胸部外科 77巻13号 (2024年12月発行)

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今月の話題

働き方改革に向けた地方大学心臓血管外科の取り組み中村　裕昌 , 三石　淳之 , 吉田　圭佑 , 江戸　直樹 , 齋藤　廉 , 渡橋　和政 , 三浦　友二郎 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1065-1070

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2024年度より医師の働き方改革が実施された．心臓血管外科は緊急手術，術後管理などにより，年間960時間，月100時間未満の時間外労働の上限（A水準）の達成が困難な状況にある．また，働き方改革を推進しなければいけない一方で，その結果治療成績が下がるという状況は許されない．

手術の工夫

ロングシャフトの超音波メスを用いた内胸動脈採取大野　司 , 齋藤　俊英 , 大塚　良平 , 奥村　悠太 , 宮原　健 , 松浦　昭雄 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1071-1073

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国内では1990年代後半から超音波メスを使用した内胸動脈採取が普及し1），現在ではそれなしでの採取が考えられないほど主流となっている．しかしながら，長年用いられてきたシャフト長4～9 cmのハーモニックSYNERGYフックブレードSNGHK（ジョンソン・エンド・ジョンソン社）が2024年4月に販売終了となった．現在，同社から腹腔鏡下手術用でシャフト長32 cmのフックブレードHDH05は継続供給されているが，ブレードシャフトが長いことから胸骨正中切開の術野には不向きである．また，シャフトが直径5 mmと細く，この部分を把持してブレードを短く用いようとしても，把持することや先端を微細にコントロールすることがむずかしい．

血行再建を工夫し胸部ステントグラフト挿入術を行ったStanford B型慢性大動脈解離尾立　朋大 , 三浦　崇 , 横瀬　昭豪 , 橋詰　浩二 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1074-1077

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Zone 2（Z2）に留置する胸部ステントグラフト内挿術（TEVAR）を行う際に左鎖骨下動脈（SCA）の再建の必要性は，さまざまな議論がされている．また，左SCAの血行再建には人工血管を用いるバイパス術を行うことが多い．われわれは左SCAを離断し，左総頸動脈（CCA）へ端側吻合（transposition法）を行った症例を経験したので報告する．

術中気管支鏡が有用であった気管支鋳型陰影を伴う転移性肺腫瘍小俣　智郁 , 光星　翔太 , 四手井　博章 , 荻原　哲 , 青島　宏枝 , 井坂　珠子 , 松本　卓子 , 神崎　正人 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1080-1084

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肺腫瘍が気管支内腔にポリープ状に進展をきたすことは知られている．ポリープ状発育を示す肺腫瘍は良性・悪性腫瘍など多様である1，2）．

まい・てくにっく

口径差のある気管支の吻合青景　圭樹 , 渡辺　俊一 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1078-1079

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口径差のある気管支吻合の手技は，生体肺移植や肺癌手術におけるextended sleeve切除などで必要となることが多い．

臨床経験

手術部位感染症ハイリスク患者に対する予防的陰圧閉鎖療法永冨　脩二 , 伊藤　由加 , 大野　文也 , 今田　涼 , 山下　雄史 , 立石　直毅 , 川津　祥和 , 金城　玉洋 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1085-1089

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手術部位感染症（SSI）は予防しうる周術期合併症の一つであるが，一定の頻度での発生をみる．特に心臓血管外科領域においては，胸骨正中切開創に伴う深部胸骨創部感染（deep sternal wound infection：DSWI）は1～10％の頻度と報告されている1）．DSWIの発生は時に患者の生命を脅かすとともに，治療にかかる人的・医療費コストも増大する．縦隔洞炎の発生は短期予後に影響するのみでなく，長期予後にも影響を及ぼすことも明らかとなっている2）．

鈍的外傷による頸部気管完全断裂山本　沙希 , 北村　智恵子 , 北　雄介 , 小林　亮 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1090-1096

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鈍的外傷による気管・気管支損傷は，その80％以上が病院到着前に死亡する致死的な病態であり1），医療機関受診後も死亡率が30％と救命困難な疾患の一つである2）．われわれはロープの絞め上げによる頸部気管の完全断裂に対し，緊急で外科的気道確保を行い救命しえた1例を経験した．鈍的外傷による頸部気管完全断裂に関する臨床学的特徴について，文献的検討を加えて報告する．

REVIEW

経カテーテル的大動脈弁置換術の現状と展望飯田　泰功 , 志水　秀行 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1097-1102

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大動脈弁狭窄症（aortic stenosis：AS）は，成因として先天性（二尖弁），リウマチ性，変性性（石灰化）があるが，高齢化社会の本邦においては変性性ASの割合がもっとも多い．本邦では75歳以上の中等症以上の大動脈弁疾患は約5％の有病率といわれており，さらなる高齢化に伴い，今後ますます患者数は増加してゆくと考えられる．

連載　未来の専門医を育てる！

熊本大学心臓血管外科で学べること高木　淳 , 福井　寿啓 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1103-1106

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医師の働き方改革による勤務時間の制限は，緊急手術の多い心臓血管外科医にとって頭を悩ます状況である．とりわけ学生や研修医の外科医離れが叫ばれる昨今において，心臓血管外科への興味や関心をもってもらうことは非常に大事であり，喫緊の課題である．本稿では，当科で行っている若手教育と環境についてご紹介する．

症例

胸部ステントグラフト内挿術後にエンドテンションから瘤破裂をきたした胸腹部大動脈瘤の1例髙橋　巴久 , 諸隈　宏之 , 蒲原　啓司 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1107-1110

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はじめに　ステントグラフト治療後の瘤破裂はもっとも悲惨な合併症の一つである．通常，エンドリーク（EL）といわれる血液の漏れが関係しているが，中には明らかなELなく瘤拡大する例が報告されており，エンドテンション（ET）と呼ばれている1）．われわれは胸部ステントグラフト内挿術（TEVAR）後に明らかなELを認めずに瘤が拡大し，さらに破裂をきたした症例を経験したので報告する．

急性解離に対する上行置換後に末梢吻合部リエントリーに対してステントグラフト内挿術を行った1例森　久弥 , 髙木　寿人 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1111-1115

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はじめに　Stanford A型急性大動脈解離（Stanford type A acute aortic dissection：TAAAD）に対して上行大動脈置換術（ascending aortic replacement：AAR）を行った後に，末梢側吻合部（distal anastomosis：DA）に生じた新たなエントリー（new entry：NE）によると考えられる遠位弓部大動脈の偽腔（false lumen：FL）拡大により，解離性大動脈瘤（dissecting aortic aneurysm：DAA）を形成した症例を経験した．本例のDAに，NE閉鎖を目的として胸部大動脈ステントグラフト（stent graft：SG）内挿術（thoracic endovascular aortic repair：TEVAR）を行ったので，文献的考察を加え報告する．

冠状動脈穿孔に対して冠状動脈バイパス術とコイル塞栓を施行した1例南郷谷　亮 , 馬場　俊雄 , 新田目　淳孝 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1116-1119

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はじめに　近年，冠状動脈疾患に対しては経皮的冠状動脈形成術（PCI）が主流となり，それに伴い合併症も増加している．デバイスの進歩によりリカバリーできる症例もあるが十分とはいえず，外科的処置を要することも多い．われわれはPCI後の出血に対しカバードステントで止血困難であった症例に対して，冠状動脈バイパス術（CABG）および冠状動脈コイル塞栓で救命しえた症例を経験したので，文献的考察を加え報告する．

重症アトピー性皮膚炎による繰り返す感染性心内膜炎に対して右小開胸による僧帽弁形成術を施行した1例池田　陽祐 , 森本　健一 , 仁井　陸冬 , 宮坂　成人 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1120-1123

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はじめに　アトピー性皮膚炎は，皮膚バリア機能の低下により感染性心内膜炎（IE）を合併することが多いことが知られており，またアトピー性皮膚炎患者は開心術後縦隔炎のハイリスクであるとの報告もある．われわれは重症アトピー性皮膚炎を有するIE患者に右小開胸による僧帽弁形成術（MICS MVP）を施行し，良好な経過を得たため報告する．

大量の心囊液貯留で発見された胸腺癌の1例小森　健二朗 , 坪地　宏嘉 , 遠藤　俊輔 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1125-1129

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はじめに　大量の心囊液貯留を契機に発見される胸腺癌はまれであり，完全切除にまでいたった報告は検索しえた範囲内では本邦で2例にすぎない．われわれは，悪性細胞を含まない大量の心囊液貯留を契機に発見されたまれな胸腺癌の手術例を経験したため報告する．

腫瘍破裂による難治性気胸の1例戸張　敬太 , 佐野　厚 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1130-1133

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はじめに　腫瘍破裂による続発性気胸の治療はしばしば難渋し，内科的治療で治癒することは少なく，外科治療が行われる場合には，可能であれば腫瘍を含んだ肺切除術が考慮される．本稿では，内科的治療に起因した癒着と多発する肺転移のために肺切除を行えず，ポリグリコール酸（PGA）シートと組織接着剤を用いて気漏閉鎖を得られた症例を報告する．

感染巣切除後に再燃予防に抗真菌薬を投与した肺クリプトコッカス症の1例藤村　崇生 , 中村　彰太 , 桐山　亮太 , 親松　裕典 , 岡川　武日児 , 深見　惇 , 新美　誠次郎 , 芳川　豊史 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1135-1140

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はじめに　肺クリプトコッカス症に対する治療では通常，抗真菌薬による治療が行われるが，画像上では悪性腫瘍との鑑別が困難で，診断と治療を兼ねて外科的切除することも少なくない1）．病巣を完全切除した後の抗真菌薬投与の要否においては科学的根拠がなく，ガイドライン上も明記されていない．われわれは手術と術後の抗真菌薬投与を行い，その後無再燃の1例を経験したため報告する．

１枚のシェーマ

膜様部の連続性を確保した気管分岐部切除・再建術高濱　誠 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1124

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症例は70歳台，女性．右上葉原発の腫瘍が右上葉気管支を完全に閉塞させ，右上葉は完全無気肺となっていた．右主気管支を中枢側で竜骨に切り込むように切断し，右主気管支を右上葉とともに摘出した．中枢側気管支断端を迅速組織診断に提出すると陽性の診断であり，端々吻合での再建は断念し気管分岐部切除を追加することとした．気管および左主気管支の授動を十分に行った後に気管を切除した．気管切除の際に左側の膜様部を完全には切り離さずに気管軟骨のみ切離した．膜様部が固定されているため，気管支の軸が安定することで吻合は容易となり，気管-左主気管支，新分岐部作成，気管-右中間幹の順に，4-0 PDS II（Ethicon社）を用いて単結節吻合を行った．吻合部の被覆は施行しなかった（図1）．

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Contents 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1063

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編集メモ 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1142

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目次 77巻13号 , 2024年12月

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胸部外科医の散歩道

休日はメスを庖丁に持ち替えて長谷川　誠紀 77巻13号 , 2024年12月 , pp.1134

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学生の頃から，私の最大の趣味は料理であった．食に関する全てが対象で，食べること＋飲むこと，食事を作ること，買い出し，調理器具，料理の科学，食に関する著作を読むことなどに興じてもうすぐ半世紀になる．国内外の学会に行く時は必ず市場を回る．初めて体験する素材や調理法に出会った時は，大将に根掘り葉掘り質問して，できれば後日に再現してみる．

基本情報

胸部外科
77巻13号
(2024年12月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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