Neurological Surgery 脳神経外科 46巻1号 (2018年1月)

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 私たちは大変な時代に生きているようだ.人工知能(artificial intelligence:AI)によって車の完全自動運転が数年のうちに実現しそうだ,というのである.つい数年前までは,ここまでの進歩は想像もできなかった.このようにAIが急速な進歩を遂げたきっかけは,以前に行われていたような記号処理による論理的思考を目指したアプローチから離れ,人間の脳神経系を模倣した「ニューラルネットワーク」というプログラムが考案され,さらにそれを何層にもつなげて「ディープラーニング」(深層学習)という方法が実現したことが大きかったようである.これによって,機械が人に教わることなく外部世界を認識し,それぞれの特徴をとらえてどんどん賢くなっていく術を習得した.将来的には「昔は人間が車を運転していたらしい,信じられない」という時代が来てしまうであろう.

 このような時代背景の中で,AIがさらに深化し,医学的に応用されるようになった場合に,脳神経外科診療がどのように変化するか考えてみよう.まず,正の側面としては,画像診断にAIが導入されれば標準化された正確で均一な診断が可能になりそうだ.これは手術にも応用され,術前画像をディープラーニングで学んだAIが,術野のモニター画面を常に解析して,目的構造物へより安全かつ正確に誘導してくれるようになる.さらに完全なロボットサージェリーも可能になるであろうか? また,もう1つの可能性はデータマイニングの深化であり,種々の情報を統合した大きなデータベースを作成することによって,これまで長期間にわたる大規模なrandomized controlled trial(RCT)でしか得られなかったエビデンスを,より層別化した形で簡便に得ることが可能になると期待される.

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Ⅰ.はじめに

 脊髄神経鞘腫は硬膜内,特に馬尾レベルに多いが,比較的大きいものであっても,顕微鏡下で手術を行えば安全に合併症なく全摘出可能である.しかし,硬膜外で,かつdumbbell typeではない神経鞘腫(extraforaminal schwannoma:EFS)は比較的珍しく,手術方法も大きく異なる.今回われわれは,腰椎EFSの摘出術を安全に行うための手術方法について,自験例をもとに検討した.

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Ⅰ.はじめに

 足根管症候群(tarsal tunnel syndrome:TTS)は,脛骨内果の足根管部で後脛骨神経が絞扼されることで,足底のしびれや痛み,異物付着感,冷えなどを来す疾患である7,8,11-13,20).その有病率は低くないものの,確定診断に至る手段が乏しく,治療の必要な症例が正しく診断され治療されているとは言いがたい7,9,10,12,15).TTSの原因としては,ガングリオンなどの腫瘤によるものと特発性のものとがあるが,前者の診断には超音波やMRIの有用性が認められている一方,後者については画像診断に関する詳細な検討が不十分である5,8-11,15,20)

 近年,MRI機器の進歩とともに,末梢神経障害に対するMRIによる診断の試みが報告されつつある1,4,6,14,17-19).TTSに関しても今後の検討を行っていく上では,MRIによる診断方法の標準化が必要である.今回われわれは,TTSのMRI検査を標準化すべく,足根管および後脛骨神経を明瞭に描出するために適正な撮影条件について検討し,TTS患者で検証したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 急性期破裂脳動脈瘤患者において,たこつぼ型心筋症や神経原性肺水腫などの急性呼吸循環障害を合併することは比較的よく知られているが6),虚血性脳血管障害患者においても同様の合併をみることが稀ながら報告されている10,11).アルテプラーゼを用いた血栓溶解療法は,2005年に発症3時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者を対象に保険承認され,2012年には発症4.5時間以内へと対象が拡大した.現在,虚血性脳血管障害に対する急性期治療は急速に変遷しており,血栓溶解療法に加えて血管内治療による血栓回収療法も積極的に行われている.一方,転帰の改善には急性期の内科的治療および管理が重要である.今回われわれは,血栓溶解療法後にたこつぼ型心筋症および神経原性肺水腫の合併を認めた非常に稀な症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は成人に多く,小児期に発症することは少ない.また,解離性脳動脈瘤は椎骨脳底動脈系に多いとされている.今回われわれは,2歳の幼児の中大脳動脈M3部に発生した解離性脳動脈瘤の治療と再発を経験した.治療方法について文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.背景

 Epithelioid hemangioendothelioma(EHE)は肺や肝臓,骨,軟部組織などさまざまな臓器に発生する中間悪性の血管内皮性腫瘍であるが,頭蓋内の発生は極めて稀である.今回,われわれは痙攣で発症した頭蓋内原発のEHEを経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 通常,内頚動脈(internal carotid artery:ICA)は総頚動脈(common carotid artery:CCA)から分岐した後,眼動脈を分岐するまで分枝血管をもたない.したがって,ICAが閉塞した場合,眼動脈分岐部まで血栓化して閉塞すると考えられるため,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)の適応はない.内頚動脈閉塞症(internal carotid artery occlusion:ICO)は頚動脈複合超音波診断法(carotid duplex sonography:CDS)にて比較的容易に診断でき,CDSの所見が治療方針に与える影響は大きい.今回われわれは,CDS上ICAが閉塞しているにもかかわらず,閉塞部遠位のICAの血流が確認され,精査によってICAからの破格血管(aberrant branch)の存在により遠位のICAの血流が保たれていることを確認し,CEAを施行した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis:CVST)は,比較的若年での発症が多い稀な疾患である6).患者背景として,感染,血液凝固異常,外傷,脱水などが一般的に知られており,症状は多様で特異性はないとされるが,時にtransient ischemic attack様の症状(TIA-like event)で発症する場合もあり,注意が必要である2,3,7-12)

 今回われわれは,重度の脱水にて発症し,比較的短時間で速やかな症状の改善がみられたCVSTの症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 茎状突起過長症(Eagle症候群)は,咽頭喉頭周囲の違和感や疼痛などの症状を呈する疾患として,Eagleにより1937年に初めて報告された2).これまで多くの報告がなされているが,過長した茎状突起が頚部内頚動脈を圧迫し,虚血性脳卒中を呈することはあまり知られていない.今回われわれは,両側頚部内頚動脈解離を契機に診断された茎状突起過長症の手術例を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 79歳 男性

 既往歴 関節リウマチ,リウマチ性多発筋痛症があり,メトトレキサート,プレドニゾロン(2.5mg/日),ラベプラゾール,アレンドロン酸,メロキシカム,テプレノン,葉酸,ゾピクロンを内服中であった.

連載 機能的脳神経外科最新の動向【新連載】

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Ⅰ.はじめに—EEG-fMRIの概念と意義—

 てんかんの有病率は人口1,000人あたり4〜8人であり,中枢神経系疾患の中では頻度の高い疾患の1つであるが,その約30%では薬剤治療による発作抑制が得られない.このような薬剤抵抗性の難治性てんかんに対しては外科治療を考慮するが,成功の鍵となるのが焦点診断である.

 焦点診断に重要なのは,第1に症候学であるが,検査項目として最初に挙げられるのは依然として脳波(electroencephalography:EEG)である.てんかんは脳内の過剰な,もしくは同期した異常神経活動に基づく一過性の徴候・症状と定義され,大脳皮質の神経活動の評価は必須である.脳波で得られる神経活動は,大脳皮質の主に第5・6層にある錐体細胞の尖頂樹状突起に数多く形成されているシナプスの,興奮性シナプス後電位の総和であり,これを記録し電気生理学的に評価する脳波の重要性は,さまざまなモダリティが利用可能となった現在でも揺るぎない.脳波に次いで挙げられる重要な検査は,MRIであろう.その高い空間分解能と著しい画像解析技術の進歩は,単に解剖学的構造を高解像度で可視化するのみではなく,その血流変化,代謝,そして機能を反映した画像,つまり機能的MRI画像(functional MRI:fMRI)を取得することを可能としている.

報告記

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 2017年のEuropean Association of Neurosurgical Societies(EANS)は10月1日〜5日の会期でイタリアのヴェネツィアにて開催されました.イタリアでのEANS開催は2011年のローマ以来で,今回のPresidentはUniversity-Hospital of PadovaのDomenico d'Avella教授でした(写真1A).学会はヴェネツィア本島の南東に位置するリド島で行われ,会場は毎年夏にヴェネツィア国際映画祭が開催されるPalazzo del Cinemaと隣接したPalazzo del Casinò(写真1B)でした.会場前には白く長いビーチとアドリア海の青い海原が広がり,夏には高級リゾート地として賑わうそうです.会場へはヴェネツィア本島から約15分の水上バスとさらに路線バスで5分ほどの距離ですが,快適な学会参加が可能となるよう設営されていました.

 学会はわが国の脳神経外科コングレスと脳神経外科学会の学術総会をミックスしたようなプログラム編成で,4日半の日程で総演題数は招待講演であるMeet the Experts Seminarや教育講演などを含め,1,533題(口演795題,eポスター738題)に絞り込まれ,発表者は欧州から6割,北米から2割,アジア・その他から2割といった感じで,WFNSのような国際色豊かな学会でした.小生は今回vascular sessionの会場を主に見てきましたが,欧州はわが国とは異なり,neuro-oncology, spinal, functionalといった分野の発表が多いようです.

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次号予告

編集後記 新井 一
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 本号の「扉」には,岩立康男先生から「人工知能と脳神経外科」と題してご寄稿いただいた.人工知能(AI)の出現によって医療・医学はどのように変化するのか予測不可能な部分もあるが,米国では将来AIに取って代わられるという理由から,放射線科への志望者が既に減少していると伝えられている.AIによる深層学習がどのようなプロセスで完遂されるのかは大変に興味のあるところであるが,専門家に聞くと,深層学習のアルゴリズムをわれわれが知ることはできないとのことである.何となく不気味な感覚に囚われるが,これからはAIなしでは社会のさまざまな機能が立ち行かなくなるのも事実である.岩立先生がおっしゃるように,これを使いこなすわれわれが,その感性を磨く必要があることを認識しなくてはならない.

 「機能的脳神経外科最新の動向」と題する連載欄には,前澤聡先生によるEEG-fMRIを用いた焦点診断についての総説が掲載されている.磁場環境でのEEG計測という課題の解決が必要となるが,時間分解能の高いEEGと空間分解能の高いMRIとの融合は,てんかん焦点の診断に新たな展開をもたらすものと期待される.「教訓的症例に学ぶシリーズ」では,頭部外傷に伴う後頭動脈の仮性動脈瘤の症例が呈示されているが,頻度は稀でもその存在を知っておくべき病態であると思われた.その他,本号に掲載された研究論文2編,症例報告6編,学会報告記1編はいずれも内容が充実しており,脳神経外科の広い分野を網羅した読み応えのある1月号となった.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
46巻1号 (2018年1月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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