- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
2016年10月は大隅良典・東京工業大学栄誉教授がオートファジーの研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞するというトップニュースで幕を開けた。さらに,ノーベル文学賞は歌手のボブ・ディラン氏に贈られるというサプライズもあり,今年も何かと話題の多いノーベル賞である。毎年この時期恒例のノーベル賞であるが,私がいつも思い出すのはアントニオ・エガス・モニスである。ポルトガルの神経科医のモニスは「ある種の精神病に対する前頭葉白質切截術の治療的価値に関する発見」,いわゆるロボトミー手術を考案した功績で1949年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。その後,ロボトミーは著しい有害事象のため批判を浴び,今日「史上最悪のノーベル賞」とまで酷評されている。特に,日本では,その目的と適応の拡大・濫用もあり,ロボトミーが激しく糾弾され,今日でも精神外科そのものがタブー視されてしまっている。今後,脳深部刺激をはじめ,難治性精神疾患に対する精神外科の応用については,中立・公正な立場で,科学的かつ倫理的な側面を含めた議論が必要であろう。
さて,本号の増大特集は「連合野ハンドブック」である。ヒトの大脳連合野,特に前頭連合野の機能解明には,皮肉にも上述のロボトミー術後の患者の臨床観察と神経心理検査が大きな役割を果たした。ウィスコンシンカード分類検査をはじめとするいわゆる前頭葉機能検査は,ロボトミー術後や戦争による頭部外傷後の患者の病態解明に多大な貢献をしてきた。筆者の所属していた研究室では,概念の形成・転換に関する前頭葉機能検査の開発・整備を中心テーマとしていたが,その後さらに思考・推論の領域まで関心を広げていった。筆者の学位論文テーマは脳損傷患者の推論能力であり,前頭葉損傷例と頭頂葉損傷例では,予測や仮説検証の障害パターンが異なると考えた(Keio J Med 41: 87-98, 1992)。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.