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2007年が静かに動き出した。「血管障害とうつ病」についての巻頭言が掲載されている。Vascular depression(VD)の概念が導入されてまだ10年程度で議論が多い。これから詳しい研究が出てくるものと思われるが,VDといえども生物.心理.社会的な存在の「うつ病」である。VDと診断すると器質性のうつ病で検査や薬物療法だけに頼りがちであるが,上記3つの側面を持った「うつ病」であり,その症例にとって何が最も重要であるかを見抜いて対処してほしい。VDという診断が若い精神科医から「患者の病態を推測する柔軟な想像力や共感する力」を奪ってしまわないかと心配している。「臨床スタッフの感情表出を評価する研究」,「臨床スタッフが被るトラウマ反応」の2つの医療者側の問題に注目した研究が興味深い。特に前者の新しい評価表は簡便で今後利用されるであろう。このような研究が多く出てくることが医療のレベルを上げることにつながる。また,「クライエントパス(患者による治療経過評価)を利用した治療経過の特徴」では,患者に医療者が説明しながら,患者自身に自分の症状や行動の評価をしてもらい,経過によってどのように変化したかを記載してもらう。このようなやり方が病態の理解,治療者.患者関係の改善に役立つであろう。「摂食障害にみられる社会不安障害」の研究も興味深い。社会不安障害は単独でもよくみられ,本邦では対人恐怖症として古くから取り上げられ治療されてきたが,うつ病にも併存し「非定型うつ病」で高頻度にみられる。種々の疾患に併存してみられ,閉じこもりや自殺念慮,自殺企図を起こしやすい。社会不安障害のしっかりした治療技法を身につけることが臨床では重要である。症例報告の論文が短報5編,私のカルテから5編掲載されている。この中で「毎日の浣腸が巨大結腸,イレウス傾向に有効であった1例」は臨床に特に役立つ論文である。臨床の中で出会った特色ある症例,印象深い症例を投稿してもらいたい。日常臨床にはいろいろな問題が含まれている。これらの問題の中から,地道に工夫や努力をして得られた結果を1例報告し,その成果を多くの精神科医やコメディカルスタッフと共有してほしいと思う。この欄がそのような場になってくれれば嬉しい。
今回はLetter to editorを1通載せることができた。抗パーキンソン薬のCabergolineが双極性うつ病に用いられるという論文に対して神経内科の領域での使用経験の結果,重症の心臓弁膜症を惹起する可能性があるので注意するようにという手紙である。他の領域からの最新の情報をこのような形で今後もどしどし載せていきたいと思う。
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