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あとがき/読者アンケート用紙
森 啓
pp.1074
発行日 2015年8月1日
Published Date 2015/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200261
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「坂路で聞こえる話」
非常勤講師として講義をしている某大学の最寄り駅を降りると,大学へ向かう長い坂道が立ちはだかる。体力の衰えを実感するこの頃だが,この坂道は「老い」から目を背ける私に容赦なく現実を直視させる。昔は,どちらかというと歩くのが速いほうだったが,この頃はたしかに遅くなったと密かに実感している。自動車でも発進時や坂道での負荷時に,明らかな性能差が感じられるように,この坂道では,20歳前後の若い男子学生との差が歴然となる。後から来る学生も,あっという間に追いつき,追い抜いて行くのを呆然とただ眺めているだけである。もちろん,頑張れば,ついて行かれるとは思うが,そんなことを張り合う理由もなく,ただ次々に通り過ぎる学生の後ろ姿を眺めていた。
そうこうしていると,先ほどより後方から明るい声が響いてきた。女子学生である。「……そしたら先生も喜んで,ダンスしはじめたんよ」「それってめちゃドエムやん」。笑いながらの会話にふさわしい内容かどうかを見極めるすべがないが,若い娘が公共の場で口に出す言葉としては遠慮願いたいと思いつつ,聞き耳を立てるでもなく次々と屈託のない3人の天真爛漫な会話が耳に飛び込んできた。つい,どんな学生かと思って先を譲るように歩幅を緩めながら脇にそれた。後でわかったことだが,大学に併設されている国際高校の学生のようである。
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