日本老年看護学会誌(老年看護学) 17巻1号 (2012年11月)

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 国立社会保障・人口問題研究所(2012)による新人口推計(2012年1月30日公表)によれば,今後約50年間で日本の人口は現在の1億2,800万人からその3分の2の8,674万人に減少し,人口構成割合は,65歳以上の高齢者39.9%,年少人口9.1%,生産年齢人口50.9%へと変化するという.2.5人に1人が高齢者であり,現役世代約1人で高齢者1人を支える「肩車型」の人口構造となることが予想されている.これに加えて,平均寿命は2060年には男性84.19年,女性90.93年に伸長するという.今後の社会保障や経済活動,高齢者ケアの維持と向上をどのように図っていくのか,老年看護学のみの課題ではないが,老年看護の研究者,実践者としてなにができるか,なにをなすべきであろうか.

 いうまでもなく,高齢者の保健医療ニーズは幅広く,多様性がある.1人ひとりのニーズに注目して,看護を提供することはもちろんであるが,前述の推計をみると,これまでのような看護の方法では量的に追いつかないのではないだろうか.

日本老年看護学会第17回学術集会特集Ⅰ 会長講演

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1.当事者学に着目するプロセスとその背景

 人間とは何者であるかという命題についてはアリストテレスの時代から追及されている.トータルな人間と向き合う看護実践においては,先人たちの教えが大変参考になる.一方で,20世紀に急激に発展した近代科学では,客観性や再現性を重んじて証拠を積み上げ,その成果には多大なものがあった.人びとの生活を豊かで便利なものに変え,不可能を可能にしてきた.医学の分野においても革新的な診断技術や治療のための知識・技術・薬剤の開発をもたらし,不治の病が不治ではなくなることが今後も続くであろう.

 看護実践の基盤となる「看護学」が誕生してからまだ日が浅いが,トータルの人間が対象である看護学では人間の複雑な側面に突き当たる.多価値を含み,状況依存性の高い人間の姿は,近代科学がいくら無敵でもそれを解くに至ることのできる手段はまだ少ないように思える.なぜなら人間の“真の姿”は状況に応じて変化するからである.人間は昨日と今日では違うし,そこにだれがいるか,なにがあるか,おかれた雰囲気や状況でも変わる.どの姿をつかめばいいのか分からない.このような状況を解明するには従来の典型的な近代科学は強くはない.また近代科学の独り歩きに対する反省の声も聞かれるようになり,福島原発で起こった人の力ではどうにもならない危機一髪の事態にいまだに怯える日本がある.人文科学あるいはリベラルアーツとよばれる学問領域からは,使いこなす人間側の準備性の不足を指摘し,近代科学偏重のなかで置き去りにされた感があるという声も挙がっている.

日本老年看護学会第17回学術集会特集Ⅰ 特別講演

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1.はじめに

 社会の高齢化が進むに伴い,老年看護学の重要性は増すばかりである.また,老年看護学は,ケア(care)学,介護学,福祉学などとの関係を深めている.他方では,近年,職業専門家による科学(専門家科学)に対して,当事者科学・市民科学の重要性が増している.

 本稿では,まず,専門家科学と当事者科学・市民科学,看護学と患者学,および当事者科学と市民科学,市民活動と市民科学の相違について述べる.次いで,ケアする側とケアされる側の関係,ケアの対象としての「いのち」と「こころ」について述べる.最後に,今後の看護学の発展方向と課題として,専門家科学と当事者科学・市民科学の統合および専門家科学と持続性科学の統合に関して述べる.なお,本稿は問題の所在とその解決方向のひとつを提起する目的で書かれたエッセイ的論考である.

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Ⅰ.交流集会開催にあたって

On the Occasion of the Opening of the Exchange Seminar

国際交流委員会

 昨年度の日本老年看護学会第16回学術集会国際交流委員会企画の交流集会では,アジア圏(中国,韓国,日本)の専門家によって高齢者の胃瘻造設や経管栄養に関する諸問題についての討議を行った.討議により,胃瘻造設や経管栄養にまつわる医療・ケアの現場では,患者本人が望み家族もよしとできる意思決定が困難な状況にある現状が明確になった(正木ら,2012).日本老年医学会が示した「高齢者の摂食嚥下障害に対する人工的な水分・栄養補給法の導入をめぐる意思決定プロセスの整備とガイドライン作成」2012には,①医療・介護における意思決定プロセス,②いのちについてどう考えるか,③AHN(人工的な水分・栄養補給法)導入に関する意思決定プロセスにおける留意点,の3項目が明記されている(日本老年医学会,2012).一方,高齢者の医療およびケアの現場における困難な意思決定の現状を打破するためには,日本社会の歴史的文化的背景を踏まえつつ,価値が多様化している現代の人々の視点で考え,新たな時代の医療とケアのあるべき姿を探ることが必要であると考える.そこで,本年度は日本の専門家および延命目的で胃瘻造設や経管栄養が施されていないヨーロッパ(スウェーデン)の講演者を招き,外国のとらえ方を視野にわが国の意思決定が困難な現状から脱却するための示唆を得ることを目的として,引き続き,日本老年看護学会第17回学術集会国際交流委員会企画の交流集会を開催した.

 1人目のスウェーデン出身の講演者である舞浜倶楽部代表取締役社長グスタフ・ストランデル氏には,スウェーデンのケアの理念を中心に報告いただき,スウェーデンにおける高齢者の胃瘻造設や経管栄養に関する状況を語ってもらった.

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抄録

 本研究の目的は,ICUにおいて抑制を受ける高齢患者に対し,看護師が日常的に実践している看護ケアを明らかにすることである.12人の看護師を対象にケア場面の参加観察およびケアの意図についての半構成的面接を行い,質的帰納的に分析した.その結果【患者の状態に応じた効果的な抑制を用いて患者の命を守る】【患者が現状を理解することを助ける】【思うように表出できない患者の思いをつかみとる】【患者の欲求を満たすことを支援する】【回復に向かうための患者の気力を支える】【合併症を予防し,生活機能を維持する】【患者が穏やかにすごすことのできる環境を整える】【患者と家族の関係を保つ】【患者の回復に向けて家族と方向性をひとつにする】の9つの看護ケアが見いだされた.これらの看護ケアは,ICUで抑制を受ける高齢患者の生活機能を維持するための予防ケアであると同時に,患者の回復への意欲を促し,ICUにおける高齢患者家族の思いの揺れに添ったケアであると意味づけられた.

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抄録

 本研究の目的は,引越した高齢者における新たな近隣関係の構築に関する意識と行動を明らかにすることである.対象は,北海道の寒冷で豪雪地帯の一町の住民で,引越経験がある65歳以上の21人である.個別面接による逐語記録を質的記述的に分析した.対象者には,口頭と文書で研究目的と個人情報の保護厳守を説明し同意を得た.近隣関係の構築に関する意識は,≪交流を重視する≫≪自分の心を解放する≫≪他者からみた自分を意識する≫≪空気を読むことを心がける≫≪現状を肯定する≫であった.関係構築に関する行動は≪自分から外に出る≫≪自分からあいさつする≫≪交換する≫≪誘いに応じる≫≪生活のなかの機会を生かす≫≪情報を生かす≫≪受け入れられる状況を選択する≫≪敵をつくらない≫≪時間をかける≫であった.引越後の高齢者は他者からみた自分を意識し慎重に新たな関係を構築し,なかでも独居者は近隣関係を重視し積極的な行動をとることが明らかとなった.

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抄録

 本研究は,高齢慢性心不全患者が日常生活において心不全に伴う身体変化をどのように自覚しているのかを明らかにすることを目的とした.対象は,慢性心不全と診断され入院または外来通院している高齢者11人として半構成的面接を行いデータ収集し,質的記述的に分析した.高齢患者は,【変化速度の緩急】【体の制御感の喪失】【自己調整できる苦しさ】【自分のありたい姿との調和】【忘れられない極限の体験からの予見】【独特な身体感覚】【客観視された情報による気づき】によって自己の身体変化を自覚していた.患者は,自分の身体を知ろうと模索し感じとった身体変化を特有な表現で他者に伝えることや,自己調整できる苦しさであるという自覚によって対処が遅れる可能性を抱えていた.患者の感じている身体変化を看護師が理解するためには,患者が感じたままに表現できる場を設け,患者の身体に対する期待や理想,日常生活のなかで感じる不都合さ,忘れられない極限の体験を手がかりとして思いを聞くことが有効である.

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抄録

 本研究の目的は,都内の介護保険施設3施設の看護職,介護職,管理栄養士における要介護高齢者の脱水予防のためのアセスメント項目ならびに支援方法の実態と課題を明らかにすることであった.調査方法は,回収数420(回収率15.1%),有効回答数412(有効回答率98.1%)からなる質問紙法(看護職168人,介護職160人,管理栄養士84人)と11人のフォーカスグループインタビュー法による並行的ミックス法を用いた.3職種間での脱水のアセスメントでは,看護師と介護職は食事状況や健康状態の観察を毎日実施し,管理栄養士は他職種からの情報収集によって把握していた.また情報共有の必要性があると判断した脱水のアセスメント項目においても専門性の違いがみられた.水分摂取の支援方法に関する課題として,対象者側の食欲不振,嚥下困難・障害等の身体的要因と,支援側の適切な食物形態・食品の選択,食事介助技術等があった.支援側の高齢者への安全性,尊厳ある水分摂取援助の方法について教育的課題が示唆された.

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抄録

 本研究の目的は,一般病院の看護管理者と看護師を対象にせん妄ケア経験,せん妄ケアシステムの実態とそのニーズを明らかにし,せん妄ケアシステム開発の示唆を得ることである.北海道および新潟県内の一般病床100床以上の病院の看護管理者64人,看護師591人を対象に質問紙調査を実施した.

 せん妄ケアシステムに満足していると回答した看護管理者は1.6%,看護師7.6%で,せん妄アセスメントツールを活用している看護師は,活用していない看護師よりせん妄ケアシステムへの満足感が高い傾向がみられた(p<.001).看護管理者と看護師のせん妄ケアシステムに関するニーズの比較では,看護管理者は「せん妄アセスメントツールの導入」(p<.01),「院内・院外研修」「事例検討会の開催」(p<.001)が必要と回答した割合が高く,看護師は「精神科医の充実」「専門看護師の導入」が必要と回答した割合が高かった(p<.01).以上より,せん妄ケアシステム開発には,看護師のアセスメント能力が向上する教育,せん妄への対応を相談できる人的資源,ケア効果が評価できるツールの導入などの物的資源が必要と考えられた.

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抄録

 認知症高齢者の家族介護者を対象とする介入研究から,現行のヘルスケアシステムにおいて実践可能な家族介護者支援プログラム構築への示唆を得ることを目的に,無作為割りつけされている研究を抽出し,文献レビューを実施した.対象者選定には認知症の診断や,認知機能テスト得点,認知症の行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;以下,BPSD)の有無などが用いられ,単純・層化無作為法にて介入を割りつけた結果,要介護者のBPSDの低下,家族介護者のBPSDへの否定的反応や心理の軽減と肯定的心理の上昇がみられている.介入としてのグループ討議による家族介護者同士の直接的な交流は,介護状況の理解,感情の分かち合いや連帯を感ずる機会になるため,肯定的心理を上昇させるのに有用であることが示唆される.個別教育・情報提供による介入では,BPSDに合わせた対応を教育し,家族介護者が対処方法を実践できるような具体的な情報提供が求められる.コンピュータ・電話による介入では,長期的支援が可能となるが,対象者の機器操作能力や機器の確保などが課題と思われる.

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抄録

 本研究の目的は,食形態をきざみ食やミキサー食から,ソフト食に置き換えることで,栄養面,摂食・嚥下機能面に及ぼす影響を明らかにすることである.

 介護付き有料老人ホームに入居している13人(男性6人,女性7人,平均年齢82.9±10.7歳)を対象に,2か月間ソフト食を摂取してもらい各機能の変化を経時的に観察した.

 栄養面において,体重はソフト食の摂取前日(day 0)または0週(day 1)と8週(day 58)の値を比較して,有意な体重増加が認められた(p=0.006).

 摂食・嚥下機能面では,嚥下機能自体に著明な変化は生じなかったが咀嚼運動を引き出すことに効果があり,食物認知の向上や飲み込みやすさにつながることが示唆された.

 以上のことから,食形態の工夫は,高齢者の栄養面,摂食・嚥下機能面を高める要素のひとつであることが示唆された.

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抄録

 日中車椅子を使用している施設入所高齢者の下肢浮腫の状態を明らかにすることを目的に,施設入所高齢者の下肢周径を経時的に測定した.対象者は,介護老人保健施設に入所中の女性認知症高齢者14人であり,車椅子座位の姿勢で左右の最大下腿周径(腓腹部),足首周径,足背周径の計6か所についてメジャーを用いて,7:30ごろ,9:30ごろ,14:30ごろ,16:30ごろの計4回,1日間測定した.その結果,すべての測定部位で時間経過に伴い有意な増加がみられ,もっとも増加した者は,最大下腿周径で2.5cm(変化率11%)であった.また,左の最大下腿周径,右の足首周径,左右の足背周径では,午前(7:30ごろ〜9:30ごろ)の変化率のほうが午後(14:30ごろ〜16:30ごろ)の変化率よりも有意に大きかった.長時間座位は,下肢浮腫を増強させると考えられ,臥床休養を取り入れるなど座位時間の検討や車椅子を椅子に変更するなどの下肢浮腫を軽減するケアが必要であることが示唆された.

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 2011年度,本プロジェクトは,東日本大震災への支援について,日本看護系学会協議会と連携した情報収集と発信,ならびに学会員の行う支援について学会として支援していくことを方針として活動した.結果として,東日本大震災で被災した人々への直接的な支援はごく限られたものになった(本誌第16巻1号,2号参照).

 東日本大震災発生後,会員の声として,支援したいと思っていても実現できにくい現状が挙げられた.遠方から支援できた人々は,何らかの看護の知識・技を有し,その提供をしていた.一方,支援は,災害前につながりをもっている人や施設を通して行われていた(遠方でも関連施設から応援に来てもらう,分からないことをたずねるなど)が,実際的な支援や継続的な支援は,やはり距離の問題が大きかった.そこで,近隣の会員相互のつながりが重要であると考え,それが実現できるような学会活動を提案しているところである.

基本情報

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日本老年看護学会誌(老年看護学)
17巻1号 (2012年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1346-9665 日本老年看護学会

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