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あとがき/読者アンケート用紙
三村 將
pp.682
発行日 2017年6月1日
Published Date 2017/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200807
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発語に顕著な障害があり,ほとんど「タン」としか発声できない症例ルボルニュの脳病理学的所見を,ブローカ(Pierre Paul Broca;1824-1880)が解剖学会の会報で発表したのは1861年のことであるから,150年以上も昔のことになる。これは失語症のような特定の高次脳機能障害を大脳の局在病変と明確に関連づけた最初の報告であるとされているが,実は別のフランスの神経学者ダックス(Marc Dax;1770-1837)が30年近く前の1836年に先行して同様の知見を報告していたとされる。いずれにしても,ブローカ以降,ウェルニッケ(Karl Wernicke;1848-1905)によるウェルニッケ失語の報告をはじめ,大脳病理学,現在では神経心理学と呼ばれる研究アプローチを通じて,大脳症候と損傷局在に関する数多くの知見が得られてきた。今日では,ブローカ失語はブローカ中枢のみの限局損傷では生じず,さらに広い領域に損傷が及んでいることもわかっている。このような進歩には,頭部CTやMRI,さらに脳血流SPECTやPETといった脳のイメージング手法の進歩が大きく貢献していることは言うまでもない。特定の脳機能を限局した損傷と結びつける古典的な大脳局在論は,大脳全体論とのし烈な議論を経て,今日では機能的局在論と呼ばれる立場へと発展してきた。特に,最近はfMRIの機能的結合についての解析技術の進歩から,単一の局在部位よりも機能的ネットワークを重視する立場が趨勢である。
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