--------------------
あとがき
三村 將
pp.866
発行日 2012年7月1日
Published Date 2012/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101257
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
今月号の特集は「顔認知の脳内機構」である。数年前に『人は見た目が9割』という本が話題になったことがあった。挑発的なタイトルはともかくとして,確かに外見はその人の印象を大きく左右するし,外見の中核にある「顔」の持つ情報量は測りしれない。顔情報の多くは視線や表情の動きを含めて動的であり,刻々と変化するダイナミックな環境に適応していくうえで決定的に重要である。人の社会性が高度に発達するにつれ,顔を認知するための脳基盤も進化,精緻化されてきた。
本特集記事を繙くと,今日の神経科学的知見の集積により,顔認知に関する脳内機構がここまで明らかになっているという事実に舌を巻く。顔認知は単純なテーマではない。アプローチの技法としても,行動観察,錯覚を含めた心理実験,fMRI・NIRS・事象関連電位・MEGといった機能画像解析など,多岐にわたる。ヒトと類人猿やサル,その他の動物との顔認知過程の異同をみる比較進化学的観点も重要であるし,ヒトにおいても健常者以外に,さまざまな精神・神経学的な疾患や病態による顔認知の障害を扱った神経心理学的研究や,乳児研究を中心に顔認知の発達過程の解明が進んでいる。顔認知のような複合的な問題はこのように,それぞれの立場からの研究が相補的に対話していくことが何より重要である。
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.