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はじめに
脳血管疾患の後遺症は,患者の意識障害や記銘力障害など人を統合支配する働きに障害をもたらすが,同時に身体的変化を伴うことが多い。なかでも運動機能の障害は,日常生活動作を制限したり,社会的活動の機会も減ずることがある。患者の適切な姿勢や移動動作への支援は,患者の生活の自立の一歩となるものであり,それは社会復帰への一歩でもある。そのため看護者は,病態を理解し,患者の運動機能の改善に積極的に取り組む必要がある。
特に片麻痺では,身体の右側と左側とに異なった感覚が出現することから,患者は混乱し方向感覚さえ失ってしまうことがある。また,転倒の恐怖感から姿勢保持に努力することで,かえって筋緊張が高まり,痙性麻痺(錐体路系の障害による筋緊張の亢進状態)の増大を誘発し,異常姿勢パターンを生じることになる。
急性期からの望ましい良肢位保持(以下ポジショニング)や,安楽な姿勢・体位変換,移動動作など基本的動作の再学習は,関節拘縮や廃用症候群の予防,闘病意欲の向上とともに,日常生活動作(以下ADL)の拡大に直結するものである。一般に残存機能を生かす意味で健側の強化がされやすいが,むしろ患側の潜在機能回復と再教育が必要であり,患者が「健常者の姿勢」に近づけるよう,異常姿勢パターンを変化させるアプローチが必要になる。特にこの時期は,病棟ナースが中心的役割を果たすことが多く,患者の全身状態の管理に細心の注意を払いながら,早期からのROM訓練(他動運動や自動介助運動など)や,ポジショニングなどに看護の役割が期待される。
急性期を過ぎると,ADLの拡大がプランの中心となり,たとえば理学療法科でのリハビリテーション(以下リハビリ)は,患者のADLの拡大を支える基盤となる。看護プランの到達目標の設定や援助プランの具体的目標など,理学療法科との情報交換および連携は,病棟で行う看護の量的・質的援助にも影響を与えるものである。患者のリハビリへの意欲的な取り組みが,生活動作を促進し,自立度を高める。その一方で,病棟でのADL拡大の取り組みが,リハビリへの意欲につながる。看護職には,患者がリハビリを段階的に行いつつ,新しい試みを自発的に選択でき,計画に沿って実践できる時間と機会が十分与えられるよう配慮しながらの励ましや共感的な関わりが求められる。
看護者は麻痺による身体の変化(不安定さ)や,関節拘縮・循環障害,および運動機能の障害が様々な合併症を引き起こすリスクについて十分理解すると共に,体位変換やポジショニング,起居動作を安全・安楽に行うことができるよう,根拠に基づいた技術を提供しなければならない。患者が退院後も継続して在宅リハビリなどの形でADL拡大が図れるよう,心理的,社会的な自立を目指した病棟サイドの統合的なプランが必要とされる。そのため,最終ゴールや目標といった治療達成の方向性について,日ごろから検討を重ねておくことが必要である。
筆者は2002年に大阪府立看護専門学校3年課程の2学年を対象に成人看護学「運動機能に障害をもつ患者の看護」を担当し,学生が運動機能の障害,特に片麻痺についての認識を深め,姿勢・移動への援助を具体的に習得するための体験型授業を実施した。その際に,他職種との連携を学ぶことを目的として,理学療法士(以下PT)との協同による授業を試みた。
授業後の学生のアンケート結果で,「患者の立場をイメージでき,根拠をふまえた患者の姿勢や移動動作が安全・安楽にできる知識と援助技術が身についた」「PTと接し,リハビリに専門的知識をもつPTと看護の連携が,患者にとって有効であることがわかった」などの意見がみられたので,その授業内容を紹介したい。
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