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概要
システマティック・レビュー(Systematic Review;以下,SR)は,ある特定の疑問やテーマに対して,厳密かつ透明性の高い方法を使用して,多くの関連した研究を包括的で公平に統合したものである。少し平易に言い換えると,SRは既存の知識を統合して要約することを目的とし,そのテーマに関連する根拠の「すべて」を明らかにしようとするものである。
EBM,EBNの実践にあたり,例えば「Aという介入方法はどのような対象者に,どのくらい効果が見込めるのか」を知りたいとき,1つひとつの研究論文を丁寧に読むことはもちろん大切だが,忙しい臨床活動の中で介入方法Aに関する何十何百もの論文を読んだ末に臨床的な判断をするというのは現実的ではない。臨床家にとってはエビデンスに基づいた実践を提供するために,研究者にとっては既存の研究を概観し次なる課題を設定するために,SRは近年ますます重要になっている。
上述したようなSRの目的を達成するためには,論文として報告する際に研究手順や厳密性,透明性を丁寧に説明することが求められる。例えば,文献をどのデータベースから,どのような検索式で収集したのか。収集した文献はどのような選択基準(除外基準)でレビューに組み入れられたのか。文献からどのようなデータに焦点を当てて抽出し,それらをどのようなプロセスを経て分析し統合していったのか。SRの品質の良し悪しは,一連のプロセスの中で,エラーとバイアスのリスクを最小限に抑えるための方法にどのくらい厳密に従ったのかということに大きく依存する。前置きが長くなったが,高品質なSRを報告するためのガイドラインが,本稿で紹介するPRISMA声明である。
PRISMA声明は,MoherらによるThe PRISMA Groupによって開発され,2009年に公開された(Moher, Liberati, Tetzlaff, Altman, & The PRISMA Group. 2009)。さらに,PRISMA声明には多くの拡張版(extensions)が発表されているが(表1),これ以外にもPRISMAグループとの共同制作として,PRISMA for Children,PRISMA Protocol for Childrenが存在する。なお,これら拡張版の日本語版は公表されていない。
なお,SRの定義については研究者間でもやや混乱がみられるため,ここで少し整理をしておきたい。効果指標の値を統計学的に統合し分析する「メタ分析(メタアナリシス)」を含むものをSRと定義するのか,あるいはメタ分析を含まなくともSRと定義されるのか,という話題である。これに対して,Chalmers, & Altman(1995)は,メタ分析という用語は統計学的統合のプロセスに限定されること,つまりメタ分析はSRの一部である場合とそうでない場合があることを示唆している。これに沿う形で,オーストラリアのジョアンナ・ブリッグス研究所(Joanna Briggs Institute;JBI)が示すSRのガイダンスでは,メタ分析を含まないもの,ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;以下,RCT)以外の研究方法を統合したものもSRとして位置づけている。この解釈は今後の議論よって変化していく可能性があるが,現状では論文タイトルや抄録にメタ分析を含むSRなのか,メタ分析を含まないSRなのかについて明示しておくことがよいだろう。
本稿にて紹介しているPRISMA声明は,メタ分析を含むSRの報告を念頭に置いて構成されている。そのため,RCT以外の文献も検討し,メタ分析を含まないSRの報告にPRISMA声明をそのままの形ですべて適用することが難しい。しかし,PRISMA声明で推奨されている項目にはメタ分析を含まないSRにも適用できる項目も多く存在するため,1つのテーマに対してメタ分析が可能なほどRCTが集積されていないことが多い看護学領域の研究であっても,PRISMA声明を部分的に活用することは意義があるだろう。
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