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つい先日,中学・高校の同級生である椙村春彦くんと酒を飲む機会があった。椙村くんは30代で浜松医科大学の腫瘍病理学講座の教授になった俊才である。ちなみにその席では,同じく浜松医科大学生理学の高田明和名誉教授と分子解剖学の瀬藤光利教授という世界を牽引する基礎研究者とご一緒させていただき,大変楽しい時を過ごした。はるか昔,私がまだ心理学を志す文科系の学生であった頃,当時東大医学部の学生だったこの椙村くんと一緒に七沢病院に河内十郎先生を訪ねていったことがあった。おそらく1977年のことだったと思う。実は河内先生はわれわれの中学・高校の先輩なのである。河内先生は未熟なわれわれに神経心理学の基礎を丁寧に教えてくださった。私が「失認」という言葉を初めて耳にしたのはこのときである。その後,椙村くんは癌病理の道に進んだが,私はやがて神経心理学を専門とするようになり,河村 満先生の研究会や学会などで河内先生には大変にお世話になった。
河内先生がノーマン・ゲシュヴィンドのもとに留学されたのは,本号の「現代神経科学の源流・ノーマン・ゲシュヴィンド」(河内十郎×酒井邦嘉)にあるように1982年である。私が同じくボストンに留学したのは1992年だからちょうど10年後である。ゲシュヴィンドは既に亡くなっており,私の指導教授はゲシュヴィンドの直弟子のマーテイン・アルバートであった。対談にもあるように,当時のカンファレンスはイーデイス・カプラン,ハロルド・グッドグラス,マイケル・アレキサンダー,マーセル・キンスボーン,ナンシー・ヘルム・エスタブルックスらが一堂に会し,談論風発する様はまさに圧感であった。私自身も2年間の留学の最後にはグランドラウンドを任され,壇上で患者さんを診察して,デイスカッションの司会をした。大変に緊張したが,やり遂げた後にかけてもらった祝福の言葉は今でも忘れられない。
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