されていたのです.そして私は現在,当科の若手スタッフに手術の絵を描くことを推奨しています.それはなぜなのでしょうか?

 一般的には動画は「動き」がわかりますし,慣れれば編集も早くなるので手間もかからないように感じます.それに最近では手術の技術が向上して,無血の術野で手術が進むことが多くなり,動画でもかなりのことがわかります.しかしそれでもなお,絵を描くことが推奨されるのはなぜなのでしょうか? それは,動画では「表と裏を同時に示すことはできない」からなのです.脳神経外科の手術においては,術者は術野に見えているものの裏側を常に意識して操作を行わなくてはなりません.そうしないと器具の挿入や構造物の牽引時に,裏側の神経や血管を傷つけてしまう可能性があるからなのです.そのために術者は,吸引管や鑷子を用いて一瞬,構造物の裏側を覗き,それを脳裏に焼きつけて手術を進めるのです.つまり,経験の豊富な術者は「透視」のようなイメージを持ちながら手術をしているということです.では,このようなスキルを身につけるにはどうするか? その近道が絵を描くことなのです.しかし,手術の絵の描き方など誰も指導してくれません.特に,もともと絵の苦手な人はどうしたらいいのでしょうか?

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欧文目次

「読者からの手紙」募集

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 冨永 悌二
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 本号の扉では,秋田県立脳血管研究センターの石川達哉先生が,「外科の技術を伝える文体と構造」と題して,後輩や同僚に顕微鏡手術の技術的ニュアンスを伝えるための文体について述べている.さまざまな文体を考察しながら,個別性を排してイデアに近づくにつれて文体は多義的になり,読み手に新たな解釈を許すという.技術を伝える文体もさることながら,石川先生の教育への熱意が伝わってくる文章である.

 解剖を中心とした脳神経手術手技では,順天堂大学の山本拓史先生が,内視鏡下血腫除去術における解剖と基本的手術手技について詳述している.実際の手術手技に沿って,機器の使い方も具体的に書かれており,これから内視鏡手術を始める若手にとっては,格好の入門編である.また出血部位別の手技と経験に基づいた注意点が述べてある点も,大いに参考になるに違いない.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻2号 (2018年2月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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