扉
外科の技術を伝える文体と構造
石川 達哉
1
1秋田県立脳血管研究センター
pp.93-94
発行日 2018年2月10日
Published Date 2018/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436203683
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明治維新を迎える前は,話す言葉と書く言葉がまったく違うものであったそうだが,文章の持つ構造は内容をあらかじめ規定・制限してしまうことがある.話す言葉は論理展開なしでも膠で接続するようにつないでいけるので,かなり無責任な展開でも話を通していける.また,話す言葉は非言語的メッセージをかぶせることができるので,言ったことの反対の意味すら表現できる.一方で,文章として書くときには前後が文脈として見えるだけに,論理や責任に縛られてしまうし,なにより記録として残る.より正確に多くの情報を伝える手法として,プレゼンテーションなどでは,スライドや資料に書かれた文字・文章・画像を,話す言葉に置換しながら,非言語的メッセージをつけ加えていく手段がとられる.手術前の医療面接などでも,できるだけ情緒的な要素を抑えて事務的な表現で書いた標準化された書類を提示しつつ,内容を話し言葉に置き換えながら,医療側のデータや論理的思考の過程などの専門的事柄に,個別の価値観やら感情やらの重み付けをしながら,相手に理解していただくという手法が一般的である.
それでは純粋に,書かれた文章の持つ意味や意義といったものは何なのだろうか.われわれは文章として書き,記録することで,他人に,あるいは未来の未知なる自分に何かを伝えることができる.メールなどでは付加されるメッセージとして絵文字が使われていることもあるが,書かれた文章からは,非言語的メッセージが取り除かれている.しかし,言葉の内容のほかに,文体そのものや文の構造,書かれた媒体など,切り離すことができない内容を規定するものが結びついている.
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