胸部外科 74巻4号 (2021年4月)

特集 弓部大動脈瘤―いかに合併症をなくすか

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弓部大動脈瘤の治療成績は改善の一途をたどっている.2020年に発表された日本胸部外科学会学術年次報告2017によると,Stanford A型急性大動脈解離に対する弓部置換の入院死亡率は9.4%,真性大動脈瘤の場合には4.7%ときわめて優れた成績である.生活の質(QOL)の高い治療効果を得るためには生命予後のみならず,合併症のない,あるいは合併症が起こっても迅速に対応することによって障害を残さない取り組みを行うことも重要である.

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Stanford A型急性大動脈解離の手術成績は,術式の改良,周術期管理の進歩により,年々改善してきているが,術後在院死亡率17~25%といまだに良好とはいいがたい1,2).一方,本邦における手術成績は術後在院死亡率9.1~11.8%と,優れたものとなっている3~6).しかし,術前臓器灌流障害を伴った症例の術後成績は不良であり3,7),特に中枢神経系の障害をいかに軽減させるかが,さらなる成績向上の鍵である.われわれは,当施設でのStanford A型急性大動脈解離手術成績を提示するとともに,脳合併症軽減を中心とした臓器灌流障害に対する戦略を述べる.

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急速な社会の高齢化に伴う心臓血管疾患の増加により,心臓血管外科医は超高齢者に対する外科治療に否応なく対峙せざるをえなくなった.特に胸部大動脈手術は過去10年間でほぼ倍増し1),80歳以上の超高齢者の胸部大動脈手術は日常的な治療となった.

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弓部大動脈瘤に対する手術成績は年々改善しており,待機的弓部置換術の成績は2017年の年次報告によると在院死亡4.7%となっている1).しかし,術後脳梗塞は依然として予後を左右する重要な合併症であり,送血法,脳保護法などが工夫されてきた2~8).当院では,右腋窩動脈+大腿動脈送血を基本としてきたが,現在は両側腋窩動脈送血を第一選択としている9).また最近では末梢吻合にfrozen elephant trunk(FET)法を積極的に採用している.当院での非破裂真性弓部大動脈瘤に対する待機的弓部大動脈置換術の成績について,定型化した術式とともに報告する.

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弓部大動脈瘤に対する術式は,胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)の進歩に伴いさまざまな方法が報告されている.当院では開胸手術による弓部大動脈置換術(TAR)と開窓型ステントグラフトを用いたTEVAR(fenestrated TEVAR:fTEVAR)を主に施行している.治療方針としてはTARが基本であるが,年齢や併存疾患,術前状態についてのEuroSCOREⅡによるリスク評価やフレイリティの評価において,開胸手術が高リスクと考えられる症例で解剖学的条件が許す場合には,より低侵襲なfTEVARを選択している.本研究では,最近6年間に当院で弓部大動脈瘤に対してTARまたはfTEVARを施行した症例について,治療方針の妥当性やそれぞれの問題点について検討し,合併症を減らす工夫について考察する.

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高齢化社会と血管病認知度の向上とともに,大動脈瘤,大動脈解離などの大動脈疾患が増加し,特に高齢者の胸部大動脈疾患の増加が著明である.胸部大動脈疾患に対する治療においては,従来の人工血管置換術に加え胸部ステントグラフト(SG)内挿術(TEVAR)がより低侵襲な治療法として出現してきた.特に高齢者の胸部大動脈疾患において,治療の低侵襲性は大きなメリットであり,2008年に企業製SGが承認されてからは急速に普及した.一般論として外科手術のほうがより根治的で長期成績が良好である一方,侵襲が過大となり,短期的には根治性というメリットがいかされない場合がある.胸部大動脈瘤において人工血管置換術では胸骨正中切開あるいは開胸を余儀なくされるので侵襲が高く,それを著しく軽減できるTEVARの利点は大きい.しかしながら,TEVARには解剖学的な条件がある.弓部大動脈瘤においては屈曲部への留置,頸部分枝の存在など,TEVARのみでは不利な点も多く,それを補うために外科手術と組み合わせたハイブリッド治療を含めたさまざまな工夫が行われてきた1~5).当初は低侵襲性が大きくクローズアップされたが,企業製SGの導入後10年以上が経過し,TEVARの中期・長期成績とともにTEVARのデメリットも明らかとなってきた.弓部大動脈瘤においては脳梗塞などの重大な合併症を起こすことなく,安全かつ確実に治療を行うことが重要である.本稿では弓部大動脈瘤の治療を安全に行う戦略について概説する.そのためにはまず画像診断が重要で,術前に頸部分枝から大腿動脈まで造影CTを撮って詳細に評価する.特に弓部を含めた血管の性状,径は非常に重要である.

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2021年に発表された最新の日本胸部外科学会年次報告2018によると,真性大動脈瘤に対する弓部大動脈置換術2,198例の入院死亡率は3.0%,Stanford A型急性大動脈解離では弓部大動脈置換術1,956例,10.1%であった1).2009年に発表された日本胸部外科学会年次報告2007では,弓部大動脈置換術の入院死亡率は真性大動脈瘤6.2%,急性大動脈解離14.5%であり2),近年,弓部大動脈置換術の手術成績が向上している.これは,脳保護の進歩によるところが大きい.われわれは,全弓部大動脈置換時の脳保護に焦点を当て,①術前検査,②術中モニタリング,③脳灌流(順行性選択的脳灌流法・逆行性脳灌流法),④脳塞栓予防について述べる.

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弓部大動脈置換術は,脳保護の進歩,手術手技の向上,人工血管の改良などにより,手術成績が大きく改善した.最新の本邦の全国集計によると,非解離性大動脈疾患に対する待機手術の病院死亡率は3.0%と報告されている1).しかし,低体温循環停止を要する侵襲度が高い手術の一つであることにかわりなく,いったん重篤な合併症が発症すれば,患者の生命のみならず生活の質(QOL)も大きく損なわれる可能性がある.われわれは,術者の技量に大きく依存せず,安全かつ合併症を許容範囲内に収めるために,弓部全置換術の標準化に努めてきた2,3).当院の弓部全置換術における注意点と,執刀医の経験値が手術成績にどのような影響を与えるかについて検討を行った.

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呼吸器外科における肺動静脈の心囊内処理の一つとして,右肺門における左右心房間溝(interatrial groove)の剝離がある.このテクニックを呼吸器外科医として知っておいて損はない.この技術を使用するタイミングは,心囊内での血管処理,特に肺静脈の中枢側の処理が必要な際であり,それほど多くはないが,手技として非常に簡便なので,筆者の経験上のノウハウを本稿で述べる.

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今から約20年前の徳島大学勤務時代に,恩師である門田康正教授(当時)にご指導いただいた長時間手術として記憶に残る症例である.手術時間は16時間35分と記録されている(図1~3).

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骨髄移植後の慢性肺疾患は予後不良な肺合併症として注目されている.われわれは骨髄移植後11年経過し,相次いで左右に発症した気胸に対する手術時の摘出標本において,組織学的に胸膜肺実質線維弾性症(PPFE)を認め,慢性肺移植片対宿主病(GVHD)の発症を疑った1例を経験したので,報告する.

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はじめに 先天性心膜欠損症はまれな先天性疾患である.多くは無症状で,他疾患精査中や手術中に偶然発見されることが多く1),肺癌手術時に発見された症例は少ない.肺切除には問題がなかったとの報告が多いが,本例は肺癌手術時の癒着剝離中に心膜欠損が発覚し,操作に注意を要した.同様の報告例の文献的検討も加えて報告する.

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はじめに 降下性壊死性縦隔炎(DNM)は,口腔や咽喉頭部などの深頸部感染症が縦隔へと波及することにより発症する,致死率の高い比較的まれな疾患である.われわれは,咽頭後壁膿瘍から発症した膿胸を伴うDNMを経験したので報告する.

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はじめに 線維性縦隔炎は比較的まれな疾患であり,気管や胸部大血管周囲など,中縦隔から後縦隔にかけて発生することが多い.細菌や結核菌,Histoplasma capsulatumなどの抗原に対する遅延型過敏反応が原因として考えられてきたが1),免疫グロブリンG4(IgG4)関連疾患との関連についても近年報告されている2).われわれは,前縦隔の胸骨裏面の軟部組織に限局した肥厚性病変を認め,切除生検によりIgG4関連疾患と診断した線維性縦隔炎の1例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する.

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はじめに 剣状突起痛はまれな病態であり,まとまったデータはなく,剣状突起切除術の症例報告は散見されるのみである.われわれは,喘息発作時の剣状突起痛に対して剣状突起切除術を施行し,良好な結果を得た症例を経験したので報告する.

胸部外科医の散歩道

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2020年は新型コロナウイルスに明け暮れた1年となってしまいました.影響を受けていない業種は皆無と思われます.しかも,その影響は一時的,一過性ではなく,今後の生活様式や職業形態をも変容させてしまうくらいのものであることも間違いありません.とすれば,現状は当座を乗り切ることで精一杯ですが,将来に向けてはある意味開き直って,「禍いを転じて福と為す」という考え方が必要でしょうし,またそうしなければならないと考えています.もちろん「転じる」ことすら困難な業種もあると思いますが,まずは健康第一,からだが資本です.国民の健康を守ることを第一としている我々は,少なくとも現行の医療水準を維持することを念頭に置き,かつ優先すべきであると考えています.

基本情報

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胸部外科
74巻4号 (2021年4月)
電子版ISSN:2432-9436 印刷版ISSN:0021-5252 南江堂

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