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Ⅰ.言語聴覚療法における“倫理性”と生命(臨床)倫理学
我々言語聴覚士は,平成10年に制定された法律に基づき日常の臨床活動を実践することが義務付けられている.臨床現場で提供される言語聴覚療法サービスの内容は法律を破らないことが,まず第一に重視され最優先される.しかし,欧米先進国では法を守るだけでは決して最善の言語聴覚療法とはいえないとされ,「法を適切に運用して最良の臨床サービスを実践するには,どのように専門技術・知識を提供するのが最も望ましいのか?」という臨床倫理的視点が最も重視される傾向にある(中村 1999).専門技術や知識を習得し,法律を知っただけでは,さまざまな臨床現場の事情に合わせたサービス提供は難しいということで,言い換えるならば,専門技術や知識の用い方いかんによって,専門性や治療・訓練の効果や意義が左右されるということである.このような視点から言語聴覚療法の臨床を考える場合にみえてくる特徴的な事象や課題などが“言語聴覚療法の倫理性”といえる.しかし,現在の日本の言語聴覚士養成教育カリキュラムでは,このような視点から生命倫理を導入するのではなく“倫理綱領の理解と実践”という観点から導入している.したがって,言語聴覚療法における“倫理性”を考え対処法を提出し,そしてそれらの妥当性を検証するというアプローチについては,残念ながら扱う教科が明確とはいえない.しかし,欧米先進国では,このような部分こそが言語聴覚療法の真髄であり,独自性と専門性を構築する重要な部分であると認識され,これらを扱う学問領域が教育の中に深く根を下ろしている.その学問領域の1つが生命倫理学であり,臨床倫理学や職業倫理学など,多くの下位領域を含む学問分野である(Beauchamp & Childress 1989).言語聴覚療法のもつ倫理性を理解するために,そして当該倫理性がもたらす倫理的課題に対処するために,あるいはまた言語聴覚療法の専門性や独自性のもつ倫理性を観察研究するために,私たち言語聴覚士は生命(臨床/職業)倫理学を学ぶ必要があるように解される.
こうした形で生命(臨床/職業)倫理学が日本の言語聴覚士養成課程に導入される日を心待ちにしているが,そう呑気に構えるわけにもいかない状況があり,今年の言語聴覚士協会総会で『倫理綱領草案』(表1)が可決された.養成課程において言語聴覚療法の倫理性を考え学ぶ機会が少ない現在,会員1人ひとりが,どのような形で倫理綱領草案を理解し実践に努めるのか,そしてまた協会は今後,どのような形で当該倫理綱領草案実践のための活動を展開するのか,倫理的視点から問われることになろう.
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