BRAIN and NERVE 68巻11号 (2016年11月)

増大特集 連合野ハンドブック

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特集の意図

大脳連合野をまとめて知りたいと思ったときにちょうどよいものがないと思い,本特集を企画した。前頭連合野,頭頂連合野,側頭連合野の解剖と機能について,最新の知見をまとめて1冊としているので,さまざまな用途に耐えうる特集となった。自身の専門外の知識をフォローアップするにはもってこいだろう。もちろん初学者には最高の入門書と言える。続編として「疾患編」も考えられるが,それは本特集の売行きにかかっている。

前頭連合野の神経解剖学 高田 昌彦
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前頭連合野とは,前頭前野と一次運動野を除く運動関連領野(いわゆる高次運動野)を合わせた名称で,ヒトを含む霊長類でよく発達している。前頭前野は広く頭頂・側頭・後頭連合野および傍辺縁系連合野からの情報を収束,統合し,それらを運動関連領野を経由して一次運動野に伝達する。前頭連合野は,一次運動野と同様,大脳基底核や小脳との間で視床を介するネットワーク(ループ回路)を形成し,行動の発現と制御に深く関与する。

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多くの動物が示す高度な問題解決能力には,大脳基底核が担う条件づけ学習(モデルフリープロセス)に加え,前頭前野における状態遷移学習(モデルベースプロセス)が重要であると考えられている。ここでは,前頭前野外側部の神経細胞が示す,刺激をカテゴリー化することで情報を抽象化する能力について紹介し,前頭前野外側部の推移的推論機能が,モデルベースプロセスにおいて果たす役割について議論する。

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前頭葉の運動関連領野は皮質の内側,外側にそれぞれ複数存在する。外側に位置する運動前野群は,感覚の空間的な側面やルールに基づいた運動の制御に関わる。一方で内側,特に補足運動野群は両手協調,運動の順序・時間的制御に関わる。帯状皮質運動野は報酬予測誤差に基づいた動作維持や更新に関わる。さらに運動野は行為主体性の形成,他者理解など高次脳機能に貢献している実態が明らかになりつつある。

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ブローカ野が言語機能において重要な役割を果たすことが示されてから150年以上経過したが,近年のMRIによるイメージング研究などにより,ブローカ野の機能的・構造的な細分化が可能になった。言語情報処理の観点からは,前頭連合野と,側頭および頭頂連合野のおのおのを結ぶネットワークの重要性が注目される。本総説では,左下前頭回の文法機能を中心として,言語機能をつかさどる大脳と小脳のネットワークを概観する。

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前頭連合野眼窩部の損傷患者や破壊ザルは情動・動機づけ行動に異常を示す。また学習行動の消去や,逆転学習に障害を示す。この脳部位は報酬や嫌悪刺激の価値の評価に関わるとともに,それらの予測,期待にも関係している。またこの脳部位は情動・動機づけに基づく意思決定に重要な役割を果たしている。前頭連合野の外側部や内側部も,情動・動機づけ機能と認知や社会性機能との統合に重要な役割を果たしている。

頭頂連合野の神経解剖学 小林 靖
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頭頂連合野は頭頂葉のうち外側面の上・下頭頂小葉と内側面の楔前部,ならびに頭頂間溝,頭頂後頭溝,月状溝内部の皮質を占める。頭頂連合野は体性感覚,視覚,聴覚,平衡感覚などの入力を処理し,空間認知に関わるとともに眼球運動や四肢運動の制御を担う。体性感覚情報は中心後回に位置する一次体性感覚野や二次体性感覚野からまずは上頭頂小葉に送られて,さらに下頭頂小葉に至る。視覚情報はいわゆる視覚の背側経路をつくって,主に下頭頂小葉,頭頂間溝内部,ならびに楔前部に至る。聴覚は一次聴覚野から後方の周辺皮質経由で下頭頂小葉後部に入る。頭頂間溝内部の皮質は運動前野,前頭眼野,前頭前野に投射して,主に上肢と眼球の運動制御をつかさどるとともに空間情報のワーキングメモリに関わる。下頭頂小葉後部と楔前部の皮質は直接に,あるいは帯状回後部を介して間接に,海馬傍回皮質と嗅内野に投射し,海馬における長期記憶形成に関与する。

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筋肉や関節に由来する固有受容器感覚は,ヒトの身体図式や身体像の形成に貢献する。本論では,固有受容器感覚を基盤としてヒトが意識的に体験できる,自己身体像のさまざまな錯覚現象を通して,右半球下頭頂葉の身体的自己意識への関与,左半球下頭頂葉の手運動と外的物体の連合機能,後頭頂葉の視覚と固有受容器感覚の統合機能,複数の身体部位からの体性感覚情報を統合する頭頂感覚連合野の機能などにテーマを絞って解説する。

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私たちは豊富な情報を持つ空間に囲まれていて,その中で動き,興味を惹く物体をみつけると,そこに視線を向け,近づき,手を伸ばしてつかむ,あるいは,危険な物体をみつけるとそれを避けるといった行動を繰り返して生活している。このような空間の認知,空間内での行動の基盤となる空間情報処理に頭頂連合野が関与し,そこでは空間情報がさまざまな座標系に基づき表象されていることがニューロンレベルで明らかになってきている。

頭頂連合野と動き情報 宇賀 貴紀
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運動視は生物が生きるうえで欠かせない機能である。視覚領野における運動情報処理メカニズムの理解に加え,運動方向の判断に関する研究により,視覚情報が意図的な行動に変換される過程の理解が進展した。その結果,外側頭頂間(LIP)野が眼をどこに向けるかの知覚判断に重要な領野であることが判明した。本論では,外界の動きの情報処理,および動きの情報をもとにした意図的な行動発現の一連の神経メカニズムについて解説する。

側頭連合野の神経解剖学 一戸 紀孝
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側頭葉は,その背側から聴覚に関わる上側頭回,多種の感覚種の連合を行う上側頭溝,物体認知の最高機能中枢としての下側頭葉,さらにそこから内側に入り記憶に関わる腹内側側頭皮質,辺縁系に属し社会性に関わるという最吻側にある側頭極に分けられる。また,これに扁桃体,海馬複合体まで含まれることもある。側頭葉の結合は,一般に上記の構成要素の吻・尾側に強い結合を持ち,さらには前頭葉,頭頂葉,皮質の内側部との結合を持つ。

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一次視覚野(V1)からV2,V4などの領野を経ながら側頭葉視覚連合野へと向かう腹側経路は,物体の形,色,質感,他者の顔や表情,そして奥行きの情報を処理する。近年,腹側経路の各段階における視覚情報の処理内容の研究が進み,V1での情報表現がいかにして,さまざまな視知覚に対応する表現へと変換されるかが理解されつつある。また,経路後段の細胞活動が,これらの知覚に因果的に関わることが示されつつある。

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ヒトの聴覚皮質の構造は他の霊長類と類似し,複数の領域からなる階層的な構造を持つ。旧世界ザルのマカクでは側頭葉背側部(主に上側頭回と外側溝の中にある上側頭面)が聴覚情報処理を担う。上側頭面の腹側皮質経路では尾側・吻側軸と内側・外側軸に沿った2つの方向へ音の情報処理が行われる。この総説ではマカク聴覚野の研究を中心に音情報処理研究の発展を概観する。

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「脳を理解する」とはどういうことであろうか。脳の理論的アプローチである計算論的神経科学ではどのように脳の理解に向けた研究がなされているかを解説する。まず強化学習とドパミン細胞の例を挙げ,そこでの成功がMarrの計算論の三レベルとして分析できることをみる。Marrのプログラムに従い,運動野計算論モデルや神経網モデルがどのように脳の理解につながったかを議論する。

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「時間」はあらゆるイベントを構成する最も基本的,かつ重要な要素の1つである。しかしながら,脳における時間の情報処理メカニズムについては多くの部分が未解明である。近年の研究は,時間の長さ(時間長)に選択的な応答特性を持つニューロン群が存在している可能性を示している。本論では時間長の集団コーディングに関連する最新の知見を解説し,われわれの時間知覚をつかさどる脳内メカニズムの解明に向けた今後の展望を述べる。

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症例は27歳男性である。学童期から学力不振と運動能力低下が目立つようになり,第二次性徴の発現はなかった。症候性てんかん発症を契機に撮影した頭部MRIで大脳白質髄鞘低形成,脳幹・小脳萎縮,脳梁低形成を認めた。血液検査では低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の所見があり,POLR3A遺伝子解析ではc.2350G>Aホモ接合性変異がありPolⅢ関連白質ジストロフィーと診断した。本疾患は本邦からの報告数が少ないことから,貴重な症例であると考えた。

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 INC(Inflammatory Neuropathy Consortium)は,末梢神経障害についての国際学会であるPNS(Peripheral Nerve Society)の中の,免疫性(炎症性)ニューロパチーについての分科会であり,2年に1回開かれるPNSの間の1年に開催されている。今年のINC 2016は,英国のスコットランドのグラスゴーで,Hugh Willison教授を会長(Chair of Local Organising Committee)として6月21〜24日に行われた。今回は1916年にギラン,バレー,ストロールによりギラン・バレー症候群(Guillain-Barré Syndrome:GBS)が最初に報告されてから100年ということから,最後の金曜日(24日)は「GBS 100(GBS Centenary Day)」として企画された。

 出発前,日本は梅雨で蒸し暑くじめじめした天気であったが,インターネットで調べたグラスゴーの最高気温は16℃程度であり,夜は気温が下がることも考えると夏服では難しいだろうと考え,日本の3月頃の服装を準備していったが,その判断は正解であった。街行く人たちの中にはダウンジャケットを羽織っている人もいて,私も着いた翌日は春のコートを着用して外出した。グラスゴーは雨が多いと聞いていたが,学会期間中はほとんど雨に降られることはなく,その点は幸運であった。

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バックナンバーのご案内

次号予告

今月の表紙 河村 満 , 岡本 保 , 菊池 雷太
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 シャルコーの『火曜講義』の中で最も有名なものの1つは,1888年6月12日になされた第20回講義です1)。この講義でシャルコーは振戦がみられず握力も保たれたパーキンソン病患者を提示し,これまでパーキンソン(James Parkinson;1755-1824)の命名に従って「振戦麻痺(shaking palsy)」と呼ばれていたこの疾患を「パーキンソン病」と呼ぶように提案します。

 この歴史的患者の名前はバシェール(Bachère)といい,当時31歳の男性で,26歳のときに発症したことから若年性パーキンソン症候群に属する可能性がある2),とされています(同講義では「20歳頃に最初の症候が現れた」ともあり,後述のように21歳で発症とする記載も他にあります)。さらに彼は,前号で紹介した「伸展型パーキンソン病」(type d'extension)であることがシャルコーによる姿勢と歩行異常のスケッチとともに明記されています1)

「読者からの手紙」募集

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 2016年10月は大隅良典・東京工業大学栄誉教授がオートファジーの研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞するというトップニュースで幕を開けた。さらに,ノーベル文学賞は歌手のボブ・ディラン氏に贈られるというサプライズもあり,今年も何かと話題の多いノーベル賞である。毎年この時期恒例のノーベル賞であるが,私がいつも思い出すのはアントニオ・エガス・モニスである。ポルトガルの神経科医のモニスは「ある種の精神病に対する前頭葉白質切截術の治療的価値に関する発見」,いわゆるロボトミー手術を考案した功績で1949年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。その後,ロボトミーは著しい有害事象のため批判を浴び,今日「史上最悪のノーベル賞」とまで酷評されている。特に,日本では,その目的と適応の拡大・濫用もあり,ロボトミーが激しく糾弾され,今日でも精神外科そのものがタブー視されてしまっている。今後,脳深部刺激をはじめ,難治性精神疾患に対する精神外科の応用については,中立・公正な立場で,科学的かつ倫理的な側面を含めた議論が必要であろう。

 さて,本号の増大特集は「連合野ハンドブック」である。ヒトの大脳連合野,特に前頭連合野の機能解明には,皮肉にも上述のロボトミー術後の患者の臨床観察と神経心理検査が大きな役割を果たした。ウィスコンシンカード分類検査をはじめとするいわゆる前頭葉機能検査は,ロボトミー術後や戦争による頭部外傷後の患者の病態解明に多大な貢献をしてきた。筆者の所属していた研究室では,概念の形成・転換に関する前頭葉機能検査の開発・整備を中心テーマとしていたが,その後さらに思考・推論の領域まで関心を広げていった。筆者の学位論文テーマは脳損傷患者の推論能力であり,前頭葉損傷例と頭頂葉損傷例では,予測や仮説検証の障害パターンが異なると考えた(Keio J Med 41: 87-98, 1992)。

基本情報

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BRAIN and NERVE
68巻11号 (2016年11月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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