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陽射しの明るさに春の訪れを知るこの頃である。3月号には京都大学の村井俊哉教授に「巻頭言」を書いていただいた。氏が翻訳した本を紹介しながら精神医学における多元主義の重要性を紹介している。今盛んにいわれている 生物・心理・社会的アプローチはこれを満遍なく行おうとするのは困難で,実際には中途半端で折衷主義に陥りやすい。それよりもスペシャリストを目指し,なおかつ他の領域を理解する姿勢を持つことが大切である。これが多元主義であるという。臨床医として患者を目の前にしたとき多元主義が有効であるか,精神科医の質の向上にどちらが有効であるかは今後議論があるであろう。氏の今後の活躍を期待したい。本号は「総合病院精神科衰退の危機と総合病院精神医学会の果たすべき役割」という特集を組んだ。総合病院精神科が厳しい状況にあり,病棟を閉鎖する施設,外来診療をやめてリエゾンだけを行っているところ,精神科を止めてしまうところもある。厚生労働省のもとで2008年4月から1年半かけて,有識者による「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」が行われたが,そこでも取り上げられた。見野耕一氏らに「無床総合病院精神科の危機と課題」を,吉本博昭氏に「有床総合病院精神科の危機と課題」を,横山正宗氏らに「総合病院精神科医師不足と診療報酬問題」を,野口正行氏に「総合病院精神科の将来像」を,厚生労働省社会・援護局精神・障害保健課 林修一郎氏に「精神科医療の現状と課題―身体合併症への対応を中心に」,朝日新聞 和田公一氏に「マスコミから見た総合病院精神科の危機」をそれぞれ執筆していただいた。異なった立場の方々にこの問題に焦点を当てて論じてもらった。大変内容が濃く,問題の核心に迫るとともに,今後の精神科関係者の努力すべき方向性が見えてきたように思う。精神医学会全体の問題として積極的に対処していく必要がある。幸い今度の診療報酬改定で,総合病院精神科へのなんらかの手当てが行われるようである。
「「精神医学」への手紙」では,上田 諭氏が小阪憲司氏に「薬剤誘発性の幻視はレビー小体型認知症の前駆症状か」という疑問を投げかけ,第一人者の小阪氏がそれに答えている。このような質疑の中で,一般的には認識が不十分な問題が明確になることは喜ばしいことである。最近レジリエンスという言葉がよく用いられるが,これを理解するための紹介論文が西 大輔氏らによって掲載されている。
本誌は症例報告などを中心とした学術雑誌であるが,今回は重要性に鑑み,総合病院精神科の問題を特集として取り上げた。読者のご批評を待ちたい。(T.K.)
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