Brain and Nerve 脳と神経 51巻8号 (1999年8月)

特集 脳奇形の遺伝子異常と形成機序

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はじめに

 重症の中枢神経系先天異常をもった個体は胎生早期から胎内で死亡することが多く,家系分析や遺伝子解析が容易でないため,ヒトの個別の症例について原因を特定することは一般に容易でない。これまでの遺伝疫学的研究によって,神経管奇形や全前脳胞症の原因はheterogeneousで,単一遺伝子の異常,染色体異常,環境要因,さらに遺伝と環境の相互作用によるもの(多因子性またはポリジーン遺伝)が混ざり合っているとされている1〜3)。ヒトでは,これらの先天異常の原因となる遺伝子異常についてのデータは乏しかったが,近年の分子生物学の研究によって,マウスなどで遺伝子の機能解析が進んだ結果,それをもとにヒトでのホモロジーが調べられ,実際に患者で遺伝子の異常が同定される例も報告されている。ここでは,神経管奇形と全前脳胞症の発症に関与する遺伝子異常について,最近の知見を中心に述べる。

2.滑脳症 水口 雅
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はじめに—大脳神経細胞の遊走—

 ヒトの最大の特徴である高度の知的機能は,主として大脳皮質の働きに因る。大脳皮質は皮質下諸核と相互に連絡し,高度の構築をもった神経回路を構成する。この回路が正しく形成され,機能を発揮するためには,機能素子である神経細胞が正しい位置に配置されることが前提条件となる。哺乳類の大脳新皮質では,神経細胞の多くが第II層から第VI層に分布する。第I層(分子層)と皮質下白質(第VII層)にも少数の神経細胞があり,前者はCajal-Retzius細胞,後者はsubplateneuronと呼ばれる。

 大脳皮質の神経細胞の祖先は側脳室上衣下の胚細胞層(germinalまたはventricular zone)に存在する神経系幹細胞である。分裂・増殖を終えた幹細胞は神経細胞へと分化し,radial gliaの突起を伝わって表層への移動を開始する。途中,中間層(intermediate zone)を通過し,目的地である皮質原基(cordcal plate)に到達して,定着する。この過程は神経細胞遊走(neuronalmigration)と呼ばれ,ヒト胎児においては胎生2〜5月に進行する。これに対応した大脳の肉眼的形態の変化として,脳溝・脳回の形成が見られる。

3.多小脳回 中野 今治
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はじめに

 一般に大脳の多小脳回(または小多脳回)は,皮質が4層構造を呈する四層型(four layer type)とそれ以外の普通型(common type)とに分類される1)。四層型においては,第一層は分子層,第二層は神経細胞密度が大きい上部細胞層,第三層は神経細胞密度が小さく接線方向に走る有髄線維を含む中間層,第四層は白質に接する深部細胞層から成る1,2)。一方,四層性多小脳回(four-layer polymicrogyria)と無層性多小脳回(un-layered polymicrogyria)に分類する場合もある3)が,いずれの分類でも4層構造を示すタイプは少ない。

 多小脳回の原因は単一ではなく,子宮内での虚血,母親のガス中毒や子宮内感染などが原因となる3)。また,多小脳回は遺伝疾患でも認められ,Aicardi症候群,Walker-Warburg症候群,福山型先天性筋ジストロフィー(Fukuyama-type congenital muscular dystro-phy:FCMD)などで観察される。

4.Cortical Dysplasia 山内 秀雄
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はじめに

 画像診断技術の向上と臨床神経生理学の発展によりてんかん原性焦点を明確に診断することが可能となり,小児難治てんかんに対する外科手術が積極的に多く行われるようになった。小児難治てんかんに対する積極的な外科治療の発端となったのは,Chuganiら1)のグループが脳波やMRIとともにグルコース代謝によるPET scanの結果を有力な手がかりとして,てんかん原性焦点を明確に決定し,薬剤治療だけでは予後不良な難治てんかんであるWest症候群の患児に外科手術を施行し良好な成績を収めていることを報告してからで,以後世界中の各地で精力的に小児難治てんかんに対する外科治療が行われるようになった。一方,豊富となった手術検体を用いた研究により,神経病理学的検索,生化学的・分子生物学的知見が多く報告されるようになった。本稿では特に,小児難治てんかんに対する外科手術により小児難治てんかんをきたす代表的疾患として最近特に注目を浴びるようになったcorti-cal dysplasia,およびそれと酷似する病理組織学的所見を示す結節性硬化症について述べる。

総説

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はじめに

 人口の高齢化が進むなかで,痴呆性疾患への関心が深まり,アルツハイマー病はもちろん,ピック病やクロイツフェルド・ヤコブ病などは一般の人にも広く知られるようになっている。初老期・老年期の痴呆症は,アルツハイマー型痴呆[Alzheimer-type dementia;ATD(アルツハイマー病Alzheimer's disease;AD+アルツハイマー型老年痴呆Senile dementia of the Alz-heimer type;SDAT)],脳血管性痴呆cerebrovasculardementia(CVD),非アルツハイマー型変性痴呆Non-Alzheimer degenerative dementias(NADD)などに大別される(表1)。

 非アルツハイマー型変性痴呆(NADD)は,ATD以外の変性性痴呆疾患の総称であり,最近は国際的に専門家の間で注目されてきている。

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 感覚神経伝導検査で得られる感覚神経活動電位波形は,記録用関電極と不関電極間距離の大小によって影響を受ける。健常者12名の右正中神経の手-指間で,通常行われる逆行法および順行法を用いて,記録用電極間距離を変えつつ,感覚神経活動電位の変化を調べた。波形の基線または最初の陽性頂点から陰性頂点までの振幅,最初と次の陽性頂点間の持続時間を指標として,各例ごとに1cm〜5cmの電極間距離での記録を行った。順行法・逆行法ともに,電極間距離が3cm以上では活動電位振幅に大差なく,ほぼ最大となった。波形の持続時間は,電極間距離の増大とともに長くなった。電極間距離ごとの振幅値の変化は逆行法より順行法のほうが大きかったが,持続時間の変化は逆行法のほうが大きかった。持続時間が長くなると,波形に鋭さを欠き,各頂点が不明瞭となりやすい。したがって,手-指間の感覚神経伝導検査にあたっては,電極間距離を3cmとすることが勧められる。

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 T2強調画像は,常磁性体である鉄イオンを含むヘモジデリンがわずかでも存在した場合に生じる磁場の不均一性を低信号として捉えるので,出血の診断には感度が高い撮像法である。われわれは,頭部外傷慢性期の画像診断でのT2強調画像の有用性を4例において検討した。受傷直後から意識障害や神経学的異常所見があるにもかかわらず,急性期CTスキャンではこれに見合う頭蓋内病巣が描出されなかった2例においては,慢性期の通常のMRI撮像法でも異常はなかったが,T2強調画像では受傷後2〜3年以上を経過しても,大脳脚や脳梁の病巣が低信号域として描出された。また,急性期CTスキャンで脳内出血がみられた2例では,慢性期では通常のMRI撮像法では異常はみられなかったが,T2強調画像では急性期CTスキャンでみられた脳内出血と同部位にほぼ同じ大きさの低信号域が描出された。また,くも膜下出血のあった1例では,その一部が慢性期T2強調画像で脳槽内の低信号として描出された。頭部外傷患者を慢性期に診断する場合には,通常の撮像法にこのT2強調画像を併せて行うことはきわめて有用である。

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 保存的治療で改善しない特発性頭蓋内圧低下症に持続硬膜外生食注入を行い治癒した症例を報告した。症例は27歳,女性。起立性頭痛と背部痛で来院した。頭・胸部CTで異常なく,頭蓋内圧低下が疑われ入院した。頭部MRIで髄膜が造影され,胸椎MRIで硬膜外腔の拡大を認めた。1日1,000mlの輸液を行ったが改善せず,3週間後のCT,MRIでは脳槽・脳溝の狭小化,脳幹・小脳扁桃の下垂,硬膜下水腫も認めた。腰椎穿刺は初圧75mmH2Oで拍動が悪く,脳槽シンチでは髄液漏出部位は特定できなかったが,早期から膀胱への集積を認めた。入院1カ月後に硬膜外カテーテルを挿入し持続生食注入(15〜20ml/時)を開始した。頭痛は消失し,翌日は歩行も可能となった。MRIもほぼ正常化し,持続注入は5日間で終了し独歩退院した。持続硬膜外生食注入は安全かつ効果的であり,比較的早期から施行してもよいと思われた。

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 Isoniazid内服投与により,ミオクローヌス痙攣発作を呈した1例を経験した。症例は74歳,男性。本症例の特徴は,肺非定型抗酸菌症のためにisoniazid内服療法が2回施行され,それぞれ開始後3日以内に両上肢のミオクローヌスが一過性に出現した点である。ミオクローヌス痙攣発作の経過は,初回発作はisoni-azidの投与を継続したにもかかわらず,約2週間で消失した。また,2回目のミオクローヌス発作に関しても,慎重な経過観察だけで約4日間で改善する良性経過をとった。元来,isoniazidによるてんかん発作は腎不全を有する患者に多く,本薬剤を中止しなければ重篤な意識障害や死亡に至ることがある。しかし,本症例においては腎機能は正常で,神経症候も一過性に出現したに過ぎない点が興味深い。そこで,本症例のisoniazid投与によるミオクローヌス痙攣発作の発症機序と誘発因子に関して考察したので報告する。

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 亜急性に著明な感覚性失調を伴う末梢神経障害と意識障害,眼振,核上性排尿障害を呈し,血清および髄液の抗HTLV-I抗体が陽性であったencephalomyeloneuritisの症例を報告した。本例では悪性腫瘍は伴わず,ステロイド療法により症状は改善した。本例はHTLV-I関連神経疾患の多様性を示唆する症例と考えられた。

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 毛細血管拡張症による陳旧性側頭葉内出血に伴う側頭葉てんかんの1例を報告した。術中皮質電位では側頭葉内側部と外側部に非同期性の突発性異常波がみられたが,側頭葉外側切除後も海馬から突発性異常波が頻発していた。組織学的には,側頭葉内に陳旧性脳内出血に伴うグリオーシスとヘモジデリン沈着がみられ,これらが海馬にも影響を与え,てんかんの発症に関与したものと思われた。

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 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は原則として単相性であるが,ADEMの臨床像を早しながら再発と緩解を繰り返すものが約10%存在する3)。これは急性再発性散在性脳脊髄炎(ARDEM)と呼ばれており,多発性硬化症(MS)との鑑別が問題になる。その多くは小児期に発症し,高齢者では稀である7)。今回,われわれは高齢にて発症しARDEMと考えられた1例を経験したので報告する。

 症例 66歳,女性

転移性頭蓋骨腫瘍 新島 京
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 症例 47歳,女性

 主訴 頭痛

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
51巻8号 (1999年8月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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