看護研究 35巻3号 (2002年6月発行)

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原著論文

看護師の職業的アイデンティティに関する中範囲理論の構築グレッグ　美鈴 35巻3号 , 2002年6月 , pp.196-204

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はじめに

　クライエントにとって最も望ましい健康状態を作り出すために，看護の質を向上させることは，看護に従事する者の責務である。看護師の行為は，その人の価値観の表現ととらえることが可能であり（Holmes，1992；Kim，1993），職業的アイデンティティが看護観を象徴する（Fagermoen，1997）ならば，個々の看護師が職業的アイデンティティを確立することは，看護の質を向上させる1つの方法であると考えられる。このように考える時，看護師の職業的アイデンティティに関する理解は非常に重要になる。

　職業的アイデンティティという概念を理解するための有用な理論として，Erikson（1959，1963，1982）の心理社会的発達理論，Stryker（1977）のアイデンティティ理論，およびBiddleとThomas（1966），Biddle（1979）の役割理論がある。しかしこれらの理論は，看護師の職業的アイデンティティそのものを説明しうるものではない。また実証的研究においても，看護師の職業的アイデンティティに関しては十分な研究が行なわれていない。本論文の目的は，この領域における理論構築の必要性を明らかにし，帰納的方法により開発された，初期の領域密着型中範囲理論を記述することである。

マッサージによる筋肉内注射時の痛みの軽減森下　晶代 , 中田　康夫 , 藤原　由佳 , 阪本　智華 , 高谷　嘉枝 , 津田　紀子 35巻3号 , 2002年6月 , pp.205-212

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緒言

　医療現場において，痛みあるいは苦痛を伴う処置や検査は日常的に行なわれており，看護師が行なう筋肉内注射も痛みを伴う行為である。筋肉内注射は，吸収速度や油剤性の薬物投与の可能性などさまざまな利点を持ち，予防接種や精神安定剤投与などの与薬方法として従来から頻繁に施行されてきた。近年，術前薬投与などにおいては，従来の方法である筋肉内注射から内服へと移行しつつあるが，薬効が出現するまでの時間などの理由から，今後も筋肉内注射の実施自体は消失することがないと考えられる。また1995年の調査では，病院や施設において，看護師が筋肉内注射を行なっている割合は97.4％であり（城生ら，1995），1981年の調査における95.7％（石井ら，1982）と大きく変化していない。このことから，今後もその実施者の大部分が看護師であるということは変わることがないと推測される。

　痛みは患者の不安を喚起し，場合によっては患者が体を動かすことによって二次的な合併症を引き起こすという，潜在的な危険性を含むことが考えられる。日本看護科学学会において，看護技術は「看護独自の専門知識に基づき，対象の安全・安楽・自立をめざした目的意識的な直接行為である」と定義されている（日本看護科学学会，1995）。このことから，看護師が筋肉内注射の際に生ずる痛みの解剖学的・生理学的なメカニズムを理解し，その痛みを軽減する直接的な介入方法を確立することは，安全および安楽な看護技術を提供する上で意義があると考える。そこで本研究では，筋肉内注射時の痛みの軽減方法について検証を行なった。

症状マネジメントにおけるIASMの有効性の検討—がん性疼痛の症状マネジメントにおける比較から荒尾　晴惠 35巻3号 , 2002年6月 , pp.213-227

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はじめに

　症状マネジメントの考え方は医療者主体によるものから患者が主体となるものへとパラダイムの転換が求められている。なぜならば，症状は非常に主観的な体験であり，症状とともに生活していくのは患者自身であることからすると，従来の医療者主体の症状マネジメントは非効果的といえるからである。1997年に患者を主体とした症状マネジメントモデルが日本に紹介され（UCSF症状マネジメント教員グループ，1997），症状の体験や患者のセルフケアに焦点を当てた患者主体の症状マネジメントが注目されるようになった。

　そこで，本研究では，がん患者が最も頻繁に訴える症状である痛みを持つ患者に対し，患者を主体とした症状マネジメントの統合的アプローチ（An Integrated Approach to Symptom Management：以下，IASM）を枠組みとして看護を提供し，患者のセルフケア能力をいかした症状マネジメントを行なうことで，症状の軽減やQuality of life（以下，QOL）の向上に寄与できるかどうか，モデルの有効性を検討することを目的とした。

総説

多胎家庭における母子愛着関係の発達とファミリーサポート上の課題服部　律子 , 早川　和生 35巻3号 , 2002年6月 , pp.229-237

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はじめに

　近年の生殖医療の進歩に伴い，多胎児の出生は増加している。わが国の1950〜1970年代の双胎の出産率は出産1000に対し6.3〜6.4程度で一定していたが（今泉，1993），1980年代後半より，不妊治療が普及しはじめるようになると，母体の高年齢化という要因も加わって（今泉ら，1993，1997）増加に転じ，1998年では9.17まで上昇している（厚生省，1999，p.56）。品胎に関しても同様の上昇傾向があり，多胎児の問題は周産期医療，そしてその後の母子保健や教育福祉の領域においても，今後の重要な課題となってくる。

　一般に胎児の数が増えるほど周産期死亡率は高率になり，わが国の統計では，1980〜1991年での単胎の周産期死亡率は出生1000に対し7.7であるが，双胎では46，品胎では89，四つ子は117と胎児数が増えるに従って急増している（Imaizumi，1994；今泉，1994）。早期新生児死亡をみると単胎では2.5であるのに対し，双胎では16，品胎では44，四つ子91である（Imaizumi，1994；今泉，1994）。多胎分娩では早産率が高く，低出生体重児，特に極低出生体重児の占める割合が多くなってきている（Powers ＆ Kiely，1994；Kogan et al.，2000）。

研究報告

断酒に至る認識変容過程—断酒会会員を例として心光　世津子 35巻3号 , 2002年6月 , pp.239-249

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はじめに

　アルコール依存症の治療場面では，断酒が求められるが，1人で断酒を継続するのは困難とされ，断酒会など自助グループへの入会が勧められる。しかし，多くの人々は最初，「私は1人で酒をやめられます」，「グループに入っても仕方がない」などと考え，グループへの参加を断ろうとする（斎藤，1989）。では，大多数が医療機関から紹介されて入会している断酒会の会員たちは，この考えがどのように変わり，入会へと踏み切ったのであろうか。また，どのような認識が断酒継続を動機づけているのだろうか。

　アルコール依存症については，生理学的な実験研究や実態調査，退院後の追跡調査などが数多く行なわれている。回復についての調査は比較的少ないが，そのなかでも治療プログラムと予後に関しての量的な調査が大半を占めている。一方で，研究論文ではないが，医療者の臨床経験から論ずるといった形で，病識のある者のほうが治療への反応がよいとし，「底つき」^註1）や病識形成の重要性を検討する文献は多い。しかし，病識形成過程や回復過程を明らかにすることを目的として行なわれた調査はみられなかった。

　そこで本研究では，断酒会会員の，飲酒開始からの認識の変化の特性と，行動変容のために重要な認識を明らかにすることを目的とする。そのために，断酒会の断酒継続者にインタビューを実施し，民族誌的な内容分析（ethnographic content analysis：Altheide，1987；Tesch，1990）を行なった。そして，その結果を諸文献と比較検討した。

特別記事　脳科学からみた看護

脳科学からみた看護南　裕子 35巻3号 , 2002年6月 , pp.253-254

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あらゆる人間科学は脳科学抜きに語れぬ時代

　人が生まれ，成長しながら生活し，死を迎えるまでの期間，そして，人が感じ，考え，思い，判断し，行動する時，常に脳がフル回転してそれを支えている。人が眠っている時も脳はその働きを止めない。人間の脳には，1000億個の細胞があるといわれるが，複雑で高度な機能を持つ脳はまさに人間全体の司令塔であり，かつ，人と環境の変化に対応しながらダイナミックに自らの脳を変化させる力がある。人間の進化の過程で，脳は言語を生み出し，言語によってさらに脳を変化させてきている^1）。

　ところで，脳科学とは，脳を知る学問であるが，脳を知るとは，自分を含む人間を知ることであり，つまり人間が何かを認知する時，感じる時，思考する時，行動する時に，脳のなかはどうなっているのか，そのことを具体的な根拠をもとに説明しようとするのが脳科学である^2）。脳科学は近年，急速に発展している分野である。1990年にアメリカ上院でdecade of the brain「脳科学の10年間」宣言が議決されて以来，世界的に脳研究が推進されるようになり，その結果脳科学は飛躍的に発展し続けているのである。知見は日々更新され，今まで謎とされてきた現象のメカニズムが次々と説明されるようになってきている。そのような状況のなかで，いずれあらゆる人間科学は脳科学を抜きに語れなくなるだろうともいわれている。

脳生理学的視点からみた熟練看護師の能力渡辺　かづみ 35巻3号 , 2002年6月 , pp.255-260

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はじめに

　21世紀は脳の時代だといわれている。1838年にプルキンエが小脳のプルキンエ細胞を顕微鏡で発見して以来，脳についての研究が取り組まれてきたが，近年脳に関連する知見はめざましく進歩している。書店の店頭には数多くの脳に関する書籍が並び，テレビでも脳関連の番組がよく放映されている。このように脳に関する研究が急速に進んだ背景には，CT，ポジトロン断層法（positron emission tomography：PET），機能的磁気共鳴画像法（functional Magnetic Resonance Imaging；fMRI），脳磁図（magnetoencephalogram；MEG）といった機器の登場や，神経細胞（以下，ニューロンという）の分子レベルの解明が進んだことによるところが大きい。

　一方看護師は，看護基礎教育だけではなく，臨床に出てからも経験を通して多くのことを学び，新たな知識や技能を個人のなかに蓄積していく。看護が実践学問であるがゆえのことであるが，臨床において知識や技能を獲得しエキスパートになることは，脳生理学の視点からみるとどのようなことなのか，検討を試みた。

エンパワメントを脳科学的にみる玉木　敦子 35巻3号 , 2002年6月 , pp.261-267

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はじめに

　エンパワメントの概念が最初に定義されたのは18世紀であるが，その考えが一般に注目されはじめたのは，1960年代後半にはじまった社会運動以降である。その後もセルフヘルプ運動においてエンパワメントの概念は重要な役割を果たし，さらにコミュニティへの介入方法やメンタルヘルスなど，さまざまな分野で用いられるようになった（Gibson，1991）。看護においても，1980年代後半からエンパワメントの概念が用いられはじめ，文献に取り上げられる数もアメリカを中心に急速に増加している（野嶋，1996）。

　このような歴史的背景にも影響され，エンパワメントの定義は一定しておらず，人々の関心によって定義されるべきだともいわれている（Gibson，1991）。ただし，抽象的なレベルではおおよそ「人々や組織やコミュニティが，自分たち自身の生活全体をコントロールできるように力を得るプロセス」を共通理解とすることができる。また，エンパワメントは相互作用であり，つまりエンパワーされる者とする者が必ず存在するということもほぼ一致した見方である。

連載　21st Century Message from World to World・7

How to Use Evidence-based Resources to Guide Nursing Practice Part 1 Faith C. Donald , Alba DiCenso , 『看護研究』編集室 35巻3号 , 2002年6月 , pp.269-275

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　看護研究はその成果が臨床実践に活用されてこそ，その価値は高まるといえよう。ここでは，カナダのMcMaster大学に籍を置くDonald氏，Evidence-Based Nursingの第一人者で本文中にも出てくる『Evidence-Based Nursing』誌の編集委員も務めるDr. DiCenso氏に，EBNの大切な要素の1つである「エビデンスを使う」に焦点をあててもらった。シナリオを用いて具体的かつ非常にわかりやすく研究を実践に適用するプロセスとそこで必要となる知識を指し示してくれるが，そこから研究成果を生み出す側として留意すべき点を読み取ることもできるだろう。次号と2回に分けて掲載する。

連載　看護研究に役立つソフト・IT活用術・5

ファイルの保存に活かす猫田　泰敏 35巻3号 , 2002年6月 , pp.277-283

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はじめに

　文章へ追加や変更を加えて保存したがどこに置いたのかがわからなくなった，更新する前のファイルも残しておきたかった，ハードディスクが故障して保存していたファイルが使えなくなった，といった経験はありませんか。

　看護研究者にとって，作成したファイルは苦心惨憺の末に生み出した成果です。パソコンで作業をする以上，すぐに検索できるよう適切に整理したり，確実に保存する工夫を行なうなど，ファイルの取り扱いには最大限の配慮をしたいところです。

基本情報

看護研究
35巻3号
(2002年6月発行)

電子版ISSN：1882-1405 印刷版ISSN：0022-8370 医学書院

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