Brain and Nerve 脳と神経 28巻2号 (1976年2月)

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神経発生の第II期

1.ニューロブラストの出現

 外胚葉から神経上皮が誘導され神経管が形成されても,神経管壁を構成するのはmatrix cellのみであり,この細胞が旺盛に分裂をくりかえすことによつて神経管が次第に生長していくことは前に述べた。この頃の神経管壁の割面をSEMでみてみると,神経管壁は偽重層単層円柱上皮からできているのがよくわかる(第1図)。やがて中枢神経系の各部位の神経管壁がそれぞれ一定の厚さと大きさになるとニューロブラストの産生される第II期1〜4)が到来する。

 matrix cellからいつ,どのようにしてニューロブラストが作り出されるかを調べる分析的研究は,3H-thy—mldineによるオートラジオグラフィーが導入されてから飛躍的な進歩をとげた。この分析は,matrix cellが一旦ニューロンに分化すればDNA合成能が完全にかつ不可逆的に抑制されてしまつているというマーカーを利川することによつて行われる2,4)

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D.正常髄液圧水頭症

Normal Pressure Hydrocepbalus (NPH)(Figs D1〜10 )

 dementiaを主徴とする多くの疾患が殆んど根本的治療が不可能である中にあつて,本症は外科的吻合術により治療可能な痴呆症の一型1,8,10)として,Hakim,Adamsら1,8)がその名を提唱して以来,次第に注目されてきている。

 頭部外傷による場合は,脳挫傷などの受傷後すでに意識障害のとれた患者が数週ないし数か月の間に知的活動の低下が徐々に発現する。初めのうちは記銘力低下が著しくKorsakoff症候群を呈したり,自発行動が低下し,歩行障害も現われる。さらに進行すると,歩行不能,無言症に発展する。尿失禁も出現する。頭痛,嘔吐などは通常ない。髄液圧は高値を示さず(200〜180mmH2O以下),気脳写で脳室の著明な拡大と大脳凸側部クモ膜下腔の空気充盈欠如がみられ,この検査後に症状の悪化をきたすことが多い。RIHSAなどによる脳室造影ではisotopeの脳室内遅延停留が認められる。脳外科的shunting operationで髄液圧をさらに下降させると諸症状が劇的に改善することなどが知られており,これらが一般に本症の臨床診断基準とされている1,8,13,14)

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I.はじめに

 急激な頭蓋内圧の上昇は,つねに脳血管の拡張をともない2,7,20),終局的には脳血管麻痺へと移行して,脳血流は停止する11)。その機序については,なお確かな説明はなされていない。

 脳血管には豊富なadrenergic nerveが分布しており10,14,15),また頭蓋内圧亢進時には,脳組織のカテコーラミン代謝の変化することも知られている1)。このことはアドレナリン作働性物質が脳血流や脳血管の緊張維持に重要な役割をはたしていることを示唆する4,18)

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I.はじめに

 1929年,FiskeおよびLohmann等によつて発見されたAdenosine triphosphate (ATP)は,酸化的代謝のprimer (導火線)として脳組織代謝に重要な役割を果していることは周知のとうりであり,現在臨床面にも広く応用されている。

 一方,脳代謝のみならず脳循環に関しても生理学的,生化学的検討が盛んに行なわれ,ATPが破壊巣の周囲組織に対して側副循環を増大させ,これを介して脳代謝を改善させること1),ATP脳内摂取により脳血流量が増大すること,脳浮腫等の非生理的条件下でのendogeno—us inhibitorの脳細胞内生成および蓄積を抑制すること2)等種々の報告があるが,いまだ未解決の問題が多い。

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I.はじめに

 これまで,頭蓋内圧が亢進するのは頭蓋腔を一種の閉鎖された弾性腔とみなし,これにMonro-Kellie's doc—torineを適用し,その内の構成要素(脳・血液・髄液)の総合容積が増大するためと考えられてきた。すなわち内容積の増加は頭蓋内圧と関数関係にあると考え頭蓋内圧と容積の相関について多くの仕事がなされ,その際,頭蓋腔のelasticityを示すindexとしてdp/dv (またはdv/dp)のもつ意義についても議論が重ねられて来た。しかし頭蓋腔には毎分約1000mlの血液が出入しているので,実際問題として,頭蓋内圧を容積とのみ結びつけて考えてよいのであろうか。著者は従来から,臨床例,動物例について頭蓋内圧の連続記録を行つて来たが5,13),極度の頭蓋内圧亢進時には,頭蓋内圧は動脈圧と全く同じ圧力パターンを画く一方,この様な高い圧力も心停止と同時にほとんど0となるのを見て来た。このことは,頭蓋内圧が動脈系から血液が流入する流入圧の影響を受けていることを示すものであり,頭蓋内圧が,動静脈系圧力の反映圧で構成されている証拠であろうと考えた。そこで,著者は頭蓋内圧に反映圧の概念の導人を試みた。この反映圧の概念は,風船に水を注人する場合を例にとれば,容積圧が,風船内容積で作られると考えるのに対し,反映圧は水の注入圧の関数とみる概念である。このような反映圧については,これまで議論されたことがないので,本報告では先ず,容積圧,反映圧,に関して理論的うらづけを行なつた。さらにこの根拠に立つて,臨床例,動物実験例による測定例を示し,反映圧の概念に基いた頭蓋内圧解析法を示した。

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I.はじめに

 著者らは,先のイヌを用いた報告12)で,急性脳腫脹の基盤となるVasomotor paralysisの発現機序2,3,5)として,後部視床下部機能障害の果す特異的な役割は,正常頭蓋内圧,動脈血,Pco2Po2pHの正常範囲内では,否定的といわざるをえない,との結論をえた。

 では,軽度一中等度に頭蓋内圧を上昇させ,脳に負荷を加えた際にも同じ結論がえられるのであろうか。

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I.はじめに

 1945年WartenbergによりOrbicularis Oculi Reflexと命名された反射現象についてKugelberg1),Tokunaga2)最近ではKimura3〜8),Shahani9〜11),Lyon12)らにより基礎的臨床的研究がなされている。記録も比較的容易であることから臨床応用が試みられ,その診断価値も次第に認識されつつあるが13〜15),まだ十分にその診断的意義が確立されたとはいい難く,また反射経路及びその性質についても未解決の点が多い16〜20)。我々は種々の脳幹部障害患者にこの反射を臨床応用し,診断的意義の解明をはかるとともにその反射経路を明らかにしようと試み,さらにその経路に及ぼす因子を検討した。

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I.はじめに

 めまいや平衡障害を訴える患者を診察していると,それが末梢前庭性に起因するものであるかあるいは中枢前庭性のものであるか,確定診断をなし得ない例も少なくない。例えば,「耳鳴や難聴を欠く回転性めまい発作」5)もそのひとつである。

 つまり,激しい回転性めまい発作を繰返し,吐気をはじめとするいろいろの自律神経症状を伴うが,これ以外の神経症状は全く示されない。問診をおこなっても,また神経学的検査を詳細につづけても,中枢障害を思わせる症状を欠くので,例えば「椎骨脳底動脈循環不全症」などを疑いながらも,自信をもつて診断を決定するには躊躇させられるところが多い。反面また,聴力も良好で,内耳温度刺激反応も活発であり,それに,なによりもめまい発作時に一側耳鳴が初発したり既存の耳鳴が増強されることがないので,メニェール病のような内耳疾患とも決断できない場合である。

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I.はじめに

 脳動脈瘤はPolycystic Kidney1,26),aortic coarcta—tion2),Ehler-Danlos syndrome3,4),Marfan syndrome5)など先天奇形あるいは,胎生期遺残動脈例に合併しやすいとの報告7,8,9)がある。著者らは,過去数年間に秋田県立脳血管研究所で施行された脳血管写ならびに剖検所見等につき,脳血管の異常例の出現頻度及び脳動脈瘤ないしは脳動脈奇形(以下AVMと略す)との合併例の検討を行なうと共に,各種脳血管障害に合併した脳動脈瘤との間に有意差があるか否かを検討した。その結果,いくつかの興味ある事実を得,さらに脳動脈瘤の成因につき,いささかの知見を得たので報告する。

症候群・徴候・53

前脊髄動脈症候群 平山 恵造
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 脊髄の横断面上,前3/4を灌流する前脊髄動脈の閉塞性機転によつてひき起こされる症候群である。その領域には前角,中心灰白質,側角,前索,側索ならびに後索の前部(1/4)と後角の基部が含まれる。この症候群には,この様な血管分布上のtopo—graphyの特質から説明される症状と,脊髄軟化に共通する症状発現様式と経過とが特徴的である。すなわち,

 A)病変のtopographyを示す症状として,①錐体路又は前角障害による対麻痺又は四肢麻痺胸髄以下の病変では対麻痺,頸膨大病変では下肢は上位運動ニューロンの,上肢は下位運動ニューロンの障害による四肢麻痺,それ以上の頸髄では四肢とも上位運動ニューロン障害による四肢麻痺),②中心灰白質,脊髄視床路病変による病変以下の温痛覚障害と僅かな程度の触覚障害,③深部知覚,識別触覚は後索が無傷のため保全されてる。

 これらが症状の主体をなし,これに膀胱,性機能障害(失禁,尿閉,持続勃起,無月経),おくれて起こる筋萎縮,皮膚栄養障害がみられる。血管障害は,時に一側性に起って不全型Brown-Séquard症候群を呈することがあり(病変側片麻痺と反対側温痛覚障害。深部知覚保全。),また頸膨大部病変では前灰白質軟化(Pierre Marie et Foix)による小手筋萎縮を呈するものがある。

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 最近の10年間の神経学領域における進歩には,すさまじいというか,まさに狂乱的と表現しても良いほどのものがある。診断学の面では,電気生理学,生化学などが,研究の段階から日常診療における実用化まで発展し放射線診断では,脳スキャンを始めとして,脳血管写の連続,拡大,気脳写の断層,そして,EMIスキャンの出現するに至つて,まさにくる所まで来たという感じがする。神経生理学の基本的な理解,錐体路,前庭眼運動系,痛みの機序等々の理解についても枚挙にいとまのないような進歩があり,私達神経を専門とする者にとつても,1つ1つの進歩にとても追いついて行けず,時には混乱におちいり,時には新知識に対する自分の無知から絶望感におちいることすらある。しかし,これらの新しい診断技術,新しい神経生理学的,神経化学的な理解も,古典的な神経解剖,神経生理学の理解の土台の上になつて始めて生かされてくるのであり,その土台なしに,いたずらに新しい技術,新しい知識のみにとびついても,正しい診療は出来ず,またこのような新しいものに学生や若い医学徒の興味を集中させることは,かえつて彼らを混乱におとし入れるのみでなく,彼らにとつて,神経学というものを,ますます近づきがたい,親しみの持てない領野としてしまう恐れすらあるように思う。

 神経学(内科も外科も含めて)ほど,その診断を,基本的な解剖,生理学に頼る領域は,医学の中でないであろう。過去の教育課程では神経の解剖は,解剖学の一分野であり,神経の生理は,生理学の一部分であつた所に,学生にとつて"神経学はむずかしいもの""何となくとっつきにくいもの"という印象を与えてしまつたのであろうと思う。

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編集後記 有馬 正高
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 昨年10月,Trontoで開催された第1回国際小児神経学会に出席した折に,小児神経学の専門家養成の問題について話しあう機会があつた。

 現在,米国で指導的立場にある小児神経学の専門家の多くは,小児科学と神経学の両方の臨床経験をもつ人達であり,一部には,脳外科学の習練を受けた人もある。米国の小児神経学の専門家の多くが小児病院の神経部門に籍を置きながら,成人神経学の集会で討論し,また,小児科と神経科の両方の肩書きをもつているのは,日本と異る訓練のコースを経てきたことにも原因があろう。小児病院の多くが大学の関連病院として他の医療機関と近接した所にあることも交流を深めている理由の一つと思われる。小児神経学が独立し,近年は専門医のコースが確立している米国においても,なお,かつ,小児科学と一般神経学の両立の訓練を受けることが推奨されているのは,かつてそのような経歴をふんできた人達がその利点を肌で感じてきたからであろうと思われる。ちなみに,国際小児神経学会の正式メンバーの資格として,小児科学と神経学の両方を少なくとも1年以上,両方で4年間のキャリアを最少限とする基準を示したのも,そのような理由によっている。ヨーロッパや日本においてはそのような訓練の習慣や機会がほとんどなかったため,資格上で,いくつかの難点に遭遇することが経験された。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
28巻2号 (1976年2月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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