BRAIN and NERVE 68巻3号 (2016年3月)

特集 末梢神経の血管炎

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特集の意図

血管炎の治療指針は膠原病内科または腎臓内科の観点からの提案に限られ,血管炎性末梢神経障害に特化したエビデンスは極めて少ないのが現状である。血管炎性末梢神経障害を治療するにあたり,血管炎一般の治療法をそのまま援用してよいのか,診断に必要な方法は何か,現段階で血管炎性末梢神経障害に特化したエビデンスにはどのようなものがあるのかなど,それぞれの著者の私見も交えてレビューする。なお,本特集は2015年3月号特集「中枢神経の血管炎」と対をなす。合わせてお読みいただきたい。

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血管炎性末梢神経障害は,血管炎による神経栄養血管の血行障害を背景として生じる末梢神経系の多発性虚血性梗塞である。四肢遠位優位の感覚・運動障害ないし感覚障害が生じ,痛みを伴うことが多い。典型的には多発性単ニューロパチーを呈するが,症候の分布も進展速度も多彩であり,注意深い病歴聴取と診察が必要である。診断には血管炎の証明が望ましいが,全身の炎症性症候や検査所見を参考にする。適切な治療を早期に開始するための速やかで的確な診断と,病勢および治療効果の評価には,精確な神経学的診察が肝要である。

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神経伝導検査(NCS)は末梢神経障害(ニューロパチー)の診断に必須であり,特に血管炎性ニューロパチーでは無症候性ニューロパチーの発見や神経生検の指標として有用である。NCSの特徴は,非対称性,非長さ依存性の軸索性運動感覚性ニューロパチーであり,時に伝導ブロックや偽伝導ブロックを認める。偽伝導ブロックは,虚血性梗塞に陥った神経分節遠位の刺激部位にワーラー変性が到達していない急性期にみられ,必ず2週間以内に伝導ブロック様所見は消失する。

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血管炎性ニューロパチーの確定診断には神経生検による組織診断が重要である。組織所見は血管壁内の細胞浸潤を伴う血管構造の破壊と急性の軸索変性が典型的であるが,採取した標本内に血管炎の直接の証拠が得られないこともあるので,虚血を示唆する間接的な所見にも注意する。そのほか浸潤細胞の種類や炎症血管のサイズ,肉芽腫の有無などが鑑別診断に役立つ。

Non-systemic Vasculitic Neuropathy 小池 春樹
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非全身性血管炎性ニューロパチー(non-systemic vasculitic neuropathy)は末梢神経に限局した血管炎であり,顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症と並んで血管炎によるニューロパチーの主要な原因である。病態に関する検討は十分なされておらず,全身性血管炎との連続性に関しても明らかになっていない。今後,本疾患の病態を解明することによって血管炎の中での位置づけを明らかにするとともに,診療に役立つバイオマーカーを開発する必要がある。

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血管炎性ニューロパチーの治療法に関する知見は限定的であり,全身性血管炎に倣い早期より複合的治療(副腎皮質ステロイド剤+免疫抑制薬)を行うべきか明らかではない。少なくとも副腎皮質ステロイド剤による単剤治療では,半数近くの症例において効果が不十分とされている。早期に免疫抑制薬の併用が躊躇される際にも,比較的導入しやすい免疫グロブリン静注療法の併用などの治療オプションを早期から活用する工夫が期待される。

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脳腫瘍分類は形態学に基礎を置く古典的組織分類から分子遺伝学的分類に大きく舵を切ろうとしている。その先駆けとなったのが,大規模ゲノム解析に基づく,神経膠腫の一貫した遺伝学的分類の構築である。本稿では,神経膠腫病理診断における分子遺伝学的知見の現状を確認し,現時点での神経膠腫病理診断におけるベストエビデンスとなりうる,腫瘍型を最も的確に特徴づける主幹遺伝子を同定する試みを紹介する。

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Isolated body lateropulsion(iBL)とは,脳梗塞急性期に前庭症状や小脳症状などの神経症候を伴わず,体軸の一側への傾斜と転倒傾向のみが臨床症候として認められることである。iBLは脊髄小脳路,外側前庭脊髄路,前庭視床路,歯状核赤核視床路,視床皮質路のいずれの経路がどこで障害されても生じる可能性がある。本稿では,延髄,橋,中脳,小脳,視床,大脳において,どの病巣部位でiBLが生じるかを概説する。

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眼球運動に密接に関係する小脳部位として,①片葉・傍片葉,②虫部小節・虫部垂,③背側虫部・室頂核後部がある。症候学的には,VOR機能は片葉・傍片葉により,衝動性運動は背側虫部に,また滑動性追従運動は片葉および背側虫部・室頂核後部を含む広い小脳構築の活動によることが最近10年来の機能画像を含む広範な研究により明らかにされた。これらの新たな情報を小脳症状の診断を含めた臨床神経学に応用することはわれわれに課された今後の課題であろう。

読者からの手紙

利き手とマッチ 山下 光
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 10年以上にわたり,わが国で一般的な八田・中塚(HN)式利き手検査1)と,国際性の高いエジンバラ利き手検査(EHI)1)で大学生の利き手を調べてきましたが,最近気になることがありました。

 2014年度の医学部新入生141名に実施したHN式では,8名(5.7%)が左利きと判定されましたが,右利き(115名)・両手利き(18名)の合計133名中24名(18%)が,マッチをするとき左手で軸を持つと回答しています。しかし,左手でマッチをする人が2割近くもいるとは思えません。同時に実施したEHI(八田訳)にもマッチに関する質問がありますが(「マッチをする手はどちらですか」),それに対しては,全員が「右手」と答えています。どうやら,今の大学生には「マッチの軸」という言葉がわからないというのが真相のようです。確かに「マッチの軸って棒のほうですか,箱のほうですか」という質問が複数ありました。そこで2015年度はHN式の項目を「マッチをするとき,軸(棒のほう)をどちらの手で持ちますか」に変更したところ,右利き129名,両手利き16名の合計145名中,「左手」と回答したのは1名のみでした。

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症例は19歳女性。増悪する頭痛,発熱で発症し,頭部MRIで右側頭葉内側から大脳基底核にかけて病変を認めた。髄液圧上昇,髄液細胞数増加を認め,ウイルス性辺縁系脳炎の暫定診断でアシクロビル投与を開始したが,左眼の視野欠損が出現し,ステロイド療法を開始したところ速やかに臨床症状,髄液圧,画像所見が改善した。その後1年以上再発なく経過している。髄液中の抗グルタミン酸受容体抗体(抗GluN2B,抗GluN1,抗GluD2)が陽性であったことから,自己免疫的機序がこれら一連の経過に関与した可能性がある。

ポートレイト

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はじめに

 クロイツフェルト・ヤコブ病という病名を知らない神経内科医,いや医師はいないのではないかと思う。クロイツフェルト・ヤコブ病は,プリオン病として広く理解されている疾患の嚆矢となったものであり,この疾患の研究によって,ガジュセック(Daniel Carleton Gajdusek;1923-2008),プルジナー(Stanley Ben Prusiner;1942-)の2人がノーベル生理学・医学賞を受賞した。最近ではアルツハイマー病やレヴィ小体病,あるいは孤発性のタウオパチーまでもプリオン病と類似の病態をとる疾患であると考えられるようになっている。クロイツフェルト・ヤコブ病は100万人に1人と極めて稀ではあるものの,本疾患を含めたプリオン病を理解することは大変重要なことであると考えている。

 今回,本誌ポートレイト欄として,ヤコブ(Alfons Maria Jakob;1884-1931)について書くように依頼をいただいた。私のレベルでは,まだポートレイトを書くほどの経験も知識も不足しているうえに,ヤコブとの直接の面識などは当然のことながらなく,また短命であったこともあってか,資料も少ないように感じる1-4)。ここでは,少ない資料の中に記載されていることをまとめる形で,疾患そのものに関する文献も参考にしながら,ヤコブに関して少しでも紹介できたら幸いである。

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 10月31日〜11月5日にチリ,サンチアゴにて,第22回世界神経学会議(WCN 2015)が開催された。サンチアゴはほぼ日本の真裏に位置し,ちょうど時差が12時間ある。日本からサンチアゴまでは,北米で1度乗り継がねばならず,かなりの長旅であった。チリ上空の機上からは,雄大なアンデス山脈が南米大陸を南北に縦走し,霞の下に町並みがみえた。到着した南半球のサンチアゴは木々の緑につつまれた春の最中であり,天気予報とはうらはらに大会期間中は天候に恵まれた。

 大会は31日午後の教育コースに始まり,実質学術プログラム初日にあたる大会2日目の夕方に開会式が開かれた。チリの国民的舞踊とされるクエッカ(cueca)が披露され,次に医師でもあるMichelle Bachelet大統領の演説で大いに盛り上がった。大会プログラムは,脳卒中,運動異常症,認知症,てんかん,神経感染症,中枢脱髄疾患,神経筋疾患,神経画像がメイントピックスとして取り上げられ,それぞれ全日のセッションとしてシンポジウムが開かれた。筆者(松本)の専門領域の特別講演では,米国NIHのMark Hallett先生が意志の神経基盤について機能的(functional)な運動異常症との観点から,伊パルマのGiacomo Rizzolatti先生がミラーニューロンシステムについて自閉症スペクトラムや脳梗塞のリハビリテーションとの観点から講演をされた。南米という地理的制約にもかかわらず,120カ国以上の国々から3,500名を超える参加者が集まる大きな国際会議となった。

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バックナンバーのご案内

次号予告

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 2015(平成27)年11月末に開催された第33回日本神経治療学会総会(会長:祖父江元・名古屋大学教授)において,「症例から学ぶ」というユニークなセッション(座長:鈴木正彦・東京慈恵会医科大学准教授)に参加した。「神経内科診療のピットフォール:誤診症例から学ぶ」という副題がついており,春日井市総合保健医療センターの平山幹生先生(以下,著者)が演者であった。

 臨床医学のみならず基礎医学にも通じた該博な知識の持ち主でいらっしゃる著者が,どのような症例提示をされるか,興味津々であったが,予想に違わず,その内容は大変示唆に富む教育的なものであった。自ら経験された診断エラーや診断遅延の症例を紹介し,その要因を分析し,対策についても述べられた。講演の最後に紹介されたのが,この『見逃し症例から学ぶ 神経症状の“診”極めかた』であり,講演で提示された症例も含めた,教訓に富む症例の集大成らしい,ということで,早速入手し,じっくりと味わうように通読した。

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 まるで曲芸のような姿勢です。これは本号特集の末梢神経の血管炎によって起こったものではありません。当時のフランスには梅毒性神経疾患の患者が大勢いましたが,中でも脊髄癆患者は多く,その責任病巣である脊髄後索病変による神経症候が数多く発見されました。「過伸展性」もそのうちの1つです。著者ら1)は述べます。

「読者からの手紙」募集

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 2年ほど前,急性錯乱を呈した10代の女性が緊急入院してきた。著しい興奮状態で,気分の高揚や脱抑制のため,身体拘束を余儀なくされたが,やがて急速に無動・緘黙となり,拒否的で疎通が取れなくなった。その方と前後して,もの忘れと集中力低下のため,うつ病が疑われた20代の女性が入院した。口部ではなく,下肢に不随意運動を認めるのが特徴であった。精査の結果,この2人の若い女性はともに抗NMDA受容体脳炎と確定診断し,ステロイド投与と卵巣摘出で寛解に至っている。その後,10代の方は大学に進学し,20代の方は結婚された。

 さて,本号の症例報告は,抗グルタミン酸受容体抗体が検出された急性辺縁系脳炎の19歳女性である。最近,さまざまな抗グルタミン酸受容体抗体陽性を示す脳炎例が報告されている。多くは呼吸管理を要するほど重症になったり,本号の症例のように髄膜炎所見や神経学的所見がみられるが,われわれが経験した抗NMDA受容体脳炎の例のように,ほとんど精神症状のみを呈する場合もある。このような例は最近では珍しくなく,むしろ精神科領域ではトピックと言ってもいい。特徴的なのは,前向健忘や情動不安定とともに,「周囲の人の動きがスローモーションにみえる」「歌が逆から流れているように聞こえる」「しらすの目が怖い」といった時間や知覚体験の変容である(船山道隆,他:抗NMDA受容体脳炎と精神疾患の鑑別.臨床神経心理24:5-10,2013)。

基本情報

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BRAIN and NERVE
68巻3号 (2016年3月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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