神経研究の進歩 4巻2号 (1960年1月)

特集 展望

間脳の形態学展望 新見 嘉兵衛
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 近時間脳は自律神経中枢,神経分泌,汎性視床投射系などの観点から一般の注目を引くようになつて来た。ここでは間脳を純形態学的な立場から著者の教室における研究を中心として最近の業績を概観し,更に将来の研究の進展を期待したい。

動物の行動の神経機構 今村 護郞
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 従来,動物の行動は主として動物学者や心理学者たちによつて研究されてきた。この学問の発達の跡を辿つてみると,初期の生気論,目的論,擬人論あるいは素朴な機械論などの域をようやく脱してしだいに客観的な観察と実験に基づく自然科学としての立場を堅持するようになつてきた。そして現在,動物の行動の研究に2つの主要な方向を区別することができる。その1つは動物学者によるもので,一定の状態にある動物に特定の行動を解発させるのに必要な有効刺激―サイン刺激―を規定することから,主として本能的行動を理解しようとするゆき方であつて実験習性学(ethology)とよばれるものである90),153),154)

 他の1つは,比較心理学者によるもので,人間の行動を理解するための一助として行動のいろいろな側面を動物についてしらべようとするゆき方であり,主としてネズミやサルなどの動物を使い,本能(instinct),動機づけ(motivation),知覚(perception),学習(learning)その他いろいろの側面から行動を研究している66),109),149),150),159))

神経化学の分野における展望 臺 弘
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I.緒言

 1958年には神経化学の第3回国際シンポジウムが,神経系の疾患の化学を主題としてStrasbourgで行われた。また神経化学に関係のある国際会議としては,第4回国際生化学会に於ける中枢神経系の化学のシンポジウム1),第1回Neuro-Psycho-Pharmacology国際会議2)があつた。これらの3学会の内容は中により紹介されている3)

 我国では神経学会の分科会が起点となつて神経化学懇話会4)が発足し,基礎学者の参加を得て大阪で開かれたが,この会は今後毎年関東か関西で行われる予定である。

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 脳神経外科領域における最近の進歩と一口に云つても,すぐ話題にのぼる問題を見渡しただけですでに可成りの数になると思う。超音波による脳腫瘍の診断あるいは治療,放射性同位元素による脳腫瘍の診断,松果体腫瘍に対する数々の手術成功例など,いずれも脳腫瘍の診断・治療における近年の進歩を示すものである。頭蓋内動脈瘤に対しても低温麻酔のもとに積極的手術が近年は行なわれるようになつた。又頭部外傷についてみても,従来とは趣を変えた純粋物理学的・力学的な観点力らの研究がすすめられる一方,外傷による頭蓋内血液循環動態の変化,外傷の全身に及ぼす影響とくに内分泌系の変調など,臨床的な探究も試みられ種々の成果が挙げられている、又側頭葉を含む大脳辺縁系に対する脳外科酌侵襲は大脳生理学とくに辺縁系の生理学に大きな寄与をもたらしている。

 このように数えあげるとこれらのいずれもが最近の脳神経外科における重要なtopicと云いうるのであるが,今回はこれらのうちでもとくに学会その他で注目をひいた2,3の問題に焦点をしぼつて論じたいと思う。

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緒言

 凡そ19並紀の半ば頃迄は,てんかんの治療は,殆んど荒唐無稽であり,祈祷とか,魔法薬とも云うべき薬物が与えられていた。Locockが1857年,始めて臭素剤を,てんかんの治療に応用し,大きな成果を挙けた事は,薬剤の実地応用という点から,特筆すべき進歩と云わねばならない。即ちErlenmeyerは,臭素の加里塩,ナトリウム塩,アンモニウム塩を混合した処方を奨め,その有効性を実証した事は,よく知られている。然しながら,臭素剤は,相当大量を長期間使用しなければならず,この為,胃腸障害,発疹,譫妄という副作用を起す事が屡々経験せられた。其の後,Gowersが硼素剤を抗てんかん剤として,紹介したにもかかわらず,副作用著しく,臨床的には,殆んど応用されなかつた。1912年,Hauptomann1)がPhenobarbital(Luminal)を試みて以来,Luminalは,臭素剤より,より優れた抗てんかん剤である事が証明され,今日と雖も,広く使用さかるに至つている。Barbitur酸誘導体の発見は,其の後の抗てんかん剤発見の導火ともなり,1938年,Merritt及びPutnam2)によるSodium5,5-Diphenyl Hydantoin(Dilantin Sodium, Aleviatin)の紹介は,てんかん治療上の,最も注目に値する功績と云う事が出来よう。

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まえがき

 疼痛や運動知覚麻痺などの神経症状を主訴とする患者のうちで,臨床検査や各種「レ」線像などから確定的な診断を下し得なかつたものをとりあげ,そのうちの多数において髄液中にMenkin因子の存在を明らかにすることにより,これらの神経症状の重大な成因の1つとして髄腔内の炎症性病変を重視してきた。

 炎症は間葉組織,とくに血管とその周囲を場としておこる催炎機序に対する防衛のあらわれといわれる。脊髄における血管は,その周囲の間葉組織が少なく,しかも豊富なる血管がある。そしてその本質的成分である神経細胞は再生機能を有しない点から,脊髄とその周囲の炎症の結果は当然に憂慮すべきである。循環障害のためにおこる前脊髄動脈症候群の原因の1つに,この炎症を考えるべきことはいうをまたない。そこで著者らは,まず催炎機序の不明な脊髄炎を主な対照とし,さらに腫瘍からの二次的炎症をも考えにいれてMenkinの炎症の立場から研究をなし,ついでこれに対する対策にいささかの知見を得た。一方にMenkin因子を成熟犬の硬膜内に注入して,脊髄およびその周囲の血管にみるべき病変を惹起し,前脊髄動脈症候群の成因につき,1つの検討を加えたのでここに報告する。

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 我々はさきに実験的に軟膜血管の結紮により脳出血を発生せしめえたが更に前脊髄動脈の結紮により脊髄血管障害を生ぜしめえたので我々が経験した脊髄血管障害と思われる1臨床例と共に報告する。

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 最近我々は前脊髄動脈症状群と考えられる4例及び本動脈領域の血行障害が大きな役割をはたしたと考えられる6例を経験したのでこれを報告した。

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 最近我々は脊髄出血を呈した血友病患者の1例を経験したのでこれを報告し,併せて脊髄障害を示した9例の白血病について脊髄出血を中心に検討を加えた。

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 油性ペニシリン筋注後に下半身麻痺を来した1症例を報告する。

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 近年本邦に於いても脊髄血管障害への関心がたかまり,なかでも特異な麻痺症状を伴う前脊髄動脈症候群については2〜3の綜説1),2)も試みられている。

 我々は過去6カ年間に7回下肢麻痺発作をおこし,6回目までは完全治癒がみられ最後に前脊髄動脈症候群を呈した1例を経験した。現在尚経過観察中であるが興味ある症例と考えられるのでその概要を報告したい。

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 白血病に於いて,中枢神経系の合併症を見る事はよく知られている。此症状の種類,病因については,一般に脳出血等の脳の病変が比較的多いとされている。これに反し脊髄の変化はその症状が顕著で,注目されるものであるに拘らず,比較的報告例は少い。又脊髄の変化は多くは髄膜への白血病性浸潤,硬膜外腫瘍形成による圧迫に依るもので,出血や実質内浸潤等は比較的稀といわれている。我々は臨床症状,剖検所見等から,出血,又は軟化の血管障害が主役を演じたと考えられる脊髄横断症状を呈した急性白血病の1例を経験したので報告する。

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 脳の血管性障害に関しては,古くから数多くの研究がなされているが,脊髄の血管性障害については,実際に遭遇する事も少く,診断も困難であるのであまり関心が向けられていない。ただ前脊髄動脈症候群に於ては典型的症状を呈する場合が多く,比較的診断が容易であり,我が国に於ても数例の報告例がある。

 我々も先に前脊髄動脈症候群の1臨床例について報告したが(内科2巻6号p.142)今回はその症例も含めて,脊髄循環障害の5例についてのべたいと思う。

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 著者等は臨床的にSpinal Apoplexyと思われる1例を経験し,本疾患にみられる特徴ある症候について,若干の考察を加えたのでここに報告する。

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 前川内科入院患者において脊髄血管障害と思われる患者の中,比較的典型的と思われる脊髄出血例を1例述べ,簡単な考察を加えて見たい。

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 吾々は脊髄血管障害の中でも比較的稀である脊髄横断麻痺と考えられる1例と,脊髄のvascularmalformationの2例を経験したので報告する。

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 脳腫瘍(とくにglioma)、動物脳,人胎児脳の組織培養を行い,培養上のgliaをspongiobiast,astroblast, astrocyte, o)hgodendrocyteに区別して,夫々の形態学上の特徴をのべた。glionlaを培養所見からanaplastic glioma,spongioblasticghoma,astroblastic glioma,astrocytic gliomaoligodendrocytic glioma.本態不明細胞の出現したglioma,培養不成功のgliomaの7群に分ち培養成績と病理組織学的所見,臨床的経過を比較検討した。

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緒言

 脳腫瘍の病理組織学的研究に就ては現今殆んどその大成をみたかの如き観があるが5),6),20),28),29),44),45),53),65),併しその細胞学的業績は意外にも尠い。これは,按術的にはCajal,Hortega等の各種鍍銀法に限界があり,これらは膠細胞を単にシエルエットとして捉え得るに過ぎず68),又Pomeratの指摘する如く,一般の研究の主限が神経細胞におかれて,その物質並びに勢力代謝に果す膠細胞の予想以上の役割が等閑に付さねている50)ことによるものと思われる。

 しかるに位相差顕微鏡(Phase Contrast Microscope以下P. C. M.と省略)の出現により,生きた細胞の詳細な動態観察が可能となつた。神経組織は最も古い組織培養の歴史を有するだけに,この方面へのP. C. M.の応用がいち早く行われるに至つた事は当然である。即ちPomerat('51)54),('55)55),Costero('51)11),中沢('54)52),中井('56)51),Wolfgramm('57)68)及びその他の多くの学者10),30),63)が夫々の立場から研究に着手し,生きた神経細胞及び膠細胞の動的構造は漸次明らかになりつつある。

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I.緒言と文献

1.鞘細胞性腫瘍の特徴

 皮膚腫瘍検片中の良性腫瘍では一般に血管性腫瘍と鞘細胞性腫瘍が多く,殊に後者は種々の方面から精検せられている。之は其の大多数は良性腫瘍なのに其の像が相当雑多性を示すからだろう。結局神経組織は正常でも腫瘍でも組織像が雑多な事が考えられる。従来の研究は鞘細胞の組織発生や鞘細胞性腫瘍が外胚葉由来か,間葉由来か,又其の細別名の可否等が主だが,此の報告はそれ等の細論は避け鞘細胞性腫瘍の諸像の観察結果を述べる。鞘細胞性腫瘍像の成書の説明が案外充分でなく(後述),鞘細胞や鞘細胞性腫瘍の組織発生由来や命名を論ずる前に,鞘細胞性腫瘍の雑多な諸像を充分知る事が検査上重要だと思つたからである。

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第1章 緒言

 従来外科の領域に於いて,手術という大なる侵襲をはさんで術前より術後迄,各種の検討を行い1〜8),輸血輸液の適正量を論じた業績は非常に多いが,頭部外科におけるそれは他の外科領域に比して非常に少ない。

 頭部外科に於いては一般的なる手術侵襲に加うるに,生体の物質代謝の中枢たる脳に対する直接の影響よりしても,生体の受ける態度に特異性の生ずる事は充分に想像せられる所である。この方面に従来より比較的優れた業績の揃つているのは電解質変動の部門であつてCooper9)10),Wise,11)Mayerson12),Wilde13),Pool14),Walker15),Woringer16),Anthonisen17),陳18)等が解析を試みたが,術後血清中のNa,K,Clの濃度と予後の問題では尚意見が一致していない。輸血量と術後の血液像を充分に追及したものは本邦には之を見ず,外国ではSmolik19)等が術後の血液の性状,循環血液量を測定しているが,他の外科領域のそれ等に比すれば甚だしく淋しい。

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1.まえがき

 後天性の精神薄弱,テンカンまた脳性麻痺などが,小児期に,はげしい脳症をきたすような諸疾患にかかることによつてひきおこされることは,精神神経医学のよく経験するところである。ところで疫痢疾患が後者の代表例の1つとなるかどうかは,現在のところなお充分明らかにされていないとはいえ,詳細な研究対象に充分価することは臨床経験のよく教えるところである。疫痢脳髄の病理組織学については,白木ら1),諏訪2),3),丸木6)の最近の文献成果をあげることができるが,それらの資料の多くのものけ,48時間以内に死亡した最急性期のものに属している。一方,小児期に疫痢もしくは疫痢よう疾患の既往歴をもち,それに密接に関連して精神神経障害を発展し,10数年後に死亡した慢性期の脳病変の成果(石崎4)白木ら5))もあげられる。

 しかし自明のように,両者は時期的にみて,あまりにも相へだたるところが多く,したがつて両者の中間期に相当する資料の検討が当然のぞまれることになるであろう。ところで抗生物質の出現は,このことを可能にさせるようになつた。ここに報告する例の疫痢脳は,いずれもクロラムフェニコール(クロロマイセチン)が使用されたため,4日から7日間にわたつて生きのびることができたものである。

基本情報

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神経研究の進歩
4巻2号 (1960年1月)
電子版ISSN:1882-1243 印刷版ISSN:0001-8724 医学書院

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