--------------------
あとがき/読者アンケート用紙
三村 將
pp.302
発行日 2016年3月1日
Published Date 2016/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200396
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
2年ほど前,急性錯乱を呈した10代の女性が緊急入院してきた。著しい興奮状態で,気分の高揚や脱抑制のため,身体拘束を余儀なくされたが,やがて急速に無動・緘黙となり,拒否的で疎通が取れなくなった。その方と前後して,もの忘れと集中力低下のため,うつ病が疑われた20代の女性が入院した。口部ではなく,下肢に不随意運動を認めるのが特徴であった。精査の結果,この2人の若い女性はともに抗NMDA受容体脳炎と確定診断し,ステロイド投与と卵巣摘出で寛解に至っている。その後,10代の方は大学に進学し,20代の方は結婚された。
さて,本号の症例報告は,抗グルタミン酸受容体抗体が検出された急性辺縁系脳炎の19歳女性である。最近,さまざまな抗グルタミン酸受容体抗体陽性を示す脳炎例が報告されている。多くは呼吸管理を要するほど重症になったり,本号の症例のように髄膜炎所見や神経学的所見がみられるが,われわれが経験した抗NMDA受容体脳炎の例のように,ほとんど精神症状のみを呈する場合もある。このような例は最近では珍しくなく,むしろ精神科領域ではトピックと言ってもいい。特徴的なのは,前向健忘や情動不安定とともに,「周囲の人の動きがスローモーションにみえる」「歌が逆から流れているように聞こえる」「しらすの目が怖い」といった時間や知覚体験の変容である(船山道隆,他:抗NMDA受容体脳炎と精神疾患の鑑別.臨床神経心理24:5-10,2013)。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.