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あとがき
内村 祐之
pp.54
発行日 1953年1月1日
Published Date 1953/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406200329
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何人かの醫學者がアメリカの留學から歸つてきて言うのは,日本の醫學界の水準がなかなか高いということである。研究設備や研究費の彼我のちがいがあまりに大きいために,大規模の新しい研究には支障があるが,研究心の強いことや考え方の鋭いことで,日本人が西歐諸國に對して差して劣つていないことは,私も研究の中心地にいてかつて感じたことである。ただ今日なお日本の醫學研究の上で困つた通幣は,各專門分科の間で,意見の交流が少ないという,昔ながらのセクショナリズムである。
今度醫學書院から私の編集で,「テンカンの研究」が出版されたが,各分科にわたつたテンカン研究のエキスパートが,ほとんどすべて筆を執つて下さつた。しかも日本の醫書に有り勝ちな綜説的のものではなく,みな自己の研究成果であるという點でも特色がある。我田引水ではないがこのような醫學圖書が出たことは,日本の醫學として誇つてよいことではないかと思う。ただ發行部數の關係で單價がやや高いのが殘念であるが,この種の圖書が廣く理解されるようになる時こそ,日本の醫學の水準がさらに一歩前進する時だと思う。とに角よい本が出來たものだと私は大いに喜んでいる。
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