BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 68巻12号 (2016年12月)

特集 炎症性神経・筋疾患の新たな展開

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特集の意図

近年,炎症性神経・筋疾患の病態や自己抗体について研究が進み,新たな知見が蓄積されてきた。こうした知見は病態解明の一助となり,よりよい治療選択の手掛かりとなり得る。本特集では,3つの代表的炎症性ニューロパチーについて,最新のトピックスを述べる。また,従来の多発筋炎/皮膚筋炎という2つのカテゴリーを筋病理,自己抗体の2つの切り口から再評価する。

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フィッシャー症候群は外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失を三徴候とする特異な免疫介在性末梢神経障害である。病変部位は眼運動神経と,後根神経節のグループⅠaニューロンあるいは筋紡錘であり,これらの障害部位はヒトにおけるガングリオシドGQ1bの発現により規定されている。外眼筋麻痺は眼運動神経の障害に起因することはほぼ確定しているが,運動失調の責任病巣については小脳か固有感覚入力系であるかについて長らく議論されてきた。免疫組織化学的検討から後根神経節のグループⅠaニューロンと筋紡錘におけるGQ1bの発現が認められること,重心動揺分析におけるⅠa入力障害のパターンがみられることから,現在は感覚性運動失調と考えられており,責任病巣は腱反射消失と併せて,グループⅠaニューロンと筋紡錘の両者が候補として考えられる。本稿ではフィッシャー症候群の病態生理について運動失調を中心に概説する。

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慢性炎症性脱髄性疾患における自己抗体は徐々に解明されつつある。中でも,近年ランヴィエ絞輪部構成蛋白が標的抗原として注目されている。慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーにおけるコンタクチン1やニューロファシン155はその主なものである。これらの自己抗体は病態を反映していることが多く,治療法選択や予後予測に重要である。

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ギラン・バレー症候群(GBS)の治療は血漿浄化療法と経静脈的免疫グロブリン療法が確立されており,その有効性はほぼ同等である。これらの治療で多くの症例は改善する。しかしながら一部の症例では発症後1年の時点で歩行に介助が必要であり,新規治療法が望まれる。GBSの神経障害には補体が関与するため,現在英国と本邦で重症例を対象に補体阻害薬の試験が進行中である。今後,新規治療法により重症例の予後が改善されることが期待される。

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特発性炎症性筋疾患では臨床所見を重視した分類が広く用いられてきたが,近年病理所見を重視した分類が用いられ,皮膚筋炎,多発筋炎,封入体筋炎,免疫介在性壊死性ミオパチー,抗合成酵素症候群,非特異的な筋炎に分けられる。多発筋炎にはより厳格な基準が用いられ,病理診断では希少となった。免疫介在性壊死性ミオパチーでは新たな自己抗体が発見されている。本稿では病理所見を中心に特発性炎症性筋疾患について概説する。

炎症性筋疾患の自己抗体update 鈴木 重明
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炎症性筋疾患(筋炎)は免疫学的機序により筋線維が障害される疾患の総称である。筋炎はさまざまな病態機序を背景に持つ疾患の集合体であり,臨床症状,筋病理,自己抗体の3つの側面から個別に分類されてきた。筋炎の自己抗体は,疾患概念の変遷や新規自己抗体の発見から,免疫介在性壊死性ミオパチーに関連した自己抗体,アミノアシルtRNA合成酵素に対する自己抗体,皮膚筋炎に関連した自己抗体,他疾患に関連した自己抗体に分けることが可能である。

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脊髄小脳変性症は,既知の原因による二次性のものを除いた小脳性運動失調を主症状とする疾患の総称である。遺伝性と孤発性に大別され,いずれも純粋小脳型と多系統障害型に分類される。しかし,国際的に統一された分類法が存在しないため,特に孤発性脊髄小脳変性症において本邦と諸外国で用いられている疾患名の指す概念に相違が生じている。本稿では疾患概念の変遷を概説し,孤発性脊髄小脳変性症の分類と疾患名を再考する。

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半側空間無視(USN)や失語症などの高次脳機能障害に対する効果的な治療法の開発は重要である。脳は健常時では半球間で拮抗・均衡した状態にあるが,USNや失語症などの一部では,この均衡状態が崩れることで発症すると考えられている。反復経頭蓋磁気刺激の目標は,非侵襲的に脳の可塑性を誘導して,この不均衡状態を是正することである。近年シータバースト刺激など有効な刺激法も開発され,今後の臨床応用が期待される。

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脳神経外科領域におけるてんかん症例では,原因疾患の進行などに伴い,コントロールに難渋するケースが経験される。当科において既存の抗てんかん薬(AED)内服下においても部分てんかん発作を認めた症候性てんかん患者12例に対し,レベチラセタム(LEV)1,000〜2,000mg/日を併用投与しその有用性と安全性について検討した。服用6カ月後の発作完全消失率は58%であった。発作完全消失群では全体的生活の質(QOL),エネルギーと倦怠感,自覚的健康状態のスコアの改善を認めた。LEVに起因する血液学的有害事象は認められなかった。LEVは脳神経外科領域の難治性の症候性部分てんかんに対し,安全で有効性の高いAEDと考えられた。

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症例は61歳女性。歩行障害,尿失禁と認知機能低下で発症,頭部MRIで特発性正常圧水頭症に類似した所見を認めた。脳室腹腔シャント施行後,症状が改善した。縦隔リンパ節生検を行い,神経サルコイドーシスによる水頭症と診断した。特発性正常圧水頭症に類似した症状・画像所見で発症した神経サルコイドーシスの報告はこれまでになく,文献的考察を加えて報告する。

ポートレイト

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はじめに

 亀山正邦(かめやま・まさくに;1924〜2013;Fig. 1)先生は,高齢者の脳の臨床病理学を前人未到のレベルで集大成するとともに,神経内科医として最も早く認知症研究に着手した老年神経学の開拓者である。筆者は幸運にも入局以来長年にわたって直接ご指導を受ける立場にあり,体調を崩されてからは主治医を務めさせていただいた。

 晩年の先生に直接伺ったことがある。

 「先生のご専門として,神経内科学と老年医学のどちらをより重視されたのでしょうか」の問いに対し,即座に,「老年!」と返答された。先生の学問の基盤は浴風会病院時代の恩師尼子富士郎(あまこ・ふじろう;1893-1972)先生の老年医学・老年学であり,さらに内科学,神経学,精神医学,神経病理学など広範な領域の豊富な知識を動員して,「老年神経学」を確立し,老年者の総合診療や認知症の予防・治療法の開発などを通じて高齢者が幸福に暮らせる社会の実現を目指しておられた。「サクセスフル・エイジング」が,先生の追究された究極のテーマであった。

 先生のご活躍は極めて広範囲にわたり,業績は膨大で,その業績を振り返ることが,そのままわが国の老年医学,老年神経学の歴史になると言っても過言ではない。とても全貌を把握できるものではないが,その足跡を時代に分けて振り返ってみたい。

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 2016年6月26〜30日,スイスのジュネーブで行われたOHBM 2016(Organization for Human Brain Mapping 2016 Annual Meeting)に参加した。OHBMは今回で22回目を迎える,ヒトを対象とした脳画像研究の世界最大級の学会である。脳画像研究に関わる研究者なら1度は参加したい,できれば継続的に参加したい学会といえる。参加者はがちがちの認知神経科学者から神経内科医や精神科医などの臨床家までと幅広い。それぞれが最新の脳科学研究を持ち寄り議論している。ちなみに昨年度はハワイ,来年度はバンクーバー,再来年はソウル,3年後はローマと決まっており,常に魅力的な都市で開催されるのもこの学会のよいところである。

 さて今年はジュネーブだったが,学会場は空港のすぐそばにあり,周囲にもホテルが多く,非常にアクセスしやすい場所だった(写真1)。ジュネーブ市内にも10分ほどで行くことができた。

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バックナンバーのご案内

次号予告

今月の表紙 河村 満 , 岡本 保 , 菊池 雷太
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 アカシジア(静坐不能;akathisia)は精神医学と神経学とのちょうど中間に位置する症候です。その最初の報告は,チェコ出身のハシュコヴェツ(Ladislav Haškovec;1866-1944)によって1901年11月のパリ神経学会でなされ,その後『Revue Neurologique』誌に記載されました1)。今月の表紙の写真が掲載された論文2)はハシュコヴェツの報告を受けてその翌年に出版されたもので,シャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)の次の神経病クリニック教授レイモン(Fulgence Raymond;1844-1910)とサルペトリエール病院の心理学部門のチーフであったジャネ(Pierre Janet;1859-1947)との共著で書かれています。次のように始まります。

 サルペトリエール病院外来は実に驚異的である;他所で報告される奇妙かつ新規にみえる神経症状で,われわれがすぐさま同様の症例を提示できないことは決してない。プラハのHaskowec〔原文ママ〕氏が11月に神経学会で奇妙な神経疾患2例を報告し,それをakathisieと名づけた。ここに,Haskowec氏の症候群を非常に忠実に表現する男性患者を示し,筆者らの解釈を議論したい。

投稿論文査読者

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 本年の1月号から表紙のデザインを変えました。毎号異なる写真を使用するようになりましたが,これらの写真は,いずれも『Nouvelle Iconographie de la Salpêtrière』(以下,『Iconographie』)からのものです。今月号までの計12葉は美しく味わい深いだけでなく,多くの新しい事実を私に与えてくれました。本年を締めくくる編集後記として,今回はこの『Iconographie』についての覚え書きを少し記したいと思います。

 『Iconographie』は,シャルコーの指揮の下,リシェ,ジル ド ラ トゥレット,ロンドの3名が中心となって1888年に創刊されました。序文によると,その目的は「サルペトリエール病院に蓄積される多くの図像を付した報告の活用」とあります。

基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
68巻12号 (2016年12月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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