Neurological Surgery 脳神経外科 46巻3号 (2018年3月)

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 本誌の「扉」欄は,巧成り名遂げた諸先輩たちの含蓄のある内容が記載され,昔から毎号楽しみに拝読していた.そしてその内容と,文章力に感心しながら,いつか自分もこの欄に何かを書けるような脳神経外科医になりたいと思ったものである.そのようなことを忘れかけていた最近,思いがけず「扉」への執筆依頼をいただいた.しかし,いざ書けと言われると,これがなかなか難しい.自身が最近取り組んでいる医療安全や医療制度のことなどを…と筆を執ったが,どうも受け売りが多くなり,いまひとつしっくりとこない.やはり自身が専門としてきた間脳下垂体外科について,最近思っていることを書くのが,その主張に対する賛否は別としても,読者には一番響くのではないかとの結論に至った.

 この領域で最も頻度の高い下垂体腺腫(PA)の外科治療は,1907年のオーストリアのHermann Schlofferによる経蝶形骨洞手術(TSS)に始まり,20世紀の初頭には,現在のTSSの基本的なアプローチがほぼ出揃った.しかし,自らもその発展に寄与してきたHarvey Cushingが開頭術の優越性を主張して以来,1930年以降はPAの手術は開頭術が主体となった.その後,1960年代に入り,Jules Hardyが術中X線透視と顕微鏡をTSSに応用したことで,microscopic TSSが一気に北米から全世界に広がり,これがPA手術のgold standardとなった.私が下垂体手術を専門とするようになった時代は,まさにmicroscopic TSSの全盛期であった.そのような中で私は,25年間にわたり,その習得と,さらなる技術の改良を目指して,同世代の下垂体を専門とする人たちと切磋琢磨してきた.その結果,海綿静脈洞浸潤腫瘍に対する積極的な切除,従来禁忌であった鞍上部に主座を置く頭蓋咽頭腫への拡大TSSの応用,それでも切除が困難なものへの開頭,TSS同時併用手術の応用,硬膜欠損部の髄液漏予防に対する自家筋膜硬膜縫合術など,その欠点を補い,克服するために必死に工夫を重ねてきた.そしてようやく,われわれはmicroscopic TSSをそれぞれの視点で極めてきたとの自負も抱いていた.

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Ⅰ.はじめに

 最近10年間のがん臨床の進歩は目覚ましく,多くのがん腫で薬物療法レジメンや副作用対策が格段に進歩し,分子標的薬が普及して,さらに免疫抑制薬が導入された.このため,標準治療が次々と確立・改訂されて,がん患者の長期生存や治癒が稀ではなくなり,進行がんの患者においても全身コントロールが良好になった.このようながん治療の急速な進歩に伴って,血液脳関門や血液髄液関門により隔離されている中枢神経系に相対的に合併症が増加し,転移性脳腫瘍,硬膜転移,髄膜がん腫症などの患者に関わる臨床機会が増えている9,25,27).転移性脳腫瘍はがん患者の10〜26%に発生するとされていたが4,12),がん薬物療法の著しい進歩を受けて,多くのがん患者の長期生存が可能になると,薬物の到達や効果が不十分な中枢神経系への転移が増える結果となった27,31).そのうち臨床的な症状を示し,積極的加療の対象となる患者の割合は不明である.現状では,スクリーニング画像や神経学的症状への注意喚起から,転移性脳腫瘍が診断されることは増えているが,集学的治療のなかで外科的摘出術が必要な患者の数が急速に増加しているとは言えない31).それよりも,中枢神経系への転移は即ち積極的治療の終了を意味する時代が終わり,個々の患者の長い治療経過(cancer journey)における,中枢神経系合併症に対する外科治療の質的向上が強く求められるようになっている.

 転移性脳腫瘍の患者の治療概念は大きく変わりつつある.従来,脳に転移を来した患者の死亡原因は,原発巣・体幹部病変が約70〜80%に対して,中枢神経死は15〜37%とされ(Table1)2),中枢神経への局所治療は症状を改善させたとしても,生命予後に対する貢献は少ないと考えられていたため,治療成績については軽視されてきた経緯があった.ところが1990年代から,がん治療の目的として,生命予後に加えてquality of life(QOL)と自立生活機能の予後も重視するコンセンサスが形成されてきた.また,中枢神経系合併症の制御が長期生命予後に影響する症例の存在も明らかになってきた7,27).一方,治療手段にも大きな変革が起こり,同じ頃登場した定位手術的放射線治療(stereotactic radiosurgery:SRS)により治療選択肢が増え,2005年以降は分割定位放射線治療(stereotactic radiotherapy:SRT)が可能となって,さらに治療適応が拡大してきた.また,薬物療法は適応が非常に限られていたが,最近は分子標的薬の進歩が著しく,肺がん・乳がんなどで治療アルゴリズムを変え,脳転移をもつ進行がん患者にも薬物の臨床試験が活発に行われ,適応が急速に拡大している.このように転移性脳腫瘍の治療目的と治療手段においてパラダイムシフトが起こるなか,これまでの治療は腫瘍サイズと個数に焦点を当てた1980年代からの臨床試験のエビデンスに従っていたが,現在では臨床腫瘍学の重要な課題として,診療科横断的診断・治療(集学的診療)による,より高い治療目標の設定ならびに個別化が推進されつつある27,30)

 転移性脳腫瘍の治療における脳神経外科医の役割も変わりつつある.がんの集学的治療のなかで外科的摘出は,放射線治療・薬物療法に比して侵襲的であるが,病変の確実な除去によりperformance status(PS)を速やかに改善して,患者を再び原発がんの治療へと戻すことができる.さらに外科的摘出術は組織診断が可能な唯一の手段であり,ゲノム医療・個別化の重要性が高まるなか,その有用性が再認識されている.このように転移性脳腫瘍に対する摘出術の精度と信頼性の向上について期待が高まっているが,これまで実臨床の患者における長期観察成績のデータが示された報告は少ない.本稿では,Table1にまとめたように,がん患者の治療結果を体幹部と中枢神経系の問題に分け,脳神経外科手術の関与が大きい指標として,術後早期の死亡・症状悪化,局所再発,髄膜播種に注目し後方視的に分析する.さらに,診療の個別化が進行する現在,転移性脳腫瘍の集学的治療における外科治療の役割を,これまでの文献報告と比較しながら探る.

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Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は,現在においても予後不良となる患者が少なくない20).そのため,未破裂脳動脈瘤の破裂予防は極めて重要である9,31).一方,近年の多施設共同研究UCAS-Japanなどによって,日本人の脳動脈瘤の破裂リスクが明らかとなりつつあり28),脳動脈瘤の局在,サイズなどがそのリスクを決定することが判明している.しかし,直径3mm未満の極めて小さな脳動脈瘤も少なからず破裂することが広く知られており17,29),今後,未破裂脳動脈瘤の破裂リスクを評価する際には脳動脈瘤壁の厚さ13)など,新たなバイオマーカーが重要な因子になると考えられている5)

 近年,動脈瘤内の血行動態を解析する目的でcomputational fluid dynamics(CFD)が広く利用されつつあり,瘤内のずり応力(wall shear stress:WSS)や圧(pressure)などの因子が動脈瘤の破裂に関与していることが判明しつつある.しかし,その解析には,複数のソフトウェアを用いて多段階の操作や長時間の計算を要するため,未だに限られた施設で研究用として採用されているのが現状であり,一般臨床で個々の症例に利用するほど普及していない点で課題を残している4,22,24,27)

 今回われわれは,CFDのために必要な機能をすべて包含した単一のソフトウェアを用いて,未破裂脳動脈瘤の血行動態を脳動脈瘤頚部クリッピング術の前に解析して,その解析結果が動脈瘤壁の厚さを予測することが可能かどうかを術中に比較検討したので,報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Blister-like aneurysm(BLA)は動脈瘤壁が極めて脆弱で術中破裂率が高く,治療困難な場合が多いとされる1).発生機序として動脈解離が推測されている8,11).発生部位としては内頚動脈が一般的で,前交通動脈(anterior communicating artery:Acom)に発生した例の報告は非常に稀である.Acomに発生した動脈瘤を治療する際には穿通枝の問題があり,内頚動脈発生のBLAに対して行われているclipping on wrappingやtrapping+bypassを行うことは難しい.今回われわれは,Acomに発生したBLAに対してwrappingのみを行い経時変化を追ったところ,自然消退を観察することができた.興味深い症例のため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 肺腺癌は,遺伝子発現様式に応じてepidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitor(EGFR-TKI)やanaplastic lymphoma kinase(ALK)inhibitorで治療されるようになり,従来の治療よりもprogression free survival(PFS)が延長した9,11).EGFR-TKIの中でafatinibは脳転移に対して有効とされる3,8).今回われわれは,afatinibで治療中に,原発巣がpartial remission(PR)であるにもかかわらず脳転移巣が悪化し,非典型的なMRI所見を呈して診断に苦慮した肺腺癌脳転移の1例を経験した.Afatinibでの治療中の脳転移評価における留意点について文献的に考察し報告する.

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Ⅰ.はじめに

 テント部硬膜動静脈瘻は全頭蓋内硬膜動静脈瘻の約4.8%を占め8,10,11),出血や静脈性梗塞などの重篤な病態を呈することが多い.一方で,静脈鬱滞による静脈灌流障害に伴う巣症状で発症した報告も散見される.今回われわれは,充血と眼球突出の眼症状で発症したテント部硬膜動静脈瘻に対して,血管内治療および直達手術を行い,良好な転機を得ることができた1例を経験した.眼症状で発症した機序を中心に,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 重症頭部外傷治療・管理のガイドラインによると,重症頭部外傷で脳ヘルニア徴候があるか,開頭術の適応のある症例,特に若年症例では外減圧術の併用を検討する15)とされている.しかし,難治性の頭蓋内圧亢進を伴う重症頭部外傷398症例を対象に,外減圧術群202例と内科的治療群196例に分け,転帰を比較したRESCUEicp Trialにおいて,死亡率は前者で有意に減少するものの,機能予後不良となるリスクは前者で有意に増加し,機能予後良好となった患者の割合に有意な差はなかったと報告されている10).さらに,頭部外傷に対する外減圧術では数々の合併症を伴う可能性があるため,慎重な対応が必要とされている21)

 急性硬膜外血腫(acute epidural hematoma:AEDH)に対する手術法としては,開頭血腫除去術が推奨されているが,脳浮腫や脳ヘルニア徴候を伴う場合は外減圧術の追加も考慮される6,15).AEDHを含め,重症頭部外傷に対する外減圧術の確固たる適応基準は未だなく,症例ごとにその適応を検討する必要がある.

 今回われわれは,治療に難渋したAEDHの2例をもとに,外減圧術併用にあたり注意すべき点について,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 内頚動脈(internal carotid artery:ICA)形成不全は約200例集計されているが11),ICA終末部(C1)に限局する症例は極めて稀である6).今回われわれは,側副血行路内の網状血管(twig-like networks)1,13,21,22,24)が出血源と考えられる脳出血(intracerebral hemorrhage:ICH)で発症した,ICA-C1部形成不全の1例を経験した.特異的画像所見を提示するとともに,その発生過程や出血機序などについて,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 難治性てんかんに対してさまざまな刺激療法が行われてきたが2,24,31),現在,普及し拡大を続けている植込み型デバイスは,迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation:VNS)のシステム(VNS Therapy® System. LivaNova USA, Inc., Houston, TX, USA)である9).1980年代から基礎研究が進められ,欧州では1994年,米国では1997年に正式に認可された.VNSの治験は本邦においても1993〜1997年にかけて行われ,認可申請されたが1),承認を得るには時間を要した.2006年10月から始まった厚生労働省の「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」の第2回会合(2007年2月)でVNSが取り上げられ,これによって本邦においてもようやく日の目を見ることとなった.2010年1月に薬事法承認,同年7月に保険適用となったことで保険償還が可能となり,急速に普及していった19-21)

 VNSのデバイスは,本邦での治験の頃はNeuroCybernetic Prosthesis®(Model 100)というプロトタイプであったが,2010年から実際に使われ始めたのは小型化されたDemipulseTM(Model 103)であった.次いでAspireHCTM(Model 105)でバッテリー寿命が1.5倍となり汎用された.そして2017年3月に,本邦においても心拍感知型のAspireSR®(Model 106)が薬事法承認となり,導入に至った.発作時頻拍を感知して刺激を開始するVNSの新しい刺激方法であり,VNSとしては初めてのclosed loop systemのデバイスである.

 一方で,脳を直接刺激しててんかんの発作を抑制する手法は,本邦においては現時点で認可されたデバイスはないが,海外ではdeep brain stimulation(DBS)が唯一認可された治療手段であった10,24).ただし,DBSは脳を直接刺激するとはいっても,発作の焦点に直接的に作用するわけではない.本稿で解説するもう1つの治療法であるresponsive neurostimulator(RNS® System. NeuroPace, Inc., Mountain View, CA, USA)は焦点診断が必要であり,DBSとはまったく異なる仕組みでできており,2018年1月時点で,認可は未だ米国内のみであるが,次第に普及してきている.

 今回,本稿では新しい植込み型デバイスであるAspireSR®とRNS® Systemの2つのclosed loop systemについて解説し,難治性てんかんに対する最新の刺激療法に触れることとする.

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欧文目次

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 高安 正和
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 この編集後記を執筆しているのは2018年平昌冬季オリンピック・パラリンピック開催を間近に控えた時期です.これまで少し盛り上がりに欠けた感がありましたが,ここに来てオリンピックの前哨戦での日本人選手の活躍が次々に伝えられるようになり,たいへん楽しみになってきました.本誌がお手元に届く頃には日本人選手の活躍で日本中がわき返っていることを期待しています.

 さて,本号の「扉」では山田正三先生が,ご専門の間脳下垂体外科の歴史についてご寄稿されています.興味深く拝読させていただきました.その中でmicroscopic TSSから内視鏡導入への経緯,新たな技術の習得にあたっての問題点が述べられています.同様なことは脊髄外科の分野においても起きています.1990年代後半にはtube retractorに内視鏡をセットして腰椎椎間板ヘルニア切除を行うシステム(microendoscopic lumbar discectomy:MED)が米国から導入されました.この際は脳神経外科医にとっての顕微鏡手術の優位性は変わらず,本システムは整形外科の脊椎グループの一部に普及したにとどまりました.しかし,2010年代に入るとworking channelを持つ7〜8mmの内視鏡を用いた経皮的なシステム(percutaneous endoscopic lumbar discectomy:PELD)が導入され,小皮切・小侵襲であることやアクセスルートの多様性などのメリットから脳神経外科医にも有用性が認識され,現在,技術の習得をどうするかが問題になっています.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻3号 (2018年3月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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