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新医師臨床研修制度(新研修制度)が始まって,わが国の医療崩壊が始まったように言われているが,医療崩壊はすでに医療費亡国論が提出された頃から始まっている.今後高齢者が増え,さらなる新薬が登場すれば,平均寿命が伸び,医療費が増大するのは自明のことである.それにもかかわらず,医療費を削減するのは,時代の流れに逆行することであり,当然そのしわ寄せは病人やその家族,さらには医療従事者に及ぶことになる.それでは新研修制度の最大の負の産物は何かというと,地域医療の崩壊を招いたことである.
新研修制度の最大の目的は,従来大学病院が担っていた医師の養成機能を,市中病院に移すことである.これには,厚生労働省(厚労省)が医師の養成を主導する立場にありながら,実質的には医師養成が大学病院という文部省管轄下で行われていることへの反発がある.つまり研修医養成の予算を握っている厚労省が,その権益を取り戻したいということである.さらに大学病院と,そこから医師を派遣してもらっている市中病院の主従関係を打破したいという意向が,新研修制度を後押しした.その結果,厚労省のもくろみは成功し,地方大学病院はその存続も怪しくなるという状況に追い込まれている.単なる研修医の移動だけならば,地域医療が崩壊することはないが,厚労省は大学病院の医師派遣機能を認識していなかった.つまり今までは大学から地方病院に派遣された医師は,何年かすれば大学病院に戻れるというシステムがあったため,地方に派遣される医師が途切れることはなかった.ところが新研修制度はこのシステムを破壊してしまったため,地方病院は自力で医師を獲得しなければならなくなった.都会の医師よりも何倍も高い給料を出せば,地方でも医師を獲得することは可能かもしれないが,病院経営が厳しい昨今,それほど多くの給料は出せないのが普通である.安い給料でも数年すれば大学に戻れるという約束があればこそ成り立っていた医師派遣システムであったのだ.
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