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この間,『教養としてのギリシャ・ローマ—名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄』(東洋経済新報社)という本を読んだ。「読む」と言っても,私の場合は通勤の車の中で「聴いた」ということだが,著者は中村聡一氏(甲南大学マネジメント創造学部)である。欧米の名門大学では,ギリシャ・ローマ時代の「自由7科」(文法,修辞,弁証,算術,幾何,天文,音楽)に起源を置く古典的教養(リベラルアーツ)の教育・習得が重視されている。
最近では,GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)でもこのようなリベラルアーツに注目が集まっているらしい。米国ではMedical Schoolで医学の専門教育を受ける前に一般教養課程の修了が必要であり,その中核にリベラルアーツがある。医師を目指す現代の学生がいまさらプラトンやアリストテレスの思想・哲学を学ぶ意味はどこにあるのか。中村氏の本には明快な答えがある。日本の多くの大学では真のリベラルアーツが教えられていないという話はよく耳にする。私の所属する大学でも,医学部で学ぶべき専門教育の内容が加速度的に膨らんでいくにつれ,一般教養課程はどんどん縮小されてきている。私はむしろ医学部の専門教育の前に,人間性に関するリベラルアーツを学ぶ期間が十分にあるべきだと考えている。極端に言えば,医学部入学の前に別な学部で教育を受けてもよいのではないか。実際に,最近の精神科医は,他学部を中退ないし卒業した後に医学部に入り直した人が増えている印象がある。そして,これは精神科に限ったことではなく,多様なバックグラウンドを有する人は医学部を卒業して医師免許を取得したとしても,起業したり,官公庁に就職したりするなど,卒後も多様なキャリアに進んでいくことが多い。
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