胸部外科 78巻3号 (2025年3月発行)

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今月の臨床

原発性自然気胸手術における二重被覆法の比較―合成吸収性癒着防止剤を用いて櫻庭　幹 , 青栁　美穂 , 石井　大智 , 畑中　望美 , 田中　明彦 78巻3号 , 2025年3月 , pp.163-167

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原発性自然気胸の術後再発率は3～12％1）と高く，特に若年発症の自然気胸では13～27％と報告されている2）．そのため，再発予防のために肺切除線上を含めた肺の被覆術が行われている．ポリグリコール酸（PGA）シート単独では壁側胸膜への癒着が強くなるため，その上に酸化再生セルロース（ORC）シートを重ねて貼付する二重被覆法（dual cover method）を当院でも行ってきた3）．

まい・てくにっく

右小開胸左房展開のコツ紙谷　寛之 , 坂口　太一 78巻3号 , 2025年3月 , pp.168-169

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低侵襲心臓手術（MICS）僧帽弁手術の左房展開の際にもっとも注意すべきは左房切開線のおき方である（図1）．右側左房切開を行うが，まず右房と左房との間を剝離する．胸骨正中切開のときほど念入りに剝離はしないが，右上下肺静脈起始部より約1 cmは左側に向かって剝離するようにしている．また，下大静脈と右下肺静脈との間も剝離しておく．大動脈遮断後，右上肺静脈起始部より1 cm左方で左房を切開し，ベントを挿入する．心筋保護液注入後，その切開線を足側に向かって延長するが，その際に右下肺静脈に近寄りすぎないように注意する．ある程度切開したところで左房切開口腹側に支持糸をかけると，後の操作が楽になる．下大静脈の裏側までしっかりと切開すると，後の左房展開に有利である．次に頭側であるが，右肺動脈と接するところまでは切開する．

今月の話題

On-X弁による大動脈弁置換術土井　一義 , 江﨑　さおり , 原　明美 , 倉本　綾佳 , 平瀬　媛菜 , 大澤　伶奈 , 緒方　嵩憲 , 吉岡　励 , 松本　徳昭 78巻3号 , 2025年3月 , pp.170-175

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On-X弁（On-X Life Technologies社）を用いた大動脈弁置換術（AVR）の良好な成績が報告されている1～6）．われわれはOn-X弁によるAVRを4例に施行し，最長15年の経過観察をしえたので報告する．

低侵襲僧帽弁形成術後に生じた肋間肺ヘルニア越江　裕基 , 森元　博信 , 原田　崇史 , 二神　大介 , 片山　桂次郎 , 向井　省吾 78巻3号 , 2025年3月 , pp.176-179

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本邦での心臓手術において低侵襲手術（minimally invasive cardiac surgery：MICS）が広く普及しているが，利点が多い反面，MICS特有の合併症も多い．その一つに肺ヘルニアがあり，発生率は1.4％といわれており，予防策として肋間閉鎖を行うことが重要である．本例は閉胸時に肋間閉鎖を行っていたが，術後に肺ヘルニアになった．そこでヘルニア修復術時にメッシュプレートを使用し，良好な結果を得られたため報告する．

手術の工夫

大動脈基部膿瘍を伴う人工弁感染性心内膜炎に対する根治的膿瘍搔爬岩崎　里衣 , 白石　学 , 假谷　幸攻 , 山田　亮太郎 , 八木　萌香 , 和田　陽之介 , 中村　宜由 , 橋本　和憲 , 中野　光規 , 岡村　誉 , 木村　直行 , 山口　敦司 78巻3号 , 2025年3月 , pp.180-184

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大動脈弁置換後の人工弁感染性心内膜炎（prosthetic valve endocarditis：PVE）では，弁輪部膿瘍および弁周囲組織の破壊のため左室流出路から大動脈基部にかけての正常な構造が失われ，再弁置換術が困難となる場合がある．本稿では，根治的な膿瘍搔爬とパッチ形成による基部形成術を行うことにより良好な結果を得られた2例を報告する．

肺膿瘍胸腔内穿破に対する遊離皮下脂肪組織を用いた修復簡野　泰成 , 馬場　峻一 , 齋藤　志子 , 下山　武彦 78巻3号 , 2025年3月 , pp.185-189

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肺膿瘍の胸腔内穿破による膿胸は比較的まれな病態であり，さらに遊離皮下脂肪組織による瘻孔閉鎖の報告は検索しうる限り数少ない．われわれは肺膿瘍胸腔内穿破により発症した膿胸に対して遊離皮下脂肪組織を用いて瘻孔閉鎖を行い，良好な結果を得た1例を経験したので報告する．

１枚のシェーマ

はじめての胸部外科手術坂尾　幸則 78巻3号 , 2025年3月 , pp.190

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1988年に大学を卒業し，三井記念病院外科レジデントとなった．心臓血管外科が2年目（6ヵ月間），呼吸器外科が3年目（3ヵ月間）のローテーション，食道の術者は基本的に5年目以降となっていた．というわけで，はじめての胸部外科領域の執刀は心臓外科領域の心房中隔欠損（ASD）であった（図1）．今ではありえないが，卒後2年目にして多くの手技を経験させてもらった．

臨床経験

胸骨後胃管再建した食道癌術後患者に対する完全鏡視下心臓手術古賀　智典 , 西嶋　修平 , 大谷　則史 , 上田　高士 78巻3号 , 2025年3月 , pp.191-193

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食道癌手術で胸骨後胃管再建を行った患者に対し，胃管損傷を避けるため完全鏡視下右肋間小開胸アプローチで僧帽弁置換術＋三尖弁輪縫縮術＋maze手術を行ったので報告する．

連載　未来の専門医を育てる！

大阪大学呼吸器外科における修練の標準化をめざした若手教育新谷　康 78巻3号 , 2025年3月 , pp.194-198

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大阪大学外科学講座は外科学の全領域をカバーする大講座として編成され，診療科単位として消化器外科，心臓血管外科，呼吸器外科，乳腺内分泌外科，小児成育外科からなり，互いに協力しながら臨床・研究・教育を推進している．そのもっとも重要な役割は優れた外科医を養成するための教育活動であり，若手育成を最優先課題として取り組んできた．

症例

20年の長期に開存した腋窩-冠状動脈バイパスの1例眞岸　克明 , 和泉　裕一 78巻3号 , 2025年3月 , pp.199-202

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はじめに　冠状動脈バイパス術（CABG）では，内胸動脈（ITA）などの動脈とともに大伏在静脈がグラフトとして用いられる．静脈グラフトの中枢吻合部は一般的には上行大動脈であるが，上行大動脈の性状不良例や再手術の場合には中枢吻合部位を慎重に検討する必要がある．現在はデバイスを用いて上行大動脈に吻合孔を作成できるが，約20年前には心拍動下CABGでは上行大動脈を部分遮断し吻合孔を作成する必要があった．

成人大動脈縮窄症に対して上行大動脈-下行大動脈バイパス術を行った1例松尾　彰信 , 石井　数也 , 松元　崇 , 内田　孝之 , 福村　文雄 , 安藤　廣美 , 田中　二郎 78巻3号 , 2025年3月 , pp.203-206

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はじめに　成人期の大動脈縮窄症は若年時から高血圧を発症し，うっ血性心不全や大動脈破裂，感染性心内膜炎，頭蓋内出血を主な死因として平均寿命は通常より短いとされる1）．高血圧や心不全，上下肢血圧差を生じる場合には手術適応とされ，治療法としては，人工血管置換術や非解剖学的バイパス術，経皮的バルーン形成術のほか，近年ではステントによる治療も行われている2）．われわれは40歳で診断された成人大動脈縮窄症に対して非解剖学的バイパスである上行大動脈-下行大動脈バイパス術を行い，良好な結果を得た症例を経験したため報告する．

冠状動脈バイパス術時に発見された心囊内横隔膜ヘルニアの1例横瀬　昭豪 , 橋詰　浩二 , 田倉　雅之 , 江石　惇一郎 , 尾立　朋大 78巻3号 , 2025年3月 , pp.208-211

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はじめに　心囊内横隔膜ヘルニアはまれな疾患で，先天性・外傷性・医原性のものがあり，外傷性の報告が多い．緊急手術例や数十年経過して発見され手術された症例もみられる．手術は開腹・開胸あるいは腹腔鏡下アプローチにより，ヘルニア門の閉鎖が行われている．われわれは冠状動脈バイパス術（CABG）時に発見された心囊内横隔膜ヘルニアを経験したので，文献的考察を含めて報告する．

Maze手術が奏効した早期心房性機能性僧帽弁閉鎖不全の1例伊東　和雄 , 田口　亮 , 鈴木　伸章 78巻3号 , 2025年3月 , pp.212-216

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はじめに　2020年に『弁膜症治療のガイドライン』が改訂され，新たに心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症が追加された1）．その特徴は，心室性機能性僧帽弁閉鎖不全症の原因となるような左室異常がなく，弁尖や腱索に器質的異常が乏しいにもかかわらず生じている僧帽弁閉鎖不全症（MR）で，左房拡大を認め，そのほとんどに心房細動を伴っているという．

心膜損傷が出血源であった鈍的外傷後心タンポナーデの1例井上　重宏 , 廣瀬　保夫 , 青木　賢治 , 佐藤　哲彰 , 佐藤　裕喜 , 髙村　直樹 , 広瀬　由和 , 佐藤　信宏 78巻3号 , 2025年3月 , pp.217-220

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はじめに　鈍的外傷による心膜損傷が臨床的に診断されることはまれである1，2）．少数の心膜損傷の手術例の報告では，心ヘルニアや腹部臓器が嵌入するなどの病態が問題となっていることが多い1～3）．われわれは鈍的外傷を受傷後4日目に心タンポナーデを呈し手術を施行したところ，心膜損傷が出血源であった1例を経験したので文献的考察とともに報告する．

偽腔血栓閉塞により真腔閉塞をきたした急性大動脈解離の1例元春　洋輔 , 北條　竜司 , 手島　英一 , 富永　隆治 , 伊藤　翼 78巻3号 , 2025年3月 , pp.221-225

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はじめに　臓器灌流障害を伴う急性大動脈解離に対する手術成績は，それを伴わない場合と比較して死亡率が高いと報告されている1，2）．近年，弓部大動脈治療においてオープン型ステントグラフト内挿術（frozen elephant trunk：FET）が登場し，急性大動脈解離に対する弓部以遠のcentral repairに対しても治療成績の向上に効果的と考えられ，普及してきた．

頸性四肢麻痺による胸式呼吸不全を合併した肺腺癌に対する肺切除術の1例松永　晴貴 , 山本　聡 , 美奈川　拡 78巻3号 , 2025年3月 , pp.227-229

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はじめに　頸性の四肢麻痺例は日常的に遭遇する病態であるが，肺癌の根治切除の対象となることはまれで，症例報告もほとんどみられない．われわれは頸性四肢麻痺を有し胸式呼吸不全を合併した肺腺癌症例を経験したので報告する．

左B1＋2転位気管支と左上大静脈を伴う原発性肺癌に対し左S3＋4＋5区域切除術を施行した1例坂田　省三 , 河内　利賢 , 今中　大起 , 鈴木　淳也 , 中村　梓 , 佐藤　大輔 , 四万村　三惠 , 櫻井　裕幸 78巻3号 , 2025年3月 , pp.230-234

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はじめに　副葉間裂を認める場合，気管支や血管の走行が通常と異なる場合があり注意を要する1）．われわれは左B1＋2転位気管支と左上大静脈遺残（persistent left superior vena cava：PLSVC）を伴う原発性肺癌に対し左S3＋4＋5区域切除を施行しえたので，文献的考察を加え報告する．

難治性気胸に対して自己血およびminocycline併用胸膜癒着術が奏効した1例原口　裕貴 , 桑原　雄紀 , 小楠　真典 , 南里　水晶 , 梶原　心 , 栗原　有紀 , 小宮　奈津子 , 田代　宏樹 , 宮原　尚文 , 中島　千穂 , 髙橋　浩一郎 78巻3号 , 2025年3月 , pp.235-238

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はじめに　気胸に対して，胸腔ドレナージなど治療介入後もエアリークが5日間以上持続する状態はpersistent air leak（PAL）と定義されている1）．PALは一般的に難治性気胸とも呼ばれ，それにいたる患者背景はさまざまであり確立された治療法はない．われわれは自己血とminocycline併用胸膜癒着術が奏効した難治性気胸の1例を報告する．

胸部外科女性医師のつぶやき

一呼吸器外科医として此枝　千尋 78巻3号 , 2025年3月 , pp.207

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このような執筆の機会をいただき大変ありがとうございます．私自身は，「女性医師」としてではなく「一人の医師」「一呼吸器外科医」として扱われたいと常に願っておりますが，日本においてはなかなかそれは難しく，特に上級医になると，自分自身が女性医師であるということを忘れずに発言しなければならないと痛感する毎日です．

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Contents 78巻3号 , 2025年3月 , pp.161

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編集メモ 78巻3号 , 2025年3月 , pp.240

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目次 78巻3号 , 2025年3月

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胸部外科医の散歩道

私の映画人生安田　卓司 78巻3号 , 2025年3月 , pp.226

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実は，私は映画大好き人間である．右の写真は自宅のリビングの棚であるが，手前から映画関連の書籍，隣が映画のDVD/Blu-rayコレクション，その向こうが映画のパンフレットと並んでいる．

基本情報

胸部外科
78巻3号
(2025年3月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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