BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 68巻4号 (2016年4月)

増大特集 治せる認知症

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特集の意図

認知症の臨床において最も大切なことは,さまざまな原因を持つ認知症の中から「いま治せる」認知症をピックアップすることである。本特集では,認知症の原病となりうる疾患がどの程度の頻度で認知症をきたすかを示したうえで,誤認されやすい他の疾患との鑑別点や確定診断のポイントを紹介する。適切な治療によって認知機能を改善するヒントを探りたい。

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神経梅毒はペニシリン治療が確立されて大きく減少したものの,近年は増加傾向にある。実質型神経梅毒である進行麻痺は記憶障害,理解力・判断力の低下,異常行動など認知症症状をきたす疾患の1つであり,的確に診断,治療を行えば完治も可能な疾患であるためアルツハイマー病などの神経変性疾患による認知症との鑑別が重要である。神経梅毒の疫学,診断,治療を概説し,自験例を提示する。

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細菌性髄膜炎や脳炎は神経学的な緊急対応を要する疾患である。これらの疾患では急性の認知機能障害で発症する場合がある。また,後遺症として認知症を含む各種認知機能障害を高頻度に認める。したがって,急性の認知機能障害を認めた場合,これらの疾患も念頭に置いて対応すること,後遺症としての認知機能障害を可能な限り回避するために,急性期に適切な治療対応をすることが極めて重要である。本論では細菌性髄膜炎,単純ヘルペス脳炎,ヒトヘルペス6型脳炎,および抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体脳炎について概説する。

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真菌性髄膜炎は細菌性髄膜炎などの急性髄膜炎と比較し,より潜行性の経過をたどることから,ときに認知症との鑑別を要する。真菌性髄膜炎の多くはヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症や血液疾患などの基礎疾患を有する患者にみられるが,クリプトコッカス症やコクシジオイデス症は健常者においてもみられる。真菌性髄膜炎は早期診断,早期治療がなされなければ転帰不良となることから,臨床家は決して見逃してはならない。

自己免疫性脳炎と認知症 渡邊 修
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神経細胞膜表面抗原に対する自己抗体により,認知機能障害が起こる。代表的なものは抗VGKC複合体抗体により生ずる脳炎・脳症である。典型例では,一側顔面上肢に同期して起こる特異な不随意運動が先行し,高頻度に低ナトリウム血症を合併する。これらを伴わず,3〜6カ月の経過で,前頭側頭葉型認知症やクロイツフェルト・ヤコプ病に酷似した経過をたどる非典型例もある。免疫療法で治療可能であり注意を要する。

神経好中球病と認知症 久永 欣哉
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神経好中球病は神経ベーチェット病と神経スウィート病を含む包括的な疾患概念で,口腔粘膜の細菌感染やそれに続くサイトカインの上昇などが誘因となった好中球の過剰な機能亢進によって異所性に脳炎や髄膜炎などの神経系炎症性病変が引き起こされる病態である。HLA-B51,B54,Cw1などの直接的な関与が示唆される。認知機能障害が出現することも多いが免疫療法により症状を軽減することができ,治療可能な認知症の1つと考えられる。

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全身性エリテマトーデス(SLE)による神経精神病変(NPSLE)はSLE患者の約半数に出現し,予後不良と関連している。このうち認知症との鑑別が問題となるのは急性錯乱状態と認知機能障害の2つの神経認知障害である。NPSLEは疾患特異的な指標に乏しく,診断のためのゴールドスタンダードは存在しないため,臨床症状,血液および髄液検査所見,脳波,脳イメージング,免疫学的マーカーに基づき総合的に診断する。

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多発性硬化症(MS)における症状としては身体障害が注目されがちであるが,認知機能障害を呈することは稀ではない。ただ,MSにおいて障害されやすい認知機能が,主に注意・集中・情報処理などのため,一般的な認知症スクリーニング検査では評価しにくい。本論では,MSにおける認知機能障害の特徴,それを評価するためのバッテリー,治療の現状などを概説する。

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急性・亜急性の進行性認知機能障害を呈する患者では,悪性リンパ腫を鑑別に挙げる必要がある。本稿では,主に,中枢神経系原発リンパ腫,血管内リンパ腫症,全身性リンパ腫の中枢神経浸潤・再発について概説した。悪性リンパ腫の治療としては,化学療法,化学療法とリツキシマブ併用療法,放射線治療があり,悪性リンパ腫の種類によって治療法が多少異なるものの有効な治療効果を示すので,早期発見・早期治療が重要である。

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中枢神経系に生じる傍腫瘍性神経症候群では,辺縁系脳炎型が多い。症状は急性・亜急性に進行し,運動失調や感覚障害などの身体症状を伴うことから,認知症として診断される例は少ないが,発症初期に意欲低下,うつ,記憶障害が目立つ場合があり,認知症と診断される例もある。神経症候は腫瘍の治療や免疫療法で改善が期待され,辺縁系脳炎症候を呈する場合は本症の可能性を考えて,自己抗体および腫瘍の検索と早期の免疫療法を考慮する。

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認知症をきたしうる内分泌機能異常は,下垂体,甲状腺,副甲状腺,副腎皮質,膵内分泌系と多岐にわたる。記銘力障害などの認知症そのものは,アルツハイマー病と見分けがつかないことが多いが,全身所見,神経随伴症状や画像・血液/尿検査異常などにより診断することが可能である。いずれも内分泌機能異常に対する適切な治療により認知症が改善する可能性が高く,日常診療において見逃してはならない。

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「治せる認知症」の原因としてビタミン欠乏は頻度は稀ながら重要な課題である。とりわけ高齢者の認知症診療ではビタミンB12欠乏が原因と考えられる症例に遭遇する頻度が高い。一方,葉酸はビタミンB12と代謝経路上密接な関係を有し,その欠乏とビタミンB12欠乏の間には共通点も多い。したがって本論では,ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏に焦点を絞り,これらの欠乏による認知症を診療するうえで必要な情報を概説する。

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高齢者では薬物による認知機能障害が生じやすい。せん妄や認知症は薬物の毒性により生じることが知られており,特に抗コリン作用の強い薬物は急性,あるいは慢性の認知機能障害の原因となる。向精神薬,抗うつ薬,抗てんかん薬もせん妄や認知症をきたしやすい。高齢者に対しては副作用の少ない薬物を選択して慎重に処方量の調整を行う,常に副作用の発現に注意を払うなど,薬物による認知機能障害の予防と早期発見が重要である。

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特発性正常圧水頭症(iNPH)は,一般高齢者の1〜3%に存在する頻度の高い疾患である。脳室拡大に加えて,シルヴィウス裂の拡大と高位円蓋部/正中部のくも膜下腔の狭小化を認めるiNPHはDESHと呼ばれ,頭部MRI冠状断像で発見しやすく,かつシャント術により60〜70%という高い確率で自立度を改善させることができる。さらにわが国では,脳に損傷を与えないLPシャント術が多く行われるようになっている。

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血管性認知症は,脳血管障害が原因で脳が損傷され認知症に至った状態を指す包括的な表現である。本論では予防と治療に力点を置いて,血管性認知症の概念を整理していく。血管性認知症は,その原因となる脳血管障害の確立された一次予防法,二次予防法があるという意味において根本的治療法があり,概念的には予防可能で,進行を抑えられる。一方,アルツハイマー病とは逆に,対症療法すなわち認知障害やBPSDに対する治療法の開発は遅れている。コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンは,血管性認知症にも効果量は小さいものの有効なようであるが,臨床的な価値には疑問が残る。リハビリテーションやトレーニングプログラムは有望であるが,エビデンスは弱い。

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非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)は,痙攣を伴わないてんかん重積状態(SE)である。頻度は年間10〜20人/10万人で,SEの半分はNCSEである。NCSEは①欠神発作SE,②意識障害を伴う焦点性発作SE(複雑部分発作SE),③高齢初発のNCSE,④急性脳障害のNCSE,がある。診断には脳波検査が必須であるが,持続脳波モニタリングを行うと診断率が向上する。MRIのASL法やSPECTにより局所脳血流の増加を認める。変動する認知障害症例ではNCSEの鑑別が必要である。

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アルツハイマー病の根本治療薬開発においては,認知症が出現する前に発見し,その段階で病理プロセスを止めて認知症に至らないようにすることが求められる。PETを用いたアミロイドやタウのイメージング,脳脊髄液バイオマーカーなどの進歩により発症前診断は実現したが,そのプレクリニカル期における病態修飾薬の治験を繰り返し行い,多数の候補薬をスクリーニングして目標を達成するためには,効率のよい参加者リクルートのしくみが求められる。

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脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究の結果から,複数の記憶システムの分類化と関連脳領域について理解が深められてきた。本稿では,特に長期記憶に分類される意味記憶について,近年急速に進展している脳機能イメージング法と電気生理学的手法を用いた研究を紹介し,記憶想起における脳領域間・脳領域内神経回路の最新の知見を紹介する。

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進行性多巣性白質脳症(PML)は,宿主の免疫低下に伴いJCウイルスが再活性化して起こる脱髄脳症である。臨床的に免疫低下の原因が不明瞭で,髄液ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でウイルス陰性でもなお,画像上PMLの可能性を否定できず脳生検を施行する場合がある。こうした症例では,病理診断の指標となる典型的な核内ウイルス封入体を有する細胞に乏しく,高度な炎症細胞浸潤を伴う場合がある。JCウイルスに対する宿主免疫応答が保たれている状態と考えられ,予後は良好である。本稿では,炎症反応を伴ったPMLについて,近年問題となっている免疫再構築症候群も含め,概説する。

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バックナンバーのご案内

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 「こんな本があったら」と,かねて願っていた本が出版された。勘違い,手落ち,不手際,不覚,思い込み,などさまざまな誤りは,神ならぬ人にとって避けて通れない性である。しかし,医療には,誤りは許されず,細心の注意と配慮が求められる。

 誤り(誤診)の原因は,患者側にある場合と診察者側にある場合とがある。本書の序論に相当する「誤診(診断エラー)の原因と対策」の章では,原因を①無過失エラー,②システム関連エラー,③認知エラーの3種に類型化し,さらにそれらを細分した分類を引用し,本書で扱われている各症例の誤診原因をこの分類と照合させている。本序論は必読の価値がある。

次号予告

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 てんかんは,2000年以上の前から難治の病として知られており,根本的な治療法の模索が現代までも続いている極めて特殊な病態でもある。世界の人口は約72億7,000万人と報告されている(「世界人口白書2014」より)。人口の約0.8%がてんかんに罹患していることから,全世界には,約5,810万人以上のてんかん患者がいることになる。てんかんは治療費の面からも,各国の行政上の政策としても,非常に重要な課題と考えられている。

 日本の現在の人口は1億2,000万人強となり,約100万人の患者が推定されているが,80%以上の症例では,きちんとした治療により発作はコントロールされており,通常の社会生活が十分に可能である。しかし,てんかんの大きな問題点は,偏見である。このため,学校生活,雇用,人間関係にさまざまな問題があり,社会的な弱者に対しての,法制度の整備も十分とは言えない状況にある。2011年と2012年に起きた,てんかん患者による悲惨な交通事故は,てんかん治療の社会的な問題の複雑さ,てんかん治療の重要性を再認識させられた。しかし,一面では,法制度整備の盲点を浮かび上がらせたとも考えられる。

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 このたび,磯部光章先生,奥村謙先生の監修による,『Electrocardiography A to Z—心電図のリズムと波を見極める』が刊行された。本書は日本医師会企画による第一線の臨床医に向けた循環器領域のシリーズ『心電図のABC』のいわば改訂版とも言えるものである。

 「監修・編集のことば」にあるように,心電図や不整脈のわかりやすい入門書であると同時に,最近の不整脈治療の進歩が理解できるように企画されている。その結果,非専門医であっても,心電図と不整脈を自ら診断し,臨床的意義を再確認できるとともに,最新治療との関わりを確認することができる。また退屈になりがちな心電図の記録法や波形の成り立ちの記述も,カラーで見やすく,簡潔かつ十分に内容のある口絵としてまとめられている。このカラー口絵と第I章で,心電図の基本的知識が十分に身につく。第Ⅱ章では心電図や不整脈診断における一般的な流れが示されている。このようなアプローチは,心電図や不整脈診断や判読の基本で,その流れの先にはおのずと正しい診断があると言える。第Ⅲ章以下,異常所見や不整脈があった場合,その病態やメカニズムはどうなっているのか,どのような治療がありかつ必要とされるかも述べられており,大変に実用的でもある。

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 『戦略としての医療面接術』のタイトル通り,医療面接の著作です。しかしながら,従来の「医療面接」をテーマに扱った書籍とは異なり,著者自身の実際の経験に基づき深く洞察されており,通読してなるほど,そういう切り口もあったか,と深く感心しました。われわれが普段の臨床で応対する「患者・その家族」—その個性や社会環境などの背景要素の多様性に注目しています。

 「うまくいかない医療面接」を経験した際,医師としては,「あの患者・患者家族は変だから……」と自分を含め他の医療スタッフに説明づけようとしがちですが,うまくいかなかった医療面接は,われわれが医療面接上必ず確認しておかなければならなかった手順や態度を怠ったことが原因であったかもしれない。この著作はそれを実臨床で陥りがちな,さまざまなシチュエーションを提示することで,抽象論に終始することなく具体的に提示してくれています。通読後,今まで自分が経験してきた医療面接の失敗例を思い返しても,本書にて指摘されている「やってはいけないこと」がいくつも当てはまり,内省した次第です。

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 4人の男性が横向きに並んでいます。向かって左の3人は,腰をかがめ,しかし顔は前方を向いています。3人はいずれも兵士で,右端の健常者は,比較のために両手を垂らし腰を曲げています。この組合せ写真に確かな主張を感じます。

 まず,この写真からは複数の患者が同時期に存在したことがわかります。この頃のサルペトリエール病院には,多くの体幹屈曲(camptocormie)患者がいて,この論文の著者であるRosanoff-Saloffは同時に複数の患者を診ていたと書いています1)

「読者からの手紙」募集

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 本特集は,わが同僚編集委員の手による認知症特集である。神経疾患の教科書を上梓されただけあって,その視野は広く,漏れがない。特集の域を越えて認知症の教科書の様相すら呈していると言えよう。ここで挙げられている認知症は治せる認知症であるので,治らない認知症についての特集も早晩必要である。後日の楽しみである。両者を合わせて,認知症のバイブルとなるのではないか。

 実は当編集子も認知症の特集を2度ほど提案してきたが,編集会議で遠慮容赦なく却下された。長らく認知症に携わってきた私への鉄槌を喰わせるかのように思いやりや配慮のかけらは微塵もない。わが提案が葬り去られた編集会議の夜は,なかなか寝つけない。練りに練って,友人とともに熟慮した企画が,素人ではないが認知症から距離のある脳神経の専門家集団にとって魅力に欠けたようである。自分の世界に固執する限り,なかなか敗因を探すことは難しいので,長らく悶々としてきた。自分を見捨てるところから見直す必要があることはわかっているが,熟練した精神科医と異なり私のような凡人が,そのような柔軟な思考能力を持ち合わせていないことは,私自身が一番よく知っている。

基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
68巻4号 (2016年4月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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