書評
—本多 虔夫 著—神経病へのアプローチ—300のプログラム教程(改訂第2版)
矢田 賢三
1
1北里大脳神経外科
pp.184
発行日 1976年2月1日
Published Date 1976/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203845
- 有料閲覧
- 文献概要
最近の10年間の神経学領域における進歩には,すさまじいというか,まさに狂乱的と表現しても良いほどのものがある。診断学の面では,電気生理学,生化学などが,研究の段階から日常診療における実用化まで発展し放射線診断では,脳スキャンを始めとして,脳血管写の連続,拡大,気脳写の断層,そして,EMIスキャンの出現するに至つて,まさにくる所まで来たという感じがする。神経生理学の基本的な理解,錐体路,前庭眼運動系,痛みの機序等々の理解についても枚挙にいとまのないような進歩があり,私達神経を専門とする者にとつても,1つ1つの進歩にとても追いついて行けず,時には混乱におちいり,時には新知識に対する自分の無知から絶望感におちいることすらある。しかし,これらの新しい診断技術,新しい神経生理学的,神経化学的な理解も,古典的な神経解剖,神経生理学の理解の土台の上になつて始めて生かされてくるのであり,その土台なしに,いたずらに新しい技術,新しい知識のみにとびついても,正しい診療は出来ず,またこのような新しいものに学生や若い医学徒の興味を集中させることは,かえつて彼らを混乱におとし入れるのみでなく,彼らにとつて,神経学というものを,ますます近づきがたい,親しみの持てない領野としてしまう恐れすらあるように思う。
神経学(内科も外科も含めて)ほど,その診断を,基本的な解剖,生理学に頼る領域は,医学の中でないであろう。過去の教育課程では神経の解剖は,解剖学の一分野であり,神経の生理は,生理学の一部分であつた所に,学生にとつて"神経学はむずかしいもの""何となくとっつきにくいもの"という印象を与えてしまつたのであろうと思う。
Copyright © 1976, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.