BRAIN and NERVE 69巻10号 (2017年10月)

特集 成人てんかん—知っておきたい6つのトピック

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特集の意図

てんかんは小児期に発症のピークの1つを迎えるが,成人期に達した患者に最適な医療をどのように提供するかがいま,大きな問題になっている。また,高齢での発病率が高いことが明らかになっており,超高齢社会の本邦においてにわかに注目を集めている。成人てんかんについて自動車の運転やトランジション,自己免疫や外科手術などの社会的,医学的に関心の高まっているトピックをとおして,いま一度考える機会としたい。

てんかんと運転 髙木 俊輔 , 松浦 雅人
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てんかん患者の運転適性についてはこれまで長く議論が行われてきた。免許制度は徐々に緩和され,てんかんは免許取得可能資格の相対的欠格事由となっている。2013年には道路交通法が改定され,運転適性のない人が免許を取得できないように厳格化された。また,新たに自動車運転死傷行為処罰法が制定され,運転適性のない人が起こした交通死傷事故に対して罰則が強化された。このような現行制度について概説し,その問題点や今後の課題について述べる。

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小児神経科医が診察しているてんかん患者の3割は,成人期に達した患者だった。成人期ケアへの移行を妨げていたのは,患者・家族が転院を嫌がることと,近くに適切な紹介先がないことだった。移行を円滑に行うためには,心理・社会的サポート,患者教育,トランジション・クリニックを含めた体制の整備,てんかん専門医や専門看護師の養成,チェックリストや移行プログラムの準備が必要である。

成人てんかんの外科病理 宮田 元
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成人期てんかん患者の多くは小児期に発症し長期罹病期間を経て手術を受ける。切除脳組織には海馬硬化症,脳腫瘍,大脳皮質形成異常,血管奇形,グリア瘢痕,脳炎などさまざまな病理像がある。臨床病理学的関連性が期待される組織分類は現時点では海馬硬化症と限局性大脳皮質異形成に限られており,てんかんの外科病理は発展途上にある。今後,より質の高いてんかん医療の提供と病態機序の解明のために外科病理の果たすべき役割は大きい。

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てんかんの治療法は進歩し続けているものの,全患者が薬物治療で良好なコントロールを得られるわけではない。てんかん外科手術は発作を消失もしくは著明に減少させる有力な治療選択肢であるが,いまだ十分に普及しているとは言えず,さらなる環境の整備が必要である。一方で外科手術はあくまで難治てんかん治療の一部であり,てんかん患者が抱える精神的,心理・社会的側面のケアや,外部への啓発活動も重要な課題である。

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神経細胞表面・細胞外の抗原を標的とする自己抗体が関与する自己免疫性てんかんは,その多くがてんかんを主徴の1つないし唯一の症状とする自己免疫性(辺縁系)脳炎の不全型に位置づけられる。亜急性に出現する特徴的なてんかん発作に加え,解剖・機能画像,脳脊髄液検査,脳波で中枢神経の炎症が示唆されれば,抗体結果を待たずに発症早期の免疫療法開始が望まれる。炎症マーカーの確立が非典型例(軽症,くすぶり型)の免疫治療戦略の策定には重要である。

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本邦は超高齢社会に突入しており,認知症患者数も増加している。また,てんかんの発病率は高齢者で高いことから,てんかん患者数も増加してきている。認知症とてんかんの症状がまぎらわしいことも多く,また,合併例も多く認められる。実際,もの忘れ外来を受診した患者の症状が,てんかん発作によるものであったという報告も多々ある。本邦において,両疾患の特徴や関連を理解することは大切である。

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多くの橋本脳症の患者がgive-way weaknessや解剖学的には説明しづらい異常感覚を呈していることをわれわれは見出した。それらは身体表現性障害(いわゆるヒステリー)で特徴的とされる身体症状に類似しており,脳梗塞のような局所的な障害で引き起こされる症状とは切り離されて考えられてきた。そのような神経症候が出現するためには,びまん性,多巣性に濃淡を持った微小病変を蓄積させることができる自己免疫性脳症のような病態を想定する必要がある。このような考え方で,われわれは「びまん性脳障害による神経症候」という新しい診断概念に到達し,実臨床では多くの患者を見出している。今回,抗ガングリオニックアセチルコリン受容体抗体関連脳症,子宮頸がんワクチン接種後に発生した脳症,またはスティッフ・パーソン症候群でも同様の症候がみられることを報告する。自己免疫性脳症の臨床では,抗体の存在だけでなく,自己免疫性脳症による「びまん性脳障害」という概念が重要であり,この新しい診断概念を用いることで診断が困難な自己免疫性脳症の軽症例であっても容易に診断が可能となる。

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うつ病と双極性障害のうつ症状は,鑑別診断が難しく,誤診されることが多い。また両疾患の治療薬はまったく異なるが,麻酔薬ケタミンが治療抵抗性の両疾患のうつ症状に即効性抗うつ効果を示す。本総説では,両疾患のバイオマーカー,ケタミンの最新知見とケタミンの抗うつ効果を反映するバイオマーカーについて議論する。

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われわれは前交通動脈瘤破裂により視神経障害を呈し,治療後に増悪した症例を経験し,特徴的なMRI所見を得たので病態の考察を交えて報告する。症例は47歳男性。右単眼視で上方の視野欠損を認めた。頭部CTでくも膜下出血があり,3D-CT angiographyでは前交通動脈瘤を認めた。脳動脈瘤コイル塞栓術が施行されたが,術後右目は光覚弁に増悪した。術後7日目のMRIでは視神経に接する動脈瘤と視神経の腫脹が確認できた。経過と画像所見より動脈瘤破裂に伴う視神経損傷とその後の脳血管攣縮および動脈瘤による視神経の圧迫が混在し,Ischemic Optic Neuropathy(ION)を呈して重度の視力障害を生じたと考えられた。発症時に視力・視野障害を認める症例ではMRIによる視神経の評価をすみやかに行う必要がある。

ポートレイト

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はじめに

 下田光造(しもだ・みつぞう;1885-1978)は,わが国におけるうつ病の病前性格として世界に先駆けて「執着気質」(immodithymia)を発表したことなど,わが国の精神医学界に大きな足跡を残している。2002年に横浜で開催された第12回世界精神医学会(WPA)総会においても,下田の執着気質60年を記念したシンポジウムが開かれた。下田は禅などの東洋の文化を精神療法へ広く取り入れるとともに,同門の先輩にあたる森田正馬(もりた・まさたけ;1874-1938)が始めた森田療法を高く評価して自らの著書でも紹介し,治療にも積極的に組み入れた。これら精神療法,心理社会的治療学のみならず,神経病理学,生化学を基礎とした生物学的精神医学も精力的に研究を行って,わが国の精神医学の科学的研究基盤をつくった。

 また,その円熟期ともいえる九州帝国大学教授(医学部長を歴任)を経て,終戦直前の1945年7月に郷里の鳥取へ新設の医学専門学校の校長として着任し,直後に終戦を迎えた。下田は終戦直後の混乱の時期にあって,文部省,進駐軍と精力的に折衝を重ね,大変な努力の末,開設間もない医育機関を守った。以後,米子医科大学さらに鳥取大学学長として多くの弟子および学生の教育にあたり,医師としての人格の陶冶を基盤とした医学教育者として地域に多大な貢献をした。

 これらには,一貫して流れる思想,信念が感じられる。以上について順次紹介したい。

 なお本稿は,筆者が10年あまり前に依頼されて分担執筆した『東京大学精神医学教室120年』における一節「下田光造=その足跡と人となり」1)をもとに,その後,下田の学説が再評価されてきた昨今の精神医学界の動向を加味して執筆した。

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 2017年6月4〜8日,カナダのバンクーバーで,4,300人の参加者を集めて,第21回国際パーキンソン病・運動障害学会(21st International Congress of Parkinson's Disease and Movement Disorders:MDS 2017)が開催されました(写真1)。同名の学会(MDS)が毎年主催する学術集会で,パーキンソン病をはじめとする運動障害をテーマに,基礎から臨床を包括する発表と議論が繰り広げられます。私の本学会への参加は3回目で,2014年(ストックホルム)はシンポジスト,2015年(サンディエゴ)はplenary speaker,そして今回は再びシンポジストとして講演することになりました。

 バンクーバーを訪れるのは2回目で,前回は国際前頭側頭型認知症学会(ICFTD)での講演が目的でした。バンクーバーの特徴は,洗練された文化と大自然が近接していることですが,学術的にはブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の存在が光彩を放っています。今回の学会のco-chairであるUBCのA. Jon Stoessl教授とは,われわれのグループの研究者である篠遠 仁先生が1992年にUBCへ留学したとき以来の交流があり,グループとしてもしばしば情報交換を行ってきました。われわれが2013年に,生体脳のタウ蛋白沈着をポジトロン断層撮影(PET)で可視化する新技術を確立した際に,いち早くこの技術に注目してくれたのもJonでした。当時,私がサンフランシスコの学会に出ることを聞きつけて,Jonはバンクーバーからサンフランシスコの空港へ文字どおり飛んで来てくれました。そして空港脇のホテルで,タウPET技術をUBCに移転する協議を終えるや否や,バンクーバーへと引き返して行きました。その熱意に感銘を受けたことを,今でも鮮明に覚えています。

今月の表紙 河村 満 , 岡本 保 , 菊池 雷太
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 今月の写真は「ウェーバー症候群の2例」という論文からのものです1)。ウェーバー症候群は,神経内科医なら誰もが知っている臨床症候ですが,典型例に遭遇することはめったにありません。

 ウェーバー症候群は,ドイツ出身で主に英国で診療を行ったウェーバー(Hermann David Weber;1823-1918)の名に由来します。彼は1863年に「A contribution to the pathology of the crura cerebri」2)という大脳脚の病理についての論文を英文で発表し,ここで左大脳脚下部内側の出血巣が動眼神経根を圧排した52歳男性例を報告しています。後年,この症例の呈した症状を分析・整理したうえでウェーバー症候群と名づけたのはシャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)です3)。この命名はシャルコーの臨床講義の中で行われており,その記録をまとめたのが今回の論文の著者スーク(Alexandre-Achille Souques;1860-1944)でした。

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あとがき 酒井 邦嘉
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 写真好きだった義父が他界して遺品を整理したところ,ライカカメラ社のレンズが手元に残った。これまで私は主にカール・ツァイス社のレンズを使っていて,ライカは縁遠かった。というのもライカとツァイスは,戦前からドイツカメラを代表するライバル同士だったからだ。ライカのカメラを使い始めて,写真撮影に対する哲学や美学に興味を持った。

 まず驚いたのが,白黒写真しか撮れないデジタルカメラである。写真のカラー化とデジタル化が進んだ今なお,芸術における白黒写真の価値は不動だが,カラーでの撮影後にデジタル処理でモノクロームに変換するわけで,カメラの機能自体を制限するという発想はそれまでなかった。撮像素子に接するカラーフィルター(RGBベイヤー配列)を取り去れば,画像がよりシャープになり解像度も倍増するという利点は確かにある。しかしそれ以上に期待される効果は,モノクローム撮影を前提とすることで撮影者の「光を読む力」が発揮されることではないか。モノクロームの世界は,「光と影」あるいは「全か無か」の両極端ではない。むしろ白黒の中間となる豊潤な「階調」こそが,芸術的表現の源泉なのだろう。

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基本情報

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BRAIN and NERVE
69巻10号 (2017年10月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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