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今年度から『臨床皮膚科』の編集委員の末席を汚させていただくことになった.浅学菲才の身ながら光栄に感じるとともに,その重責に身の引き締まる思いをしているところである.特に71巻3号で査読者の責任について記された渡辺晋一先生のあとがきは,容赦なく次々と送られてくる査読を前に,「的外れな意見になっていないだろうか?」とか,「論旨が不明に見えるのは,もしかするとこちらの知識や理解力が低いせい?」といった「迷い」が生じる一因となっている.ただ,あまり迷い過ぎると,査読はどんどんたまっていく一方で,これまた容赦なく次々と襲ってくる病院内の事務的雑用とともに山積してしまう.結局どこかで踏ん切りをつけて,処理していかなければならないと悟った.そこで金〜日曜日受取や学会出張などの例外を除き,とりあえず「2日以上はためない」というルールで査読するようにしたところ,病院内の事務的雑用の処理まで心もち早くなったような気がする.
そんななか,20年くらい前留学から戻ったばかりの頃,The Journal of Dermatology(JD)の査読でヒヤっとした記憶が蘇ってきた.アジアの某国からの投稿であったが,論旨も明確,実験もほぼ完璧,はっきり言って自分の研究より数段エレガントなレベルであった.普通なら文句なくアクセプトだが,1つひっかかった.「JDへの投稿にしては良すぎる」と.そこで,論文のキーワードのいくつかで文献検索したところ,何とThe Journal of Clinical Investigation(JCI)に全く同じタイトルの論文を発見したのである.アブストラクトの文言まで酷似しており,どう考えても「盗作」である.当時は電子ジャーナルの時代ではなかったのでいわゆる「コピペ」ではなく,JCIの著者と同じラボで働いていたアジア人が,帰国後の学位取得か何かのために,JCI論文のファイルを体裁だけJD用に換えて投稿したのではと推測した.JDならバレないだろうと思われたのなら,ずいぶんと人を舐めた話である.そのまま掲載していたらとんだ赤っ恥になるところであった.ここまで稚拙ではないが,結果の写真を裏返して別論文に掲載などの話もあるし,あの小保方氏の話もしかりである.学生のレポートでもウィキペディアなどのコピペが絶えないので,検出ソフトがあるそうである.ただどんなソフトより,「何かおかしい」という直感こそ大事で,そんな勘所を今後研ぎ澄ましていければと思う.まあ将棋のように,これもそのうちAIに置き換わるかもしれないが.
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