Brain and Nerve 脳と神経 46巻8号 (1994年8月)

特集 線条体:発生・解剖,生理,病態

線条体:発生と解剖 岩堀 修明
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はじめに

 線条体については,近年いろいろな事実が解明されている。なかでも一番大きな事実は,新線条体(neos—triatum)がモザイク構造(mosaic structure)をしていることが明らかになったことであろう。新線条体は長い間,主に中等大の細胞よりなる,均等な構造をした神経核であると考えられてきた1〜3)。しかしながら,細胞構築学的に,新線条体の細胞は,均等に分布しているわけではなく,いくつかの細胞集団を形成していること4〜6),また線維構築学的には,dopamine作動性線維は均等に分布しているのではなく,dopamine islandsを形成していることが明らかになった7〜10)。さらに,組織化学的性状や線維連絡の詳細が解明されるにしたがい,新線条体は,patchとmatrixよりなるモザイク構造をしていることが分かってきた。組織化学的にみると,成体では,patchにはopiate receptorが多く,substance Pやenke—phalinに対する免疫反応が強いのに対し,matrixには,neurotensin receptorが多く,acetylcholineste—raseやsomatostatinに対する免疫反応が強い。線維連絡の面からは,patchとmatrixは,異なった入力を受けており,投射領域も異なっている。

被殻と四肢運動の制御 浜田 生馬
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I.はじめに

 被殻は大脳基底核の主要部分を占める大きな核である。大脳基底核の入り口として広い皮質領域からの入力線維を受け,黒質緻密部や視床中心核からも入力を受ける。細胞の大きさや密度といった形態学的な特徴は広い核内でも均質で部位による差はない。しかし,生理学的な方法で被殻ニューロンの活動を無麻酔の動物でみていくと,部位により特性の違いがあることがみえてくる。

 被殻ニューロンの活動と四肢運動の制御,運動学習については昨年の本誌の木村19)の総説にすでに詳しく解説されている。本稿では被殻そのものから離れ,被殻に入力を送る大脳皮質運動野ニューロンの活動,被殻ニューロンの軸索の淡蒼球内節ニューロン上での終止について紹介し,被殻と四肢運動の制御について考えてみる。その前に,簡単に無麻酔のサルを使った実験で得られた被殻ニューロンの活動の特性の基本的な点を紹介する。

線条体:病態—臨床 大江 千廣
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I.諸言

 人間の線条体(尾状核と被殻)に病変が生じるとどのような臨床像を呈する疾患がみられるのか?この問題に正確に答えられるかどうかは分からないが,できるだけそれに近い答を出すべく,最近の線条体に関する研究の進歩をふまえて考えてみたい。

 線条体の病変としては,直接,間接の変性疾患,血管障害,腫瘍,感染,中毒などがあげられるが,これらは多くの場合,線条体に限局した固有の病変としてよりも線条体に連なる淡蒼球,視床下核などを含む神経回路,あるいは隣接する内包も含めた病変として捉える方が理解しやすいように思われる。少なくとも機能的にはこれらを総合した大脳基底核の病変とみられるものが多い。したがって,必ずしも線条体に限局しない病変も含まれてくるのは止むを得ないであろう。

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はじめに

 線条体(尾状核,被殻)は大脳基底核神経回路網において中枢的な位置を占め,そこには多くの神経活性物質(神経伝達物質およびその候補)が豊富に存在している1)。神経活性物質はアミノ酸系・アミン系・ペプチド系の3つに大別されるが,本稿ではこれらをトランスミッターと一括総称して記述を行う。最初に線条体の化学的構築についてトランスミッターを中心に概説し,次いで解剖病理学的側面から各種大脳基底核疾患における線条体トランスミッターの変動について,これまでに解っている知見を紹介する。図1に,大脳皮質,視床と関連した大脳基底核神経回路の入出力系とトランスミッターの分布について模式的に示しているので参照されたい。

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I.はじめに

 著者らが,本誌第40巻に"種々の錐体外路系疾患における線条体神経細胞の定量形態的検討"を報告15)してからほぼ6年を経た。この間の,線条体に関する研究,とりわけその機能および線維結合,伝達物質,受容体並びに分子遺伝学的側面では,めざましい進展がみられた。

 しかしながら,ヒト線条体における神経細胞の変性機序に直接関連した組織学的研究は,遅々とした歩みであったと言わざるを得ないように思われる。

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I.はじめに

 中枢神経系を構成する主たるメンバーは,ニューロン,グリア(アストロサイト,オリゴデンドロサイト,ミクログリア)および血管系細胞である。なかでも,ニューロンは神経機能の第1の担い手として,常に中枢神経系における学問的研究対象の中心に位置づけられてきた。ニューロンが神経回路網を形成し,シナプスを介して情報伝達を行うことを勘案すれば,当然のことかも知れない。しかしながら,オリゴデンドロサイトの作るミエリン鞘が軸索を取り囲み有髄線維を形成しているように,ニューロン活動にとってグリアの存在が必須であるのもまた事実である。とくに本稿でふれる中枢神経系の病的状態においては,グリアはいわゆる活性化し,病態形成において重要な役割を果たす。最近この過程で,アストロサイトがサイトカインを分泌したり16),ミクログリアが脳の免疫担当細胞として機能することが解ってきた20,21)。こうした基礎医学的知見の蓄積を受けて,グリアの病態から各種神経疾患の病態解明に迫ろうとする新しい病理学的アプローチも試みられつつある18,20,23)

 筆者らもこれまで,主としてヒト剖検脳組織標本を用いて,各種神経疾患におけるグリア病態について検討してきた。本稿ではこれら筆者らのデータを含め線条体におけるグリアの病態について,ハンチントン舞踏病を例に概説する。

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 脳血管障害危険因子をもたず,T2強調画像において白質のび漫性の高信号領域を認めた変性疾患12例(A群)と,白質の信号変化に加え皮質が低信号化していた2例(B群)の白質病変の拡散強調画像を検討した。A群には副腎白質ジストロフィー,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症,家族性痙性対麻痺,筋緊張性ジストロフィー,原因不明の家族性痴呆例が含まれ,B群はSanfilippo病および原因不明の家族性痴呆例が含まれた。正常者の前頭葉および脳梁では,神経線維の走行に垂直な方向の拡散係数は,平行な方向の拡散係数に対し低かった。即ち,拡散異方性がみられた。A群の白質病変では,神経線維の走行に垂直な方向の拡散係数が上昇し,拡散異方性が失われ,脱髄性変化が主体であることが示唆された。B群の白質病変では,拡散係数,拡散異方性は保たれ,軸索変性が主体であることが示唆された。拡散強調画像は白質病変の病態の解析に有用と思われた。

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 ビンスワンガー型梗塞脳およびラット慢性低灌流脳におけるグリア細胞の動態を免疫組織化学的に検討した。ビンスワンガー型梗塞脳でMHC class II抗原陽性の活性化ミクログリアは白質正常脳の3.1倍,GFAP陽性アストログリアは1.6倍に増加していた。ラット両側総頸動脈結紮による慢性低灌流脳では脳梁内側部で1日後からミクログリアの著明な活性化とGFAP陽性アストログリアの増加がみられ,30日後まで持続した。さらに,トランスフェリン陽性のオリゴデンドログリアの減少と白質の粗鬆化が結紮14日以降に観察され,ミクログリアおよびアストログリアの活性化の程度と白質粗髪化の間に相関がみられた。これらの結果より(1)慢性的な脳虚血が白質の粗鬆化を起こすこと,(2)粗鬆化に先行して生じるグリアの活性化がビンスワンガー型脳梗塞の成因に関与する可能性が示された。

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 特異な笑いを呈した前頭葉優位型葉性萎縮の1例を経験した。54歳,右利き女性で,活動性の低下と状況にそぐわない笑いを主訴に当大学精神神経科を受診した。本症例の笑いは,非特異的刺激に反応し出現する,感情の変化は伴わない,随意的に制御可能であると考えられる,という特徴を示した。笑いの表情筋電図では,持続時間は数秒間と,健常者とほぼ同じで,健常者ではほとんど収縮がみられないM.corrugatorsupercilii皺眉筋の筋放電の著しい増加がみられた。CT,MRIでは前頭葉中心に左に強い限局性の萎縮を認め,SPECTでは同部位の著明な血流低下が認められた。以上のことより,本症例の笑いはpathologicallaughing病的笑いなどの情動表出異常の範疇に属し,前頭葉の障害が笑いの発現に関与している可能性が示唆された。

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 高齢発症のPick病の2臨床例を報告した。第1例は,78歳女性。76歳時異常行動で発症。76歳時,接触性不良,易怒性,思考怠惰,口唇傾向,軽度の痴呆(改訂長谷川式17点,WAIS-R全検査IQ 62)を認め,頭部CT・MRIで側頭葉優位の両側前頭葉・側頭葉の萎縮を示し,側頭・前頭葉型のPick病と診断した。第2例は73歳男性。71歳時欲動に対する抑制の欠如で発症。72歳時,接触性不良,自発性低下,易怒性,思考怠惰,軽度の痴呆(改訂長谷川式23点,WAIS-R全検査IQ 91),一過性の滞続言語を認め,頭部CT・MRIで前頭葉に強調される両側前頭葉・側頭葉の萎縮を示し,前頭・側頭葉型のPick病と診断した。70歳以降の高齢発症のPick病は極めて稀である。我々の2症例は,老年期の異常行動の鑑別に,稀ではあるがPick病も考慮すべき疾患であるという観点からも重要な症例である。

学会印象記

AANSに出席して 中川 洋
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 American Association of Neurological Surgeonsは短くAANS(ダブルANS)と呼ばれているが,別名Harvey Cushing Societyともいわれている。この学会は北米だけでなく全世界で最も権威のある脳神経外科学会であり,今年の第63回学会はCalifornia南部のSan Diegoにて4月9日から14日まで開催された。

 学会長はMichigan大学のJulian T.Hoff教授であったが,私とは1965年座間米陸軍病院でofficerとinternとの間隔であり,彼はCornell UniversityHospital,私はTufts-New England Medical Center—Mount Sinai Hospitalでtrainingを受けているが,この30年間ずーと親しい友人である。

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症例呈示

 症例 M.0.55歳,男性。

 主訴 左顔面痺れ感,感覚鈍麻。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
46巻8号 (1994年8月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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