鏡下咡語
「月光」—ヨーロッパの夜に働く耳鼻科医たち—
坂井 真
1
1東海大医学部耳鼻咽喉科
pp.882-883
発行日 1980年10月20日
Published Date 1980/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492209164
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「月光〈ムーンライト〉」とはいっても,ベートーベンやドビッシイの名曲とはあまり関係のない話である。昔アイルランドで,小作人の組合運動家が借地代を払わなかったり,夜陰に乗じて無法を働いたりしたそうで,そのような者のことをmoon lighterと呼んでいた。これから転意してmoon lightingという言葉は「夜ナベ仕事をする」,「内職をする」という意味の俗語となった。日本語では,さしずめ「ヨルバイト」という言葉があてはまると思う。日本語,英語とも共通して,明るい日なたを避けて,何となくひっそりと暗がりで仕事をするという,あまりおおっぴらにできない事情を示す表現であるのが面白い。
今年の4月末から3カ月間,欧州各地の大学や病院を訪ね歩き,大学教授から若い教室員,研究者までの幅広い層の耳鼻科医たちと話をする機会に恵まれた。そして,思いもかけぬことに,ヨーロッパの国々の耳鼻科医たちがいろいろなmoon lightingをしていることを知った。それがどんな仕事であり,内職をすることの背後にある事情など聞いてみると,それぞれのお国柄がしのばれる興味ある話が集まったので,この一文をつづることにした。
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