medicina 56巻8号 (2019年7月)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

川島 篤志
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 ある症候から病歴聴取,身体診察を適切にとり,鑑別診断を挙げる.

 これらは救急外来やプライマリ・ケア診療にかかわる医師にとって基本的なスキルであるが,とても奥が深い.いわゆる「見逃し」症例から学ぶことができる良書や講演会も増え,救急外来を担う若手から,診療所外来におられるベテラン医師に至るまで,良質な教育を受ける機会は間違いなく増えてきている.内科系外来に来た非内科系疾患で緊急性の高い疾患や,頻度は低いが緊急性の高い疾患など,鑑別診断に挙げることが難しい疾患もそういった場で取り上げられるようになってきている.病歴聴取・身体診察から危ない疾患を想起し,鑑別に挙げることができるようになった医師は,確定・除外診断のために,精密検査や特定診療科への相談が必要となる事態に遭遇する.特に,除外診断のために非日常的な医療行為を行うときには,相手がその意味を理解していないと骨が折れる.相談できる相手や相談ルール,利用可能な検査への閾値は,勤務する医師や医療体制,地域によっても異なり,医師の異動を鑑みると年度によっても異なるので注意が必要である.実施しにくい検査・コンサルトがある場合や自施設で対応できない症例に遭遇した際に,どう対応すればよいか悩むことも多いと思われる.

特集の理解を深めるための27題

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救急外来もしくは診療所では,患者さんのお話を聴いて身体診察をすることによって,危険な疾患が見つかることは珍しくありません.緊急性の高い疾患をうまく見つけるためには,やはり現場でのトレーニングが必要です.一方で,自施設で対応できない症例に遭遇した際の対処法やコンサルトのルールを知っておくことも大切です.今回は,病院の内科を軸に診療している川島と救急科にいらっしゃる安藤先生とで,これらのテーマや患者説明のポイントなどについて具体例を挙げながらお話ししたいと思います.(川島)

この検査,やる? やらない?

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Point

◎病歴,身体所見および適宜検査を行い,肺炎,腎盂腎炎などのcommonかつ重篤な細菌感染症を見逃さないことを第一に考える.

◎バイタルサインはベースラインと比較する.家族や医療・介護職の直感も無視してはいけない.

◎高齢者の急性発症の後頭部痛・後頸部痛については,crowned dens syndrome(CDS)の可能性を考える.

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Point

◎二次性頭痛を疑うred flagを知っておく.

◎最悪,増悪,突発のいずれかを呈する無熱性頭痛は,くも膜下出血を念頭に置く.

◎くも膜下出血のCT検出感度は,時間経過とともに落ちてくる.

◎頭痛は,必ずしも頭蓋内由来ではなく,頭蓋外(鼻,眼,皮膚)由来のことがある.

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Point

◎低用量ピルの服薬開始後1〜3カ月は片頭痛発作の頻度が増すことが多い.

◎頭痛を伴う場合には,その程度にかかわらずred flagsの有無を確認する.

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Point

◎心血管リスクの低い中年の脳幹梗塞や運動後の項部痛では,椎骨脳底動脈解離を考える.

◎項部痛を伴う脳幹梗塞や,椎骨脳底動脈が描出されないMRA所見をみたらBPASを追加する.

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Point

◎アルコール性ケトアシドーシス(AKA)はアルコール多飲者の突然死の原因にもなり,見逃してはならない疾患である.

◎AKAは臨床診断であり,病歴と身体所見が重要になる.特に,頻呼吸は代謝性アシドーシスを見抜く所見になりうる.

◎尿中ケトン体が陰性でも,AKAの可能性は除外できない.

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Point

◎救急診療にかかわる医療従事者は下記の点を共通認識としてもつ.

 ・外傷での受診の背景に,内因性疾患が隠れている可能性があること

 ・失神の鑑別に,肺塞栓症があること

 ・失神の評価には,本人からの病歴聴取だけでなく,目撃証言が重要であること

◎除外しきれない致死的疾患が鑑別に挙がった時には,メリット・デメリットを勘案して,判断する.

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Point

◎妊婦の腹痛では,まず妊娠に関連する原因の有無を評価する.

◎母子健康手帳を確認し,それまでの妊娠経過を把握する(特に高血圧,蛋白尿,体重増加に注意).

◎性器出血や子宮収縮がないか,腹痛は持続痛でないかを確認する.

◎血圧上昇,血圧低下,発熱などの有無を確認する.

◎血液検査は実施の閾値を下げて行う.

◎後日,経過観察を要する場合は,産科への診療情報提供書を作成する.

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Point

◎高齢者の頸部痛には緊急疾患があり,感染症[感染性心内膜炎(IE),化膿性脊椎炎,硬膜外膿瘍],自己免疫疾患[巨細胞性動脈炎(GCA)],くも膜下出血などが挙げられる.

◎病歴聴取が重要であり,否定されるまではIEを除外しない.

◎GCAとリウマチ性多発筋痛症(PMR)は症状が類似し合併もしやすいが,治療内容が異なるため,病歴聴取や身体診察に工夫が必要である.

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Point

◎意識障害には,覚醒度の問題と意識内容の問題とが含まれる.

◎意識変容は精神疾患と間違われやすいが,急性発症の場合は器質的疾患をまず鑑別する.

◎動脈血液ガス分析以外にも,頭部画像検査,髄液検査,脳波検査,追加血液検査で原因精査を行う.

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Point

◎しびれは鑑別が多彩であるが,付随する症状や特徴,患者背景などから鑑別を絞り込む.

◎検査は適応を考えて行う.必須ではない.

◎Guillain-Barré症候群で長期予後が悪い,人工呼吸管理が必要と判断した場合は対応可能な施設に転院を考慮する.

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Point

◎悪心・嘔吐をきたす疾患は,消化器疾患だけではないことを忘れてはいけない.

◎随伴症状から鑑別疾患を絞り込んでいく.

◎悪心・嘔吐のみが主訴である場合,急性冠症候群,代謝疾患,薬剤性を忘れない.

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Point

◎発症様式は超重要! いま,痛みがないからといって安心するな!

◎No assessment, no test! 検査前確率を意識し適切な検査のオーダーを!

◎心血管性失神を見逃すな! 大動脈解離の10%は失神で来院する!

◎疼痛部位を目視せよ! 皮疹があったら儲けもの!

◎検査所見は以前のものと必ず比較!

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Point

◎腹痛の鑑別診断では,ルーチンで“outside the box”を考える.

◎若年者の急性片側性睾丸痛は,そうでないとわかるまで精巣捻転症を疑う.

◎精巣捻転症は,泌尿器科的緊急疾患である.夜間でも泌尿器科コンサルトを躊躇しない.

◎「たまに来る緊急コンサルトが必要な疾患」に対して,普段から専門医を呼ぶべき適応とタイミングを確認し,プロトコルを明文化しておく.

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Point

◎悪心では,随伴症状を系統的に確認する必要がある.

◎ペンライトを使うことで最低限の眼科的診察を行う.

◎他院に紹介する時は,その後のフォローも意識する.

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Point

◎患者がショック状態であっても独歩で来院することがある.

◎バイタルサイン不良や臓器障害をみつけるために,平時の状態との比較も重要である.

◎局所の身体所見だけに目を奪われず,その周囲の身体所見や全体像にも注意を払う.

◎敗血症や壊死性筋膜炎に気づいたら,応援を呼んで全速力で診察・検査・初期治療を行う.

◎壊死性筋膜炎は外科エマージェンシー疾患であり,迅速な試験切開とデブリードマン,集中治療が可能な施設で診療する必要がある.

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Point

◎急性喉頭蓋炎は訴訟頻度の多い致死的な咽頭痛の代表疾患である.

◎事前に重症度に応じた紹介先施設のリストを作成しておき,良好な関係性を構築しておく.

◎紹介先リストは年度ごとに整理する習慣をもつ.

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Point

◎女性の下腹部痛では,妊娠検査で異所性妊娠を除外する.

◎骨盤内炎症性疾患(PID)は帯下の性状を,虫垂炎は痛みの移動について問診する.

◎月経時期を聞くことで,腹痛の鑑別診断ができる.

◎性感染症はオーバートリアージで不妊症を予防する.

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Point

◎脱力を訴える患者では,脱力の病態を把握し,分布を明確にする.

◎両下肢脱力では脊髄病変を疑い,デルマトーム・神経支配を意識して診察を行う.

◎腰痛がある場合は,red flagに該当しないかを抜けなく問診する.

◎脊髄の圧迫症状があれば緊急減圧の適応となりうるため,適切な専門科にコンサルトする.

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Point

◎処方されている薬の適応疾患か,有害事象の発生がないかどうか今一度確認する.

◎入院中に適切に処方内容を見直し,その変更内容を患者のみならず処方医にもフィードバックする.

◎処方医にフィードバックする際には,相手の行動変容を促せるように注意する.

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Point

◎関節リウマチ患者が呼吸困難を訴え,両側性びまん性のすりガラス陰影を伴う場合,ニューモシスチス肺炎を鑑別に含めた集中治療が必要となる.

◎関節リウマチ患者でIL-6阻害薬を投与されている場合,CRP上昇や発熱が抑制されるため注意する.

◎既存の肺疾患により肺胞構造が保たれていない部位や,免疫抑制により炎症細胞浸潤が抑えられるとCT画像が典型的な所見を呈さないことがある.

◎関節リウマチ患者の感染症一次予防に,肺炎球菌・インフルエンザワクチンに加え,ニューモシスチス肺炎予防が有用である.

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Point

◎Alvarado Scoreは虫垂炎の除外診断に特に有用である.

◎虫垂炎にみられる身体所見は単独ではなく複数の所見から判断する.

◎時間経過を味方につけ,患者に再受診のタイミングについて説明する.

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Point

◎時間経過による胸痛の鑑別を行う.

◎皮疹症状が出現していない段階では,緊急性の高い疾患を除外し,頻度の高い帯状疱疹の可能性を考える.

◎帯状疱疹を疑ったら,その自然経過,受診すべき症状・タイミングについて情報を提供し,症状が出現したら早期に再受診するよう伝える.

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Point

◎来院時無症状である場合は,問診・診察・心電図で徐脈性失神を鑑別に挙げる.

◎徐脈性失神を疑った時は,失神の頻度とリスクに応じて検査を決める.

◎再診時期の明確な基準はないが,家族を含め周囲と情報共有をすることが大切である.

スムーズな救急対応に必要な知識

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Point

◎紹介先の選定は,患者の利益が最大となるように,医学的な妥当性と患者の希望がともにかなえられることを目標とする.

◎スムーズに紹介するために,自施設にない専門科については,あらかじめ近隣の医療機関の連携先を決めてリストアップしておく.

◎多くの地区の医師会ホームページでは,その地区の医療機関を紹介しているので有用な情報源になる.

◎病院の体制は時々刻々と変化するため,他の医師と情報共有をしながら自施設だけでなく,他施設の最新情報も収集する.

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Point

◎患者の心配と医師の心配にはギャップがある.患者の解釈を汲み取る努力をしよう!

◎CTでの見落としを防ぐ「個人のシステム」と「組織のシステム」を構築する.

◎がん検診についての知識は,特に一般外来において必須であり,自分のなかで情報を整理しておく.

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Point

◎診断に行き詰まったら,病歴を再度取り直すことに尽きる.

◎病態の進展速度を鑑みながら経過を診る(やっぱり,「後医は名医」).

◎常にその病因は一元的か,多元的かを意識する.

◎他診療科,他院との連携・紹介を行う.

◎鑑別診断を想起し,必要な検査を選定していくスキルを身につけるには,普段からの姿勢が大事である.

 ・高齢者から常に学べ.病気の宝庫であり教師である.治療できなかったとしても,次の診療につながる.

 ・非典型例を診断するためには,コモンな疾患をたくさん診よう.

 ・勉強会や学会,CPCに参加しよう.1つの症例の理解を深くする.

◎診断支援リソースを利用する.

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Point

◎不確実な状況を「リスク」「不確実性」「多義性」「無知」に分類する.

◎「不確実性」への対処として,「患者中心の医療の方法」を用いる.

◎施設入所者の場合には,患者・家族以外に施設との合意形成も必要である.

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Point

◎「症状が悪くなったら来てください」よりは「血便が出たら」「右下腹部痛が出たら」など,具体的な説明を患者さんにすることが望まれる.

◎夜間や混雑時に帰宅時の説明が標準的にされるためには,部門や病院にて合意した内容で帰宅指示書を作成し患者さんに渡すことが望まれる.

◎帰宅指示書は,実際に説明した記録を残すためにも,電子カルテの文書管理機能から印刷することが望まれる.

連載 見て,読んで,実践! 神経ビジュアル診察・15

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 これまでに触覚・痛覚・振動覚と,表在から体の深部にかけての感覚障害について勉強してきました.日常生活では色々な皮膚表面からの刺激が末梢神経から中枢に向けて伝達されます.この刺激が頭頂葉で知覚されることで,私達は痛い・冷たいだけでなく,物品などがどのような形をしているか把握できます.この刺激内容を識別していく感覚を「皮質性感覚」と言います.ではどのように調べるのでしょうか? 実際の臨床でも大変役立つ内容です.一緒に勉強していきましょう!

連載 物忘れ外来から学ぶ現場のコツ 認知症患者の診かた・14

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ポイント

治療や対策に前向きに取り組めるよう,支援者であるご家族も同席のうえ,病態をわかりやすく説明します

連載 心電図から身体所見を推測する・12【最終回】

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 最終回となる今回は心電図から電解質異常を探り,総まとめをみていきたい.

連載 母性内科の「め」 妊婦・授乳婦さんのケアと薬の使い方・13

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症例

 先日40歳を迎えたばかりのHさんは,現在8歳の娘と5歳の双子の息子たちの子育てで,忙しい日々を過ごしています.今回,月経予定日を3週間過ぎても生理が来ていないことに気づき,近所の産婦人科を3日前に受診しました.診察の結果,妊娠7週相当の赤ちゃんを妊娠していることがわかりましたが,血圧が142/90mmHgと高いことを指摘されました.高血圧合併妊娠が疑われ,周産期センターのある当院での妊娠管理を勧められたことから,本日,母性内科外来を受診しました.

Hさん:「血圧が高いってダメなんですか?」

連載 医師のためのビジネススキル・14

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事例

 あなたは500床の総合病院で勤務する総合内科医である.常々,「薬剤の多量の処方による弊害(ポリファーマシー)」に問題意識をもっていたあなたは,「薬剤総合評価調整加算」が開始されたことを機に,院内の患者のポリファーマシー問題への対策を考え始めた.具体的には,医師,看護師,薬剤師で形成されるポリファーマシー対策チームを作り,院内を回診しポリファーマシーの患者をピックアップ,必要があれば減薬を提案し,加算を請求することを考えた.普段からあなたは院内でポリファーマシーの重要性について多職種に話しており,仲の良い看護師,薬剤師たちも「それは重要ですね」と言ってくれ,チームには多くのスタッフが積極的に参加してくれるように思われた.

 しかし,最低週1回の回診を行うポリファーマシーチームを形成しようとすると自分から手を挙げる看護師,薬剤師は誰もおらず,やむなくいつも勉強会に参加してくれるメンバーを指名しチームとした.さらに,実際にはメンバーがなかなか集まれないうえに,介入した患者の主治医達から度々クレームがあり,チームのメンバーは縮こまってしまい,チーム活動は暗礁に乗り上げてしまった.

連載 目でみるトレーニング

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 第一線の診療において,昔から睡眠障害を訴える患者は多かった.そのような診療場面において,医師から発せられる言葉は「眠れないことで死ぬことはない,お酒でも飲んで寝なさい」という程度のもので,今となってはお恥ずかしい限りのやりとりがなされていた.しかし,近年,睡眠障害が個人のQOLを損なうばかりか交通事故や社会の生産性の低下に繋がることが知られるようになり,睡眠に高い関心が寄せられていることを反映して,睡眠障害に対して関心をもつ患者のみならず医療従事者が急増している.

 しかし,編者である千葉茂氏が冒頭に述べられているように睡眠を的確に診ることはそう容易ではない.たとえ最新の睡眠障害国際分類(ICSD-3)(日本睡眠学会 診断分類委員会訳,2018年)が座右に置かれているとしても,実際に診断するとなると,これが意外に難しいのである.

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 研修医に成り立ての頃,救急外来に運ばれた患者に対する点滴の指示に,戸惑った経験をみなさんお持ちだと思う.夏場の脱水であっても,水分摂取不良によるものなのか,嘔吐が関与しているのか,様々な選択肢が考えられる.基礎疾患を持っている救急患者であれば,なおさらである.学生時代,そして研修医時代に,酸塩基平衡や輸液に関する書物を読み,経験も積んで自分なりの方針も確立していた.そして,この分野はもう確立した分野であると思い込んで,自分の専門領域である内科・循環器内科に対するアップグレードは行っているのに,この分野に関しては研修医を教えていた頃の知識のままであった.

 今回,『酸塩基平衡の考えかた』という書物に出会って,酸塩基平衡に関して,「正門」からのアプローチしか知らないんだということが分かった.著者の言葉を引用すると「通用門」からのアプローチを知っておくことも重要なのだと感じた.ここでいう「正門」は,学生時代に学んだHenderson-Hasselbalchの式に基づく,酸塩基平衡の考え方である.HCO3-とpCO2との関係からpHを求める,みなさんご存知の式である.過去の知識の整理がてら読み進めていくと,「通用門」にたどり着いた.「通用門」とは,Stewart法あるいはSID(strong ion difference)法と呼ばれる,電気的中性の性質を用いた酸塩基平衡の読み方・考え方である.pHの値そのものはHCO3-とpCO2との比で決まることは事実である.しかし,酸塩基平衡障害の原因や過程を考える場合,代謝性の障害について,一番最初の原因としてHCO3-とpCO2との比の変化だけでは説明がつかないときがある.そのような,「正門」を通ってもたどりつきにくい場合は,「通用門」が有効になってくる.HCO3-の変化は,pHを変化させる原因というより,pHの値を計算するための単なる指標であるという考え方である.つまり,HCO3-以外の別の物質を用いてもpHを計算できるという概念に基づいている.HCO3-が変化する原因として電解質の濃度変化が存在するという,酸塩基平衡の解釈に電気的中性を中心に置いた考え方である.イオンとして解離した状態を維持できるNa+,K+,Cl-のような強イオンと,CO2+H2Oなどに反応して形を変えるHCO3-のような弱い陰イオンを分けて,強イオンの差からHCO3-やpHを推測していく方法である.「正門」しか知らなかったので,論理的な記述は知識の整理になっただけではなく,日常臨床に明日からでも使える内容であると感じた.血液ガス検査は通常外来ではあまり行わないが,電解質はよく測定するため,この概念を知っておけば,救急だけではなく,通常の外来でも気づきが得られるものだと思う.

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 本書は,救急のマニュアルとしては最も有名なものの1つである,田中和豊先生の『問題解決型救急初期診療』(医学書院)の姉妹本にあたる同著者の「検査版」の第2版である.

 検査と銘打たれているが,本書の本質は検査の解説本やマニュアル的な内容ではない.

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 本書は,カラーなうえに,図や写真が多くてわかりやすく,読んでいてわくわくする超音波検査の本である.その疾患の超音波検査を試みたことのある方であれば,臨床の状況と必要な検査を想定できる記述となっている.動画が豊富に付いているのもいい.超音波検査を扱った書籍は静止画のみで構成されたものが多いが,本書はQRコードにより手元のスマートフォン,タブレットですぐに動画を見ることができる.

 タイトルになっているPoint-of-Care超音波(POCUS)は,研修医だけでなく,内科・外科をはじめとする多くの臨床医にとって,診療に役立つものである.研修医であれば,現場でPOCUSを行うことで,後に自分で行わなければならない検査のハードルをだいぶ下げることができるだろう.研修医が修得すべき手技は数多くあるが,なかでもPOCUSはその場で検査を行うことができ,安心して次の診療ステップに進むことができる.ちなみに,POCUSにおいて最近注目を集めているのは肺エコーであり,これは救急や在宅の場面で,肺炎などの肺疾患に加え,左心不全の診断に役立つものである.

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 岡本光宏君が小児科専門医になった直後の4年前,私は彼を2年間指導した.彼の父も小児科医で,30年前に腎生検の指導をした.

 私は岡本君にリサーチマインドを教えた.当時の彼はまだ論文らしい論文を書いたことがない医師だった.しかし日常臨床に疑問を感じていないわけではなく,多くのクリニカルクエスチョンをもっていた.私はそれをリサーチクエスチョンへもっていく方法を指導した.また,実際に彼とともに論文を書き,臨床研究の面白さを彼に伝えた.その後,岡本君は兵庫県立柏原病院に移動した.臨床と研究に打ち込んでいるのだろうと思っていたが,久々に連絡がきたと思えば書評の依頼である.正直,驚いた.

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medicina
56巻8号 (2019年7月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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