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今年は想定外のいろいろな出来事があったが,あと残り少なくなってしまった。12月号には「臨床の本質をしっかり考えよう」という新福尚武先生の「巻頭言」をいただいた。精神医学は臨床が基盤になっている。臨床の本質は治療者と被治療者の治療志向的な関係づけの中にあって,それを深めていくことが大切である。脳科学的進歩や種々の検査データなどはその中に還元される必要がある。日常臨床を心して行わないと惰性に流れてしまうし,種々の研究も臨床に還元できてはじめて意味があることを忘れないようにという趣旨である。まことにもっともで,精神医学を俯瞰した考えを示していただき感謝したい。
また,「オピニオン」として労災適用の問題が取り上げられている。地味な問題であるがしばしば臨床において遭遇するので,知識と考え方を整理するためには大変よい機会である。労災認定が年々増加している。最初に労働局精神障害専門部会で詳細な調査報告書に基づいて3人の精神科医が協議・検討し判断をし,監督署長により労災保険給付の不支給が決定されるが,不服がある場合は,第一審査請求,第二審査請求,裁判所への行政処分取り消し訴訟というように,順次行われていく。不服請求件数と行政処分取り消し件数が急激に増加しているという。この場合業務と精神障害発生との因果関係の考え方(業務起因性)が問題になる。業務によるストレスと精神障害発生の関係を客観的に厳しく見る立場と本人の脆弱性を相当考慮した立場の違いによって大きく異なってくる。自殺した場合などはとくに業務上のストレスとの関係が結びつきやすくなってくる。精神医学的な判断とやや異なった視点が入り込んできて総合的に決定されるという。社会通念の変化の影響を受けるということであろうか。少なくとも精神医学的な考え方はきちんと述べ続けることが必要である。「展望」では女性の精神医学として非定型精神病と月経関連症候群が論じられている。非定型精神病を女性および女性ホルモンとの関連で新たに見直してみようという試みであり,興味が持たれるが,さらなる地道な症例の積み重ねが必要ではないかと思う。「研究と報告」では,総合病院での児童虐待の症例,OCDとライフイベントの関係についての研究などが報告されている。「試論」で「酩酊犯罪と責任能力」が掲載されたが,精神医学と司法の関係が明確に示されていて大変興味深い。司法精神医学の領域での貴重な資料および意見になると思う。ぜひ司法関係者に読んでもらいたい。
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