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ロンドンオリンピックでの日本選手の活躍に国中が沸き返った後は,いつもの残暑の厳しい日常に戻った感がある。9月号がお手元に届くころは爽やかな季節に移っていることであろう。本号は研究と報告が3本,短報が3本,資料が2本,紹介が2本,私のカルテからが1本とバランスよく掲載されている。研究と報告では太田保之氏と三根真理子氏が「長崎市の原爆被爆者における長期経過後の精神的影響」を報告している。被爆という心的外傷が58年後に及ぼす影響を分析した結果,影響を強く受けているものが31.9%と高く,爆心地に近い者ほど影響が強かった。しかも被爆と関係あると判断している罹患疾患数も多く,心身相関的な呪縛による身体疾患罹患への不安が持続していると考察している。心を打たれる報告である。新川祐利氏らが「大麻精神病と大麻乱用後に発症した統合失調症の違い」を報告した。乱用薬物による精神病か,薬物によって誘発された統合失調症かの鑑別は,覚せい剤精神病についても言え,てんかん精神病と統合失調症との鑑別にも言える。脆弱性素因を有するかどうかということと,病態が統合失調症の基本的な障害を示しているかが重要で,統合失調症研究にヒントを与えてくれる。伊藤大幸氏らの「日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度の開発―不適応行動尺度の信頼性・妥当性に関する報告」は,発達障害や知的障害を持つ人々を医療的・教育的・行政的に支えていくためには,知的機能だけでなく適応行動をどれだけ獲得しているかを評価することが不可欠で,世界的に認められ利用されている本評価尺度が利用できるようになれば極めて有用であろう。資料では前園真毅氏らの「韓国におけるインターネット嗜癖(依存)の現状」が興味深かった。青少年のオンラインゲーム依存で死亡や自殺ケースが問題になり,依存傾向者のスクリーニング,キャンププログラムの実施など国を挙げて取り組んでいるという。日本においても早晩問題になるので参考になるであろう。紹介欄で松本氏とDelphine氏は『自閉症をめぐるフランス的問題「壁―自閉症について試される精神分析」を中心に』を紹介している。自閉症は世界的には認知行動療法的な働きかけが有効であると評価されているが,フランスでは精神分析的働きかけとの間に論争があり,いまだに決着はみられないという。フランス精神医学の現況の一端を知ることができて興味深い。9月号でも興味深い論文を読者にお届けできたのではないかと思う。
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