Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
田中英光の『月光癲狂院』—昭和20年代の精神障害観
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.394
発行日 2019年4月10日
Published Date 2019/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201619
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昭和24年に田中英光が発表した『月光癲狂院』(『田中英光全集7』,芳賀書店)の冒頭には,精神病の特徴を論じて,「(精神病患者の最大の疾患は,自分を患者と意識しないこと)にある」と指摘する部分がある.終戦間もないこの時期,田中は,病識の欠如という問題を,精神病者の第一の特徴として挙げているのである.
それに次いで田中が指摘するのが,「精神病という,病気をいかに定義するか」という問題である.これについては,「現代の進歩した精神病理学の,ある学派の定義によると,(精神病とは,決して脳や,人間の肉体の一部の疾患ではなく,その人間の反社会性の量により,その人間が,病人かどうかが決る)といわれる」としたうえで,「諸君がもし,仮にも革命家か,芸術家であるならば,その精神病理学者の眼からは,否応なしに精神病者と定義せられ,ある場合には,社会から隔離せられた精神病棟にぶちこまれる可能性まである」と警告するのである.
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