BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 69巻9号 (2017年9月)

特集 ミクログリアと精神・神経疾患

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特集の意図

20世紀初頭に明らかにされたミクログリアは長らく脳内の免疫細胞として考えられてきた。しかし近年の研究により精神・神経疾患を引き起こす神経炎症に対して大きな影響を持つことが示された。このミクログリアの機能をはじめ,疾患を引き起こすメカニズムや診断・治療への応用の展望について,最新の知見を紹介する。

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ミクログリアは脳内の自然免疫を担う単球系細胞である。多様な精神・神経疾患の病変部位には活性化ミクログリアが認められる。病態を処理し,神経系のホメオスタシスの維持に働くとともに,ミクログリア主体の神経炎症が慢性的に神経傷害を引き起こしていることも明らかになっている。神経炎症におけるミクログリアの役割も徐々に明らかになっており,ミクログリアを標的とした治療戦略についても新たな可能性が示されている。

ミクログリアと脳発達 上野 将紀
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ミクログリアの健常脳での働きが近年明らかになってきた。特に脳発達期では,神経細胞やその前駆細胞,軸索,シナプスの形成過程の多様な局面に能動的に関わるという。ミクログリアは周囲の細胞やその構造体の維持と除去を行い,正と負の2面性を保持しながら脳環境の安定化に働く。その機能や分子メカニズムを明らかにすることで,脳発達の過程,またその破綻による病態の理解が深まると期待される。

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近年,ミクログリアの由来や,生理機能や病態における役割について多くの知見が集積している。これまで,神経病態におけるミクログリアの活性化は神経変性に伴う二次的な現象であり,脇役として考えられてきたが,神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症のモデルマウスを用いた研究により,病態を積極的に修飾する細胞であることが示され,ミクログリアに着目した病態解明や治療法開発へ向けた研究の進捗がみられる。

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近年,さまざまな精神疾患において脳内炎症,特に,脳内免疫細胞ミクログリアの過剰活性化が示唆されている。今回の総説では,脳内炎症に重要な働きを担っているミクログリア細胞の活性化異常に着目した精神疾患の病態治療仮説を概説した。さらに,仮説解明のために筆者らが取り組んでいるトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究),特に末梢血単球にGM-CSFとIL34を添加することで2週間以内に作製できる直接誘導ミクログリア様細胞を用いた精神疾患モデル細胞研究を紹介した。

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ミクログリアは,アルツハイマー型認知症の発症に大きく関わることが知られているが,その役割は多岐にわたる。ミクログリアの活性化を中心とした神経炎症は認知症の診断や治療の標的として注目を集めており,脳内におけるミクログリアの状態を正確に捉える技術は非常に重要である。ポジトロンエミッション断層撮影法によるミクログリアイメージングの現状と展望を,新たな分子標的の紹介とともに概説する。

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哺乳類の脳では成体においても神経幹細胞が存在し,生涯にわたり神経細胞を新生し続けている。成体における神経新生の異常は,神経変性疾患や精神疾患に関与し得る。生涯という長期間,神経幹細胞が維持されるメカニズムは何か。また,成体神経幹細胞は発生の過程でいつ,どのように産み出されるのか。本総説では成体神経幹細胞の長期維持機構と発生起源について詳説しつつ,成体神経幹細胞研究の現状と今後の展望を概説する。

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近年,核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)が多くの研究で脳疾患の病態解明に活用されている。MRSは核磁気共鳴現象を利用して,生体内の化学物質を非侵襲的に測定する技術である。本稿では現在臨床応用が進んでいるプロトンMRS(1H-MRS)について説明する。その後,1H-MRSを用いて統合失調症のグルタミン酸仮説を検証した研究について紹介する。

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フマル酸ジメチルは多発性硬化症の再発予防を目的とした内服薬として,2017年2月に日本でも発売された。日本人を含む第Ⅲ相試験で再発や脳MRIでの疾患活動性の抑制および身体障害の進行抑制が認められた。その一方で,投与初期の顔面紅潮や消化器症状は出現頻度が高く治療中止の原因にもなり得る。最も注目されているのはアポトーシスによるCD8陽性細胞優位のリンパ球減少で,他の薬剤からの切替えの際にも留意すべき有害事象である。投与前に本薬剤の充分な知識が必要である。

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パーキンソン病患者75例に対するロチゴチン貼付剤の継続使用における皮膚障害予防および治療外用剤の効果を後方視的に検証した。保湿剤の前処置のみでは,皮膚障害予防として不十分であった。一方で,ロチゴチン貼付剤の使用に伴う皮膚障害の治療では,治療外用剤として用いた抗炎症効果の低いステロイド剤あるいは保湿剤や抗ヒスタミン剤と比較し,very strongクラスのステロイド剤の有効率が89.5%と有意に高かった(P=0.0006)。

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Ⅰ.学会概要

 2017年4月22〜28日まで米国ボストンで開催された米国神経学会年次総会(American Academy of Neurology:AAN)2017に出席してきました。皆さんご存知のとおりAANは北米最大級の神経領域学会の1つです。世界中の108カ国と地域から神経内科医や研究者が集まり,最新の基礎研究や臨床研究が発表されます。特に今回は250題の教育プログラム,ポスター発表と口頭発表を合わせて約2,800題の研究発表があり,延べ14,000人が参加していました。会場のボストンコンベンションセンターは,ボストン中心地からやや郊外にあるもののシャトルバスや電車などの公共交通機関でのアクセスは良好で,センター内部は約30の会場が設けられており,地図なしでは目的の会場にたどり着くのが困難なほど巨大でした(写真1,2)。数年前までは臨床トレーニングコースの参加申請と費用とが別途必要でしたが,今年は一部のコースを除き参加費が共通となったため,今まで以上に学びの場が増えています(ただし,参加費は非会員で約1,700ドルと高額になりました)。

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 人生は晴れたり曇ったり,泣いたり笑ったりの連続ですが,自分の感情をよそに泣き笑いが繰り返されることは大変な苦しみであろうと想像できます。

 今回紹介する写真はViresら1)による「右片麻痺患者に認められた攣縮性泣き笑いの3症例」という報告からのものです。「攣縮性泣き笑い(rire et pleurer spasmodiques)」は,現在では一般的に「強制泣き笑い(forced crying and laughter)」と呼ばれる症候のことで,情動を伴わない表情のみの病的な泣き笑いを指すと言われています。

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あとがき 桑原 聡
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 6月半ばに2016年版のインパクトファクター(impact factor:IF)が公表された。今回は臨床神経学(neurology)領域のIFの動向について概説したい。もともとneurology領域では『Annals of Neurology』『Brain』『Neurology』『Archives of Neurology』『Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry(JNNP)』が伝統的な五大誌として存在し,IFの値もほぼこの順番で推移してきた。2000年以降の大きな変化として,2002年に『Lancet』グループがneurologyに特化した姉妹紙として『Lancet Neurology』を発刊したこと,2013年に『JAMA(Journal of American Medical Association)』グループであった『Archives of Neurology』が『JAMA Neurology』と名称を変えたことの2つが挙げられる。以後『Lancet』『JAMA』のブランド力により神経学雑誌のIFによる序列は大きく変わってきた。

 以下に五大誌に『Lancet Neurology』を加えた6誌の2016年とその10年前にあたる2006年におけるIFを記載する(Table)。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
69巻9号 (2017年9月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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