言語聴覚研究 2巻2号 (2005年7月発行)

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シンポジウム　吃音の科学と臨床

吃音の脳科学今泉　敏 2巻2号 , 2005年7月 , pp.79-87

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　脳機能画像法による吃に関する最近の研究を概括し，非流暢発話を引き起こす脳機構に関して考察した．特に伝統的な右半球優位原因説の詳細な再検討を要請する研究に注目した．脳磁図や機能的MRIを用いたいくつかの研究は，言語処理と発話運動制御を受け持つそれぞれの脳領野間の時間的相互作用や情報伝達に制約があること，右半球優位は吃を軽減しようとする補償的な現象である可能性を示唆している．吃の原因を明らかにするためには，吃の発達過程で起こる脳機能編成，再編成の詳細な検討が重要だと思われる．

社会言語学から見た吃音渡辺　義和 2巻2号 , 2005年7月 , pp.88-97

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　吃音の研究は，言語現象の数量的分析に主眼をおいたものが多いが，質的分析の重要性も指摘されている．その背景には，吃音が数量的分析だけでは把握しきれない複雑な人間生活の側面にまで影響していることが深く関わっている．吃音を単なる言語現象のみの障害ではなく，日常生活とコミュニケーションに根ざした障害として見ることは，吃音をより深く知る上で必須である．吃音にはもちろん言語現象として即座に察知できるものもあるが，社会的偏見など吃音者のアイデンティティに関わる側面などもあり，ミクロとマクロの両面からの視点が必要となる．こういった吃音の多重性を鑑みた場合，社会言語学の視点から吃音を1)会話のローカル連続性コンテキスト，2)対人コンテキスト，3)社会・文化的コンテキスト，という3つのコンテキストにおいて分析することが有効であると考えられる．

幼児から学齢期の吃音臨床原　由紀 2巻2号 , 2005年7月 , pp.98-104

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　異なる経過をたどった2症例の治療内容と，アメリカ吃音財団主催のワークショップの情報より，幼児から学齢期の吃音治療について検討した．この時期の治療は，流暢な発話を促進するような環境を作り，流暢な発話体験を多くさせることを目指す．そのためには，①両親に対しコミュニケーション環境調整の指導を徹底して行うことと，②子供に対して流暢な発話体験の促進を直接的に行うことが有効である．後者には，言語聴覚士が楽な発話モデルを提示し子供の模倣を促す段階，系統的な表出課題の中で流暢な発話を誘導する段階，流暢な発話のためのストラテジーを教える段階があると考えられる．幼児期からの早期介入の有効性が主張される現在，本邦における吃音の治癒率向上のために，少しでも多くの言語聴覚士が吃音の臨床に携わることが望ましいと思われる．

笹沼澄子先生Academy of Aphasiaの名誉会員に藤田　郁代 2巻2号 , 2005年7月 , pp.61

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　わが国の言語聴覚障害領域の研究および臨床のパイオニアであられ，失語症研究において世界的に高名な笹沼澄子先生(国際医療福祉大学名誉教授)がこの度，Academy of Aphasiaより名誉会員の称号を受けられました．Academy of Aphasiaは1962年に創設された学術団体で，失語症研究に関わる世界のトップクラスの研究者がメンバーとなっています．この学会はメンバーとなる条件が極めて厳しいため現在の正会員は約250人ですが，学術誌Brain ＆ Languageに掲載されるAbstractsにみられるように世界の失語症研究を現在まで一貫してリードしてきています．笹沼澄子先生は1970年代からこの会のメンバーとなられ，特別講演やシンポジウムなどにおいて活躍されてきました．

　笹沼澄子先生に届いた同会の理事長Malcolm R McNeil博士からの文書には，本称号はAcademy of Aphasiaが与える最高の栄誉であり，卓越した研究をした者のみが受けることができると記されています．授与理由としては，40年以上に渡る脳と行動の関係に関する学際的研究が高く評価されること(特に，日本語の失読，仮名と漢字に関する研究)，日本の神経言語学の発展および研究者の育成に大きく貢献されたことなどが挙げられています．

原著

介護職者に対するコミュニケーション障害の理解とコミュニケーションスキル習得のための支援―特別養護老人ホームでの実践坊岡　峰子 , 綿森　淑子 2巻2号 , 2005年7月 , pp.62-70

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　近年コミュニケーション障害者に対する支援は，日常の会話相手が障害を理解しコミュニケーションスキルを習得できるような取り組みの重要性が指摘され始めている．

　本研究では，特別養護老人ホームにおいてコミュニケーションに障害のある利用者とその介護職者への支援を実施した．その内容は介護職者に対するコミュニケーション障害についての情報提供と，コミュニケーションスキル習得のための助言であった．効果については，課題語伝達場面で使用されたコミュニケーションスキルを中心に介入前後で比較・分析し検討した．

　本研究の結果，介護職者とコミュニケーション障害のある利用者とのコミュニケーションを支援するためには，①介護職者が利用者のコミュニケーション能力を把握し，②拡大代替コミュニケーション手段の活用など会話パートナーに必要とされるコミュニケーションスキルを習得できるようにすることが効果的であることが明らかとなった．

失語症患者の排泄訓練における言語聴覚士の役割森田　秋子 , 小林　修二 , 濱中　康治 , 三吉　佐和子 2巻2号 , 2005年7月 , pp.71-78

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　脳血管障害後の失語症患者における失禁の回復に関して検討した．脳血管障害発症3か月以内に慈誠会徳丸病院回復期リハビリテーション病棟に入院した失語症患者33名中，入院時に失禁を認めその後消失した患者は7名で，入院時より失禁を認めなかった患者群(12名)に比較し失語症，知的機能とも重度に障害されていたが，入院6か月時まで失禁を認めた患者群(14名)に比較し年齢が若いという特徴があった．失禁が消失した患者群は入院6か月時までに標準失語症検査，Raven色彩マトリックス検査，コミュニケーションADL検査の得点が回復し，失禁がなかった患者群との差が消失した．失禁の回復は，排泄行為が自立して消失する場合と，尿便意伝達能力が回復して消失する場合の2過程が認められ，7名中5名はコミュニケーションが回復し，言語にて尿便意を伝達できるようになることにより失禁が消失した．失語症患者の失禁消失には，コミュニケーション能力の回復が大きく関与しており，言語聴覚士の介入が重要であることが示唆された．

調査報告

言語発達障害・言語発達遅滞児者の現状と課題―「言語発達障害・言語発達遅滞児者に関するアンケート」調査報告佐竹　恒夫 , 飯塚　直美 , 内山　千鶴子 , 大伴　潔 , 高泉　喜昭 , 東川　健 2巻2号 , 2005年7月 , pp.105-113

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Ⅰ．目的

　言語発達障害・言語発達遅滞の臨床では，近年対象とする障害領域が拡大するとともに，言語聴覚士と地域の保育・教育機関などの連携へのニーズも高まっている．また，評価法については過去に部分的な実態調査が行われているが(小寺ら 1980，山崎ら 1996)，評価法や訓練・指導法も大きく変化しており，全国的な規模での包括的な実態調査が必要である．そこで今回小児言語小委員会では言語発達障害領域における，対象となる障害領域・評価法・訓練法などの現状について，アンケート調査により実態を把握することとした．調査結果に基づき現状と問題点を把握し，さらに今後の課題について検討する．

　なお，「言語発達障害」は乳幼児期から学童期を経て成人期に至るライフステージに沿ってみる必要性があると考え，本調査では成人期までを調査の対象に含めた．

摂食・嚥下障害リハビリテーションの現状と課題―摂食・嚥下リハビリテーションの実態調査―訪問リハビリテーションを視野に入れて―報告岡田　澄子 , 九里　葉子 , 熊倉　勇美 , 小島　千枝子 , 椎名　英貴 , 清水　充子 , 藤原　百合 , 矢守　麻奈 2巻2号 , 2005年7月 , pp.114-118

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Ⅰ．はじめに

　訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)において，摂食・嚥下リハビリテーションは言語聴覚士に最も期待されることの1つであろう．2004(平成16)年4月より在宅訪問リハビリテーション指導管理料が認められ，在宅訪問リハを新たに開始する言語聴覚士も多いと予想される．しかし，摂食・嚥下リハビリテーション(以下嚥下リハ)の現状は，施設内・外ともに患者，言語聴覚士両者にとって十分に満足できるものとは言い難い．そこで，摂食・嚥下小委員会では，訪問リハを含めた摂食・嚥下リハにおける言語聴覚士の現状と解決すべき問題点を明らかにすることを目的としてアンケート調査を行った．その結果を報告する．

リポート「現場，最前線」

「The 2004 American Speech-Language-Hearing Association Convention」参加記原　由紀 , 北川　裕子 2巻2号 , 2005年7月 , pp.119-120

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　2004年ASHAの学会が，アメリカのフィラデルフィアで11月18～20日まで開催された．フィラデルフィアは，ニューヨークから列車で1時間ほど南に下ったペンシルバニア州にあり，アメリカ独立宣言の原稿が作成された独立ゆかりの地である．街は碁盤の目のように区画整理され，その中心部にはルネッサンス風の古めかしい市庁舎がある一方，その市庁舎を取り囲む形で高層ビルがそびえ立っており，現代と古都の融合しあう不思議な街であった．

　現在，ASHAの会員は18万人を超えるそうである．今回の学会の参加者は12,500人で，200人を超える海外からの参加者があった．会場は非常に広く(登録のブースだけで30以上あった)，その規模と人数の多さに，まず驚かされた．見渡すと，日本における言語聴覚障害学関連の学会と同様，女性の数が圧倒的に多かった．日本の学会場の様子と異なるところは，その女性たちが，廊下に座り込み朝ごはんを食べながら，ASHAが学会開催日の朝に毎日発行するASHA新聞を広げて読み込んでいる風景が至る所で見られることだった．この新聞によって，当日のスケジュールを決め，変更事項を確認するようである．いくつものセッションが同時に進行しているため，綿密に計画を立て，聞き逃さないように広い会場を走り回るのは至難の業であった．

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「言語聴覚研究」購読会員のご案内日本言語聴覚士協会 2巻2号 , 2005年7月 , pp.60

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　本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました．本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります．

　購読会員を募集していますので，下記のとおりご案内いたします．

投稿規定 2巻2号 , 2005年7月 , pp.121

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執筆要綱 2巻2号 , 2005年7月 , pp.122

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投稿誓約書 2巻2号 , 2005年7月 , pp.123

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編集後記藤田　郁代 2巻2号 , 2005年7月 , pp.124

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　言語聴覚研究第2巻第2号をお届けする頃には第6回言語聴覚学会も終わり，夏らしい雰囲気が漂う季節になっていることと思います．

　今回は，本誌の冒頭でわが国の言語聴覚障害学領域のトップリーダーであり，失語症の漢字と仮名の研究などにおいて世界的に高名な笹沼澄子先生がAcademy of Aphasiaから名誉会員の栄誉を受けられたことを紹介することができました．今回の授与は日本人として初の名誉であり，心からその栄誉を讃えお祝い申し上げたいと思います．

基本情報

言語聴覚研究
2巻2号
(2005年7月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1349-5828 日本言語聴覚士協会

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